大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和51年(ワ)742号 判決 1986年7月17日

《略語表》本判決(ただし、主文を除く。)においては、次のとおり略語を用いる。

「原告ら」 本訴提起当初からの原告ら(承継前原告を含む。)又は弁論終結時の原告ら(承継前原告を含まず。)

「原告(1)浜村直太郎」 別紙目録(一)記載の原告番号1浜村直太郎

「被告公団」 被告阪神高速道路公団

「目録」 別紙目録

「本件国道」 一般国道四三号

「本件県道神戸線」 兵庫県高速神戸西宮線

「本件県道大阪線」 同大阪西宮線

「本件県道」 本件県道神戸線及び同大阪線

「本件道路」 本件国道及び本件県道

「本件各市」 兵庫県尼崎、西宮、芦屋、神戸の各市

「本件沿道」 本件道路のうち、原告らが居住し又は居住していた尼崎市東本町から神戸市東灘区魚崎南町までの部分の沿道

「本件差止請求」 請求の趣旨一項の請求

「排ガス」 大気汚染防止法二条六項にいう自動車排出ガス(一酸化炭素、炭化水素、鉛化合物、窒素酸化物、粒子状物質)

「道路騒音」 自動車等が道路を走行することに伴つて発生する騒音

「道路振動」 同様にして発生する振動

「L50」 中央値

「L5」 九〇パーセントレンジ上端値

「L95」 同下端値

「Leq」 等価騒音レベル

「ホン」 デジベル(A)、ホン(A)

「ppm」 ピー・ピー・エム(百万分率)

「ppb」 ピー・ピー・ビー(十億分率)

「BMRC」 英国医学研究協議会

「EPA」 アメリカ合衆国連邦環境保護庁

「OSHA」 同労働省職業安全衛生局

「ISO」 国際標準化機構

「NIPTS」 永久的聴力損失

「PTS」 同

「TTS」 一時的聴力損失

「ザルツマン係数」 ザルツマン試薬を用いる吸光光度法(ザルツマン法)による大気中の二酸化窒素濃度の測定における二酸化窒素の亜硝酸イオンへの転換係数

「尼崎連合会調査」 四三号線(=二国)公害による被害状況調査(四三号線公害対策尼崎連合会)

「西宮連合会調査」 同調査(同西宮連合会)

「兵庫県四九年調査」 自動車排ガス等にかかる沿線住民健康調査(兵庫県)

「環境庁五〇年調査」 自動車道沿道住民健康影響調査(環境庁)

「野田調査」 野田純一らの論文(道路環境と社会反応)の前提となつた調査

「柳楽調査」 柳楽翼らが昭和五四年本件沿道の小学校で行つた調査

「尼崎市五五年調査」 尼崎市における大気汚染による健康影響調査(尼崎市)

「尼崎市五七年調査」 健康影響調査(尼崎市)

「車谷調査」 車谷典男らが同五八年尼崎市内の小学校で行つた調査

「兵庫県医師会調査」 公害健康影響調査(兵庫県医師会)

「神戸市調査」 神戸市における大気汚染と市民の健康調査(神戸市)

「相沢調査」 相沢龍らの論文(騒音レベルからみた街頭騒音に対する地域住民反応)の前提となつた調査

「川崎市四九年調査」 東名高速道路東京料金所周辺地域住民の健康調査(川崎市)

「東京都五〇年調査」 環状七号道路沿線住民に対するアンケート調査(東京都)

「村松調査」 村松常司らの論文(都市交通騒音に関する研究)の前提となつた調査

「嶋田調査」 嶋田幸子らの論文(ある病院の入院患者に対する道路交通騒音の影響について)の前提となつた調査

「三浦第一調査」 三浦創らの論文(中小都市における都市騒音に関する調査研究第一報)の前提となつた調査

「三浦第三調査」 同人らの論文(同三報)の前提となつた調査

「吉海調査」 吉海公輔らの論文(深夜都市騒音の睡眠に及ぼす影響)の前提となつた調査

「新建築家調査」 高速道路による被害状況調査(新建築家集団大阪支部)

「鈴木調査」 鈴木庄亮らの論文(道路交通騒音に対する住民の意識と生活上の対応について((第二報)))の前提となつた調査

「熊谷調査」 熊谷三郎らの論文(街頭騒音の学習におよぼす影響)の前提となつた調査

「環境庁六都市調査」 複合大気汚染健康影響調査(環境庁)

「千葉県五市調査」 同四五年から千葉、市原、君津、富津、船橋の各市において始められた大気汚染疫学調査

「大阪府・兵庫県調査」 同四六年度以前から大阪府及び兵庫県において始められた慢性気管支炎に関する疫学調査

「岡山県調査」 同四六年度から岡山県において始められた大気汚染疫学調査

「四疫学調査」 右の四調査

「尼崎市五三年調査」 尼崎市の主要幹線道路沿道における自動車排出ガスによる健康影響調査(尼崎市)

「四疾病」 慢性気管支炎、肺気腫、気管支ぜん息、ぜん息性気管支炎及びこれらの続発症

「大阪空港判決」 最高裁判所昭和五六年一二月二六日大法廷判決・民集三五巻一〇号一三六九ページ

《目次》

当事者の表示

主文

事実

第一章当事者の求めた裁判

第一 請求の趣旨

第二 請求の趣旨に対する答弁

第二章当事者の主張<省略>

第一 請求原因

一 当事者

1 原告ら

2 被告ら

(一) 被告国

(二) 被告公団

二 本件道路の建設等

1 本件国道

(一) 建設の経過

(二) 規模と構造

2 本件県道神戸線

(一) 建設の経過

(二) 規模と構造

3 本件県道大阪線

(一) 建設の経過

(二) 規模と構造

4 本件道路の立地状況

三 侵害状況等

1 交通量

(一) 自動車の交通量

(1) 尼崎市

(2) 西宮市

(3) 芦屋市

(4) 神戸市

(二) 大型車の混入率

(1) 尼崎市

(2) 西宮市

(3) 芦屋市

(4) 神戸市

2 騒音・振動

(一) 騒音

(1) 道路騒音の一般的特徴等

(2) 本件道路騒音の特徴

(3) 本件沿道の騒音の実情

ア 原告らの感覚

イ 検証(第一回・第二回)の各結果

ウ その他の資料

(4) 本件県道の建設・供用による騒音の変化

(二) 振動

(1) 本件沿道の振動の特徴

(2) 本件沿道の振動の実情

ア 振動の測定結果

イ 原告らの感覚

ウ 検証(第一回・第二回)の各結果

3 排ガス

(一) 自動車走行により排出される大気汚染物質

(二) 排ガス中の有害物質の概要とその発生機序

(1) 一酸化炭素

(2) 窒素酸化物

(3) 炭化水素

(4) 鉛化合物

(5) 硫黄化合物

(6) 粒子状物質

(三) 個々の車両の排出量

(四) 本件沿道の排ガスの実情

(1) 原告らの感覚

(2) 各種の測定結果

ア 汚染の全体像についての調査

(ア) 窒素酸化物総合調査

(イ) カプセル調査

イ 特定地点における汚染状況の把握

(ア) 排ガス測定局及び大気汚染測定車

(イ) 本件各市における測定結果

a 尼崎市

(a) 排ガス測定局

(b) 大気汚染測定車

b 西宮市

(a) 排ガス測定局

(b) 大気汚染一般測定局

(c) 大気汚染測定車

(d) 主要道路端通日調査

c 芦屋市

(a) 排ガス測定局

(b) 大気汚染測定車

(c) 大気汚染一般測定局

d 神戸市

四 原告らの被害

1 地域環境の破壊

(一) 本件道路建設前の本件沿道の環境

(二) 本件道路による平穏な街並みの破壊

(1) 本件道路の建設による破壊

(2)   〃  供用による破壊

(三) 本件道路による生活環境の破壊

2 健康で快適な生活の破壊

(一) 原告らの声の重要性と特質

(二) その内容

(1) 睡眠妨害

ア 睡眠の重要性

イ 妨害の態様

(2) 生活妨害

ア 会話等の聴取妨害

イ 家族の団らん等の妨害

ウ 思考等の妨害

エ 親類等との交流阻害

オ 換気妨害

カ 日照妨害

キ 電波受信妨害

ク 浸水被害

ケ 落下物による被害

(3) 精神的被害

(4) 身体的被害

(5) 物質的被害

(6) 転居

3 営業妨害

五 因果関係

1 騒音・振動の健康・生活への影響

(一) 睡眠妨害

(二) 生活妨害

(1) 会話等の聴取妨害

(2) 思考等の妨害

(三) 情緒的被害

(四) 身体的被害

(1) 聴覚障害

(2) その他の身体的被害

(五) 家屋被害

(六) 環境基準等との関係

(1) 騒音について

(2) 振動について

2 二酸化窒素等の健康への影響

(一) 二酸化窒素の有害性

(1) 直接の有害性

(2) 光化学スモッグの原因

(二) 二酸化窒素の生体への影響

(1) 動物への影響

ア 肺機能に対する影響

イ 呼吸器への病理組織学的影響

ウ 生化学的影響

エ 全身的影響

オ 感染抵抗性の低下

カ 複合汚染による影響

(2) 人体への影響

ア 急性中毒症

イ 吸入実験等

(ア) 感覚器への影響

(イ) 肺機能への影響

(ウ) 生化学的影響

(エ) 複合汚染による影響

ウ 疫学調査

(三) 二酸化窒素の健康影響濃度

(1) 短期暴露について

ア WHO環境保健クライテリア

イ 二酸化窒素に係る判定条件等専門委員会による指針

ウ 結論

(2) 長期暴露について

ア 二酸化窒素に係る判定条件等専門委員会による指針

イ 東京都NOx検討委員会の解析

ウ 結論

(四) 環境基準との関係

(1) 改定前の環境基準

(2) 改定後の環境基準

(五) 原告らの症状との因果関係

(1) 原告らの訴えの客観性

(2) 沿道における健康影響調査

3 本件道路の排ガスと大気汚染の因果関係

六 違法性と瑕疵

1 違法性と瑕疵の存在

(一) 本件沿道の地域環境の破壊について

(二) 本件沿道の騒音について

(1) 基準値との比較

(2) 他の幹線道路との比較

(3) 航空機や新幹線騒音との比較

(4) 本件沿道の騒音暴露が深刻化した時期

(三) 本件沿道の排ガスについて

(1) 基準値との比較

(2) 他の幹線道路との比較

(3) 本件各市内での比較

ア 尼崎市

イ 西宮市

ウ 芦屋市

エ 神戸市

(4) 本件沿道の大気汚染が深刻化した時期

(四) 結論

2 公共性について

(一) 公共性の内容

(二) 本件道路の公共性

3 受忍限度について

(一) 本件における受忍限度判断の不要性

(二) 本件被害と受忍限度

(1) 本件被害の性質と内容

(2) 加害行為の態様と程度

(3) 加害行為の有する公益上の必要性

(4) 公害防止対策

ア 植樹帯の設置、遮音築堤と緑地帯の併用設置

イ 遮音壁の設置

ウ 路面の維持修繕

エ 防音工事等の助成

オ 被告ら以外による対策

七 被告らの責任

1 故意・過失

(一) 被告国について

(二) 被告公団について

2 連帯責任

八 差止請求

1 その内容

2 その根拠となる権利

(一) 人格権

(二) 環境権

3 本件差止請求の適法性

(一) 大阪空港判決について

(二) 本件訴訟と大阪空港判決の相違点

(1) 差止請求の態様

(2) 国営空港の特殊性

(三) 使用形態

4 差止請求の必要性と相当性

九 損害賠償請求

1 損害の内容と金額

(一) 慰謝料

(二) 弁護士費用

2 将来請求の必要性と相当性

3 後住原告の請求の正当性

(一) 先住性の理論について

(二) 居住の時期

(三) 特段の事情

一〇 結論

1 差止請求

2 本訴提起前の損害賠償請求

3   〃 後の損害賠償請求

第二 請求原因に対する認否等

(認否)

一 請求原因一項について

二 同二項について

三 同三項について

四 同四項について

五 同五項について

六 同六項について

七 同七項について

八 同八項について

九 同九項について

(被告らの主張)

一 侵害状況、被害及び因果関係について

1 騒音・振動

(一) 本件道路端における騒音の実情

(1) 本件道路端における騒音の実測値

(2) 全国の他の道路端との比較

ア 全国の道路騒音レベルの上位測定点

イ 環境基準の達成状況と要請限度の超過状況

ウ 大都市における道路端騒音の実情

(二) 原告らが暴露されている騒音の実情

(1) 騒音の減衰効果

ア 距離減衰

イ 遮音壁、建物等による減衰

ウ 原告らの居住家屋による減衰

エ 防音工事による減衰

オ 原告らの居住家屋内の騒音値

(三) 騒音の個人暴露量と本件道路騒音の寄与率

(四) 騒音の聴覚への影響

(1) 難聴と耳鳴り

(2) 科学的知見からみた本件道路騒音と聴力障害

(五) 騒音の身体的(生理的)影響

(1) 騒音の生理的影響についての科学的知見

(2) 本件道路騒音と原告ら主張の疾病との因果関係

(六) 騒音の睡眠への影響

(1) 騒音の睡眠への影響についての科学的知見

(2) 本件道路騒音と睡眠障害との因果関係の不存在

(七) 騒音の精神的影響

(八) 騒音による日常生活、営業上の妨害

(1) 会話等の聴取妨害

(2) 学習、作業能率等への影響

(3) 本件道路騒音と日常生活、営業に対する影響の不存在

(九) 慣れについて

(一〇) 各種調査の不当性

(1) 野田調査

(2) 尼崎連合会調査

(3) 環境庁五〇年調査

(4) 兵庫県四九年調査

(5) 川崎市四九年調査

(6) 東京都五〇年調査

(7) 相沢調査

(一一) 本件道路振動

(1) その実情

(2) 本件道路振動と原告ら主張の被害

ア 身体的影響

イ 精神的影響

ウ 睡眠障害

エ 家屋等の毀損

オ 因果関係の不存在

(一二) 環境基準と要請限度

2 排ガス

(一) 原告ら主張の被害

(1) 四疾病

ア その内容と特徴

イ 原告ら主張の疾病

(ア) 慢性気管支炎

(イ) 気管支ぜん息

(ウ) ぜん息性気管支炎

(2) その他の愁訴等

(二) 疫学

(1) その意義と方法

(2) 大気汚染疫学の方法論と限界

ア 対照集団の選定と調査

イ 調査対象者の選び方

ウ 疾病(反応量)の把握

(ア) BMRC方式

(イ) 面接法調査と自記式調査

(ウ) 個人暴露濃度の考慮

エ 暴露量の把握

(ア) 個人暴露濃度

(イ) 複合汚染等

(ウ) 汚染物質測定局の測定値の地域代表性

オ かく乱要因

カ 大気汚染疫学の因果関係究明における限界(まとめ)

(3) 柳楽翼調査

(4) その他の調査

ア 環境庁五〇年調査

イ 兵庫県四九年調査

ウ 兵庫県医師会調査

エ 尼崎市五三年調査

オ 尼崎市五五年調査

(三) 動物実験

(四) 環境基準

(1) WHO窒素酸化物に関する環境保健クライテリア

(2) 我が国の環境基準

ア その法的性格

イ 旧環境基準

ウ 新環境基準

(3) 最近の知見からみた新環境基準の安全性

ア 諸外国の基準

イ 室内汚染と個人暴露濃度の研究

ウ ガスストーブ研究

(五) 本件沿道の二酸化窒素濃度とその安全性

(六) 本件道路からの排ガスと原告ら主張の健康被害の因果関係

(七) 本件道路からの排ガスと大気汚染の関係

(八) 二酸化窒素以外の大気汚染物質

二 違法性と瑕疵について

1 設置・管理の瑕疵の内容

2 瑕疵と違法性の関係

3 本件道路の設置・管理の瑕疵の不存在(回避可能性の不存在)

(一) 道路環境問題に関する法体系

(二) 道路の設置・管理者の権限行使による道路環境対策の限界

(1) 道路の新設・改築

(2) 道路構造面の対策

(3) 沿道住宅の防音構造化、緩衝建物の建設

(4) 道路の供用廃止

(5) 道路の幅員の削減

(6) 道路の地下化又はシェルター化

(三) 回避可能性の不存在

4 本件における受忍限度の検討

(一) 侵害行為の態様と侵害の程度

(1) 侵害行為の態様

(2) 侵害の程度

(二) 被侵害利益の性質と内容

(1) 被侵害利益の分類

(2) 原告ら主張の被害について

ア 身体、健康被害について

イ 精神的影響について

ウ 睡眠障害について

エ 日常生活、営業上の妨害について

オ 家屋等の毀損について

(三) 侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度

(1) 道路の公共性

ア 道路の基本的役割

イ 現代の我が国における道路の社会・経済的効用

(ア) 交通施設としての機能

(イ) アクセス機能

(ウ) 公共空間としての機能

ウ 道路に対する国民の意識と道路整備の推移・現状

(ア) 国民の意識とその背景

(イ) 公共事業としての道路整備

(ウ) 道路整備の推移と現状

(エ) 道路整備の効果

(2) 本件道路の重要性・公共性

ア 本件沿道の地域特性と交通特性

(ア) 地域特性

(イ) 交通特性

イ 本件道路の必要性と建設経緯

(ア) 都市計画と道路

(イ) 本件道路の建設経緯

(ウ) 阪神都市圏及び本件沿道地域の社会経済活動における本件道路の役割

a 阪神間の幹線道路の利用状況とその特性

b 本件道路の役割

(四) 侵害行為の開始とその後の経過

(五) 被害防止措置

(1) 発生源対策

ア 法規制の体系

イ 自動車騒音規制強化の経緯

ウ 排ガス規制強化の経緯

(2) 交通管理面の対策

(3) 道路構造面の対策

ア 植樹帯の設置

イ 遮音築堤と緑地帯の併用設置

ウ 環境施設帯の設置

エ 本件県道の高架構造の採用

オ 遮音壁の設置

カ 高架裏面反射音対策

キ 路面の維持補修

(4) 沿道における環境保全対策

ア 住宅防音工事の助成等

(ア) 制度の内容

a 住宅防音工事

b 移転助成及び跡地買取りの措置

(イ) 本件沿道での実施状況及びその効果

a 実施状況

b 防音工事の効果

イ 住宅防音工事の助成等以外の諸対策

(ア) 日陰により生ずる損害等の費用負担

(イ) テレビ受信障害対策

(ウ) 住環境整備モデル事業その他地方公共団体等の行う諸施策に対する協力

a 二宮住環境整備モデル事業

b その他地方公共団体等の行う諸施策に対する協力

ウ 長期的な対策

(ア) 大阪湾岸道路の建設

(イ) 沿道整備計画の推進

(六) 結論

(1) 本件道路の供用の違法性の不存在

(2) 環境基準・要請限度と受忍限度

ア 環境基準

イ 要請限度

三 差止請求について

1 請求の趣旨の不特定

2 民事訴訟によることの不適法性

(一) 道路管理権の行使

(二) 道路行政権の行使

(1) 道路法に基づく路線の廃止

(2)   〃    供用廃止

(三) その他の行政権限の行使

3 根拠とされる権利について

(一) 人格権

(二) 環境権

四 損害賠償請求について

1 請求方法・立証方法

(一) 一部請求の不当性

(二) 一律請求の不当性

(三) 被害及び個別的因果関係の立証方法の不当性

2 損害額の不当性

(一) 被害の非客観性、軽微性

(二) 加害行為からの受益

(三) 他の原因との競合

(四) 防音工事助成の実施

(五) 環境施設帯設置事業による転出原告

(六) 後住原告

3 将来請求の不適法性

第三 抗弁

一 消滅時効

二 損益相殺

第四 抗弁に対する認否

第五 再抗弁

第六 再抗弁に対する認否

第三章証拠関係<省略>

理由

第一 書証の成立<省略>

第二 当事者

一原告ら

二被告ら

第三 本件道路の建設等

第四 侵害状況等

一交通量

1自動車の交通量

(一) 本件各市の幹線道路

(1) 尼崎市

(2) 西宮市

(3) 芦屋市

(4) 神戸市

(二) 本件道路と他の幹線道路との比較

2大型車の交通量と混入率

(一) 本件各市の幹線道路

(1) 尼崎市

(2) 西宮市

(3) 芦屋市

(4) 神戸市

(二) 本件道路と他の幹線道路との比較

二 騒音

1道路騒音の特徴等

(一) 一般的特徴等

(二) 環境基準と要請限度

(1) 環境基準

(2) 要請限度

2本件道路端における騒音の実情

(一) 測定結果

(1) 尼崎市

(2) 西宮市

(3) 芦屋市

(4) 神戸市

(5) 本件各市

(二) まとめ

3他の道路端における騒音との比較

(一) 本件各市内の幹線道路における比較

(二) 全国の幹線道路における比較

(1) 騒音レベルの比較

(2) 環境基準と要請限度の達成状況

4原告らの居住地内における騒音の実情

(一) 騒音の感覚量

(二) 距離減衰

(三) 遮音壁等の効果

(1) 遮音壁

(2) 遮音築堤等

(3) 介在建築物

(四) 居室内の騒音レベル

(1) 室内及び窓の閉鎖による減衰

(2) 防音工事

(五) 地上からの高さと騒音レベル

5本件県道の建設・供用による変化

6交通規制による変化

三振動

1道路振動の一般的特徴等

(一) 一般的特徴及び発生原因

(二) 距離減衰

(三) 高架道路の特徴

(四) 防除方法

(五) 要請限度

2本件沿道における道路振動の実情

(一) 実情

(二) 遮音築堤等の効果

(三) 制限速度の変更による効果

四排ガス

1排ガスの特徴等

(一) 一般的特徴等

(二) 環境濃度等

(1) 一般化炭素

(2) 窒素酸化物

(3) 炭化水素

(4) 二酸化硫黄

(5) 浮遊粉じん

(三) 環境基準

(1) 一酸化炭素

(2) 二酸化窒素

(3) 炭化水素

(4) 二酸化硫黄

(5) 浮遊粒子状物質

2本件沿道の大気汚染の実情

(一) 測定結果

(1) 尼崎市

ア 観測態勢

イ 測定値

ウ 経年変化の状況等

(ア) 二酸化窒素

(イ) 一酸化炭素

(ウ) 炭化水素

(エ) 浮遊粒子状物質等

(オ) 二酸化硫黄

(カ) 鉛化合物

エ 特殊調査

(ア) 拡散状態調査

(イ) 垂直分布調査

(2) 西宮市

ア 観測態勢

イ 測定値

ウ 経年変化の状況等

(ア) 二酸化窒素

(イ) 一酸化炭素

(ウ) 炭化水素

(エ) 浮遊粉じん

(オ) 二酸化硫黄

エ 特殊調査

(ア) 窒素酸化物総合調査

(イ) 主要道路端通日調査

(3) 芦屋市

ア 観測態勢

イ 測定値

ウ 経年変化の状況等

(ア) 二酸化窒素

(イ) 一酸化炭素

(ウ) 浮遊粉じん

(エ) 二酸化硫黄

(4) 神戸市

ア 観測態勢

イ 測定値

ウ 経年変化の状況等

(ア) 二酸化窒素

(イ) 一酸化炭素

(ウ) 浮遊粒子状物質

(エ) 硫黄酸化物

(5) 本件各市

ア 昭和四八年度本件国道総合調査

イ 同年度主要幹線道路調査

ウ 同四九年度本件国道総合調査

エ 本件国道二酸化窒素汚染調査

(二) まとめ

3距離減衰

第五 原告らの被害認識

一本件沿道の地域環境の破壌

二健康で快適な生活の破壊及び営業妨害

三原告らの愁訴の特徴

1慢性気管支炎・気管支ぜん息・ぜん息性気管支炎

2その他の愁訴

(一) 気管支炎

(二) かぜ

(三) 鼻出血

(四) 喉頭炎

(五) 結膜炎

(六) 角膜炎

(七) 頭痛

(八) めまい・動悸・息切れ

(九) 自律神経失調症

第六 検証の結果等

一第一回検証

1原告(97)南条みちえ宅

(一) 位置関係

(二) 居宅の状況

(三) 騒音・振動の状況

2原告(59)多田寛治宅

(一) 位置関係

(二) 居宅の状況

(三) 騒音・振動の状況

3原告(61)遠山重雄宅

(一) 位置関係

(二) 居宅の状況

(三) 騒音・振動の状況

4承継前原告(52)樋口善昭宅

(一) 位置関係

(二) 居宅の状況

(三) 騒音・振動の状況

5原告(8)藤原聖士宅

(一) 位置関係

(二) 居宅の状況

(三) 騒音・振動の状況

6原告(27)鍬形みね子宅

(一) 位置関係

(二) 居宅の状況

(三) 騒音・振動の状況

二第二回検証等

1原告(30)絹脇房子宅

(一) 位置関係

(二) 居宅の状況

(三) 騒音の状況

2原告(65)雑古ノブ宅

(一) 位置関係

(二) 居宅の状況

(三) 騒音の状況

3原告(123)八木勇高宅

(一) 位置関係

(二) 居宅の状況

(三) 騒音の状況

4承継前原告(16)中井照一宅

(一) 位置関係

(二) 居宅の状況

(三) 騒音の状況

5原告(32)瓦庄市宅

(一) 位置関係

(二) 居宅の状況

(三) 騒音の状況

6原告(80)越智明彦宅

(一) 位置関係

(二) 居宅の状況

(三) 騒音の状況

7まとめ

第七 因果関係

一証拠の評価について

1アンケート調査

(一) 信頼性の確保

(二) 標本の抽出

(三) 調査の実施方法

(四) 調査者誤差と被調査者誤差

(五) 調査票の内容

(六) 調査結果の分析

(七) その他

2疫学調査

(一) 定義等

(二) 方法論

(1) 対象集団と疾病異常者の把握

(2) 種々の疫学的方法

ア 記述疫学的方法

イ 分析疫学的方法

(ア) 患者対照研究

(イ) 要因対照研究

(ウ) 横断研究と縦断研究

ウ 実験疫学的方法

(三) 因果関係と統計的関連性

(1) 因果関係

(2) 統計的関連性

(四) 因果関係の推定

(1) 関連の一致性(普遍性)

(2) 関連の強固性(密接性)

(3) 関連の特異性

(4) 関連の時間性(時間先行性)

(5) 関連の整合性

(五) 大気汚染疫学の特徴

(1) 反応量の把握

ア 反応量の種類

イ 反応量の調査方法

ウ BMRC方式

(2) 暴露量の把握

ア 個人の正確な暴露濃度

イ 複合汚染

3動物実験(特に大気汚染について)

(一) その役割と限界

(二) 実験方法と結果分析

(三) 実験結果の人への外挿

(四) 実験結果に対する評価

二騒音と原告らの愁訴

1騒音の人間に対する影響(一般的知見)

(一) 騒音の定義

(二) 人間への影響

2個人暴露量

(一) 各種の調査

(1) 「個人別・生活時間帯別騒音暴露量測定の試み」

(2) 「空港周辺の騒音に対する航空機騒音の寄与率に関する一測定」

(3) 「名古屋市ならびにその周辺における騒音暴露量調査とその分析」

(4) 「有職者および主婦の行動別騒音暴露率と時間率」

(二) まとめ

3聴覚障害

(一) 一般的知見

(1) 難聴と耳鳴り

ア 難聴

イ 耳鳴り

(2) TTSとPTS

ア TTS

イ PTS

ウ TTS仮説と等価エネルギー仮説

(二) 各種アンケート調査

(1) 本件沿道

ア 兵庫県四九年調査

イ 環境庁五〇年調査

ウ 「道路環境と社会反応」(野田調査)

(2) その他の地域

ア 「騒音レベルからみた街頭騒音に対する地域住民反応」(相沢調査)

イ 川崎市四九年調査

ウ 東京都五〇年調査

エ 「都市交通騒音に関する研究」(村松調査)

(三) 各種の勧告・実験等

(1) ISOの勧告

(2) 「交通騒音の聴覚に及ぼす影響についての疫学的調査」

(3) 「公衆の健康と福祉を適切な安全幅をもつて保護するために必要な環境騒音レベルに関する資料」(EPAのインフォメーション)

(4) 環境庁五〇年調査

(5) 「騒音暴露によるTTSについて」

(6) 「交通騒音によるTTS」

(7)ア 「二四時間騒音暴露によるTTS」

イ 「二四時間騒音暴露による一時的閾値移動」

ウ 「二四時間白色騒音暴露による聴力の一過性域値移動」

(8) 「交通騒音(環状七号線における)の実際のひばくによる生体反応の検討」

(9) 「道路交通騒音による聴器障害発生の可能性に関する調査」

(10) 日本産業衛生学会の勧告

(四) 諸外国における許容値

(五) まとめ

4睡眠妨害

(一) 一般的知見

(1) 睡眠の特徴と定義

(2) 睡眠の程度

(3) 睡眠時間

(4) 睡眠妨害

(二) 各種アンケート調査

(1) 本件沿道

ア 尼崎運合会調査

イ 西宮連合会調査

ウ 兵庫県四九年調査

エ 環境庁五〇年調査

オ 野田調査

(2) その他の地域

ア 「ある病院の入院患者に対する道路交通騒音の影響について」(嶋田調査)

イ 相沢調査

ウ 「中小都市における都市騒音に関する調査研究第一報」(三浦第一調査)

エ 「深夜都市騒音の睡眠に及ぼす影響(第一ないし第三報)」(吉海調査)

オ 「中小都市における都市騒音に関する調査研究第三報」(三浦第三調査)

カ 新建築家調査

キ 川崎市四九年調査

ク 東京都五〇年調査

ケ 村松調査

コ 「道路交通騒音に対する住民の意識と生活上の対応について(第二報)」(鈴木調査)

(三) 各種の実験・勧告等

(1) 「騒音の睡眠に及ぼす影響について」

(2) 「騒音の睡眠に及ぼす影響についてのポリグラフ的研究」

(3) 「騒音の睡眠に及ぼす影響に関する実験的研究」

(4) 環境基準設定資料

(5) 「短時間の連続および断続騒音の睡眠に及ぼす影響」

(6) 「列車および航空機騒音の睡眠への影響」

(7) 「列車騒音の睡眠妨害に関する実験的研究」

(8) EPAのインフォメーション

(四) まとめ

5その他の身体的影響

(一) 一般的知見

(1) 身体的影響の内容

(2) 身体的影響の仕組

(3) 身体的影響と健康への影響

(二) 各種アンケート調査

(1) 本件沿道

ア 尼崎連合会調査

イ 西宮連合会調査

ウ 兵庫県四九年調査

エ 環境庁五〇年調査

オ 野田調査

(2) その他の地域

ア 相沢調査

イ 三浦第一調査

ウ 三浦第三調査

エ 新建築家調査

オ 川崎市四九年調査

カ 東京都五〇年調査

キ 村松調査

(三) 各種の実験

(1) 「間欠的騒音に対する生理的反応における性と年令の影響」

(2) 「騒音の低レベル長時間曝露による生理的影響」

(3) 「交通騒音(環状七号線における)の実際のひばくによる生体反応の検討」

(四) まとめ

6精神的影響

(一) 一般的知見

(二) 各種アンケート調査

(1) 本件沿道

ア 尼崎連合会調査

イ 西宮連合会調査

ウ 兵庫県四九年調査

エ 環境庁五〇年調査

オ 野田調査

(2) その他の地域

ア 嶋田調査

イ 相沢調査

ウ 三浦第一調査

エ 三浦第三調査

オ 新建築家調査

カ 川崎市四九年調査

キ 東京都五〇年調査

ク 村松調査

(三) まとめ

7会話等の聴取妨害

(一) 一般的知見

(二) 各種アンケート調査

(1) 本件沿道

ア 尼崎連合会調査

イ 西宮連合会調査

ウ 兵庫県四九年調査

エ 環境庁五〇年調査

オ 野田調査

(2) その他の地域

ア 「街頭騒音の学習におよぼす影響」(熊谷調査)

イ 嶋田調査

ウ 相沢調査

エ 三浦第一調査

オ 三浦第三調査

カ 新建築家調査

キ 東京都五〇年調査

ク 鈴木調査

(三) 各種の勧告・実験等

(1) 環境基準設定資料

(2) EPAのインフォメーション

(3) 熊谷調査

(4) 兵庫県四九年調査

(四) まとめ

8思考等の妨害

(一) 一般的知見

(二) 各種アンケート調査等

(1) 本件沿道

ア 尼崎連合会調査

イ 西宮連合会調査

ウ 兵庫県四九年調査

エ 環境庁五〇年調査

オ 野田調査

(2) その他の地域

ア 「京都市内小、中学校教室の騒音調査ならびに教室内騒音の許容値について」

イ 熊谷調査

ウ 相沢調査

エ 三浦第一調査

オ 三浦第三調査

カ 新建築家調査

キ 村松調査

ク 鈴木調査

ケ 「鉄軌道騒音慢性暴露が児童の思考活動に及ぼす影響について」

(三) まとめ

三振動と原告らの愁訴

1振動の人間に対する影響

(一般的知見)

(一) 研究の歴史

(二) 道路振動の特性

(三) 心理的影響

(四) 生理的影響

(五) 日常生活への影響

(六) 作業能率への影響

(七) 公害としての振動の評価

2振動の家屋に対する影響

3各種アンケート調査

(一) 本件沿道

(1) 尼崎連合会調査

(2) 西宮連合会調査

(3) 兵庫県四九年調査

(4) 環境庁五〇年調査

(5) 野田調査

(二) その他の地域

(1) 新建築家調査

(2) 東京都五〇年調査

4まとめ

四排ガス(特に窒素酸化物)と原告らの愁訴

1窒素酸化物の有害性

(一) 一般的知見

(二) 二酸化窒素の暴露実験

(1) 動物について

ア 各種の実験結果

(ア) 肺機能に対する影響

(イ) 呼吸器における病理組織学的影響

(ウ) 生化学的影響

(エ) 全身的影響

(オ) 感染に対する抵抗性への影響

(カ) 複合汚染による影響

イ 動物野外暴露実験

ウ まとめ

(2) 人体について

ア 各種の実験結果

イ まとめ

(三) 疫学調査等

(1) 本件沿道以外

ア 環境庁六都市調査

(ア) その内容

(イ) 「大気汚染と家庭婦人の呼吸器症状及び呼吸機能との関係について」

(ウ) 「有害大気汚染物の指針値を求めて」

イ 千葉県五市調査

(ア) その内容

(イ) 「千葉県における慢性気管支炎症状の疫学的研究」

(ウ) その問題点

ウ 大阪府・兵庫県調査

(ア) その内容

(イ) 「大気汚染の慢性気管支炎有症率におよぼす影響」

エ 岡山県調査

(ア) その内容

(イ) 「岡山県における呼吸器症状に関する疫学的研究(とくに持続性せき・たん有症率を中心として)」

(ウ) 「大気汚染と持続性せき・たん有症率の関係(無作為抽出によつて有症率を訂正しx2による回帰分析を応用した成績について)」

(エ) 「大気汚染と持続性せき・たん有症率の関係(とくに低濃度汚染地区を含むデータによる用量・反応関係について)」

(オ) 「大気汚染物の『用量-反応関係』」

オ 「国道二〇号線沿い住民健康調査」

カ 「大阪府下における大気汚染に係る影響調査報告」

キ 大阪府医師会による調査

(ア) その内容

(イ) 「大阪における学童の自覚症状と大気汚染」

ク 中央高速道路における調査

ケ 尼崎市五三年調査

コ 北畠正義らによる調査

(ア) その内容

(イ) 「自動車排気ガスの人体に及ぼす影響について」

(ウ) 右調査に対する評価

サ 東京都による調査

(ア) その内容

(イ) 「複合大気汚染に係る健康影響調査症状調査中間結果報告書」

シ 「名古屋市における園児・児童・生徒の大気汚染による健康被害意識調査」

(2) 本件沿道を含むもの

ア 「道路沿いの学校における児童の健康状態」

イ 尼崎連合会調査

ウ 西宮連合会調査

エ 兵庫県四九年調査

オ 神戸市調査

カ 環境庁五〇年調査

キ 兵庫県医師会調査

ク 柳楽調査

(ア) その内容

(イ) 「大気汚染地域における小児の健康障害に関する研究(第二編)」

(ウ) 右調査と論文に対する評価

a 調査の背景・目的について

(a) 調査者誤差

(b) 被調査者誤差

b 対照集団の選定と暴露量の把握について

(a) 対照集団の選定

(b) 暴露量の把握

c 質問票について

d 自記式調査について

e 統計処理方法について

f 調査結果の解釈について

ケ 尼崎市五五年調査

コ 尼崎市五七年調査

サ 車谷調査

(3) まとめ

2窒素酸化物の健康影響濃度についての各種の見解

(一) WHO窒素酸化物に関する環境保健クライテリア

(二) 二酸化窒素に係る判定条件等についての専門委員会報告

(三) 二酸化窒素に関する諸外国の環境基準

3排ガス以外の窒素酸化物

(一) 窒素酸化物の発生源

(1) バクテリアによる生成

(2) 硝酸、硝酸塩、ニトロ化合物等の分解による生成

(3) 空気の高温加熱による生成

(4) 燃料中の窒素酸化物による生成

(二) 「住居内の空気汚染に関する研究」

(三) 「空気汚染による人体の窒素酸化物暴露量に関する研究報告書」

(四) 「室内空気汚染に関する研究」

(五) 「二酸化窒素の個人暴露濃度に関する研究」

(六) 「冬期における家庭婦人のNO2個人暴露量について」

4まとめ

第八 差止請求について

一本件差止請求の適法性

二仮定的判断

1根拠となる権利

(一) 環境権

(二) 人格権

2受忍限度

(一) その内容

(二) 本件についての判断

(1) 侵害行為の態様と侵害の程度

ア 侵害行為の態様

イ 侵害の程度

(2) 被侵害利益の性質と内容

(3) 侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度

ア 道路の一般的公共性

イ 本件道路の重要性

ウ まとめ

(4) 侵害行為の開始とその後の経過

ア 本件道路の建設経緯や侵害状況等

イ 事前の調査

ウ 住民運動等

エ まとめ

(5) 被害防止措置

ア その現状

(ア) 発生源対策

a 法規制の体系

(a) 自動車騒音

(b) 排ガス

b 法規制強化の経緯

(a) 自動車騒音

(b) 排ガス

c 規制の効果等

(イ) 交通管理面の対策

(ウ) 道路構造面の対策

(エ) 沿道における環境保全対策

a 住宅防音工事及び移転の助成

b 日陰及び電波障害対策並びにその他の諸施策

c 大阪湾岸道路の建設及び沿道整備計画の推進

(オ) まとめ

イ 被害防止の可能性(回避可能性)

(ア) 本件道路の設置・管理者の行いうる措置について

(イ) その他の措置について

(ウ) まとめ

(6) 総合判断

3結論

第九 損害賠償請求について

一違法性と瑕疵

1その内容

(一) 国家賠償法一条一項

(二) 同法二条一項

2本件についての判断

(一) 瑕疵の存否

(二) 公権力行使の違法性

二責任の態様

三被告らの主張等について

1一部請求

2一律請求

3慰謝料請求権の発生と消滅時効

4後住原告

5損益相殺

6将来請求

7その他

(一) 加害行為からの受益

(二) 他の原因との競合

(三) 環境施設帯の設置に伴う転出

四損害賠償額

1慰謝料

2弁護士費用

第一〇 結語

《目録》

目録(一) (原告ら一覧表)<省略>

目録(二) (原告ら訴訟代理人一覧表)<省略>

目録(三) (被告ら訴訟代理人一覧表)<省略>

目録(四) (居住関係等一覧表)<省略>

目録(五) (本件国道及び本件県道神戸線沿道の現住者)<省略>

目録(六) (本件国道及び本件県道神戸線沿道に居住していた原告らのうち、本訴提起後の死亡者又はその訴訟承継人)<省略>

目録(七) (本件国道及び本件県道神戸線沿道に居住していた原告らのうち、本訴提起後に同沿道外に転出した者)<省略>

目録(八) (本件国道及び本件県道神戸線沿道に居住し、本訴提起後に死亡した承継前原告〔52〕樋口善昭の訴訟承継人)<省略>

目録(九) (本件国道及び本件県道大阪線沿道の現住者)<省略>

目録(一〇) (本件国道及び本件県道大阪線沿道に居住していた原告らのうち、本訴提起後の死亡者又はその訴訟承継人)<省略>

目録(一一) (本件国道及び本件県道大阪線沿道に居住していた原告らのうち、本訴提起後に同沿道外に転出した者又はその訴訟承継人)<省略>

目録(一二) (認容額一覧表)

目録(一三) (認容額一覧表)

目録(一四) (訴却下及び請求棄却の原告ら)<省略>

目録(一五) (請求棄却の原告ら)<省略>

《別紙》

別紙A① 騒音にかかる環境基準

別紙A② 騒音規制法一七条による要請限度

別紙A③ 振動規制法一六条による要請限度

別紙A④ 諸外国の騒音許容基準

別紙A⑤ 諸外国の二酸化窒素の許容基準

別紙A⑥ 書証の成立の認定一覧表<省略>

《以下別表》

別紙B①〜⑨ 本件各市の交通量<省略>

別紙B⑩〜⑳ 本件各市における大型車の交通量及び混入率<省略>

別紙B  神戸市及び尼崎市内の幹線道路における日交通量<省略>

別紙B  OD模式図<省略>

別紙C①〜  本件各市の本件国道の道路端における騒音レベル<省略>

別紙C〜  本件各市の幹線道路における騒音レベル<省略>

別紙C〜  全国道路騒音レベル上位測定点等<省略>

別紙C  環境基準の達成状況等<省略>

別紙C〜  本件道路騒音の距離減衰の状況<省略>

別紙C〜  第二回検証時における騒音レベル等<省略>

別紙C〜  本件各市の本件国道の道路端における騒音レベルの経年変化<省略>

別紙D①〜⑪ 本件各市の本件沿道の道路振動レベル等<省略>

別紙E①〜⑳ 尼崎市の大気汚染物質の状況<省略>

別紙E〜  西宮市の大気汚染物質の状況<省略>

別紙E〜  芦屋市の大気汚染物質の状況<省略>

別紙E〜  神戸市の大気汚染物質の状況<省略>

別紙E  本件各市の二酸化窒素<省略>

別紙F①   原告らの被害認識<省略>

別紙F② 精神及び身体的被害等に関する特記事項<省略>

別紙G①〜⑤ 被告らの行つた補償等<省略>

原告

浜村直太郎

ほか一四八名

(目録(一)<省略>記載のとおり)

右訴訟代理人弁護士

小牧英夫

前田貢

川西譲

足立昌昭

伊東香保

上原邦彦

浦井勲

大音師建三

垣添誠雄

堅正憲一郎

木下元二

木村祐司郎

木村治子

小谷正道

佐伯雄三

田中治

田中秀雄

田中唯文

高橋敬

土井憲三

中川内良吉

西村忠行

野沢涓

野田底吾

羽柴修

古本英二

福井茂夫

藤本哲也

藤原精吾

本田卓禾

宮後恵喜

山崎満幾美

山内康雄

渡辺勝之

井上善雄

金子武嗣

須田政勝

真鍋正一

峯田勝次

山崎昌穂

河瀬長一

石橋一晁

訴訟復代理人弁護士

原田豊

木村保夫

永田力三

渡辺守

深草徹

前田修

大搗幸男

小貫精一郎

樋渡俊一

筧宗憲

関田政雄

吉田恒俊

被告

右代表者法務大臣

鈴木省吾

被告

阪神高速道路公団

右代表者理事長

浅沼清太郎

右被告ら訴訟代理人弁護士

原井龍一郎

吉村修

矢代勝

占部彰宏

速水弘

小原正敏

田中宏

同指定代理人

前田順司

ほか四三名

主文

一  別紙目録(五)及び(九)記載の原告らの一般国道四三号、兵庫県道高速神戸西宮線及び同大阪西宮線の供用の差止請求にかかる訴え並びに昭和六〇年五月二四日以降の損害賠償請求(将来の慰謝料請求)にかかる訴えは、いずれもこれを却下する。

二  被告らは、各自、別紙目録(一二)記載の原告らそれぞれに対し、

1  同目録記載⑤欄の各金員、

2  右1のうち、同③欄の各金員に対する同五一年九月一四日から、同④欄の各金員に対する同六一年七月一八日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三1  被告国は、別紙目録(一三)記載の原告らそれぞれに対し、

(一)  同目録記載⑤欄の各金員、

(二)  右(一)のうち、同③欄の各金員に対する同五一年九月一四日から、同④欄の各金員に対する同六一年七月一八日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員

を支払え

2  被告阪神高速道路公団は、同目録記載の原告ら(ただし、原告番号89の1柳谷昌宏、同97南条みちえ、同98片山きぬえ、同101山本もりえ、同102の1青木ナツ、同110東吉博、同113の1天野芳江、同124小野春樹、同131岡本とし子、同137森嶋千代子、同138榎俊子、同142山本音八、同149原田久代、同150桂郁子及び同152坂本照子を除く。)それぞれに対し、同目録記載③欄の各金員を支払え。

四  別紙目録(一二)ないし(一四)記載の原告らのその余の請求並びに別紙目録(一五)記載の原告らの請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用中、別紙目録(一二)及び(一三)記載の原告らと被告らとの間に生じた分はこれを四分し、その三を同原告らの、その余を被告らのそれぞれ連帯負担とし、別紙目録(一四)及び(一五)記載の原告らと被告らとの間に生じた分は全部同原告らの連帯負担とする。

六  この判決の二、三項は仮に執行することができる。

事実

第一章当事者の求めた裁判

第一  請求の趣旨

一  被告らは、本件道路を走行する自動車によつて発生する騒音及び二酸化窒素を、

1 騒音については中央値において、午前六時から午後一〇時までの間は六五ホン、午後一〇時から翌日午前六時までの間は六〇ホンをそれぞれ超えて、

2 二酸化窒素については、一時間値の一日平均値において0.02ppmを超えて、

いずれも、目録(五)及び(九)の記載の各原告の肩書住所地所在の居住敷地内に侵入させて、被告国は本件国道を、被告公団は本件県道を、それぞれ自動車の走行の用に供してはならない。

二1  被告らは、各自目録(五)ないし(七)記載の各原告に対し、

2  被告国は、目録(九)ないし(一一)記載の各原告に対し、

それぞれ二二五万円及び内金二〇〇万円に対する昭和五一年九月一四日から、内金二五万円に対する同六一年七月一八日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、各自目録(八)記載の原告らのうち、

1 原告(52の1)樋口賀子に対し、一一二万五〇〇〇円及び内金一〇〇万円に対する同五一年九月一四日から、内金一二万五〇〇〇円に対する同六一年七月一八日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を、

2 原告(52の2)樋口雅一及び同(52の3)樋口昭子に対し、それぞれ五六万二五〇〇円及び内金五〇万円に対する同五一年九月一四日から、内金六万二五〇〇円に対する同六一年七月一八日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告らは、各自

1 目録(五)記載の各原告に対し同五一年九月一四日から、目録(九)記載の各原告に対し同五六年六月二七日から、いずれも一項記載の不作為義務を履行するまでの間、

2 目録(六)記載の各原告に対し、同五一年九月一四日から目録(四)記載の本人又は被承継人の各死亡の日までの間、

3 目録(七)記載の各原告に対し、同五一年九月一四日から目録(四)記載の各転出の日までの間、

一か月三万円の割合による金員を支払え。

五  被告らは、各自目録(八)記載の各原告に対し、同五一年九月一四日から同五七年三月二九日までの間、

1 原告(52の1)樋口賀子については一か月一万五〇〇〇円の

2 原告(52の2)樋口雅一及び同(52の3)樋口昭子についてはそれぞれ一か月七五〇〇円の

各割合による金員を支払え。

六  被告国は、

1 目録(九)記載の各原告に対し、同五一年九月一四日から同五六年六月二六日までの間、

2 目録(一〇)記載の各原告に対し、同五一年九月一四日から目録(四)記載の本人又は被承継人の各死亡の日までの間、

3 目録(一一)記載の各原告に対し、同五一年九月一四日から目録(四)記載の本人又は被承継人の各転出の日までの間、

一か月三万円の割合による金員を支払え。

七  訴訟費用は被告らの負担とする。

八  仮執行宣言

第二  請求の趣旨に対する答弁

一  主位的申立

1 主文一項と同旨

2 原告らのその余の各請求を棄却する。

3 訴訟費用は原告らの負担とする。

二  予備的申立

1 原告らの各請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

三  仮執行免脱宣言

第二章当事者の主張<省略>

第三章証拠関係<省略>

理由

第一  書証の成立<省略>

第二  当事者

一原告ら

1原告らの生年月日、死亡年月日、本件沿道における居住地、その居住期間、その家屋の構造、本件沿道外への転出状況については、左記の各事実を除いて目録(四)記載のとおり当事者間に争いがない(ただし、居住開始時期については、後記一三名の原告らを除いて、請求原因に対する認否一項1(三)(1)、(2)記載の限度で当事者間に争いがない。)。

(一) 左記原告らの生年月日は、証拠によれば次のとおり認められ<る。><編注・左図参照>

(二) 左記原告らの死亡年月日は、証拠によれば次のとおり認められ<る。><編注・左図参照>

(三) 左記原告らが本件沿道に居住を開始した時期は、証拠によれば次のとおり認められ<る。>

(1) 原告(9)藤川美代子

<証拠>を総合すれば、同原告は、昭和二三年出生以来目録(四)記載の本件沿道の居住地に住んでいたが、結婚により同四三年七月一〇日から同四六年七月二日までの間は同居住地に近接する本件沿道の神戸市東灘区魚崎南町四丁目一〇番八号に住んだ後、再び同居住地に戻つたことが認められる。

原告番号

氏名

生年月日

認定に供した証拠

71

嶋昭代

昭和3.7.5

乙H第八〇号証

78

関川せきの

明治33.11.20

甲B第七八号証

82

麻生俊子

明治38.9.16

乙H第一一号証

86

安尾新三

大正2.9.2

甲B第八六号証の一

125

磯俣トセノ

明治27.3.25

甲B第一二五号証の一

原告番号

氏名

死亡年月日(昭和)

認定に供した証拠等

1

浜村直太郎

52.12.20

乙H第五五号証

25

阪本亀吉

59.6.15

弁論の全趣旨

102

青木真治郎

59.1.28

右同

145

杉原光江

60.3.25

右同

(2) 原告(33)杉浦昭弘

<証拠>を総合すれば、同原告は、同二〇年から目録(四)の記載の本件沿道の居住地に住んでいたが、同四七年一二月二〇日から同四八年三月一三日までの間は勤務の都合上本件沿道外に住んだ後、再び同居住地に戻つたことが認められる。

(3) 原告(38)真殿キクエ

<証拠>を総合すれば、同原告は、同二一年ころから目録(四)記載の本件沿道の居住地の東方約一〇〇メートルの本件沿道(神戸市東灘区住吉南町三丁目三番二号)に住んでいたが、同四八年一二月から同居住地に住んでいることが認められる。

(4) 原告(40)薩谷泰資

<証拠>を総合すれば、同原告は、同一一年から学生時代の一時期を除いて目録(四)記載の本件沿道の居住地に住んでいることが認められる。

(5) 原告(43)時岡三郎

<証拠>を総合すれば、同原告は、同四一年八月ころから目録(四)記載の本件沿道の居住地に住んでいることが認められる。

(6) 原告(68)滝上六義

<証拠>を総合すれば、同原告は、同二三年ころから西宮市市庭町五四番地に住んでいたが、同三八年二月本件沿道である同町四番四号に転居し、さらに同四五年六月本件県道の建設のため立退き、目録(四)記載の本件沿道の現住居に転居したことが認められる。

(7) 原告(70)坂本友次郎

<証拠>を総合すれば、同原告は、同二〇年ころから目録(四)記載の本件沿道の居住地の東方約一〇〇メートルの本件沿道(西宮市宮前町八番三八号)に住んでいたが、同四五年二月ころ本件県道建設のため立退き、同年一月三〇日被告公団から同居住地を買受け(同年五月一八日所有権移転登記)、同年六月ころ同地上に家屋を新築し(登記簿上は同年七月一四日)、同年六月一九日ころこれに入居し、引続き本件沿道に居住していることが認められる。

(8) 原告(71)嶋昭代

<証拠>を総合すれば、同原告は、同二六年から目録(四)記載の本件沿道の居住地の借家(同三八年同原告の夫が購入)に住んだ後、同四七年四月二六日本件沿道外である同市上田西町二番四の一〇一号の借家に転居したが、家主から明渡要求を受け、同五〇年七月二五日再び同原告の夫が所有する同居住地上の建物に戻つたことが認められる。

(9) 原告(90)堀恭二

<証拠>を総合すれば、同原告は、同四四年五月一五日から目録(四)記載の本件沿道の居住地に住んでいることが認められる。

(10) 原告(103)田辺稔

<証拠>を総合すれば、同原告は、同四四年一二月から目録(四)記載の本件沿道の居住地に住んでいることが認められる。

(11) 原告(109)後藤欣康

<証拠>を総合すれば、同原告は、同四一年から目録(四)記載の本件沿道の居住地に住んでいることが認められる。

(12) 原告(138)榎俊子

<証拠>を総合すれば、同原告は、同四五年八月原告(137)森嶋千代子の三男と結婚して同原告宅(目録(四)記載の本件沿道の居住地)に住んでいたが、同四六年五月から同四七年六月までの間は夫の勤務の都合上本件沿道外に住んだ後、再び同居住地に戻つたことが認められる。

(13) 原告(150)桂郁子

<証拠>を総合すれば、同原告は、同三二年四月から本件沿道の居住地(尼崎市西本町一丁目六三番地)に住んでいたが、同四七年四月四日さらに目録(四)記載の本件沿道の居住地(同市東本町二丁目七三番地)に転居したことが認められる。

(四) 左記原告らが本訴提起後に本件沿道外に転出した時期は、証拠によれば次のとおり認められる。

(1) 原告(33)杉浦昭弘

<証拠>を総合すれば、同原告は、同五三年八月二〇日本件沿道外(大阪府堺市新金岡町一丁目三番二三の一〇七号)に転出したことが認められ、甲B第三三号証の一の記載中この認定に反する部分は採用せず、他に、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(2) 原告(98)片山きぬえ

<証拠>によれば、同原告は、同五六年一二月二一日目録(四)記載の本件沿道外の居住地に転出したことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(3) 原告(101)山本もりえ

<証拠>を総合すれば、同原告は、同五八年一二月一七日ころに目録(四)記載の本件沿道外の居住地に転出したことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(4) 原告(109)後藤欣康

<証拠>を総合すれば、同原告は、同六〇年四月三〇日までに他所へ転出したものと推認するのが相当であり、この認定の妨げとなる証拠はない。

(五) 左記原告らは、証拠によれば一時期本件沿道に居住していなかつたことが認められる。

(1) 原告(2)福本マサ子

<証拠>によれば、同原告は、同五六年一二月七日から約三か月間脳梗塞により入院した後、同五八年六月ころから再び入院し、右の各期間は目録(四)記載の本件沿道の居住地では生活をしていなかつたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(2) 原告(19)山田あや子

<証拠>を総合すれば、同原告は、同五七年二月ころから同年六月二六日までの間、家屋の建替えのため他所に居住し、本件沿道の居住地では生活をしていなかつたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(3) 承継前原告(28)松本艶子

<証拠>によれば、同承継前原告は、同五三年八月一八日から同五六年六月二〇日死亡に至るまでの間、脳血栓のため入院し、目録(四)記載の本件沿道の居住地では生活をしていなかつたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(4) 承継前原告(82)麻生俊子

<証拠>を総合すれば、同承継前原告は、同五三年一二月から同五四年三月一三日死亡に至るまで腸閉塞のため入院し、本件沿道の居住地では生活をしていなかつたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(5) 原告(130)岡本とよ

<証拠>によれば、同原告は、同五七年七月から血圧変調のため入院していることが認められ、この認定に反する証拠はない。

(六) 左記原告らの本件沿道の居住地の家屋の構造は、証拠によれば次のとおり認められ、この認定に反する証拠はない。<編注・左図参照>

2左記原告ら三名の本件沿道居住地への居住開始時期は、前記のとおり当事者間に争いがないが、居住開始に至る事情は、証拠によれば次のとおり認められ、この認定に反する証拠はない。

(一) 原告(2)福本マサ子

<証拠>を総合すれば、同原告は、もと本件沿道外である神戸市東灘区魚崎中町四丁目二番一二号の借家に居住していたが、家主から明渡要求を受けたため、同四六年三月ころ同原告の夫が目録(四)記載の本件沿道の居住地の土地建物を購入し、同月七日これに転居して居住を開始したことが認められる。

(二) 原告(73)吉田重雄

<証拠>を総合すれば、同原告は、同三七年ころから西宮市鞍掛町の借家に居住していたが、同四〇年ころ、家主から明渡要求を受け、同四四年一二月ころ目録(四)記載の本件沿道の居住地に転居することを決意し、同四五年一月九日その土地建物の売買契約を締結し、あわせて所有権移転登記を経由した後、同年三月一日から同所に居住を開始したことが認められる。

原告番号

氏名

家屋の構造

認定に供した証拠等

51

三上玲子

木造

弁論の全趣旨

60

横道利市

木造・軽量鉄骨造

甲B第六〇号証、乙H第一三号証、乙Ⅰ第六〇号証の一

72

藤井隆幸

木造

甲B第七二号証の一、弁論の全趣旨

82

麻生俊子

軽量鉄骨造

証人大久保節子の証言、甲B第八二号証の一、乙Ⅰ第八二号証の一

(三) 原告(107)香川達雄

<証拠>を総合すれば、同原告は、もと目録(四)記載の本件沿道の居住地に近接する本件沿道に居住していたが、同三四年ころ本件国道の建設のため立退き、同沿道外である尼崎市元浜町一丁目に転居し、さらに同三五年ころには同市七松町三丁目一七番八号及び同四二年二月ころには同市大西桂木町三八番地へと転居を重ね、同四五年八月三〇日前記本件沿道の居住地上の建物を賃借(同五八年一一月に買取)してこれに居住を開始したことが認められる。

3<証拠>を総合すれば、左記承継前原告らの権利義務は、次のとおり相続により承継されたことが認められる。<編注・左図参照>

4原告らの本件沿道の各居住地(敷地)から本件道路までの距離(本件国道又は本件県道までの水平距離のいずれか近い方)は、<証拠>を総合すれば、目録(四)の「本件道路から居住地までの距離」欄下段記載のとおり認めることができ、この認定に反する証拠はない。

なお、本件国道については後記車線削減後の車道端(右国道に並行する道路は除外する。)までの距離とし、本件県道についてはその進入・退出路を含む車道までの距離とし、本件県道大阪線の完成により本件道路までの距離に変化を生じた原告らについては、その変化後の距離も必要に応じて認定した。

5各原告は、その家族を代表して本件差止及び慰謝料を請求する旨述べ、目録(四)記載のとおりその家族数を主張するが、右請求の当否及び慰謝料の額の判断につき家族数を考慮すべきものとは解されないから、これを認定する必要は認めない。

承継前原告

訴訟承継人

相続分

原告番号

氏名

原告番号

氏名

14

浜田大之助

14の1

浜田長次

全部

16

中井照一

16の1

中井ユリエ

全部

17

湯浅進

17の1

湯浅芳子

全部

21

三村泰三

21の1

三村千代子

全部

25

阪本亀吉

25の1

阪本慶一

全部

28

松本艶子

28の1

松本哲次

全部

31

佐々木春太郎

31の1

佐々木八重

全部

34

吉本光江

34の1

岡本やえ

全部

46

加尻初次

46の1

加尻芳

全部

52

樋口善昭

52の1

樋口賀子

二分の一

52の2

樋口雅一

四分の一

52の3

樋口昭子

四分の一

82

麻生俊子

82の1

大久保節子

全部

89

柳谷秀男

89の1

柳谷昌宏

全部

102

青木真次郎

102の1

青木ナツ

全部

105

大田稔晃

105の1

大田弘子

全部

113

天野峰三郎

113の1

天野芳江

全部

144

堂本正一

144の1

堂本リヨ

全部

二被告ら

請求原因一項2(一)及び(二)の各事実は、当事者間に争いがない。

第三  本件道路の建設等

請求原因二項1ないし4(本件道路の建設の経緯、規模、構造、立地状況)の各事実は、当事者間に争いがない。

第四  侵害状況等

一交通量

1自動車の交通量

(一) 本件各市の幹線道路

本件各市の幹線道路における自動車の交通量は、次のとおり認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) 尼崎市

<証拠>を総合すれば、同市における本件道路を含む幹線道路の交通量は、別紙B①ないし③のとおりであることが認められる。

(2) 西宮市

<証拠>を総合すれば、同市における本件道路を含む幹線道路の交通量は、別紙B④のとおりであることが認められる。

(3) 芦屋市

<証拠>を総合すれば、同市における本件道路及び国道二号の交通量は、別紙B⑤のとおりであることが認められる。

(4) 神戸市

<証拠>を総合すれば、同市における本件道路を含む幹線道路の交通量は、別紙B⑥ないし⑧のとおりであることが認められる。

(二) 本件道路と他の幹線道路との比較

右(一)の事実に、<証拠>によつて認める別紙B⑨記載の事実(同四九年度の本件各市の交通量)を総合すれば、本件国道の交通量は、本件各市内の幹線道路に比して極めて多く、同四〇年ころを境に大きく増大し、さらに本件県道の供用開始により、その交通量と合わせた本件道路全体の交通量は、本件県道神戸線部分においては同四五年以降、同大阪線部分においては同五六年以降、いずれも飛躍的に増大したことが明らかである。

2大型車の交通量と混入率

(一) 本件各市の幹線道路

本件各市の幹線道路における大型自動車(バス、普通貨物車、特殊車)の交通量及び混入率は、次のとおり認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) 尼崎市

<証拠>によれば、同市内の本件道路を含む幹線道路における大型車の交通量及び混入率は、別紙B⑩ないし⑬のとおりであることが認められる。

(2) 西宮市

<証拠>を総合すれば、同市内の本件国道を含む幹線道路における大型自動車の混入率は別紙B⑭、⑮のとおりであることが認められる。

また、<証拠>によれば、同四六年六月(本件国道)又は八月(本件県道神戸線)の調査では、一日の大型車の交通量及び混入率は、本件国道において二万一〇六〇台、27.7パーセント、本件県道神戸線において七三〇一台、9.2パーセントあつたことが認められる。

(3) 芦屋市

<証拠>を総合すれば、同市内の本件道路及び国道二号における大型車の混入率は、別紙B⑯ないし⑱のとおりであることが認められる。

(4) 神戸市

<証拠>によれば、同市内の本件道路における大型車の混入率は、別紙B⑲のとおりであることが認められる。

(二) 本件道路と他の幹線道路との比較

右(一)の事実に、<証拠>により認められる別紙B⑳記載の事実(同四八、四九年度の神戸市を除く本件各市の大型車混入率)並びに<証拠>により認められる同四九年度全国道路交通情勢調査による元一級国道における普通貨物自動車及びバスの混入率が18.5パーセントであつた事実を総合すれば、本件道路の大型車の混入率は全国的にみて高く、またその交通量及び混入率は本件各市内の幹線道路の中で最高レベルにあることが明らかである。

二騒音

1道路騒音の特徴等

(一) 一般的特徴等

請求原因三項の2(一)(1)(道路騒音の一般的特徴等)の事実は、当事者間に争いがない。

(二) 環境基準と要請限度

(1) 環境基準

公害対策基本法九条一項は、政府が騒音に係る環境上の条件について、人の健康を保護し、及び生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい基準を定めるものとし、同四六年五月二五日閣議決定をもつて騒音に係る環境基準が定められた。

その内容は、環境基準として別紙A①のとおり定めるほか、環境基準の達成期間として、道路交通量が多い幹線道路に面する地域で、その達成が著しく困難な地域については、五年を越える期間で可及的速やかに達成を図るよう努めるものとし、その施策などを定めたものである。

(2) 要請限度

騒音規制法一七条一項は、都道府県知事が騒音の測定を行つた場合において、指定地域内における自動車騒音が総理府令で定める限度を超えていることにより道路の周辺の生活環境が著しくそこなわれると認めるときは、都道府県公安委員会に対し、道路交通法の規定による措置をとるべきことを要請するものとし、同四六年六月二三日総理府令をもつて別紙A②のとおりその要請限度が定められた。

2本件道路端における騒音の実情

(一) 測定結果

本件各市の本件道路端(車道端又はそれに近い場所)における騒音の実情は、次のとおり認められ、この認定に反する証拠はない。

なお、以下において朝・朝方、昼・昼間、夕・夕方、夜・夜間は、それぞれ午前六時から同八時まで、同八時から午後六時まで、同六時から同一〇時まで、同一〇時から翌日午前六時までをいう。

また、<証拠>によれば、道路交通騒音について、L50とLeqの関係は、Leqの値がL50の値より約五ホン高いことが認められる。

(1) 尼崎市

<証拠>を総合すれば、同市内の本件道路端における騒音レベルの測定結果は、別紙C①ないし⑥のとおりであり、その一部の経年変化の状況は、ほぼ別紙Cのとおりであることが認められる。

(2) 西宮市

<証拠>を総合すれば、同市内の本件道路端における騒音レベルの測定結果は、別紙C⑦ないし⑲のとおりであり、その一部の経年変化の状況は、ほぼ別紙C記載のとおりであることが認められる。

(3) 芦屋市

<証拠>を総合すれば、同市内の本件道路端における騒音レベルの測定結果は、別紙C⑳、のとおりであり、その一部の経年変化の状況は別紙Cのとおりであることが認められる。

(4) 神戸市

<証拠>によれば、同市内の本件道路端における騒音レベルの測定結果は、別紙C、のとおりであり、その一部の経年変化の状況は、別紙Cのとおりであることが認められる。

(5) 本件各市

<証拠>を総合すれば、本件各市内の本件道路端における騒音レベルの測定結果は、別紙Cないしのとおりであることが認められる。

(二) まとめ

右(一)の事実によれば、本件各市内の本件道路端における騒音レベルは、測定地点により多少の差があり、その測定が開始された同四七ないし四九年ころから現在まで若干の幅で増減を繰り返しているものの、右期間全体を通じては増加・減少いずれの傾向をも示さず、ほぼ横ばいの状態であり、各時間帯ごとの騒音レベル(L50)は、日曜や年末年始の一部の期間などを除いて、朝方が七〇ホン前後から八〇ホン余り、昼間が七〇ホン台から八〇ホン余り、夕方が七〇ホン前後から八〇ホン、夜間が六〇ホン台から七〇ホン台の間を示し、その平均値は、朝方及び昼間が七〇ホン余り、夕方及び夜間が六十数ホン、二四時間平均値は七〇ホン前後であつて、ほとんど全部の測定地点及び時間帯において環境基準を上回り、要請限度を上回ることさえ少なくないことが明らかである。

3他の道路端における騒音との比較

(一) 本件各市内の幹線道路における比較

<証拠>によれば、本件各市内の幹線道路の道路端における騒音レベルは、別紙Cないしのとおりであることが認められ、この認定に反する証拠はない。

右の事実によれば、本件道路端における騒音レベルは、その測定が開始された同四八年ころ以降本件各市において最高レベルにあることが明らかである。

(二) 全国の幹線道路における比較

(1) 騒音レベルの比較

<証拠>によれば、環境庁の全国自動車交通騒音実態調査報告による同五五ないし五八年の騒音レベル上位測定点は、別紙Cないしのとおりであることが認められる。

これらを前記認定の別紙Cないしと比較すれば、本件道路端の各測定点における騒音レベルは、全国の上位測定点よりも相当低く、本件道路端の測定点のほとんどにおいて一〇ホン前後下回つていることが明らかである。

また<証拠>によれば、東京都や大阪府においては、本件道路端の騒音レベルと同程度又はこれを超える道路が少なくないことが認められる。

(2) 環境基準と要請限度の達成状況

<証拠>によれば、同五五ないし五八年の全国の幹線道路の道路端における騒音レベルの環境基準及び要請限度の達成状況は、別紙Cのとおりであることが認められ、また乙E第一六号証によれば、同五三年三月末の全国の幹線道路の総延長に対する夜間の環境基準及び要請限度を超過する道路延長の割合につき、建設省は別紙Cのとおり試算したことが認められる。

右の事実によれば、同五五ないし五八年においては、環境基準をすべての時間帯で下回る測定点の割合は十数パーセントにすぎず、環境基準をすべての時間帯で上回る測定点の割合は四五パーセント前後を占めることが明らかであり、また、同五三年においては、四車線以上を有する一般国道の総延長の六八パーセントの地域において夜間の環境を超えていることが明らかである。

4原告らの居住地内における騒音の実情

(一) 騒音の感覚量

<証拠>によれば、音の感覚量は、騒音レベルが一〇ホン増すごとに約二倍となり、一〇ホン減ずるごとに約半分となることが認められ、この認定に反する証拠はない。

(二) 距離減衰

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) 点音源については、音源までの距離が二倍になるごとに六ホンずつ減少するが、道路騒音のような線音源については三ホンずつ減少する。

平坦道路に比して、盛土や堀割(切土)の方が距離減衰が大きく、盛土の効果は近い範囲に限られるが、堀割の効果は遠い地域にも及ぶ。

(2) 本件沿道における騒音レベルの距離減衰の測定結果は、別紙Cないしのとおりであり、これを集計すれば別紙Cのとおりである。

(3) 兵庫県が同四八年に実施した「国道四三号線自動車公害総合調査」及び同四九年に実施した「国道四三号線自動車公害総合環境調査」の各結果を総合すれば、本件国道と交差する道路に面して本件国道が見通せる地点については、尼崎市及び西宮市では道路端から四〇メートルを越える地点で同所の環境基準をほぼ満たし、芦屋市では八〇メートルを越える地点で同所の環境基準をほぼ満たすことが明らかにされ、また家屋等が介在して本件国道が見通せない地点については、尼崎市及び西宮市では二〇ないし三〇メートル、芦屋市では五〇メートルの各地点付近でそれぞれその地点における環境基準を満たすものと推定されている。

(三) 遮音壁等の効果

(1) 遮音壁

<証拠>を総合すれば、本件国道の道路端に設置された遮音壁は、その背後地の騒音レベルを平均三ないし四ホン程度減少させる効果のあることが認められ、この認定に反する証拠はない。

(2) 遮音築堤等

<証拠>によれば、本件国道の車道が削減され、遮音築堤及び緑地帯が設置されたこと等により、その背後地の騒音レベルは平均三ホン程度減少したことが認められ<る。>

(3) 介在建築物

<証拠>によれば、道路と測定点の間に家屋等の建築物が介在すると、騒音レベルが約五ないし一〇ホンから三〇ホン(二階建の場合)程度減少することが認められる。

(四) 居室内の騒音レベル

(1) 屋内及び窓の閉鎖による減衰

<証拠>を総合すれば、屋外の騒音レベルは屋内において減衰するが、その値は家屋の構造、材質、密閉度、部屋の配置などによつて異なり、窓を開放した状態では一〇ないし一五ホン、窓を閉鎖した状態では一五ないし三五ホン程度の減衰効果のあることが認められ、この認定に反する証拠はない。

(2) 防音工事

<証拠>を総合すると、被告公団の助成を得て防音工事を行つた家屋の防音効果を、窓を閉じた状態における右工事前後の居室中央部の騒音レベル差についてみれば、工事後の方が鉄筋コンクリート住宅及び木造住宅ともに平均八ホン低減していることが認められ<る。>

(五) 地上からの高さと騒音レベル

<証拠>を総合すれば、沿道の騒音レベルは、地上の数値に比して上層の数値の方がより高くなる傾向がみられる。

5本件県道の建設・供用による変化

<証拠>を総合すると、本件県道大阪線の供用開始の前後により、本件沿道(本件県道神戸線部分を含む。)の騒音レベルは、L50及びL5において局地的には若干の増減がみられ、同県道の特殊構造部分における反響音の影響などが考えられるものの、全体としてみれば大きな変化はなく、L95においては全体に上昇し、距離減衰は全般に一ないし三ホン小さくなる傾向がみられることが認められ、この認定に反する証拠はない。

6交通規制による変化

<証拠>を総合すると、本件国道では、神戸市を除く本件各市の要請に基づき、兵庫県公安委員会により、同四八年七月二〇日以降制限最高速度が毎時六〇キロメートルから五〇キロメートルに引下げられ、さらに同四九年四月以降一部の地区で夜間(午後一一時から翌日午前六時まで)の両側二車線通行禁止などの措置が講じられ、また本件県道では同四九年三月一五日以降制限最高速度が毎時八〇キロメートルから六〇キロメートルに引下げられ、これらによつて若干騒音レベルの低減した地点もあるが、明確な効果の表われていない地点もある。

三振動

1道路振動の一般的特徴等

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(一) 一般的特徴及び発生原因

道路振動の一般的特徴は、間欠的で衝撃性の強いことである。

道路振動の主な発生原因は、道路上を走行する自動車が路面に加える衝撃及び振動荷重である。自動車の動的付加荷重の大きさは、車両の構造特性(重量、振動数、振動の減衰性)、積載量、走行速度、路面凹凸の影響を受けるが、これらの中では車両重量の影響が大きく、大型車一台は乗用車類の一二台又は小型車の六台分に相当するともいわれ、車両・車速が同じ場合には路面凹凸の良否が重要な要素となる。

(二) 距離減衰

道路振動も一般的には距離減衰を示し、道路端から数メートル以遠ではその傾向が安定し、距離が二倍になると六デジベル減衰するものとされ、平面道路では、道路端での発生レベルが大きいほど、また地盤振動数が高いほど、距離減衰が大きい。

道路端での振動の大きさは、堀割道路が最も大きく、以下盛土、高架、平面道路の順に小さくなるが、道路端から一〇ないし四〇メートルの範囲では、堀割、高架、平面、盛土道路の順に小さくなる。

(三) 高架道路の特徴

高架道路からの振動の特徴は、ジョイントの段差と桁のたわみの影響、高架構造自体(桁、橋脚、基礎等の材質、構造)の特性、地盤に深く入つた基礎を介して振動が伝わること、平面道路が併設されている場合にはその影響も考慮する必要があることなどであり、高架道路の場合の影響因子の数は平面道路以上に多く、かつそれらが複雑に絡み合つているため、各因子と振動の関係は十分に解明されていないが、高架の構造条件が最も重要であるとみられている。

(四) 防除方法

道路振動の防除については、振動源対策として、車両構造の改良、交通規制、路面平坦性の改善、高架橋の改良が考えられ、伝播経路対策として、環境施設帯、防振溝、防振壁の設置、地盤改良が考えられる。

(五) 要請限度

振動規制法一六条一項は、都道府県知事が振動の測定を行つた場合において、指定地域内における道路交通振動が総理府令で定める限度を超えていることにより道路の周辺の生活環境が著しく損なわれていると認めるときは、道路管理者に対し当該道路の部分につき道路交通振動の防止のための舗装、維持又は修繕の措置を執るべきことを要請し、又は都道府県公安委員会に対し、道路交通法の規定による措置を執るべきことを要請するものとし、同五一年一一月一〇日総理府令をもつて別紙A③のとおりその要請限度が定められた。

2本件沿道における道路振動の実情

(一) 実情

<証拠>を総合すれば、本件沿道における道路振動の実情は別紙D①ないし⑪記載のとおり(ただし、D①、③、⑥を除き、昼間は午前八時から午後七時まで、夜間はその余の時間帯をいう。)であり、ごく一部の測定結果(尼崎市の同四八年八月二九日・別紙D①)を除いて、いずれも要請限度以下であること、本件道路端における振動レベルは、右尼崎市(同四八年八月の夜間)及び芦屋市(同五一年二月の昼間)で六〇デシベル以上の値が記録されている以外、いずれも六〇デシベル未満であり、大半は五五デシベル未満であること、本件各市における他の幹線道路に比して高いレベルにあること、振動レベルはその測定地点周辺の地盤や舗装等の条件(場所的要因)によつて大きく異なり、交通量との相関は低いこと、本件沿道の道路端から五メートル及び一〇メートル地点では必ずしも距離減衰を示さず、一〇メートル地点の方が五メートル地点の振動レベルよりも高い地点のあること、二〇メートル地点では全く減衰がみられない地点や九デシベル程度の減衰がみられる地点もあること、本件県道大阪線の供用開始前後で本件沿道全体にわたつて振動レベルに大きな変化はないことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(二) 遮音築堤等の効果

<証拠>によれば、本件国道の車道が削減され、遮音築堤及び緑地帯が設置されたこと等により、その背後地の振動レベルは平均2.8デシベル減少したことが認められ<る。>

(三) 制限速度の変更による効果

<証拠>を総合すれば、本件国道において同四八年七月二〇日以降実施された制限最高速度の変更(毎時六〇キロメートルから五〇キロメートルへの引下げ。)の前後において、振動の低減効果が大幅に表われた地点が多いが、これが表われなかつた地点もある。

四排ガス

1排ガスの特徴等

(一) 一般的特徴等

請求原因三項3の(一)(自動車走行により排出される大気汚染物質)、(二)(排ガス中の有害物質の概要とその発生機序)、(三)(個々の車両の排出量)の各事実は、当事者間に争いがない。

(二) 環境濃度等

<証拠>によれば、一酸化炭素等の自然大気中の環境濃度(バックグラウンド)等は、次のとおりであることが認められる。

(1) 一酸化炭素

バックグラウンドは0.1ppmであるが局地的条件によつて著しい差がある。交通量の激しい沿道では最大二〇ないし一二〇ppm、都市大気中の平均濃度は一ないし一〇ppm以下である。

(2) 窒素酸化物

バックグラウンドは一ないし六ppbである。交通量の特に多い所では局地的に一ppm以上になるが、通常0.1ppm以下であり、顕著な日変化を示す。

二酸化窒素のバックグラウンドは、陸上で約四ないし五ppb以下であり、大規模な発生源のない町村などでは長期的平均として0.01ppm程度である。

一酸化窒素のバックグラウンドは、陸上で約二ppbである。

(3) 炭化水素

バックグラウンドは、CH4が1.5ppbで、その他が一ppbであるが、一時間値で一〇ppm以上の高濃度地域もある。

(4) 二酸化硫黄

バックグラウンドは0.2ppbであるが、都市部では年平均値0.1ないし0.15ppmの高濃度地域もみられる。

(5) 浮遊粉じん

都市部の年平均濃度は、大気一立方メートル当り四〇ないし四〇〇マイクログラムである。

(三) 環境基準

公害対策基本法九条に基づく環境基準は次のとおりである。

なお、<証拠>によれば、測定結果の評価方法につき、同四八年六月一二日環境庁大気保全局長通達をもつて、二酸化硫黄等については、連続して又は随時に行つた測定結果により測定を行つた日(日平均値の評価については、一時間値の欠測が四時間を超える場合は、評価対象としない。)又は時間の評価を行い(短期的評価)、年間における日平均値の高い方から二パーセントの範囲内にあるものを除外して(ただし、日平均値につき環境基準を超える日が二日以上連続した場合には除外しない。)、評価を行う(長期的評価)ものとする旨定められ、また、同五三年七月一七日同局長通達をもつて、二酸化窒素については、年間における日平均値の低い方から九八パーセントに相当するもの(年間測定時間が六〇〇〇時間未満の測定局は評価対象としない。)によつて評価を行うものとする旨定められたことが認められる。

(1) 一酸化炭素

一酸化炭素については、同四五年二月二〇日閣議決定をもつて、非分散型赤外分析計を用いる方法による測定値の、一時間値の一日平均値が一〇ppm以下であり、かつ、一時間値の八時間平均値が二〇ppm以下であることを環境上の条件とする旨の環境基準が定められた。

(2) 二酸化窒素

二酸化窒素については、同四八年五月八日環境庁告示をもつて、ザルツマン試薬を用いる吸光光度法による測定値の、一時間値の一日平均値が0.02ppm以下であることを環境上の条件とする旨の環境基準(旧環境基準)が定められたが、同五三年七月一一日同庁告示をもつて、同方法による測定値(ただし、従前はザルツマン係数0.72、一酸化窒素の二酸化窒素への酸化率一〇〇パーセントとしていたのを、それぞれ0.84、七〇パーセントに改めた。)の、一時間値の一日平均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内又はそれ以下であることを環境上の条件とする旨(新環境基準)改訂された。

(3) 炭化水素

炭化水素については、環境基準の定めはないが、同五一年八月一三日中央公害対策審議会において、光化学オキシダント生成防止のための必要条件としての環境大気中の非メタン炭化水素濃度として、光化学オキシダントの日最高一時間値0.06ppmに対応する午前六時から九時までの非メタン炭化水素の三時間平均値は、0.20ppmcから0.31ppmcの範囲にあることが適当であるとする旨の指針が明らかにされた。

(4) 二酸化硫黄

二酸化硫黄については、同四四年二月一二日閣議決定をもつて、年間を通じて、一時間値が0.2ppm以下である時間数が、総時間数に対し、九九パーセント以上維持されること、一時間値の一日平均値が0.05ppm以下である日数が、総日数に対し、七〇パーセント以上維持されること、一時間値が0.1ppm以下である時間数が総時間数に対し、八八パーセント以上維持されること、年間一時間値の年平均値が0.05ppmを超えないこと等を内容とする環境基準(旧環境基準)が定められたが、同四八年五月一七日環境庁告示をもつて、溶液導電率法による測定値の、一時間値の一日平均値が0.04ppm以下であり、かつ、一時間値が0.1ppm以下であることを環境上の条件とする旨(新環境基準)改訂された。

(5) 浮遊粒子状物質

浮遊粉じんのうち粒径が一〇ミクロン以下の浮遊粒子状物質については、同四七年一月一三日環境庁告示をもつて環境基準が定められていたが(旧環境基準)、同四八年五月八日同庁告示をもつてこれを改め、濾過捕集による重量濃度測定方法又はこの方法によつて測定された重量濃度と直線的な関係を有する量が得られる光散乱法による測定値の、一時間値の一日平均値が一立方メートル当り0.1ミリグラム以下であり、かつ、一時間値が一立方メートル当り0.2ミリグラム以下であることを環境上の条件とする旨の環境基準(新環境基準)が定められた。

2本件沿道の大気汚染の実情

(一) 測定結果

大気汚染防止法二二条は、「都道府県知事は、大気の汚染の状況を常時監視しなければならない。」と定め、これに基づいて一般環境大気汚染測定局(以下「一般局」という。)が設置され、また同法二〇条は、「都道府県知事は、交差点等があるため自動車の交通が渋滞することにより自動車排出ガスによる大気の著しい汚染が生じ、又は生ずるおそれがある道路の部分及びその周辺の区域について、大気中の自動車排出ガスの濃度の測定を行なうものとする。」と定め、これに基づいて自動車排出ガス測定局(以下「沿道局」ともいう。)が設置されている。

大気汚染の状況は、右測定局において常時の測定が行われ、その他種々の地点において大気汚染測定車により随時の測定が行われている。

(1) 尼崎市

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

ア 観測態勢

同市においては、同四一年に国設の大気汚染測定所が設置され、その後同四二ないし五七年の間に五か所の市設の大気汚染測定所が設置されたほか、同四九年には国道二号沿道(十間交差点付近)に、同五〇年には本件沿道(武庫川町一の二四の西小学校内)にそれぞれ自動車排出ガス測定局が設置されたのを初め、同五二年度までに市内主要五幹線に測定所が設置された。

本件沿道では、国道四三号自排局において、窒素酸化物、一酸化炭素、炭化水素濃度等を測定し、北城内四七の一の城内高校内の本件道路北側約二〇〇メートルにある南部測定所においては、二酸化硫黄、浮遊粉じん、窒素酸化物等の測定を行つている。

イ 測定値

同市内における大気汚染物質の測定結果は、別紙E①ないし⑳のとおりである。

ウ 経年変化の状況等

同市内における大気汚染物質の測定結果の経年変化の状況等は、次のとおりである。

(ア) 二酸化窒素

同市内の一般測定局における濃度(年平均値、ザルツマン係数0.72)は、同四四ないし四六年度は0.025ないし0.040ppm程度であり、同四七年度は0.026ないし0.036ppmで旧環境基準適合日数の割合は一三ないし三三パーセント、同四八年度は0.026ないし0.037ppmで同割合は八ないし二九パーセント、同四九年度は0.026ないし0.032ppmで同割合は一五ないし三〇パーセント、同五〇年度は0.020ないし0.023(東部測定所では測定時間不足のため参考値0.036)ppmで同割合は四五ないし五九パーセント(東部測定所を除く。)、同五一年度は0.023ないし0.033ppmで同割合は一八ないし五二パーセントである。

また、右各測定局の同四八ないし五六年度の同係数0.84による測定結果(同五二年度以前は換算値)によれば、日平均値の年間九八パーセント値が0.06ppmを超える測定所は、同四八年度に二か所あるのみ(同五〇年度の東部測定所の値は参考値につき考慮しない。)であり、同五一年度以降において、日平均値が0.06ppmを超える日の出現率は0ないし1.1パーセントである。

国道四三号自排局における濃度(同係数0.72)は、同五〇ないし五二年度において、0.034ないし0.042ppmで旧環境基準適合日数の割合は一〇ないし一八パーセントであるが、右測定結果を同係数0.84に換算した後の数値についてみれば、日平均値の年間九八パーセント値は、0.052ないし0.066ppmとなり、同五二年度のみが新環境基準に適合しているものと評価され、年間測定日数のうちで日平均値が0.06ppmを超える日数とその出現率は、同五〇年度が九日で三パーセント、同五一年度が二四日で6.9パーセント、同五二年度が二日で0.6パーセントである。

さらに、同局の同五三ないし五七年度の濃度(同係数0.84)の日平均値の年間九八パーセント値は、0.056ないし0.072ppmであり、同五三及び五六年度を除いて新環境基準に適合しているものと評価され、日平均値が0.06ppmを超える日数及びその出現率は、同五三年が一〇日で2.8パーセント、同五四年が七日で2.0パーセント、同五五年が四日で14.4パーセント、同五六年が一九日で5.6パーセント、同五七年が三日で0.9パーセントである。

なお本件沿道の濃度は、市内の他の幹線道路沿道と同等又はそれ以上である。

(イ) 一酸化炭素

同市内の本件沿道(同局のほか交差点等の測定点を含む。)における濃度(一時間値の平均)は、同四五年が0.3ないし8.1ppm、同四六年が3.9ないし6.8ppm、同四七年が3.1ないし5.0ppm、同四八年が4.8ないし5.7ppmであり、同四九ないし五七年度は0.6ないし4.6ppmであり、また同局の同五〇ないし五七年度の日平均値の年間九八パーセント値は、同五〇ないし五三年度が3.6ないし4.0ppm、同五四ないし五七年度が3.0ないし3.3ppmであり、右いずれの数値も環境基準に適合している。

なお同局における濃度は、市内の他の沿道局の濃度と同等又はやや低いが、一般局の濃度よりは明らかに高いものである。

(ウ) 炭化水素

同局では、同五〇年度ころ以降、全炭化水素及び非メタン炭化水素ともに同市内の他の沿道局の濃度を下回つているが、大気汚染測定車による測定結果によれば、本件沿道が他の沿道に比較して低濃度であるとはいえない。

(エ) 浮遊粒子状物質等

同市内の一般局における同四八ないし五七年度の測定結果によれば、浮遊粒子状物質の長期的評価による環境基準適合率は、同五七年度の中部測定所の一〇〇パーセントを除いて、七六ないし九八パーセントである。

また浮遊粉じんの濃度は、本件沿道が格別高いものではない。

(オ) 二酸化硫黄

その長期的評価による環境基準適合率は、同五〇年度に市内五か所の一般局すべてにおいて一〇〇パーセントになつた後、これを更新し、その濃度も漸減傾向にある。また、本件沿道の濃度は他の地点に比較して格別高いものではない。

(カ) 鉛化合物

同市内の主要交差点における鉛濃度は、同四五年度から同四六、四七年度にかけて大きく減少し、本件沿道五合橋交差点においても、同四五年六月には一立方メートル当り2.94ないし4.24マイクログラムであつたが、同四七年八月には同1.64マイクログラムに減少した。

エ 特殊調査

(ア) 拡散状態調査

同市が同四九年八月県道尼崎宝塚線沿道で行つた排ガス拡散状態調査によれば、周辺に建物の少ない場所では道路から風下方向に約一〇〇メートル付近まで排ガスの直接的影響が認められるが、窒素酸化物については、道路端から風下方向約一〇メートルまでに大幅に拡散して、約三分の一の濃度に減少し、その後ゆるやかに減衰して一〇〇メートル付近でほぼ直接的影響はなくなり、環境濃度になることが明らかになつた。

(イ) 垂直分布調査

同市が同五一年一〇月に本件沿道で行つた排ガス垂直分布調査の結果によれば、窒素酸化物は高度二〇メートル前後まで明らかに減衰傾向を示し、高度二二メートルで、一酸化窒素は地上の濃度の一六パーセント、二酸化窒素は四〇パーセントに減少し、それ以上ではほぼ横ばいとなることが明らかになつた。

(2) 西宮市

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

ア 観測態勢

同市においては、同三六年市役所に大気汚染測定室が設置され(同四六年市役所の新築とともに移設)、同四六年市役所鳴尾支所に(同四八年一二月から同五四年三月までは鳴尾公民館に移設)、同四七年瓦木公民館にそれぞれ測定局が設置された。右各測定局(一般局)では、二酸化硫黄、浮遊粉じん、窒素酸化物、オキシダント濃度の測定等を行つているが、右三局のうちでは鳴尾支所局が本件道路に最も近く、本件国道の南方約六〇メートルに所在し、採気口の高さは一七メートルである。

また自動車排出ガス測定局(沿道局)としては、同四五年国道二号に、同四六年本件国道(津門川沿いの津門川ポンプ場内)に、同四八年国道一七一号に、同五七年本件国道(甲子園)にそれぞれ測定局が設置された。右各測定局では、窒素酸化物、一酸化炭素及び炭化水素の測定等を行つている。

イ 測定値

同市内における大気汚染物質の測定結果は、別紙Eないしのとおりである。

ウ 経年変化の状況等

同市内における大気汚染物質の測定結果の経年変化の状況等は、次のとおりである。

(ア) 二酸化窒素

同市内における濃度(年平均値、ザルツマン係数0.72)は、国道二号測定所では、同四六年度は0.045ppm、同四七年度は0.033ppmで旧環境基準適合日数の割合は一五パーセントであり、市庭町の本件国道沿い(市庭市民館)では、同四六年は0.052ppm 鳴尾町五丁目の本件国道沿い(被告公団西宮工事事務所)では、同四七年は0.069ppmで同割合は二パーセントである。

また同四八年から同五二年までの濃度(年平均値、ザルツマン係数0.72)は、一般局では、0.027ないし0.043ppmで同割合は一ないし三一パーセントであり、沿道局では、0.037ないし0.056ppmで同割合は〇ないし一六パーセントである。

さらに各測定局の同四八ないし同五七年度の同係数0.84による測定結果(同五二年度以前は換算値)によれば、日平均値の年間九八パーセント値が0.06ppmを超える測定局は、一般局では、市役所局における同四八及び五二年度のみであり、日平均値が0.06ppmを超える日の出現率は、市役所局の同五二年度の七パーセントを除けば、〇ないし三パーセントであるが、沿道局では、国道二号局における同五七年度及び国道一七一号局における同五五年度を除けば、いずれも日平均値の年間九八パーセント値が0.06ppmを超過し、新環境基準にも適合しないものと評価され、同出現率は2.3ないし20.3パーセントである。

なお、本件沿道の濃度は、同四八年ころ以降大きな変動はなく、ほぼ横ばいの状態であるが、一般局に比較して高く、他の沿道局とほぼ同等である。

(イ) 一酸化炭素

同市内の本件沿道(同四八ないし五七年度)における濃度(平均値)は、同五二年度までは2.0ppm前後であるが、同五三年度以降減少傾向がみられ、同五七年度は1.0ppmであり、いずれの年度も環境基準を大きく下回り、他の沿道局と比較すれば、同等又はそれ以下の汚染状況である。

(ウ) 炭化水素

本件沿道(津門川局)では、同五〇年以降他の沿道局に比較して全炭化水素濃度は低いが、市内の他の測定点との比較ではほぼ同等である。

(エ) 浮遊粉じん

鳴尾支所局における濃度(年度平均値)は、同五四年以降若干減少してほぼ横ばいの状況(日平均値が環境基準を超えた日数の割合は一ないし四パーセント)である。右濃度は、瓦木公民館局よりは毎年高いが、市役所局よりは低い年が多い。

また本件沿道での測定結果は、市内の他の地点と比較すれば、中又は高濃度である。

(オ) 二酸化硫黄

同五二ないし五四年度以降市内三か所の一般局において、その環境基準適合率が一〇〇パーセントとなつた後、これを更新し、その濃度も漸減傾向にある。また鳴尾支所局の濃度は他の局に比較して格別高いものではない。

エ 特殊調査

(ア) 窒素酸化物総合調査

同市が同五〇年度から同五四年度にかけて、同市内の窒素酸化物の排出実態及び濃度分布を明らかにするため行つた「窒素酸化物(NOx)総合調査」によれば、①全発生源による窒素酸化物濃度分布では、本件道路に沿つてその南北両側に伸びる0.05ppmの地帯が最も高く、次に名神高速道路、国道二号、本件国道にわたる地域が0.04ppm、国道一七一号の沿道地帯が0.03ppmであつて、幹線道路沿道地帯の濃度が高く、また移動発生源のみによる窒素酸化物濃度分布は全発生源による分布と類似の傾向を示し、移動発生源(自動車)の影響が大きく、②二酸化窒素の日平均値(九八パーセント値)では、本件沿道の一部で0.045ppmを超え、また、名神高速道路及び国道二号以南の本件沿道を含む地域で0.04ppmを超える比較的高濃度の地域が分布し、③さらに同五〇年度において、同市内の本件道路からの窒素酸化物の年間排出量は、同市内の全発生源からの総排出量の約15.5パーセントである。

(イ) 主要道路端通日調査

同市が同五二年度に本件沿道(甲子園七番町)において行つた窒素酸化物等の測定結果によれば、沿道の一酸化窒素及び二酸化窒素濃度は、おおむね交通量に追従している。

(3) 芦屋市

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

ア 観測態勢

同市においては、同五七年現在三つの一般局及び一つの沿道局を設置し、大気汚染の状況を測定している。

本件沿道には、打出町(同四九年九月から同五〇年一二月までは打出派出所、同五一年三月からは打出消防分団)に排ガス測定局が設けられ(以下「打出局」という。)、窒素酸化物及び一酸化炭素濃度の測定を行い、一般局の中では市役所分庁舎四階の公害計測室(地上約一二メートル)が本件沿道の最寄局であり(以下「市役所局」という。)、同局は本件国道の北方約三〇メートル、県道奥山精道線の東側に位置して、窒素酸化物、一酸化炭素、硫黄酸化物、浮遊粉じん濃度等の測定を行つている。

イ 測定値

同市内における大気汚染物質の測定結果は、別紙Eないし、のとおりである。

ウ 経年変化の状況等

同市内における大気汚染物質の測定結果の経年変化の状況等は、次のとおりである。

(ア) 二酸化窒素

同市内における濃度(年平均値、ザルツマン係数0.72)は、市役所局では、同四六、四七年度はそれぞれ0.052ppm、0.055ppm、同四八ないし五一年度は若干改善されて0.035ないし0.039ppmであるが、打出局では、同四九ないし五二年度は0.047ないし0.052ppmであり、市役所局の濃度を上回つている。

同四八、四九ないし五七、五八年度の同係数0.84による測定結果(同五二年度以前は換算値)によれば、日平均値の年間九八パーセント値は、打出局では、同五二年度の0.065ppmと同五八年度の0.062ppmを除いていずれの年度も0.070ppm前後で、すべて新環境基準に適合しないものと評価され、市役所局(同五七年度分まで)では、同四八、五三、五四年度がいずれも0.060ppmを超え、同基準に適合しないものと評価されるが、潮見小学校局(同五四ないし五七年度分)及び山手小学校局(同五六、五七年度分)では、いずれの年度も0.040ないし0.049ppmで、同基準に適合するものと評価される。

また、同基準の長期的評価による日平均値が0.06ppmを超える日数は、打出局では、同五一、五三、五四年度は三〇日を超え、その出現率は一〇パーセント前後であるが、同五五年度以降は若干改善がみられ、同五八年度は六日でその出現率は1.8パーセントであり、他の局では、市役所局の同四八年度三日1.0パーセント、同五三年度二日0.6パーセント、同五四年度九日2.7パーセントを除いて、同評価による日平均値が0.06ppmを超える日はない。

なお、本件道路端での濃度は、同市内の他の幹線道路沿道地域と同等又はそれ以上であり、同沿道以外の地域よりも高濃度である。

(イ) 一酸化炭素

打出局(同四九ないし五八年度)の濃度は、同四九ないし同五一年度が年平均値2.7ないし3.0ppmであるが、その後は同五二年度の2.4ppmを除いて1.8ないし2.0ppmで安定し、同五一年度以降についてみれば(それ以前は証拠がない。)、完全に環境基準に適合している。

市役所局(同四七ないし五七年度)の濃度は、同五〇年度まで年平均値4.6ないし5.2ppm、同五一、五二年度がそれぞれ同3.7ppmと2.3ppm、同五三年度以降は同1.0ないし1.8ppmであり、同五四年度以降についてみれば(それ以前は証拠がない。)、完全に環境基準に適合している。

また、本件道路端の各所における濃度は、同市内の他の幹線道路沿道地域とほぼ同等であるが、同沿道以外の地域よりはやや高い傾向がみられる。

(ウ) 浮遊粉じん

市役所局(同四六ないし五七年度)における浮遊粉じんの濃度は大きな変化がなく横ばいの状況であり、また、本件道路端の濃度は、同市内の他の幹線道路沿道地域と同等であり、同沿道以外の地域と比較すると同等又は高濃度である。

同局における浮遊粒子状物質の濃度(年平均値、同五〇ないし五七年度)は、同五五年度までは一立方メートル当り0.039ないし0.044ミリグラムで大きな変化はないが、同五六、五七年度はそれぞれ同0.050ミリグラムと0.049ミリグラムで増加傾向がみられ、環境基準の長期的評価による日平均値が一立方メートル当り0.10ミリグラムを超えた日数も、同五五年度までは二ないし一一日であるが、同五六、五七年度はそれぞれ二四日と二〇日であり、増加傾向がみられる。

(エ) 二酸化硫黄

市役所局における濃度(年平均値、同四六ないし五七年度)は、同四六年度が0.034ppm、同四七ないし同五二年度が0.023ないし0.026ppmであつたが、同五三年度以降は0.013ないし0.017ppmと改善され、同局における濃度を同五一年度以降についてみれば、一時間値ではすべて新環境基準に適合し、日平均値では九七ないし一〇〇パーセントの適合率である。

同局における濃度は、埋立地内の潮見小学校局(同五四ないし五七年度)における濃度(年平均値0.010ないし0.013ppm)よりもやや高いが、本件道路端の濃度は、同市内の各所の濃度よりも高いものではない。

(4) 神戸市

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

ア 観測態勢

同市においては、同五八年現在一二の一般環境大気監視局及び六つの自動車排出ガス監視局(同四六年時点ではそれぞれ六局及び二局)を市内各所に設置し、大気汚染の状況を測定している。

本件沿道には、東灘区青木四丁目神戸市本庄職員寮内の本件道路から北へ約三二メートルの地点に東部自動車監視局が設置され、窒素酸化物と一酸化炭素濃度及び交通量の測定が行われている。そのほか、同区深江北町二丁目東灘小学校内の本件道路から北へ約二六〇メートルの地点には深江大気監視局が設置され、二酸化硫黄、窒素酸化物及び浮遊粒子状物質等の測定が行われている。

東部自動車監視局の北側には小学校や中学校の校庭が広がり、東側周辺は住宅であり、北へ約七〇〇メートルの所に国道二号が通り、本件道路の南側は大学の敷地となり、その周辺は工業地帯である。

深江大気監視局は比較的に緑が多い住宅地の中の東灘小学校三階屋上にあり、北へ約四〇〇メートルの所には国道二号が通り、本件道路の南には食品工場群がある。

イ 測定値

同市内における大気汚染物質の測定結果は、別紙Eないしのとおりである。

ウ 経年変化の状況等

同市内における大気汚染物質の測定結果の経年変化の状況は、次のとおりである。

(ア) 二酸化窒素

東部自動車監視局の同四八年ころ以降における濃度は、日平均値の年間九八パーセント値及び年平均値のいずれにおいても全自動車監視局の平均値を上回り、右いずれの値も同五〇、五一年ころを頂点としてその後若干減少しているものの、大きな変化はない。なお、同局における同四八ないし五二年の日平均値(ザルツマン係数0.84)が旧環境基準の0.02ppmを超える日数の年間の割合は、ほぼ七〇ないし九五パーセントであるが、新環境基準の0.06ppmを超える日数の年間の割合は、十数パーセント以下である。同局の同五三ないし五八年度の濃度(同係数0.84)の日平均値の年間九八パーセント値は0.061ないし0.066ppmであり、日平均値が0.06ppmを超える日数の年間の割合は、ほぼ五パーセント以下(年間一ないし一一日間)である。

深江大気監視局でも、同四八年ころ以降のほとんどの年度の日平均値の年間九八パーセント値及び年平均値のいずれにおいても同市内の一般局の平均値を若干上回つている。

(イ) 一酸化炭素

東部自動車監視局の濃度は、同四八ないし五一年度においては他の沿道局に比較して高い値にあつたが、同五二年度以降においてはほぼ沿道局の平均値にあり、同四七年以降における環境基準達成率は、同四八年が九八パーセントであるのを除いて、いずれも一〇〇パーセントである。

(ウ) 浮遊粒子状物質

深江大気監視局では、同四八年以降の年平均値は毎年ほぼ同市内の平均値と同等又はやや高い濃度を示し、同五四、五五年度以降は減少傾向にある。同四八年以降の環境基準適合率は、一時間値において99.1ないし100パーセント、日平均値において93.5ないし99.7パーセントである。

(エ) 硫黄酸化物

深江大気監視局では、同四八年以降二酸化硫黄濃度の測定を行つているが、その新環境基準適合率は、同四九年及び五一年において一〇〇パーセントをわずかに下回つたほかは、いずれの年度も一〇〇パーセントであり、一般局の平均値とほぼ等しいものである。

(5) 本件各市

ア 同四八年度本件国道総合調査

<証拠>によれば、兵庫県は同四八年九月及び一〇月神戸市を除く本件各市などの協力を得て、本件沿道の大気汚染状況等の調査を行い、その結果、①道路端における一酸化炭素濃度の日平均値は2.4ないし5.8ppmで環境基準の四分の一から半分程度であるが、二酸化窒素の日平均値は0.048ないし0.080ppmで旧環境基準の二ないし四倍の値であり、一酸化窒素は道路以外の一般地域に比較すると著しく高濃度であり、②右の各濃度は交通量との間にほぼ相関関係がみられ、③北方系風向時の標準的な風速で、交通量の多いときの本件道路から南に向う側道における一酸化炭素濃度の距離減衰は、南側沿道に建物のなかつた西宮市では、二〇メートル地点で七二パーセント前後に減少し、九〇メートル地点で約五〇パーセントに減少したが、南側沿道に住宅が密集する尼崎市では二〇メートル地点まで全く減衰がみられず、この地点から減衰を始め、④窒素酸化物については一酸化炭素に比して減衰率が大きく、五〇メートル地点で約五〇パーセントに減少し、⑤風向の変化が本件沿道の両側の濃度に大きく影響を与えることが判明した。

イ 同年度主要幹線道路調査

<証拠>によれば、兵庫県は同四八年度に県内の主要幹線道路において排ガスの測定を行つたが、その結果本件沿道では、①一酸化窒素、二酸化窒素及び硫黄酸化物は、いずれも他の沿道に比して高濃度であるが、本件沿道と同等又はそれ以上の濃度を示した沿道地点もあり、二酸化窒素についてはほとんどの沿道で旧環境基準を上回り、硫黄酸化物については本件沿道のほか若干の沿道で環境基準を上回る状況で、②浮遊粉じん及び鉛の濃度は他の沿道に比して格別高くも低くもない状況であつた。

ウ 同四九年度本件国道総合調査

<証拠>によれば、兵庫県は同四九年八月及び九月神戸市を除く本件各市などの協力を得て、本件沿道の大気汚染状況等の調査を行い、その結果、①道路端における一酸化炭素濃度の日平均値は1.0ないし2.7ppmで環境基準の一〇分の一ないし四分の一程度であり、二酸化硫黄についても、日によつては環境基準を超えることはあつてもほぼ基準内であるが、二酸化窒素の日平均値は0.26ないし0.77ppmで旧環境基準の1.3ないし3.8倍の値であり、②窒素酸化物及び一酸化炭素の各濃度は交通量との間にほぼ相関関係がみられ、③窒素酸化物濃度の距離減衰については、尼崎市において道路端から四〇メートル地点で七五パーセント、八五メートル地点で五〇パーセントに減少し、④二酸化窒素濃度は、二〇ないし五〇メートル地点で一時的に増加傾向がみられるが、これは一酸化窒素として排出されたものが空気中で酸化されて生じることによる現象と考えられ、⑤一酸化炭素濃度の距離減衰率は少なく、⑥風下方向における家屋による汚染ガスの遮へい効果はみられず、⑦汚染ガスの垂直分布については、窒素酸化物は地上よりも高い所の方が低濃度であるが、一酸化炭素は逆の傾向を示し、⑧本件沿道の本件道路の影響を除いたバックグラウンド濃度は、窒素酸化物については、南側が北側よりも高く、また尼崎市が西宮市及び芦屋市に比して高いが、一酸化炭素については、南北による差はみられず、⑨浮遊粉じん量は、一般環境の値と差はなく、距離減衰は小さく、また排ガスとは異なり、風向や風速によつて大きな影響を受けず、自動車からの影響は少ないことが明らかとなつた。

エ 本件国道二酸化窒素汚染調査

<証拠>を総合すれば、本件沿道の住民団体などで組織された兵庫県大気汚染調査実行委員会は、同五二年六月簡易捕集管(カプセル)を用いた天谷式二酸化窒素簡易測定法により、本件沿道などの二酸化窒素濃度の状況を調査し、その結果①神戸市灘区浜田町から尼崎市東本町二丁目までの本件道路から一五〇メートル以内の各測定点の全平均値は、日平均値に換算して0.053ppmであること、②本件道路の北側と南側で分けると、北側の各測定点における平均値は、いずれも日平均値に換算して、神戸市が0.057ppm、芦屋市が0.059ppm、西宮市が0.062ppm、尼崎市が0.059ppmであり、南側はそれぞれ0.045ppm、0.040ppm、0.049ppm、0.049ppmであり、昼夜の風向の変化と夜間の交通量の減少の影響が生じたものとみられること、③交通量の多い交差点等では濃度が高く、西宮インターチェンジ付近(西宮市今津)では日平均値に換算して0.14ppmと最も高いこと、④道路からの距離に応じて減少するが、神戸、芦屋、西宮の各市では五〇メートル付近で再び増加傾向の頂点(〇メートル付近の濃度の六〇パーセント程度)を示し、一五〇メートル付近でも五〇パーセント程度にしか減少しないのに、尼崎市では滑らかな距離減衰を示すことから、尼崎市以外では当時すでに供用されていた本件県道神戸線と本件国道との複合影響が表われているものとみられること、⑤樹林内の濃度は付近の濃度と大差はなかつたこと、⑥右調査結果は、本件各市の調査結果と比較してほぼ正確であるとみられることが分かつた。

(二) まとめ

右(一)の事実に<証拠>を総合すれば、本件沿道の同四〇年代後半以降の大気汚染の状況は、①炭化水素、二酸化硫黄、鉛化合物については、他の沿道地域や沿道以外の地域と比較して格別高濃度ではなく、同五〇年ころ以降二酸化硫黄の新環境基準との関係にも問題はないこと、②一酸化炭素については、環境基準との関係にはほとんど問題はなく、他の沿道地域と比較して同等又は低濃度であるものの、沿道以外の地域に比較すれば高濃度であること、③浮遊粉じんについては、他の沿道地域及び沿道以外の地域と比較して、ほぼ同等又は高濃度であるが、浮遊粒子状物質についての環境基準適合率は約八割以上であつて、本件沿道以外の地域と大差はないこと、④二酸化窒素については、他の沿道地域と比較して、ほぼ同等又は高濃度であり、最も問題であるが、新環境基準の適合状況は測定局により大きく異なることが明らかである。

3距離減衰

<証拠>を総合すれば、鳥橋義和らは、兵庫県が同四八、四九年度に本件沿道で行つた「自動車公害総合調査」を分析して次の結果を得た。

(一) 道路端における汚染濃度と交通量の関係は、一酸化炭素及び二酸化窒素についてはよい相関を示すが、二酸化窒素及び硫黄酸化物については相関が不十分である。

(二) 汚染濃度の道路端からの距離による減衰は、近距離では建物の存否等の周辺の状況による局地的な影響が大きく、地点による差がみられ、物質により減衰傾向が異なる。

(三) 一酸化炭素の距離減衰については、西宮では速やかで、二〇メートル地点で道路端の六〇パーセントになり、より遠くでもその傾向を示すが、尼崎、芦屋では減衰が少ない。

(四) 二酸化窒素の距離減衰については、二〇ないし五〇メートル付近までは道路端よりむしろ高濃度になる傾向を示すが、これは一酸化窒素の酸化反応によるものと考えられる。

(五) 一酸化窒素の距離減衰については、一〇ないし二〇メートル地点で六〇ないし九〇パーセントに減衰し、より遠くでも一酸化炭素に比して速やかな減衰を示す。

(六) 窒素酸化物の距離減衰については、尼崎市では、四〇メートル、八五メートル、一五〇メートルの各地点で、それぞれ七五パーセント、五〇パーセント、二四パーセントに減衰するが、一五〇メートル以上では減衰が少なくなり、西宮市では、道路端に広場があつたため、五〇メートル地点で五〇パーセントであつた。

第五  原告らの被害認識

一本件沿道の地域環境の破壊

<証拠>を総合すれば、請求原因四項1の(一)(本件道路建設前の本件沿道の環境)、(二)(本件道路の建設・供用による平穏な街並みの破壊)の各事実並びに原告らが同(三)(本件道路による生活環境の破壊)記載のとおり認識している事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

もつとも、右のうち請求原因四項1の(一)、(二)の各事実に基づく原告ら主張の被害については、原告らはその保護を求める法律上の利益を有せず、これを前提とする慰謝料請求は失当というべきであるから、以下においてはこれらの被害を考慮しない。

なお被告らは、甲B号各証の原告らの陳述書の証拠価値及びこれによる立証方法などについて主張する。なるほど、個別・具体的な立証を必要とする事項については、原告本人尋問によるなど、一般的にみてより高い証明力を持つた証拠方法により立証されることが望ましいことはいうまでもないが、本件慰謝料請求は後記のとおりいわゆる一律請求であり弁論の全趣旨によれば、原告らは、本件沿道における騒音などの程度が重大かつ深刻なものであることを示す事実の一つとして、アンケート調査の結果と並んで原告らの認識している被害の全体を主張し、その範囲でこれを立証しようとする趣旨であり、その個々の被害の内容・程度・項目数により、個々の原告らの慰謝料額の算出をすべき旨を主張しているのではないものと解するのが相当であるから、右の限度においては、甲B号各証による立証も不当とはいえず、またその内容が、より客観的で証明力の高い証拠に照らして信用できない事項に関する場合は別として、単に相互に類似しているなどの一事をもつて、証明力が減殺されるにとどまらず、証明力がないものとまで解すべきではない。

二健康で快適な生活の破壊及び営業妨害

<証拠>を総合すれば、原告らは、別紙F①のとおり自己又は家族の自覚症状や被害状況等を認識してこれを訴えていること、またその病歴及び入通院歴等の特記事項は別紙F②のとおり(ただし、備考欄記載のとおり、原告らの主張と当裁判所の認定が異なる部分がある。)であること、これらの原告らの訴をまとめると請求原因四項の2(二)(1)イ(睡眠妨害の態様)、同(2)(生活妨害)、同(3)(精神的被害)、同(5)(物質的被害)、同(6)(転居)記載のとおりであること、原告らの中には同3(営業妨害)記載のとおり訴える者があることが認められ、この認定に反する証拠はない。

なお被告らは、原告らが個別的・具体的に主張する身体的被害などにつき、診断書などでより的確な立証をしないことを不当である旨主張するが、弁論の全趣旨によれば、前記一項のとおり、原告らは、本件沿道における騒音などの程度の重大かつ深刻なことを示す事実の一つとして、アンケート調査による身体的被害の訴えと並んで原告ら自身の具体的な身体的被害を主張し、その範囲でこれを立証しようとする趣旨であり、その身体的被害の内容や程度により、個々の原告らの慰謝料額を算出すべき旨を主張しているのではないと解するのが相当であるから、右の限度においては、原告らの立証方法を必ずしも不当なものというべきではない。

三原告らの愁訴の特徴

1慢性気管支炎・気管支ぜん息・ぜん息性気管支炎

<証拠>を総合すると、原告らが自己及びその家族の疾病として主張する慢性気管支炎、気管支ぜん息及びぜん息性気管支炎の定義や特徴につき、被告らの主張一項2(一)(1)のとおり認めることができ、この認定に反する証拠はない。

2その他の愁訴

<証拠>を総合すれば、原告らが主張するその他の愁訴の原因や病態につき、次のとおり認めることができ、この認定に反する証拠はない。

(一) 気管支炎

気管支や細気管支が、ウイルスの感染などにより炎症を起こすもので、急性細気管支炎や急性気管支炎と呼ばれ、通常かぜの症状に引き続いて現われる。

(二) かぜ

身体を突然寒気に暴露したり、ぬれたまま放置したときに起こる呼吸器系(上気道)の炎症性、その他の疾患の総称である。その成因については、ウイルス説を唱えるもの、アレルギー説を唱えるもの、体温の分布の不均衡により起こるとする説を唱えるものなどがあるが、決定的なものはなく、おそらくこれらすべてが含まれるものと解されている。

(三) 鼻出血

外傷、手術、異物、鼻カタル、腫瘍などの局所的原因と出血性素因、月経の代償などの全身的原因とがある。

(四) 喉頭炎

急性喉頭炎は、その原因として感染、物理的ないし化学的刺激、アレルギーがその原因として考えられるが、通常は感冒に合併したり、声の乱用、刺激物質の吸入の際に起こる。

慢性喉頭炎は、急性炎症の遷延化、慢性的な声の乱用、刺激物質の持続的吸入の際に生ずる。

(五) 結膜炎

結膜の炎症を総称して結膜炎と呼ぶが、その原因としては、細菌感染、ウイルス感染、クラミジア感染、真菌感染その他の感染のほか、アレルギーが考えられている。

(六) 角膜炎

角膜の炎症を総称して角膜炎と呼ぶが、その原因としては、局所感染(外部からの起炎病菌の侵入、体内他部の感染病巣からの転移、隣接組織の病巣波及)、全身病の部分症状、皮膚疾患に伴うもの、アレルギー、物理化学的刺激、栄養神経障害のほか、原因不明のものもある。

(七) 頭痛

かぜ、熱性病、腎臓病、便秘、高血圧、低血圧、脳動脈硬化、中毒(アルコール、薬物等)、眼の病気(紅彩炎、眼精疲労、近視等)、耳の病気(中耳炎、メニエル病等)、鼻の病気(副鼻腔炎、肥厚性鼻炎等)、口の病気(虫歯等)、頭蓋内部の病気などが一般的原因としてあげられるが、これら何らかの病気を原因とする症候性の頭痛のほか、原因が十分には解明されていない本態性の頭痛(アレルギー性のもの、ノイローゼや精神的緊張を原因とするものなど)がある。

(八) めまい・動悸・息切れ

心臓の障害のほか、腎臓病、肝臓病、肺気腫などを原因として、赤血球やヘモグロビンの不足した貧血状態はもとより、脳や心臓が血行不良の状態を起こして現われる。

(九) 自律神経失調症

それ自体は固定した病気ではない。他に明確な病気(器質的な臓器障害や顕著な精神異常)が見当らず、極めて神経性と思われる種々の症状(めまい、しびれ、下腹部の圧重感、冷え症、のぼせ、動悸、息切れなど)が様々に現われる場合の用語であり、自律神経(交感神経と副交感神経)の生理的な不調に起因するものである。その原因としては、過労、不眠、社会的環境などのほか、種々のものがある。

第六  検証の結果等

一第一回検証

<証拠>によれば、同五二年七月二〇日午後における本件沿道の一部の原告らの居宅の状況は、次のとおりであつたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

なお、<証拠>を総合すれば、右当日の西宮市のある地点における窒素酸化物濃度は、同月一七日から同月二三日までの間で最も低かつた(二酸化窒素の日平均値は0.014ppmであつた。)ことが認められる。

1原告(97)南条みちえ宅

(一) 位置関係

同宅は、尼崎市武庫川町一丁目一六番地に所在し(ただし、同原告は同五五年四月に転出した。)、その南側壁面から0.5メートルの距離も隔てず本件国道の歩道部分(幅員約六メートル)が東西に伸び、その南側には防音壁などはなく、ガードレールで区分された車道がある。本件県道大阪線の高架道は、同宅付近では未だ設置されていない。同宅の東方約二〇メートルには、南北に通じる道路があり、右国道との交差点には信号機が設置されている。

同宅の敷地は、右歩道部分より1.05メートル低い。

(二) 居宅の状況

同宅は本造瓦葺モルタル塗り壁平家建である。

南側二か所のガラス窓(木枠製)の開閉はガタつきがなかつた。

南外側壁面には、原告らの指示説明によれば本件国道から飛来した木片(長さ0.48メートル、約0.1メートル角)によつて生じたというモルタル塗り部分の損傷(直径約七センチメートルのほぼ円形に浅く陥没し、かつL字形の細い亀裂が生じている。)があり、そのほか同壁面には数か所のひび割れがある。

屋根瓦には、袖線の流れが不揃いの部分が一列及び2.5センチメートルの隙間が一か所あつた。

玄関口の戸と柱には最大2.5センチメートルの隙間があり、押入の戸のうち二枚は、いびつな鴨居や敷居に合わせるべく正確な長方形になつていない(約一センチメートルの誤差)ものがあつた。

浴室壁面のタイルには四か所のひび割れがあり、居室天井の一部に雨漏りの跡と思われるしみがあつた。

(三) 騒音・振動の状況

同日午後一時半をすぎたころ、南側の三畳室では、本件国道に面する窓の開閉にかかわらず、右国道から自動車の走行音が連続的に聞こえ、窓を開けるとすぐ近くに感じられ、窓を閉めても大差はない。

北側の六畳室では、その南側の二か所(合計四枚)の襖と、南側室の二か所の窓を閉めると、走行音は若干軽減する。

いずれの場合も、同室する人との通常の会話の聞き取りに支障はなかつた。

自動車走行に伴うものと思われる振動は感じられなかつた。

2原告(59)多田寛治宅

(一) 位置関係

同宅は、西宮市市庭町七番六号に所在し(ただし、同原告は同五七年二月に転出した。)、その南側が幅員約四ないし六メートルの道路に面し、さらにその三ないし五メートル南側の約二メートル高い位置を本件国道(車道部分)が東西に伸び、その北側部分には防音壁が設置されている。本件県道の高架は、右国道の中央部分を東西に伸びるが、同宅南側付近から同県道の側道(降り口)が同国道よりもやや北側に出ている。

(二) 居宅の状況

同宅は木造鋼板波板葺平家建である。

南側部分には、道路に面する間口全部にわたつて屋根組と柱のみから成る作業場が設けられている。

作業場内の自動車一台のトランクカバー表面には、ざらついた埃が薄く積もつている。

作業場北側中央の居間兼事務所の南側壁面には約五〇センチメートルの間隔をおいてアルミ枠ガラス窓が二重に設置され、同室と北側土間及び西側板間との間はアルミ枠ガラス引戸によつて仕切られ、天井板の隙間にはガムテープが貼り付けられ、同室などの壁の一部には綿壁材が塗布されている。

(三) 騒音・振動の状況

作業場では、本件道路からの自動車の走行音が直接間近かに聞こえる。居間兼事務所では、作業場に比較して右走行音はかなり軽減される。

いずれの室でも、同室する人との通常の会話の聞き取りに支障はなかつた。

自動車走行に伴うものと思われる振動は感じられなかつた。

3原告(61)遠山重雄宅

(一) 位置関係

同宅は、同所八番八号に所在し、その敷地の南側境界線に沿つて東西に幅員六メートルの道路が通じ、これに平行してその南側の約三メートル高い位置を本件国道(車道部分)が東西に伸び、その北側部分には防音壁が設置されている。本件県道の高架は、右国道の中央部分を東西に伸びる。

(二) 居宅の状況

同宅は木造瓦葺モルタル塗り壁二階建である。

居宅の南側には約六平方メートルの庭があり、庭木が植えられている。庭木のうち、一本のヤツデの一部は枯死し、他の一本のヤツデは葉の一部に黄変がみられたが、他の木には異常はみられなかつた。庭の南側には、道路面からの高さ二メートルの板塀が設置されている。

一階六畳室及び縁側の壁面上部の隅には若干の隙間があつた。

階段部分の漆喰壁面には、幅約一〇センチメートル、長さ約三メートルのひび割れがある。

二階南側の五畳半室の漆喰壁面にも右とほぼ同様のひび割れがある。同室南側木枠ガラス窓の敷居には、ざらついた埃が薄く積もつている。

(三) 騒音・振動の状況

同日午後五時ころ、二階五畳半室では、窓を開放すると、本件道路からの自動車の走行音が継続的にすぐ近くに聞こえ、時には本件国道と本件県道からの音を聞き分けることができる。

同室する人との通常の会話の聞き取りに支障はなく、自動車走行に伴うものと思われる振動は感じられなかつた。

4承継前原告(52)樋口善昭宅

(一) 位置関係

同宅は、芦屋市精道町八番一三号に所在し、その敷地の南側境界線に沿つて東西に幅員5.3メートルの道路が通じ、これに平行してその南側の約1.5メートル高い位置を本件国道(車道部分)が東西に伸び、その北側部分には防音壁が設置されている。右防音壁と本件国道の車道部分との間(幅員約四メートル)は土盛帯となり、自動車の走行はできない。本件県道の高架は、右国道の中央部分を東西に伸びる。

同宅の東側は精道小学校の校庭であるが、その南側の右国道沿いには、一段高い防音壁が設置されている。

(二) 居宅の状況

同宅は木造瓦葺二階建であり、ほぼ南側境界線いつぱいに建てられている。

一階には、南側にガレージと台所、北側に作業場等が設けられ、居宅はすべて二階にある。

二階の外面開口部は、すべてアルミ枠製であり、一部の窓には、木製の雨戸や内側に木枠ガラス窓が設置されている。

一階洗面所と浴室の壁面やタイルの一部にはひび割れや亀裂がみられる。

二階の居室と便所の壁面にも数か所の亀裂やひび割れがあり、襖と柱との間に2.5センチメートルの隙間が一か所生じている。

二階の屋根瓦数枚の並び方に若干の不揃いがみられる。

(三) 騒音・振動の状況

二階南側の六畳室では、南側の二重窓を開放すると、本件道路からの自動車の走行音が断続的にすぐ近くに聞こえ、右窓を閉鎖すると音はやや軽減する。

右いずれの場合も同室する人との会話の聞き取りに支障はなく、自動車走行に伴うものと思われる振動は感じられなかつた。

5原告(8)藤原聖士宅

(一) 位置関係

同宅は、神戸市東灘区魚崎南町四丁目一六番二四号に所在し、その敷地の北側境界線に沿つて東西に幅員約六メートルの道路が通じ、これに平行してその北側に本件国道(車道部分)が東西に伸びている。右部分の国道の南側には防音壁などは設置されていない。本件県道の高架は、右国道のほぼ中央部分を東西に伸びるが、同所付近から西へ下降する側道が設置されているため、その幅員が広がつている。同宅の東方約三〇メートルには、南北に通じる道路があり、右国道との交差点には信号機が設置されている。

なお、当日右国道の同所付近では南側二車線に工事用柵が並べられ、この部分は自動車の走行ができなかつた。

(二) 居宅の状況

同宅は木造瓦葺モルタル塗り壁二階建であり、北側境界線から一メートル余り南側に建てられている。

一階の東側半分は他人宅であり、西側半分の北側に玄関口、南側に台所等が設けられ、居室はすべて二階にある。

二階の外面開口部は、すべて木枠製であり、その全部に雨戸が設置されている。西側及び東側の窓枠の最下部にはざらついた埃が薄く付着し、西側窓の内側に置かれたテープレコーダーのカバー表面にも同様の埃が付着していた。右両窓の敷居にも若干の埃の付着がみられたが、窓枠の埃ほどではなかつた。

二階の八畳室の襖一枚は、柱との関係で2ないし4.5センチメートルの歪みがみられた。

(三) 騒音・振動の状況

同日午後八時四五分、二階北側室で雨戸と窓を開放すると、本件道路からの自動車の走行音が継続的にすぐ近くに聞こえ、窓のみを閉鎖しても音に大差はない。いずれの場合も同室する人との会話の聞き取りに支障はなく、室内のラジオの音と走行音との比較では、前者の方がより直接的に聞こえ、自動車走行に伴うものと思われる振動は感じられなかつた。

6原告(27)鍬形みね子宅

(一) 位置関係

同宅は、同町八丁目一番一号に所在し、本件国道を挾んで右原告藤原聖士宅のほぼ北側にあり、その居宅南側にはこれに接して平家建の隣家があり、その南側が本件国道の歩道部分(幅員約三メートル)であり、さらに幅員約四メートルの土盛帯の南側が右国道の車道部分である。右部分の国道の北側には防音壁などは設置されていない。本件県道の高架は、右国道のほぼ中央部分を東西に伸びているが、同所の西方から高架への側道(昇り口)が設置されているため、その幅員が広がつている。同宅の東側には、東北に通じる道路があり、右国道との交差点には信号機が設置されている。

(二) 居宅の状況

同宅は木造瓦葺モルタル塗り二階建の二階部分である。

南及び東側各二か所の窓は、いずれも木枠製であり、雨戸が設置されている。

東南三畳室及び北東四畳半室の各東側雨戸にはガムテープで目張りがしてある。右二室の襖には柱との間に0.8ないし1.9センチメートルの隙間が生じている。

(三) 騒音・振動の状況

同日午後九時二五分すぎころ、東南三畳室で開口部をすべて開放すると、本件道路からの自動車の走行音が継続的にすぐ近くに聞こえ、開口部を閉鎖しても大差はない。右交差点の信号により、本件国道の走行車両が停止した場合には、容易にそれと察知しうる。いずれの場合も同室する人との会話の聞き取りに支障はなく、自動車走行に伴うものと思われる振動は感じられなかつた。

二第二回検証等

<証拠>によれば、同五九年九月における本件沿道の一部の原告らの居宅の状況は、次のとおりであつたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

なお、調査嘱託及び鑑定の結果によれば、検証当日の検証場所に近接した本件道路端における騒音レベルの測定結果は、別紙Cのとおりであることが認められ、これに反する証拠はない。

1原告(30)絹脇房子宅

(一) 位置関係

同宅は、神戸市東灘区魚崎南町八丁目四番一号に所在し、その敷地の南側境界線に沿つて東西に幅員約六メートルの道路が通じ、右道路の南側には植樹帯に続いて約一メートルの高い位置に幅員約三メートルの緑地帯が設置され、その南側には防音壁を隔てて本件国道が東西に伸びている。本件県道の高架は右国道の中央部分にあるが、同所付近ではその側道(昇り口)が右国道の防音壁よりも数メートル北側に出張つて設置されている。

(二) 居宅の状況

同宅は木造瓦葺モルタル塗り壁二階建である。

居宅の南側には、五、六十坪程度の庭があり、その東側には、玄関への通路と車置場がある。敷地の周囲はブロック塀で囲まれ、庭の南側には多数の植木がある。

一階南西側の八畳室は、その南側には雪見障子(下半分にガラスが入つている。)及び障子入りの欄間を隔てて広縁があり、アルミ枠ガラス戸により外部と隔てられ、北側には雪見障子を隔てて廊下があり、アルミ枠ガラス戸により外部と隔てられ、東側には襖を隔てて六畳室があり、西側には開口部がなく壁面である。

(三) 騒音の状況

(1) 同月一〇日午後一〇時すぎ

ア 右八畳室中央において、同室の南北両側の雪見障子及びガラス戸並びに東側の襖をすべて開放し、原被告らがそれぞれ普通騒音計を用いて約五分間騒音レベルを測定したところ、原告らの結果は、上端値が六七ホン、下端値が四三ホンとなり、被告らの結果は中央値が四八ホンとなつた。

なお、右測定開始直後から間隔を置いて風鈴の音が三回聞こえ、開始約四分後にはオートバイのエンジンをふかす音が二回、叫び声が三回聞こえた。

イ 右開口部をすべて閉鎖して同様に測定したところ、原告らの結果は、上端値が四七ホン、下端値が三四ホンとなり、被告らの結果は中央値が三八ホンとなつた。

(2) 同月一一日午前五時すぎ

ア 右開口部をすべて開放して同様に測定したところ、原告らの結果は、上端値が六六ホン、下端値が四五ホンとなり、被告らの結果は中央値が五一ホンとなつた。

イ 右開口部のうち東側の襖を除いてすべて閉鎖して同様に測定したところ、原告らの結果は、上端値が四七ホン、下端値が三二ホンとなり、被告らの結果は中央値が三九ホンとなつた。

2原告(65)雑古ノブ宅

(一) 位置関係

同宅は、西宮市本町八番一〇号に所在し、その敷地の南側境界線に沿つて本件国道の歩道部分(幅員約三メートル)があり、その南側に輻員約五メートルの植樹帯を隔てて右国道の車道部分が東西に伸びている。本件県道の高架は右国道の中央部分を東西に伸びている。同宅の約一〇メートル西側には、南北に通じる道があり、右国道との交差点には信号機が設置されている。

(二) 居宅の状況

同宅は木造モルタル塗り壁瓦葺二階建であり、右歩道の北側約0.5メートルの位置に、右歩道より約一メートル高い地面の上に建つており、居宅の南西側にはブロック塀があるが、南東八畳室の南側には塀がない。

同室は、その南側には中央部に腰高の二重窓(外側はアルミ枠製、内側は木枠製)があり、北側東半分には襖二枚を隔てて浴室の脱衣場があり、西半分には木枠製の腰付ガラス戸二枚を隔てて台所があり、西側南半分には木枠製の腰付ガラス戸を隔てて土間があり、さらにアルミ枠製の腰付ガラス戸を隔てて屋外に通じ、東側には開口部がなくすべて壁面である。

(三) 騒音の状況

(1) 同月一〇日午後一一時三〇分すぎ

ア 右八畳室中央において、北側の襖及びガラス戸、西側のアルミ及び木枠のガラス戸、南側の二重窓をすべて閉鎖し、原被告らがそれぞれ積分又は普通騒音計を用いて約五分間騒音レベルを測定したところ、原告らの結果は、上端値が五〇ホン、下端値が三〇ホンとなり、被告らの結果は中央値が三七ホンとなつた。

イ 右開口部のうち、北側の襖及びガラス戸を閉鎖し、その余の開口部をすべて開放して同様に測定したところ、原告らの結果は、上端値が七〇ホン、下端値が四二ホンとなり、被告らの結果は中央値が五一ホンとなつた。

右測定開始約二分及び四分後に、各一回小さな人声が聞こえた。

(2) 同月一一日午前六時すぎ

ア 右アの状態で同様に測定したところ、原告らの結果は、上端値が五七ホン、下端値が三六ホンとなり、被告らの結果は中央値が四五ホンとなつた。

右測定開始約三分後、北側台所の方で鈍い金属音がした。

イ 右イの状態で同様に測定したところ、原告らの結果は、上端値が七三ホン、下端値が四九ホンとなり、被告らの結果は中央値が六〇ホンとなつた。

3原(123)八木勇高宅

(一) 位置関係

同宅は、尼崎市道意町二丁目二二番地に所在し、その敷地の南側境界線から約0.5メートルの北側の位置に建てられ、右境界線に沿つて東西に幅員約六メートルの道路が通じ、右道路の南側には約二メートル高い位置に防音壁を隔てて幅員約三メートルの植樹帯が設置され、その南側には本件国道が東西に伸びている。本件県道の高架は右国道の中央部分を東西に伸びている。

(二) 居宅の状況

同宅は木造モルタル塗り壁瓦葺二階建である。

二階南側の四畳半室は、その南側壁面にアルミ枠製腰高窓が設置され、東側には全面に襖を隔てて押入があるが、右押入の東側壁面にはアルミ枠製の小窓が設置され、北側には壁面及び木枠製ガラス障子二枚を隔てて北側の三畳室があり、西側には開口部がなくすべて壁面である。右北側の三畳室は、東側は壁面で木製のドアを隔てて階段が設置され、西側には全面にアルミ枠製の腰高窓があり、外側にはアルミ製の雨戸が設置され、北側は壁面で、アルミ製ドア(非常口)が設置されている。

(三) 騒音の状況

(1) 同月一二日午後一一時すぎ

ア 右四畳半室中央において、その開口部のうち、東側押入の襖及び同押入内の小窓以外をすべて開放し、二階北側三畳室の開口部のうち、北側非常口以外をすべて開放し、一階の開口部のうち、室内のガラス障子以外をすべて開放し、原被告らがそれぞれ普通騒音計を用いて約五分間騒音レベルを測定したところ、原告らの結果は、上端値が六五ホン、下端値が五〇ホンとなり、被告らの結果は中央値が五六ホンとなつた。

イ 右の開口部(雨戸を含む。)をすべて閉鎖して同様に測定したところ、原告らの結果は、上端値が五一ホン、下端値が三七ホンとなり、被告らの結果は中央値が三九ホンとなつた。

(2) 同月一三日午前五時すぎ

ア 右アの状態で同様に測定したところ、原告らの結果は、上端値が七〇ホン、下端値が四九ホンとなり、被告らの結果は中央値が五九ホンとなつた。

イ 右イの状態で同様に測定したところ、原告らの結果は、上端値が五三ホン、下端値が三六ホンとなり、被告らの結果は中央値が四三ホンとなつた。

4承継前原告(16)中井照一宅

(一) 位置関係

同宅は、神戸市東灘区魚崎南町四丁目一一番七号に所在し、その敷地の北側境界線にほぼ沿つて建てられ、右境界線の北側には幅員約四メートルの道路が東西に通じ、その北側には右道路に沿つて東西一列に人家が建ち並び、その北側に幅員約六メートルの道路及び幅員約三メートル植樹帯があり、その北側が本件国道(車道部分)である。本件県道の高架は右国道の中央部分を東西に伸びるが、同所付近から西に向けてその側道(降り口)が右植樹帯の上部に設置されている。同宅の北側境界線から、本件国道の車道部分までの最短距離は二五メートル、本件県道までの最短距離(水平距離)は二一メートルである。

(二) 居宅の状況

同宅は木造瓦葺平家建である。

一階北側の東半分には玄関があり、アルミ枠製ガラス戸四枚によつて外部と隔てられ、西半分には三畳室があり、北側にアルミ枠の腰高窓が設置され、右三畳室南側には襖二枚を隔てて六畳室があり、その南側は障子四枚を隔てて廊下となり、さらにアルミ枠製のガラス戸により南側の庭と隔てられ、西側には開口部がなくすべで壁面であり、東側は襖三枚を隔てて六畳室となる。

(三) 騒音の状況

(1) 同月一二日午後一一時すぎ

ア 右西側六畳室中央において、その開口部をすべて閉鎖したほか、北側の玄関のガラス戸及び三畳室の窓、南側の廊下のガラス戸、東側六畳室の北側のガラス戸、南側の障子及び東側の襖、東南の便所の窓をすべて閉鎖し、原被告らがそれぞれ普通騒音計を用いて約五分間騒音レベルを測定したところ、原告らの結果は、上端値が四五ホン、下端値が三一ホンとなり、被告らの結果は中央値が三三ホンとなつた。

イ 右の開口部をすべて開放して同様に測定したところ、原告らの結果は、上端値が五〇ホン、下端値が三七ホンとなり、被告らの結果は中央値が四一ホンとなつた。

なお、右ア、イいずれにおいても虫の鳴き声がかすかに聞こえた。

(2) 同月一三日午前五時すぎ

ア 右アの状態で同様に測定したところ、原告らの結果は、上端値が四二ホン、下端値が三三ホンとなり、被告らの結果は中央値が三五ホンとなつた。

イ 右イの状態で同様に測定したところ、原告らの結果は上端値が五三ホン、下端値が三九ホンとなり、被告らの結果は中央値が四四ホンとなつた。

なお、右測定の際玄関の外でガタンという音が一回聞こえた。

5原告(32)瓦庄市宅

(一) 位置関係

同宅は、神戸市東灘区御影本町五丁目八番一三号に所在し、その敷地の北側境界線にほぼ沿つて建てられ、その北側に幅員約四メートルの歩道及び幅員約五メートルの緑地帯を隔てて本件国道(車道部分)が東西に伸びている。本件県道の高架は右国道の中央部分を東西に伸びている。また同宅の東側には四車線の道路が南北に通じ、右国道との交差点には信号機が設置されている。

(二) 居宅の状況

同宅は木造瓦葺二階建である。

一階の東側は店舗として利用され、南側に四畳半室が東西に並んでいる。

右西側の四畳半室は、その西側には木枠製のガラス戸二枚を隔てて庭があり、南側には木枠製のガラス戸二枚が設置され、北側には押入及び仏壇があり、東側には障子(一部ガラス)四枚が設置されている。

(三) 騒音の状況

(1) 同月一七日午後一一時すぎ

ア 右西側四畳半室中央において、その開口部をすべて開放したほか、北側の勝手口のアルミ製ドア東側四畳半北側の木製ドアを開放し、店舗の開口部及び東側四畳半室の南側開口部を閉鎖し、原被告らがそれぞれ普通騒音計を用いて約五分間騒音レベルを測定したところ、原告らの結果は、上端値が六〇ホン、下端値が四三ホンとなり、被告らの結果は中央値が四六ホンとなつた。

なお、右測定の際隣室のカレンダーが風に揺れる音がした。

イ 右の開口部をすべて閉鎖して同様に測定したところ、原告らの結果は、上端値が四八ホン、下端値が三三ホンとなり、被告らの結果は中央値が三五ホンとなつた。

なお、右測定の際、かすかな犬の鳴声及び隣室の置時計の音が聞こえた。

(2) 同月一八日午前五時すぎ

ア 右アの状態で同様に測定したところ、原告らの結果は、上端値が六〇ホン、下端値が四三ホンとなり、被告らの結果は中央値が四八ホンとなつた。

なお、右測定の際自転車のブレーキ音が三回聞こえた。

イ 右イの状態で同様に測定したところ、原告らの結果は、上端値が五七ホン、下端値が三三ホンとなり、被告らの結果は中央値が三八ホンとなつた。

6原告(80)越智明彦宅

(一) 位置関係

同宅は、西宮市今津水波町一〇番二八号に所在し、本件国道の北側の側道(幅員約六メートル)に沿つて建ち並ぶ家屋の列のうち、北側へ三列目にある。同宅はほぼ敷地境界線いつぱいに建てられ、その南側境界線からほぼ南へ約二二メートルで右側道の北側の歩道(幅員約三メートル)に至り、植樹帯(幅員約一メートル)の南側が右側道となる。右側道の南側に沿つて本件国道及び本件県道から名神高速道路への入路がそれぞれ高架で設けられ、その南側に右国道があり、その中央部分を本件県道が東西に伸びている。同宅から右入路までの最短距離(水平距離)は三二メートル、右国道までのそれは四三メートルである。同宅の北西側は、右側道に至る道路(幅員約五メートル)に面している。

(二) 居宅の状況

同宅は鉄筋鉄骨コンクリート造三階建である。

二階北東隅の4.5畳室は、その北東側(本件道路の反対側)がコンクリート壁面であり、南西側(本件道路に近い側)には板の間との間に木製ガラス戸一枚が設置され、北西側には台所との間に木製ガラス戸二枚が設置され、南東側にはアルミ枠製の腰高窓及び障子各二枚が設置されている。

(三) 騒音の状況

(1) 同月一七日午後一一時すぎ

ア 右四畳半室中央において、その開口部をすべて(障子を含む。)開放したほか、右板の間の南東側アルミ枠製ガラス戸(欄間付)、右台所北東側のアルミ枠製ガラス戸及び北西側の木製引戸、右板の間の北西に続く八畳室南西側のアルミ枠製ガラス戸、一階玄関の鋼製ドアをすべて(欄間を含む。)開放し、原被告らがそれぞれ普通騒音計を思いて約五分間騒音レベルを測定したところ、原告らの結果は、上端値が五〇ホン、下端値が四〇ホンとなり、被告らの結果は中央値が四四ホンとなつた。

イ 右の開口部をすべて閉鎖して同様に測定したところ、原告らの結果は、上端値が四一ホン、下端値が三二ホンとなり、被告らの結果は中央値が三三ホンとなつた。

なお、右測定の際被告らの騒音計附属の記録計が終始キーキーという音を発していた。

(2) 同月一八日午前五時すぎ

ア 右アの状態で同様に測定したところ、原告らの結果は、上端値が五二ホン、下端値が四一ホンとなり、被告らの結果は中央値が四六ホンとなつた。

イ 右イの状態で同様に測定したところ、原告らの結果は、上端値が四一ホン、下端値が三二ホンとなり、被告らの結果は中央値が三二ホンとなつた。

7まとめ

各原告宅における騒音レベルの測定結果を中央値(被告らの測定結果)によつてまとめると別紙Cのとおりであり、深夜の室内騒音レベルは、開口部開放で四一ないし五六ホン、閉鎖で三三ないし三九ホン、早朝の室内騒音レベルは、開放で四四ないし六〇ホン、閉鎖で三二ないし四五ホンであり、本件道路端の騒音レベルと比較すると、深夜は、開放で一二ないし二三ホン、閉鎖で二六ないし三三ホン、早朝は、開放で一〇ないし二三ホン、閉鎖で二四ないし三七ホンの差(減衰)があることが明らかである。

第七  因果関係

一証拠の評価について

1アンケート調査

<証拠>を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する甲A第一九四号証の記載の一部は採用せず、他にこれに反する証拠はない。

(一) 信頼性の確保

アンケート調査は、社会事象につき人間の社会的生活関連における意義に即して調査を行う社会調査の一手法として、社会科学の分野においてその方法論的研究が行われてきたものであり、疫学調査にも用いられるものであるが、調査結果の信頼性を確保するには、次の諸点に留意することが必要である。

(二) 標本の抽出

調査の対象となる母集団から標本(被調査者)を抽出するには幾つかの方法があるが、全数・悉皆調査を除けば、主観的な作為を排して客観的に標本を抽出する無作為抽出法が今日では最適であるとされている。

そして、この方法によつて抽出された標本については、必ず調査を行うべきであり、調査不能率が高くなれば、調査結果に歪みが生じる。調査回収率のみについてみると、それが七〇パーセント以上であれば、その調査結果の信頼性は高い。

(三) 調査の実施方法

面接調査(自記式留め置き調査)、郵送調査、集合調査などの方法がある。面接調査法は、質問を正確に理解させ、応答も正確にとらえることができる反面、調査員によつて応答が異なつたり、調査員の不正行為も生じうる。配票調査法は、被調査者本人が記入したか否か分らず、本人が周囲の他人の意見に左右されることもあり、調査項目が誤解されやすく、記入の誤りや洩れが生じやすい。調査結果の信頼性については、配票調査や郵送調査が面接調査に比較して低い。集合調査法では、被調査者の発言が大きな偏りを生じさせる可能性がある。

(四) 調査者誤差と被調査者誤差

調査者誤差としては、個々の調査者が誤りをおかして生じる誤差と、調査者間における技術水準の相違などによる誤差とがある。また調査者がその調査内容について特定の意見を持つている場合には、誘導的な質問が行われる場合もある。

被調査者誤差としては、質問の意味を取り違えて誤つた回答をする場合や、何らかの利害関係によつて故意に誤つた回答をする場合などに生じる。調査目的などを事前に明らかにしたり、事前に調査を行う旨を告知しておいたりすると、調査結果が不正確になる。

(五) 調査票の内容

調査票に誘導的な内容の調査目的を記載したり、調査の核心となる質問事項を冒頭から配列することは、正確な回答が得られないおそれがあり、調査の偏りを生じる。

また、一般に質問に対して肯定する傾向があること、文章中に複数の論点が含まれていては正確な回答が得られないこと、質問文の微妙な言い回しの差が回答を左右することなどに注意して質問文を工夫する必要がある。

さらに回答の求め方については、自由回答質問法、回答選択的質問法、序列質問法などがある。選択的質問法では、選択肢にあらゆる可能な回答のケースを網羅しておくべきであり、その選択肢は相互に排他的で、かつその差異を明確にしておくべきであるが、それでも、誘導的な質問になりやすく、回答者が軽率に選択してしまうことがある。選択的質問法のうち、品等的質問法では、①選択肢の差異を客観的に明瞭にすることが重要であり、「非常に、極めて、著しく」や「かなり、やや、少し、相当」などの語句の差が理解しにくいため、「しばしば」「よく」などの主観的表現をさけて、「月に一回位」などの客観的表現を用いるべきこと、②選択肢は中間項を中心に奇数個設けるのがよいが、回答者は中間項に逃避する傾向や極端な選択肢をさける傾向のあることなどに留意すべきであり、質的多項選択質問法では、①選択肢をなるべく論理的、網羅的、排他的に、しかも被調査者にとつて適切であるように作成することが特に重要であること、②「その他」という選択肢を設けても、回答者は明示された選択肢の中から選択する傾向を持つこと、③選択肢はバランスのとれたものでないと誘導的になること、④印刷された選択肢を回答者に見せて一つを選択させる場合には、最初や最後の選択肢が選ばれる傾向があることなどに留意すべきである。

(六) 調査結果の分析

統計的調査については、統計学の理論に従つた結果の分析が不可欠である。また、分析を仮説に引きつけて行つたり不当に強調、軽視してはならず、相関関係があることは直ちに因果関係にまで結びつくものではないから、単純に数値が関連することのみをもつて因果関係を推論してはならない。

(七) その他

騒音問題などについての社会調査(アンケート調査)は、問題となる騒音などの物理量と社会反応との関係を抽出する点に特徴があり、社会調査の内容と騒音の物理的要因の関係を正確に対応づけるためには、対象地域の同一の場所と時期に物理計測と社会調査を実施するのが望ましいが、物理計測を社会調査に短時日のうちに先行して実施することは、調査結果に偏りをもたらす原因となる。

また、大気汚染の激しい地域で「呼吸器にこれこれの症状がありますか。」などの質問を設ければ、その症状の率は実際以上に高くなるのが普通であり、これでは症状の調査というより、大気汚染への関心、意識の強さを示す調査となるが、逆に調査の客観性を高めることのみを強調すると、人間にとつて欠かせない意識的・心理的な面を見逃すおそれもある。

騒音などに対する反応を尺度化するに当つては、その反応が人間の心理反応過程のどの部分によつて生じるものかを明確にしておく必要がある。物理的刺激としての物理量のレベルでは客観的に計測可能であり、完全な測度を有するが、これを人間が感覚・知覚としてとらえる感覚量のレベルでは客観性が減少して、多少の測度しかなく、さらに認識・情緒としてとらえる主観量のレベルではほとんど測度がない。したがつて、誤差の生じうる外的原因を十分除去しても、人間の反応のばらつきは、騒音レベルにして標準偏差五デシベルを下ることはない。

2疫学調査

<証拠>を総合すれば、次の事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

(一) 定義等

疫学とは、人間集団における健康障害の頻度と分布を規定する諸要因を研究する医学の一分科であると定義されている。

その観察対象は、個々の人間ではなく、人間集団であり、集団としての共通の特徴を観察しようとするものである。

また、疫学は伝染性疾患を研究対象として発展してきたが、今日では非伝染性疾患、傷害、軽度の健康異常など、健常者を含むすべての人間の健康障害や健康増進の全般(健康事象)を対象とする。

さらに疫学の目標は、健康障害の頻度(発生状況)や分布(まん延状況)を規定する諸要因(最終的には因果関係)の解明である。諸要因には直接的なものと関接的なものがあり、多くの要因が複雑にからみ合つて疾病が発現する。直接的要因は病因と呼ばれ、ウイルスや細菌などの生物的なもの、放射線などの物理的なもの、栄養素などの化学的なもの及び精神的なものに分類される。間接的要因は、宿主と環境に分けられる。宿主側の要因としては、性、年令などの主体的特性、栄養状態などの身体的性状、精神的性状、遺伝などの先天的抵抗力、既往疾患などの後天的抵抗力があげられ、環境側の要因としては、気候、地形などの物理的なもの、感染源動物などの生物的なもの、産業、文化、人口密度、労働条件などの社会的なものがあげられる。

(二) 方法論

(1) 対象集団と疾病異常者の把握

疫学調査は、集団中に発生する疾病異常を測定して、これを定量的に把握することから始まる。すなわち、分母となる集団は、疾病異常の発生状況を測定する対象全員であり、それは地域、職域、特定の学校などが単位となるが、いずれの場合でも、対象集団は目的とする疾病異常に全員が罹患する可能性を持つていることを必要とし、その範囲が明確にされなければならない。また、分子となる集団は健康障害の保有者であるが、その概念、定義、診断基準が明確にされていることが必要である。

(2) 種々の疫学的方法

ア 記述疫学的方法

これは、健康障害の発生、分布の状況を時間的、空間的、人の属性別に観察し、対象集団について環境、宿主などに関する資料を統計的に集計し、どの要因が健康障害に関与しているかを検討して、健康障害の発生要因に関する仮説を設定するものである。そしてこれに基づいて仮説の検証(後記分析及び実験疫学)に関する研究計画が立てられる。

イ 分析疫学的方法

これは、記述疫学的方法によつて設定された健康障害の発生要因に関する仮説を分析的な観察によつて検討し、仮説要因と健康障害との間の関連性の有無を確かめ、さらにその関連の仕方から両者の間の因果関係を推定するのが目的であるが、因果関係の決定まではできない。これには、対照のとり方によつて患者対照研究と要因対照研究の二つの方法があり、また調査時点の観点から、それぞれ横断研究と縦断研究に分類される。

(ア) 患者対照研究

これは、集団中で問題の疾病を持つ患者群が、その疾病を持たない群(対照群)に比べて仮説要因をより高率に保有しているかどうかを調べる方法である。

この研究において一番重要な問題は、対照群の選び方であり、検証したい仮説要因以外の条件で疾病の発生に関係があると考えられるものは患者群と一致させるようにしなければならない。これを誤ると間違つた結論を出すことになる。また、情報聴取の問題として、面接場所、面接者の対応、質問の表現方法、同席者の有無などが被調査者の回答に微妙に影響してくることがある。そのため情報の聴取に対しても、患者群と対照群のそれぞれに全く同一の調査方法を用いるようにする。特に聴き取り調査の場合の理想としては、被調査者側も調査者側も、どちらが患者群でどちらが対照群かを知らない二重盲検的な方式が望まれるが、現実には特殊な場合を除いて不可能である。

(イ) 要因対照研究

これは、仮説要因を保有する群と保有しない群、あるいはそれが多い集団と少ない集団について、問題の疾病の発症率や有病率を比較する方法である。

この研究では、患者対照研究の結果関連性の認められた要因が取り上げられることが多いが、健康障害を引き起こすおそれのある要因(大気汚染、化学物質、薬剤等)を直接取り上げてこの方法による研究を行うこともある。いずれにしてもこれらの要因が複雑になると、研究対象とする集団を選ぶのが容易ではなく、疾病との関連を評価する場合も、どの要因の影響が大きいかを判断するのに困ることが多いので、取り上げるべき要因はなるべく単純なものであることが望ましい。

また、取り上げた要因が、集団中の各個人に実際上どの程度作用しているかが問題となるが、終局的には個人別作用量の測定が必要であり、大気汚染や騒音については、すでにその試みがされている。さらに作用要因の質的、量的及び時間的把握も、その要因と健康障害との間の関連性を確かめ、因果関係を推定する上で重要である。

この研究においても、患者対照研究と同様、対照群の選び方が最も重要な問題であり、特定要因以外については、宿主や環境の要因とも全く同じ集団を対照に選ぶことが理想的であるが、現実には不可能なので、なるべくそれに近い条件の集団を選定することが必要である。

例えば、特定要因として大気汚染を取り上げ、その多少によつて汚染集団と対照非汚染集団を選び、呼吸器疾患の有病率を調査するとする場合には、かく乱要因(大気汚染以外で呼吸器疾患の有病率に影響を与えうるすべての要因であり、性、年齢、職業、喫煙、住居、栄養、教育程度、所得などがあげられる。)を等しくする各集団を選ぶことが理想であるが、大気汚染以外の右の各要因が等しいような地域は、汚染地域の近くにならざるをえず、非汚染地域とはいえなくなるという不都合が生じる。そこで、現実にはおよその見当で対照集団を選ぶのもやむをえないが、その調査実施後には、両集団について右の各要因を比較検討し、これに偏りがあれば、その要因を両集団間でそろえるようにサンプリングを行うか、結果の判定の場合に偏りの程度を考慮して、その分を割り引いた評価をすることが重要である。

(ウ) 横断研究と縦断研究

横断研究とは、ある時点で要因の保有状況を断面的に調査する研究のことをいい、通常行われる一つの時点でとらえた調査を、断面調査という。

縦断研究とは、ある期間を通しての要因の保有状況を調査する研究のことをいい、調査時点より過去にさかのぼって調査する後ろ向き調査と将来に向けて調査をする前向き調査がある。縦断研究のうち、ある固定した集団を選び、この集団を追跡して疾病の発生を観察する研究をコホート研究といい、後ろ向きコホート調査と前向きコホート調査がある。

横断研究は原因とその結果の測定が一時点に行われるものであり、仮説要因と健康障害の発生の前後関係を明らかにしうるものではないから、この研究が因果関係を推定する資料となりうるのは、原因が被検者の恒常的(あるいはほぼ恒常的)特徴である場合に限られ、発病時に測定される原因と思われる被検者の特徴が発病前のそれを高い確率で反映するものでなければならない。

縦断研究のうち後ろ向き研究は、前向き研究の簡便法ともいうべきものであるが、重篤な症状を示した患者が死亡したり、治療のため他の地域に転出したりして把握できないことがあるほか、調査において、環境汚染の有無別などに過去の症状を問診したりすれば、被検者の関心度や意識の差だけで汚染地区に有症状者が多くなる場合があり、不正確となる。さらに、右研究で慢性疾患の出現率を比較して関連性が認められたとしても、その疾患の発病時期はかなり以前になるので、その要因が発病に関係したのか、発病後の病状経過に影響を与えたのかはにわかに断定できない。

前向きコホート研究は、固定した集団を仮説要因の有無別や多少別に分けて、目標疾患の新発生状況を前向きに観察するものであり、仮説要因の有無、要因の程度別にみた死亡や罹患の状況を直接観察して仮説の検定ができるので、分析疫学的方法の段階で因果関係を推定するための最も有力な方法である。

患者対照研究は、横断研究と後ろ向き研究に分けられるが、現実には時間的に両者を分けられないことも少なくない。

要因対照研究は、横断研究、後ろ向き研究、前向き研究(追跡研究)に分けられる。

ウ 実験疫学的方法

これは、分析疫学的方法により統計的な関連性が認められて原因として推定されるに至つた要因について、これを実際に人間集団に与え、それを与えれば問題の健康障害が発生し、それを与えなければその障害が全く発生しないか、あるいは与えた場合に比べて有意に低い割合でしか発生しないことを実験的に確かめる方法であり、これにより統計的な関連性の認められた要因がその健康障害との間に因果関係を有するものであることが確定できるのであるが、人間集団においては、倫理上の問題があるほか、個体差や生活環境の相違を等質化することは実際上極めて困難であり、人間集団を対象とする実験疫学はかなり制限される。したがつて完全な実験は動物によるほかないが、その結果は人間の場合に対して傍証的、類推的役割を果たすものである。

(三) 因果関係と統計的関連性

(1) 因果関係

疫学の実際上の目的が病気の予防方法を提供するような仮説要因を見出すことにある点を考慮すれば、疫学における因果関係とは、二つの範ちゆうに属する種々の事象又は性質があり、片方の範ちゆうのものの頻度又は性質の変化に続き、他方の範ちゆうのものの頻度又は性質が変化する関係であると定義することができる。

一般に二つの範ちゆう間の相互の関係は、統計的に関連のないもの(独立的)と統計的に関連しているものとに分けることができる。統計的に関連性が示された場合にも、因果関係とは無関係に、偶然にあるいは因果関係のある他の要因に影響されて見かけ上関連性を示した場合、因果関係はあるが、その要因は原因ではなく結果である場合、因果関係があり、その要因が原因である場合が含まれている。

(2) 統計的関連性

分析疫学的研究においては、仮説の検証を行うため、統計学的仮説検定(有意性検定)が必要である。

有意性検定は、設定された仮説(対立仮説)を否定する仮説を帰無仮説とし、これが真であると仮説した場合に得られる種々の統計量の値を求め、これを統計学的な確率分布に照らして検討し、その確率が有意水準(通常は五パーセント又は一パーセントが用いられる。)以下の場合には帰無仮説を棄却し、対立仮説に統計的有意性を認め、その統計的関連性を肯定するものである。

したがつて、有意性検定は、事実上単純無作為抽出法により標本が抽出されたことを前提として統計学的な確率分布の検討を行うものであり、他の標本抽出法が用いられた場合や、単純無作為法でも無回答率の高い場合には誤差が生じる。

(四) 因果関係の推定

前記のとおり、因果関係の確定には実験疫学的方法を行うことが必要であるが、現実には種々の制約があるため、分析疫学的方法までの段階で因果関係を推定することが要求され、その推論のための判断条件が提案されている。

アメリカ公衆衛生局長諮問委員会は、喫煙と健康についての検討を行つた際に次の五つの判断条件を用いたが、これは今日まで種々提案されている判断条件をほぼ含んでおり、これらの五条件がすべてそろえば、疫学上因果関係があるものと判断してほぼ誤りがないが、これらの条件が満たされなくても、因果関係を否定することにはならない。

(1) 関連の一致性(普遍性)

特定の集団において認められたある要因とある結果(健康事象)との間の関連性が、時間、場所、対象者を異にする他の集団でも認められることである。すなわち、誰が実施しても、何時でも、どの集団においても同じ結果が得られ、その現象に普遍性があるということである。

(2) 関連の強固性(密接性)

結果と要因との間にみられる関連性が強いことをいう。相対危険度(ある要因の暴露を受けた群が受けなかつた群に比べて何倍疾病発生又は死亡の危険率が高いかを示すもので、罹患率又は死亡率の比である。)等は関連の強さを示す直接的な指標となる。関連の強さは統計的有意差とは異なり、関連が弱くても例数が多くなれば、有意差を示すことがある。関連の強さは、量―反応関係(ある要因に暴露される量の増大に伴つて健康障害の発現率が高くなるという関係)が認められるならば、一層強固になるが、人体の場合には、アレルギー反応など反応が要因の量に平行しないことがあり、また長期慢性影響の場合など量と反応を正確に把握できるとは限らないので、量―反応関係が認められなくとも、因果関係を否定することにはならない。

(3) 関連の特異性

ある要因とある結果とが特異的な関係にあることをいう。ある疾病を観察すると特定の要因が必ず存在しており、逆にその要因があれば、予測される率でその疾病が発生するような場合には、特異性が極めて高いということになる。現実には両者が完全に相関する場合はまずありえず、病原体と感染症の関係では特異性のはつきりしている場合が多いが、化学物質などでは、この点が明らかでない場合が少なくない。

(4) 関連の時間性(時間先行性)

要因の作用が時間的にみて結果の発現する以前にあることをいう。その判定は、要因と結果がいずれも短時間内に出現する場合には比較的容易であるが、発病時点が不明確な慢性疾患の場合には、その発病以前に要因の作用があつたか否かが問題となる。

(5) 関連の整合性

要因と結果との間に因果関係があるとした場合に、その要因がその疾病に関する既存の知識と合致し、またその疾病に関してみられる種々の現象が、それによつて矛盾なく説明できることをいう。

(五) 大気汚染疫学の特徴

(1) 反応量の把握

ア 反応量の種類

一般に疫学調査において、反応量(特定の健康事象を有する者の数)が把握されると、その母集団(人口)に対する比率が算出される。その比率は、調査時点の観点から、発生率(一定期間内における健康事象の新たな発生の割合)と現在率(一定時点における健康事象保有者の割合)とに分類され、健康事象の内容の観点から、前者には死亡率(一定期間内における死亡者数の割合)と罹患率(一定期間内に新たに発生した患者数の割合)があり、後者には有病率(ある一時点における疾病異常者数の割合)と有症率(ある一時点において特定の症状を示す人数の割合)がある。

イ 反応量の調査方法

反応量の把握には、質問票による調査や臨床検査が行われる。

質問票は、その内容が信頼性と有効性(妥当性)を備えたものでなければ、不適切である。信頼性とは、同一の質問項目についての回答が時を隔てても一致する率(再現度)を示し、有効性とは、その質問票がそれを用いて測定しようと企画された対象を、企画どおりに測定しうるものであるかを示すものであり、質問票の調査結果とこれとは別の判断基準による調査結果(臨床検査の結果)とを比較して評価することができる。

現在においては、慢性気管支炎を対象とする持続性せき・たんの有症率を把握する方法としてBMRC方式が開発され、その方式については我が国はもちろん国際的にも一致して高く評価されているものであるが、その他の気管支ぜん息やぜん息性気管支炎等の疾患や症状については、右のような方式は未だ開発されるには至つていない。

質問票による調査の実施方法は、面接調査と自記式調査に分かれるが、その特徴は前記1(アンケート調査)(三)と同様である。面接調査においては、面接者によりバイアス(誤差)が発生するが、これを防止するには、事前の訓練が必要である。自記式調査においては、無回答の増加、質問の趣旨の誤解、調査対象者以外の者による記入などにより、調査が不正確になるおそれがある。

我が国では、同五四年三月富永祐民らが、アメリカで開発されたATS―DLDによる質問票をもとに、面接及び自記式に併用が可能な呼吸器疾患質問票を提案した。その内容は、成人用と小児用に分けられ、回答者により質問項目に解釈の相違が生じないよう工夫がされている。この質問票について、安達元明ら及び吉田克己らは、面接方式と自記式をそれぞれ適用した調査を行つて比較検討し、ほとんどの質問項目で両方式に差異がない旨を報告した。

ウ BMRC方式

BMRCは、一九五九年(昭和三四年)主として成人の慢性気管支炎についての疫学調査の方式を定めて公表し、その方式は、その後三度の改定を経て、一九七四年WHOの慢性呼吸器疾患専門家会議において疫学研究用として承認され、これが一九七六年版として公表された。

右方式は、慢性気管支炎の有症率の把握を目的とするものであり、質問票による調査及び肺機能検査から成る。もつとも、当初は喀痰検査も含まれていたが、その検査による痰の測定量と痰に関する質問項目についての回答との間に強い関連性が見出され、その質問項目の有効性が確認されたため、喀痰検査は同年版から削除された。

質問票による調査は、面接法により行うものとされ、面接者には、事前の訓練と手引書に従つた質問や記録の仕方が要求される。自記式調査は、この質問票の本来の使用法ではなく、調査結果にかなりの誤差を生じる場合もある。質問内容は、自覚症状を主とし、医師の診察による他覚症状に基づく病名、診断とは異なる。

なお右質問票においては、二酸化窒素の室内汚染の状況を把握しうる質問事項は設定されていない。

(2) 暴露量の把握

ア 個人の正確な暴露濃度

従前の調査では、大気汚染測定局等における二酸化窒素濃度の測定値とその測定局が存在する地域内における健康障害等の相関を検討するという方法が行われてきた。しかしながら、その測定値が妥当する地域の範囲は、その地形、周囲の状況、気象等によつて異なり、また調査対象者は、大気汚染の暴露に加え、室内において暖房器具や厨房器具から発生する二酸化窒素の暴露を受けるものであるが、従前の調査では、これらの点についての配慮を欠いていたほか、健康障害の発生と大気汚染濃度の測定時点との時間的前後関係につき十分な検討がされていない。

イ 複合汚染

大気汚染物質には種々のものがあるので、特定の物質と健康事象との相関を見出すことは極めて困難である。

3動物実験(特に大気汚染について)

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(一) その役割と限界

動物実験は、その目的に応じて種々の暴露条件を設定しうることから、これによつて大気汚染物質の各種の影響の機構を明示する知見を得ることができる。

しかし、動物種による差の問題、研究に利用しうる動物のサンプル数の問題などがあり、動物実験の結果を環境大気からの暴露を受ける人口集団への影響の評価に利用する場合には慎重な考察を要する。

また、現実の暴露の場合には、一般的に他の汚染物が混合しているうえ、各種の生活条件による影響もあるが、動物実験ではそれらの影響についての全体像を知ることは困難である。

(二) 実験方法と結果分析

実験動物については均質なものをそろえ、健康、正常な状態を維持し、微生物などの感染防御に努め、実験期間中を通じて、同一環境下で同一の飼育管理基準のもとで飼育することが必要である。

長期間の実験では、動物には著しい年令差が生じるので、加齢の影響が次第に現れてくることを考慮しなければならない。

(三) 実験結果の人への外挿

実験動物から得られた結果を基準にして、人類での数値を求める外挿については、未だその基礎となる動物差が正確にとらえられておらず、外挿の具体的方法や理論が全く確立されていないのが現状である。

動物差は、幾何学的要因、時間的要因、量的要因及び質的要因の四つの角度から検討することができる。幾何学的要因とは、絶対的な大きさの相違と臓器重量の体重比の相違であり、時間的要因とは、目的物質の代謝に要する時間の相違と寿命の差(ラットでは二、三年、マウスでは二年弱)による絶対的時間の意味の相違であり、量的要因とは、食物や空気の摂取量などの体重比等の相違であり、質的要因とは、臓器構造の質的差異、薬物代謝酵素における差異、その他の代謝酵素系の質的差異、感染の種特異性、がんの移植における特異性、発がんにおける質的差異、自然死の死因の差異、生活環境の質的差異、遺伝的差異である。

(四) 実験結果に対する評価

WHOの環境保健クライテリア専門委員会は、同五一年八月、それまでに得られた二酸化窒素に関する動物実験研究、人の志願者に対する研究、事故時及び職業暴露の影響、疫学調査による知見を総合検討した結果、人の健康保護がはかられる暴露限界の指針値を勧告する上で、主に動物実験及び人の志願者に対する研究からの資料に頼らざるをえないとし、二酸化窒素に対する短期暴露は、長期暴露と同様に約0.5ppmを起点とする濃度で実験動物の呼吸器系に好ましからざる影響を及ぼすものと評価し、これに恣意的な安全係数三ないし五を乗じ、一時間暴露値として、0.10ないし0.17ppmを月に一度を超えて出現してはならない濃度として勧告したが、人への長期暴露による生物医学的影響は、公衆の健康の保護という観点から、勧告するに足るほどには確かめられていないとした。

我が国の二酸化窒素に係る判定条件等専門委員会は、同五三年三月、動物実験に関する前記の限界を十分考慮してその実験結果の評価を行い、人に関する利用可能な知見があればこれを重要視するという方針で、各種の研究成果を総合的に判断した。

二騒音と原告らの愁訴

1騒音の人間に対する影響

(一般的知見)

<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

(一) 騒音の定義

人間にとつて好ましくない音、あるいは望ましくない音をすべて騒音ということができる。

(二) 人間への影響

騒音の影響を質の面から分類すると、①聴力への影響(騒音性聴力損失)、②睡眠への影響(睡眠妨害)、③肉体的・生理学的影響(筋反射、自律神経や内分泌系を介する循環器や消化器への影響。脈搏の増加、血圧・脳内圧の上昇、血糖の増加、呼吸の不整・増加、消化機能の低下など。)、④精神的・心理学的影響(不快感、焦躁感、疲労感、うるささ、いらいら、住民反応など)、⑤仕事や活動への影響(仕事の誤り、能率低下、会話妨害など)に分けられる。

騒音の健康・生活への影響の重大さの程度は、低い方から、①全く影響なし、②漠然とした不明の諸反応、③うるささ反応、④睡眠妨害、⑤仕事や情報伝達の妨害、⑥一過性聴力障害、⑦永久性聴力障害の順に段階づけることができ、右各段階の影響を受ける人口は、①が最も多く、順次減少する。

騒音の影響は、次のような騒音の特性と人間側の条件によつて大きく左右される。すなわち、①騒音の特性としては、騒音レベル、周波数構成、衝撃性・非衝撃性などのピーク因子、反復性、日中・夜間などの時刻因子、季節因子、定常・断続・間欠などの時間因子があり、②人間側の条件としては、騒音感受性、年令、職業、学歴、社会階層、病気・妊娠などの健康度、勉学・仕事・団らんなどの活動の質があり、③騒音と人間とのかかわり合いでの問題としては、近隣・都市・農村・郊外・住・商・工地域など暴露を受ける場所、家屋・住居の位置やつくり、騒音源との社会的関係(利害関係、公共性、必要性、不可避性など)、慣れの程度がある。

右のうち個人側の要因を定量化するについては、個人の生理的・心理的要因のほかに、社会的要因が複雑に影響するため、極めて困難であるが、例えば内向的で、感情移入が強く、創造力があり、比較的高い知能を有している人は騒音に対する感受性が高く、六〇ホン以下の低レベルでも不快感の程度を強く抱き、八〇ホン以上では感受性による差は認められないなど、定量化の試みが行われている。

定常騒音に対しては、身体的・生理的に慣れの現象が生じることが知られ、これは大阪空港周辺でのアンケート調査結果などにも表われているが、環境庁「高速自動車道等の自動車沿道に居住する住民の健康影響の研究」によれば、居住年数が長くなるとともに、不快感、睡眠妨害、聴力妨害などの訴えはむしろ増大する傾向がみられた。

騒音の人間への影響のうち、現在最も資料が豊富で、かつ客観的・定量的に把握することのできるのが聴力への影響である。

2個人暴露量

(一) 各種の調査

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。

(1) 「個人別・生活時間帯別騒音暴露量測定の試み」

右論文は、鈴木庄亮らが騒音の人間(特に聴覚)への影響を検討するため、川崎市内の工場の騒音職場(機械工作課)の従業員八名と非騒音職場(事務系)の従業員四名(年令は二四ないし四〇才で、いずれも正常な聴力をもつ男性)を対象に、一日を八つの生活時間帯に区分して、各人の各時間帯における騒音暴露量を測定し、これを分析して同五一年一月発表したものである。

右調査結果によれば、①騒音職場従業員については、Leq(24)のエネルギー平均レベルが81.0ホンで、勤務時間における騒音暴露量の寄与率が最も高く、各人の在宅時間における騒音暴露量の寄与率は約0.01ないし10パーセントであるが、②非騒音職場従業員については、Leq(24)のエネルギー平均レベルが66.7ホンで、通勤時間と昼休み時間、特に前者における騒音暴露量の寄与率が最も高く、各人の在宅時間における騒音暴露量の寄与率は一パーセント未満である。

なお右調査は、一〇チャンネル騒音集積計を対象者に二四時間携帯させる方法で行われたものであるが、その重量及び容積が大きいため、対象者から離れた身近な所に固定せざるをえない場合もあり、特に騒音職場では常時携帯する場合の測定値よりも大幅に小さな測定値しか得られないなどの改良すべき不都合な点のあることが右論文で指摘されている。

(2) 「空港周辺の騒音に対する航空機騒音の寄与率に関する一測定」

右論文は、守田栄らが航空機騒音の環境騒音全体あるいは個人の全暴露量に対する寄与率の計算を試みるため、大阪空港周辺において、航空機着陸コース側の航空機騒音予測レベルの異なる四地域内に居住する主婦各四名ずつ計一六名について、各居住家屋外の騒音レベルと各個人別の屋内における騒音暴露量を午前九時ころから翌日の同時刻まで測定してこれを分析し、同五七年四月発表したものである。

右調査結果によれば、三地域については、いずれも対象者のうち二名の居住家屋が幹線道路あるいは電車線路に面しており、これらも大きな騒音源となつていたが、午前九時から午後九時までの時間帯の屋内における全対象者の全暴露量に対する航空機騒音を含む屋外騒音の寄与率は、0.2ないし7.9パーセントであり、対象者が屋内で受ける騒音は、その大部分が屋外から侵入する騒音以外の自分の生活によつて屋内で発生する音であつた。

また、右調査結果に基づいて、同時間帯における航空機騒音を除外した屋外騒音レベル(道路騒音、電車騒音その他外部の騒音)を算出すれば、71.8ないし75.3ホン(エネルギー平均レベル73.3ホン)となり、同時間帯の間すべて屋内にいた場合の対象者の全暴露量に対する右屋外から侵入する騒音の寄与率は0.596ないし5.7パーセントとなるが、同時間帯のうち数時間外出した場合の対象者の全暴露量に対する右屋外から侵入する騒音の寄与率はさらに低下することが明らかである。

なお、右調査結果における寄与率は物理量としての数値であり、心理的な寄与度についてはさらに検討を加える必要がある。

(3) 「名古屋市ならびにその周辺における騒音暴露量調査とその分析」

右論文は、林顕效らが同五三年名古屋市及びその周辺で生活している有職者一五〇名、主婦五〇名、学生一一名を対象に、一日の行動に伴う騒音暴露量を測定してこれを分析し、同五六年四月発表したものである。

右調査結果によれば、①全対象者の一日の騒音暴露量Leq(24)のエネルギー平均レベルは73.4ホンであるが、主婦の同平均レベルは70.6ホンであり、②有職者のうち、事務職や販売・サービス業では一日の行動において通勤時のLeqが最も高く、技能職や専門職では勤務時間中のLeqが最も高く、全有職者について、在宅時(出勤前、帰宅後及び睡眠時)のLeqはいずれもかなり低く、③有職者に対するLeq(24)と勤務時間中のLeqとの間には高い相関があり、④事務職を除いた有職者に対するLeq(24)はほとんど勤務時間中のLeqによつて支配されており、⑤主婦については、移動時のLeqが77.9ホンで最も高く、買物が73.8ホン、交際が73.5ホン、育児が73.3ホンとこれに次いで高く、⑥主婦の若、高年層では幼児の有無がLeq(24)のの値に大きく影響していた。

(4) 「有職者および主婦の行動別騒音暴露率と時間率」

右論文は、林顕效らが前記(3)の調査結果等を分析し、同五六年一二月発表したものである。

これによれば、①有職者が勤務のため家を出てから帰宅するまでの間に暴露を受ける騒音の量の一日の全暴露量に占める割合は、名古屋市及びその周辺の調査では各職種の平均値がいずれも九〇パーセント前後であり、仙台市の調査では全有職者の平均値が十数パーセントであり、②主婦について騒音暴露率の平均値の高い行動は、名古屋市及びその周辺の調査では、買物、交際、家庭雑事、食事の順になり、育児及び移動は、サンプル数が少ないため、Leqは高いが、平均値では低くなつていた。

(二) まとめ

右の各論文に<証拠>を総合すれば、一般に純粋に物理的な騒音暴露量は、①通勤者など在宅時間の比較的短い者については、在宅時の騒音暴露量の占める割合は極めて低く、通勤時や勤務時間中の騒音暴露量の占める割合が高いこと、②主婦など在宅時間の比較的長い者については、移動、買物、育児などにおける騒音暴露量の占める割合が高いこと、③道路騒音などの屋外騒音の侵入による在宅時の暴露量の占める割合は一般に小さく、各人の全暴露量のせいぜい十数パーセント以下であり、本件道路騒音についても同様であることが明らかである。

3聴覚障害

(一) 一般的知見

<証拠>を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) 難聴と耳鳴り

ア 難聴

日常会話に用いる言語は、およそ五〇〇ないし三〇〇〇ヘルツの周波数の音で構成され、この範囲を会話域・言語帯域と呼ぶ。

聴力損失の程度については、〇ないし三〇デシベルのものを軽度難聴、三〇ないし六〇デシベルのものを中等度難聴、六〇ないし九〇デシベルのものを高度難聴、それ以上をろう(聾)と分類することができるが、正常者でもその閾値には個体差があり、測定の誤差もあるので、一五デシベル程度の聴力損失という測定結果については、これを明らかに病的な聴覚障害と判定することができないことがある。

一般に言語帯域の聴力損失が三〇デシベルに達すると聴力の欠陥が明確に自覚されるが、大した不自由は感じない。しかし三〇デシベルを超えると不自由を覚え、六〇デシベルに達すると日常生活は明らかに障害を受け、耳を介しての意志伝達が困難となる。

聴力障害の程度は、会話域平均聴力損失値で表わされ、障害の有無は、この値が一五ないし二五デシベル程度を超えるか否かにより判定されることが多い。ISOは、その聴力測定の基準に基づく五〇〇、一〇〇〇、二〇〇〇ヘルツの聴力損失の平均が二五デシベルを超える場合を聴力障害と総称している。

聴力損失の程度を、一二五ないし八〇〇〇ヘルツの間で一オクターブの間隔をとつた七つの周波数の音について測定し、その結果をグラフに表わしたオージオグラムの型により、各人の聴力損失の傾向及び障害の有無が判定できるが、各周波数の聴力損失がほぼ二〇デシベル以内のものは正常型に分類される。特定の周波数についてのみ聴力損失をきたし、オージオグラムに鋭い切れ込み(ディップ)を示す例(高音障害ディップ型など)もみられるが、そのディップのほとんどすべては高音域の四〇〇〇ヘルツに現われ、ごくまれに二〇〇〇ヘルツに現われる例がある。

難聴の原因は様々であり、騒音などの音響以外に、薬剤中毒、気圧の変化、頭部外傷、中耳炎によるもの、メニエール病及びその周辺疾患としてのもの、遺伝病又は先天性素因、要因等に関係のあるもの、身体他部の疾患に伴うものなどのほか、加齢に伴う老人性のものがある。

難聴はその原因が生じた部位により、外耳や中耳の伝音器の故障による伝音性難聴、内耳より奥の部位の故障による感音性(神経感覚性・内耳性)難聴、右両部位の故障による混合性難聴とに分類することができるが、騒音性難聴やメニエール病によるものなどは感音性難聴である。

日本人の聴力は、年令とともに高い周波数から順次低下し、その低下の傾向は、二〇才代の平均値を基準にすれば、五〇才代では、二〇〇〇ヘルツで一〇デシベル程度であるが、それより高音域ほど低下が大きく八〇〇〇ヘルツで二五デシベルに達し、五〇才代から六〇才代の間に低下の進行が著しい。

イ 耳鳴り

耳鳴りは、聴覚障害の症候の中の重要なものの一つであるが、その本態は十分に解明されていない。一般に内耳の刺激症状として障害の初期に難聴に先行して現われることが多い。

耳鳴りは、身体のどこかに実際の振動があつて、これを聴覚機構がとらえて音として感じる他覚的耳鳴り・振動性耳鳴りと、物理的な振動がないのに、内耳又はそれより高位の神経機構の異常により発生する自覚的耳鳴り・非振動性耳鳴りとに分類することができるが、後者の例が圧倒的に多い。

耳鳴りの原因は、メニエール病、中耳炎などの疾患のほか、先天性、老人性、音響性、気圧性のものなど多種類に及ぶ。

強い耳鳴りは、発砲、爆発などに基づく突発的な難聴、いわゆる音響性外傷の場合に見出されるのが通常で、騒音性難聴の場合は若干少ない。

(2) TTSとPTS

ア TTS

強い騒音に暴露されると聴力が低下する。そのうちの一時的な閾値移動であるTTSにつき、ISOは、騒音暴露後最小可聴閾値の上昇がみられるが、暴露後急速に(遅くとも一〇日以内に)暴露前の閾値に戻るものをいう旨の定義を行つている。

TTSは、動物実験でも起こすことが可能であり、内耳の蝸牛内のコルチ器の感覚細胞である毛細胞に腫脹がみられるものである。TTSの回復は発生後一、二時間以内に最も急速に行われる。TTSの大きさは暴露騒音のレベルと時間の関数であるが、七八ホン以下の定常騒音ではTTSの発生を認めることが困難である。しかし、七八ホン以下の騒音に暴露した場合に、その後より大きな騒音の暴露により生じるTTSは、そうしない場合より大きい。等しい騒音レベルでは、高周波数に主勢力のある騒音の方が、より大きなTTSを発生させる。航空機騒音などの間欠騒音により生じるTTSの大きさは、騒音レベルが同じならば、定常騒音により生じるTTSより小さい。TTSについては、飽和が認められるとするのが通説であり、音圧レベル七五デシベルの雑音では負荷二時間、八〇デシベルの雑音では負荷四時間で飽和状態となり、TTSはそれ以上に増大しないとされている。

イ PTS

暴露後何年たつても永久に回復しない閾値移動をいう。その特徴は、①神経感覚性難聴であり回復しないこと、②暴露開始後一〇年以内に急速に進行すること、③四〇〇〇ヘルツでの聴力損失が最も初期に、かつ急速に進行し、順次それより低いあるいは高い周波数域に及ぶこと、④特別な場合を除けば両耳性であり、C5ディップ型(音楽における音階のC5音〔四〇九六ヘルツ〕を中心に聴力が低下する傾向)を示すこと、⑤PTSの程度は暴露される騒音レベルと期間とに規定されること、⑥TTSなくしてPTSはなく、連日発生するTTSの長期的な繰り返しによつてPTSに固定されること、⑦PTSの程度には個人差があること、⑧リクルートメント現象(音が聞こえるか否かの不確定範囲が正常人に比較して狭くなり、音を徐々に強めていつた場合、正常人の場合に比べて、より急激かつより速やかに、その音を大きく感じるようになる現象)が陽性になることなどである。

しかしながら、C5ディップを示す場合でも、強力な騒音暴露に起因しない例もあり、また、オージオメーターの最高の周波数(多くは八〇〇〇又は一〇〇〇〇ヘルツ)における聴力損失が最も大きい場合でも、騒音暴露に起因する例もある。

ウ TTS仮説と等価エネルギー仮説

TTS仮説は等価一時作用仮説ともいう。これは、毎日の騒音暴露によつて生じる平均的TTSにより、PTSの発生を予測することができるという仮説であり、TTSなくしてPTSはなく、あるレベルの騒音に八時間の暴露を受け、暴露休止の二分後に測定されるTTSの値(TTS2)は、同一レベルの騒音に一日八時間の割合で一〇年以上の期間暴露を受けた場合に生じるPTSの値にほぼ等しいという考え方である。

等価エネルギー仮説は、一日に耳に入る音の全エネルギー、すなわち騒音レベルと暴露期間によつて決定される騒音のエネルギーの総量によつてPTSの発生を予測することができるという仮説であり、これに従えば、定常騒音暴露時間が半分になると、許容基準が三ホン大きくなることや、極めて短時間の暴露にも理論的に外挿して考えることができる。

しかしながら、両者は相反する仮説ではなく、相補う関係にあるものと理解すべきものである。

(二) 各種アンケート調査

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) 本件沿道

ア 兵庫県四九年調査

右調査は兵庫県が、交通量の多い幹線道路沿線における自動車の排ガス、騒音及び振動等の地域住民に及ぼす健康影響の実態を把握し、早急に適切な対策を樹立するため、本件沿道に居住する住民の健康調査を企画し、芦屋市、西宮市、尼崎市と共同で同四九年度に実施したものである。

調査対象地域として、右各市でそれぞれ一地域が選ばれ、道路端から約一〇〇メートル以内の地区(以下「A地区」という。)及び約一〇〇メートル以上の地区(以下「B地区」という。)を設定して、各地区に三年以上にわたつてほとんど全日在宅する二〇才以上七〇才未満の男女一〇〇人(各市ごとに二〇〇人宛)を無作為抽出し、個人面接聴取法による調査や臨床及び理化学検査が行われた。

右調査結果によれば、「耳が遠くなつたような気がする」旨の回答をした者は、A地区で29.0パーセント、B地区で11.3パーセントであり、「いつも耳鳴りがする」旨の回答をした者は、A地区で17.0パーセント、B地区で10.0パーセントであつた。

右調査結果の評価については、前記一1(アンケート調査)に照らし、その調査票の前文の記載及び標本の抽出(年令・性別の偏り)に関して不適切な点のあることを指摘することができる。

イ 環境庁五〇年調査

右調査は環境庁が、同五〇年兵庫県(芦屋市と西宮市の本件沿道の一部、以下「兵庫地区」という。)及び川崎市(東名高速道路東京料金所周辺の一部、以下「川崎地区」という。)における排ガス及び道路騒音の沿道住民への健康影響の実態を把握すること等を目的として行つたものであり、その内容は、交通状況、大気汚染及び騒音調査のほか、面接質問及び臨床検査による健康影響調査及び面接質問による生活環境に関する調査である。

各道路からの距離が、五〇メートル以内の地域(以下、兵庫地区では「A地区」、川崎地区では「A1地区」「A2地区」という。)と一五〇メートル以上の地域(以下、兵庫地区では「B地区」、川崎地区では「B1地区」「B2地区」という。)に区分し、各地区に居住する三〇才以上六〇才未満の主婦につき、統計学的な任意抽出により対象者が選定された。確定対象者数は、兵庫地区八四九名、川崎地区七九二名であり、面接質問に対する回答率は、それぞれ96.8パーセントと94.4パーセントであつた。

右調査結果(生活環境に関する面接質問調査)によれば、兵庫及び川崎両地区において、「耳鳴りがしたり、耳が痛かつたりする」旨の愁訴と騒音の推定物理量とは、L50が七〇ホン以下の地域では平行する関係がみられたが、七〇ないし八〇ホンの地域では、六五ないし七〇ホンの地域に比較して右の愁訴がかえつて減少していた。

ウ 「道路環境と社会反応」(野田調査)

右論文は、野田純一らが同五四年本件沿道の地域として、ここに校区を持つ尼崎市立西小学校及び芦屋市立精道小学校、対照地域として芦屋市立山手小学校を選定し、その校区の住民に児童を通じて騒音や振動等に関する質問票を配布し、主として主婦から回答を得て(その処理数は、精道小学校区八九四名、西小学校区五五四名、山手小学校区五〇名であり、配布数に対する割合は、それぞれ76.2パーセント、65.9パーセント、7.8パーセントである。)調査(野田調査)を行い、これを分析して同五六年発表したものである。

右調査結果によれば、個々の項目についての回答数が明らかではないが、①「年のわりに耳が遠いと思つたり、人からその様に言われたことがありますか。」との質問に対し、これを否定した回答率は、本件国道と国道二号において、いずれも道路からの距離との関係において一パーセントの危険率で有意であり、②「耳鳴りがしたり耳が痛かつたりする」ことがある旨の回答率も、同じく右距離との関係において有意であつた。

右調査結果の評価については、前記一1(アンケート調査)に照らして、その調査票の前文の記載、選択肢の配列、質問文の記載内容(誘導・不明確)、標本の抽出方法、調査結果の分析(騒音の物理量が調査されていないこと、社会反応をスコア法により安易に数量化して処理していること)などに関して、不適切な点があることが指摘できる。なお、

① 被告らは、野田純一の研究歴や職務歴をもつて、同人が右調査を行う適格性を有しない旨主張するが、それのみをもつて直ちに不適格であるというべきではない。

② 野田純一は、同四六、四七年ころから、尼崎市の住民の依頼により、本件国道付近で騒音測定を続け、同五三年本件訴訟の原告らなどで組織された「国道四三号線道路公害住民総合調査団」の依頼を受けて、野田調査を行うに至り、その調査結果を発表するまでにも、本件県道大阪線の環境影響予測説明会などに住民らとともに参加していたものであり、本件道路騒音について先入観や偏見がなかつたとはいえないが、この事実をもつて、調査を実施する個々の調査員について問題となる調査者誤差が直ちに生じるものというべきではない。

(2) その他の地域

ア 「騒音レベルからみた街頭騒音に対する地域住民反応」(相沢調査)

右論文は、相沢龍らが同四三年から同四八年にかけて長崎市等において、騒音レベル別にみた地域住民反応を検討するため、街頭騒音の測定とともに一〇一六名の地域住民に対し自記留め置き式質問紙法により住民反応の調査(相沢調査)を行い、これを分析して同五〇年ころ発表したものである。

右調査結果によれば、「耳が痛かつたり、耳鳴りがする」旨の訴え率は、街頭の騒音レベルが四四ホン以下では1.5パーセントであつたが、騒音レベルの上昇とともに増加し、同七五ないし七九ホンでは9.5パーセントであつた。

イ 川崎市四九年調査

右調査は川崎市が、同四九年一日の平均交通量が一〇万台を超える東名高速道路の自動車公害対策の基礎資料を得ることを目的として、集会所において、住民に対して行つたものであり、その内容は、調査についての教育訓練を受けた保健婦の問診による有症状況調査と肺機能検査及び「自動車公害健康調査票」と題する調査票を用いた生活意識調査である。

沿道地区として同市営南平第二団地と宮前平グリーンハイツ、対照地区として右道路の影響が比較的少ないと考えられる同市営高山団地と白幡台住宅が選ばれ、住民記録台帳により、各地区に居住する一五才以上男女(各地区三〇〇名、合計一二〇〇名)が無作為に抽出された。回答率は、それぞれ、45.7パーセント、五四パーセント、二四パーセント、47.3パーセントであり、全体では、42.8パーセントであつた。

なお、回答者は職業歴、一日の在宅時間、居宅の構造、道路からの距離についての調査や聴力検査は実施されていない。

右調査結果によれば、耳が聞こえにくい旨の回答率は、南平第二団地で43.1パーセント、宮前平グリーンハイツで21.0パーセント、高山団地で22.2パーセント、白幡台住宅で12.7パーセントであり、南平第二団地と高山団地及び宮前平グリーンハイツと白幡台住宅の各比較ではいずれも有意差がみられた。

ウ 東京都五〇年調査

右調査は東京都が、同五〇年環状七号線沿道の騒音等の住民への影響を調べて健康調査等の基礎資料を得ることを目的として、住民に対して行つたものであり、その内容は、調査員の訪問面接聴取法による生活環境や健康等に関する調査である。

沿道地域として、右道路の車道端から両側にそれぞれ約一〇〇メートルの幅をもつ碑文谷地区及び常盤台地区、対照地域として若宮地区が選ばれ、住民基本台帳により各地区に一年以上居住する世帯が単純無作為により抽出され、二〇才以上六四才未満で各世帯の中での在宅時間が最長の者(各地区四〇〇名)が対象となつた(回収率は76.3ないし82.5パーセント)。

右調査票の配付に際しては、「主婦の健康状態についての基礎資料を得るため」という表現で調査目的を告知し、道路騒音の影響調査であることをできるだけ意識させないよう、細心の注意が払われた。なお、回収率は53.6パーセントである。

右調査結果によれば、騒音レベル(L50)は、道路端での平均が八〇ホン、道路端から五〇メートル地点での平均が六二ホンであり、耳に関する自覚症状の訴え率は、道路端から五〇メートル未満の地区が同一〇〇メートル以上の地区よりも多く、五パーセントの危険率をもつて有意差がみられた。

エ 「都市交通騒音に関する研究」(村松調査)

右論文は、村松常司らが同五〇年愛知県岡崎市の国道一号沿道の騒音の実態と住民の健康状態を調べるため、無作為に二五〇戸の世帯を訪れて自記式質問紙法により、主婦を対象として自覚症状の調査等を行い、これを分析して同五二年発表したものである。

右調査結果によれば、「耳鳴りがする」旨の回答率は、沿道地区合計6.9パーセント(碑文谷地区3.0パーセント、常盤台地区10.6パーセント)、対象地区3.8パーセントであり、道路からの距離(回答者の主観による)とはあまり関係がない旨考えられた。

右調査結果の分析においては、年令、職業、居住時間等の関係については検討が加えられていない。

なお、騒音レベル及び道路から回答者の居宅までの距離は測定されていない。

(三) 各種の勧告・実験等

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) ISOの勧告

ISOは、一九七一年(昭和四六年)会話に対する聴力欠陥を防止するため、職業性の騒音暴露の強弱を等価騒音レベルで表わし、それに基因する聴力欠陥者の出現率との関係を示すことにより、許容基準を勧告した。

これによれば、一日八時間週五日を基準として、Leq85ホンでは四〇年で最大危険率一〇パーセントであるが、Leq90ホンでは四〇年で最大危険率二一パーセントである。

なお、右の勧告については、これを国際基準に格上げするため、一九七七年から見直し作業が行われている。

(2) 「交通騒音の聴覚に及ぼす影響についての疫学的調査」

右論文は、宍戸昌夫らが昭和四六、四七年交通騒音の聴覚に及ぼす影響を調査することを目的として、横浜市において、交通騒音の激しい地域として神奈川区子安通二、三丁目の地域(以下「子安地域」という。)、交通騒音の激しくない対照地域として南区上大岡の地域(以下「上大岡地域」という。)をそれぞれ選定し、その騒音と住民の聴力を測定してこれを分析し、その後発表したものである。

右調査結果によれば、①騒音レベルは、子安地域では、三七か所において測定され、そのL50は四九ないし八二ホン、上大岡地域では、六か所において測定され、そのL50は五二ないし七四ホンであり、②聴力検査は、子安地域では、騒音レベルL50が五六ホンの町内会館内で、上大岡地区では、騒音レベルL50が五二ホンの民家でそれぞれ行われ、③聴力損失値は、子安地域では二〇及び五〇才代の男において四〇〇〇ヘルツに深い谷がみられたが、上大岡地域では各年令の男女いずれにも四〇〇〇ヘルツに深い谷はみられず、④聴力損失値を比較する標本としての条件は、両地域の人数が異なる点(子安地域一四三名、上大岡地域四九名)を除けば、対象者の年令構成、性比、職業分類、在住年数、耳に関する既往症などの比率はほぼ満足できるものであり、⑤難聴と診断されたものは、子安地域では37.1パーセント、上大岡地域では20.4パーセントであつたが、交通騒音によると考えられるものは、子安地域では6.3パーセントであつたが、上大岡地域では皆無であつた。

そして右論文には考察として、①子安地域の方が明らかに騒音が激しいことが分かるが、対照地域としては、上大岡地域よりもさらに騒音の低い場所を選定するのが好ましいこと、②聴力検査場所は、いずれも騒音レベルが高かつたため適当とはいえないことを指摘して、完全とはいえない調査であることを留保したうえ、③子安地域において、騒音による難聴者が明らかに多かつたことは注目すべき事実であり、④難聴者の比率が子安地域に多かつたことについても騒音が相当影響しているのではないかと推測され、今後の検討課題である旨の記載がされている。

右調査結果の評価については、次の諸点を指摘することができる。

① 大きい音のために小さい音が聞こえなくなる現象をマスキング効果というが、その効果については、マスクする音の周波数に近い音に対して大きく、マスクする音の大きさに応じてマスキングの量が増すことなどが明らかにされている。そこで聴力検査においても、検査場所の騒音によるマスキング効果の影響を除去しなければ正確な結果が得られないため、検査場所の騒音値につき、日本オージオロジー学会では三〇ホン以下に保つべきものとし、アメリカ保健教育厚生省では測定周波数別に、防害となりうる周波数の幅を示し、一〇〇〇ないし六〇〇〇ヘルツの音の検査については、マスキングを生じないための音圧レベルを四〇ないし六二又は30ないし51.5デシベルに保つべきものとしている。もつとも、妨害音が道路騒音である場合には、その周波数構成が比較的低いため、低い音がマスキング効果を強く受けるものである。

右の事実に照らせば、前記聴力検査の場所は不適切なものであり、その検査結果に影響を及ぼしていないとはいえない。

② 右調査は疫学調査のうちの要因対照研究を目的としたものであるが、対照とされた上大岡地域に比較して騒音レベルに大きな差があるとはいえない点、仮説要因としての道路騒音以外に聴力に影響を及ぼしうる要因(外出の際の騒音暴露時間など)の検討が不十分である点、子安地域の騒音については道路騒音以外に鉄道の騒音も含まれているものとみられる点において疫学調査として十分なものということはできない。

③ 子安地域では、C5ディップが二〇及び五〇才代の男にみられた反面、三〇、四〇、六〇、七〇才代には全くみられなかつたのであるから、右難聴の原因を同地域の騒音に帰するのは早計であり、過去の騒音職場における勤務歴等の騒音性難聴の原因を検討する必要がある。

(3) 「公衆の健康と福祉を適切な安全幅をもつて保護するために必要な環境騒音レベルに関する資料」(EPAのインフォーメーション)

右資料は、EPAが一九七四年(昭和四九年)各種の調査・研究の結果をまとめて聴力保護などに関する騒音レベルの許容基準を提案したものである(以下「EPAのインフォーメーション」という。)。

これによれば、聴力保護の見地に立つた環境騒音の基準をLeq(24)で七〇ホンと定めている。

右の基準値を定めるに至つた根拠及び過程は次のとおりである。

① 用いた資料は、PTSについては、ボーン、パッシャーとヴァーミーア、ロビンソンの三つの職場騒音暴露に関するもの、加齢による聴力損失については、公衆衛生調査に基づくものであつた。

② 聴力を保護すべき範囲としては、集団の一〇〇パーセントの者が四〇年間暴露を受けても、四〇〇〇ヘルツの音について五デシベル以下の聴力損失にとどめられるべきものとした。

右において、会話域に限らず四〇〇〇ヘルツの音についても聴力保護の範囲に入れたのは、音楽を楽しむ場合など幅広い社会生活における必要性を考慮し、あらゆる周波数の音についても聴力を保護すべきであるとする見地に立つている。

また、五デシベルの聴力損失を許容したことについては、ほとんどの聴力測定機が五デシベル以下の聴力レベルを測定する能力を有しないこと、五デシベル以下の聴力損失は自覚されず、実際上の意味もないこと、個人の聴力閾値は心理的・肉体的条件により変動することがその理由である。

③ そこで右①の資料から、集団の九六パーセントの者の四〇〇〇ヘルツの音についての聴力損失を五デシベル以下にとどめうる騒音レベルとして、Leq(8)で七三ホンを求めた。これは、加齢による聴力損失のレベルが暴露騒音のレベル以上になれば、もはや暴露騒音による聴力損失はありえないとの仮説に基づき、実質的には集団の一〇〇パーセントの者について右範囲の聴力損失を防止することが可能な騒音レベルであるということができる。

④ 右③の基準は、職場騒音を前提として導き出されたものであつて、一日に八時間、一週間に五日間、一年に二五〇日間の労働時間中の連続騒音に関するものであるから、一日のうち残余の一六時間は比較的静かであることを条件とする。

⑤ 右の基準は、間欠騒音については五ホン緩和され、Leq(8)で七八ホンとなるが、一年間(三六五日)の暴露については1.6ホン制限(低減)すべきであり、Leq(8)で76.4ホンとなり、一日(二四時間)の暴露についてはさらに五ホン制限(低減)すべきであり、Leq(24)で71.4ホンとなる。

⑥ 右の71.4ホンにつき、さらに安全幅を見込んだ結果、Leq(24)で七〇ホンという基準を定めた。

右基準値の評価については、右資料において、これを導き出すのに用いた研究結果はいずれも横断的なものであり、縦断的調査ではないから、騒音による聴力損失の発生や進行状況についてはある程度の仮説を立ててこれに依拠せざるをえないところ、EPAが採用した仮定、仮説、推定については、必ずしも従来の学説に従つたものではない旨の記載があるほか、次の諸点が指摘されている。

① 騒音レベル七十数ホンにおける四〇〇〇ヘルツの音について五デシベルの聴力損失値は、現実の調査・研究による測定値ではなく、八〇ホン程度における実測値を外挿して得られたものである。

② 右基準値と難聴とを直ちに結びつけるのは、次の各調査結果などからみて非現実的である。

すなわち、鈴木庄亮らによる「道路交通騒音に対する住民の意識と生活上の対応について」の調査結果では、東京都台東区において一〇軒のうち七軒の住居内騒音レベルLeq(24)が右基準値を超え、三島善昭らによる「有職者及び主婦の行動別騒音暴露率と時間率」の調査結果では、名古屋市及びその周辺の対象者のうち、有職者ではその八五パーセント、主婦ではその六〇パーセントの者がLeq(24)で七〇ホンを超える騒音に暴露されていることが明らかであるが、これでは四〇年後にほとんどの人々が難聴になるはずである。

(4) 環境庁五〇年調査

その聴力検査の結果(気導聴力の各年令層ごとの聴力損失の平均値)によれば、兵庫地区では、八〇〇〇ヘルツの平均値が四〇才代で、二〇〇〇、四〇〇〇、八〇〇〇ヘルツの各平均値が五〇才代で、いずれもA地区においてB地区よりも高く有意差が認められたが、川崎地区では、二〇〇〇、八〇〇〇ヘルツの各平均値が三〇才代で、B1地区においてA1地区よりも高く、四〇〇〇ヘルツの平均値が四〇才代でA1地区においてB1地区よりも高く、いずれも有意差が認められ、二〇〇〇、四〇〇〇ヘルツの平均値が四〇及び五〇才代でいずれもA2地区においてB2地区よりも高く有意差がみられた。

なお、右の集計及び解析については、明らかな鼓膜欠損や耳垢等で伝音機構に異常があり、高度難聴があるものや、片側性に聴力障害があり、既往歴に同側の中耳炎等伝音機構に影響を及ぼしたと思われる疾患があつたものは除外された。また、B1地区における聴力測定の環境は必ずしも良好な状態ではなかつたため、A1・B1地区の比較をそのまま評価しえないものである。

右調査結果の評価については、道路騒音による騒音性難聴を裏づけたものとして、道路、自動車公害対策の深刻さを示すものである旨の意見もあるが、①右調査報告書において、地域住民の聴力と騒音との関係について医学的に説明することは、現段階では困難であるとされているほか、②あらゆる年代の聴力損失の平均値について、騒音性難聴の特徴であるC5ディップの傾向を示していないこと、③疾病等の道路騒音以外の難聴の原因となりうるものがすべて除外されているものではないこと、④三〇才代では全く有意差が認められていないことなどからみて、道路により近い居住者に騒音性難聴が現われているものとはみられない旨の指摘がされている。

(5) 「騒音暴露によるTTSについて」

右論文は、岡田諄らが道路騒音などを録音、編集してこれを再生する方法により、聴力検査に習熟しかつ正常な聴力を有する二〇才から四〇才までの五名を対象として八時間の暴露を行つてTTSを測定し、これを分析して同五二年発表したものである。

右実験結果によれば、①道路騒音として暴露した騒音レベルは八〇ないし八五ホンの範囲内にあり、②右騒音による暴露開始八時間後一名について四〇〇〇ヘルツの音で三デシベルのTTS2(騒音暴露開始前の閾値と暴露終了二分後の閾値との差)が生じ、回復に六〇分を要した。

(6) 「交通騒音によるTTS」(TTS from transportaion noise)

右論文は、鈴木庄亮らが道路騒音、列車の車内騒音及び航空機騒音を録音し、これを種々の騒音レベルで再生し、一九才から二七才の男子学生を対象として六時間の暴露を行い、これを分析して同五四年発表したものである。

右実験結果によれば、①道路交通騒音及び列車内騒音による四〇〇〇ヘルツのTTS2の平均値はほとんど同じであり、L50七五ホンではマイナス0.5デシベル、八五ホンでは3.5デシベル、九〇ホンでは5.5デシベルであり、②道路交通騒音では七五ホン、列車内騒音では七〇ホンが有意なTTSの増大を生じさせない最高レベルであると考えられた。

右論文では、右の実験結果などから、列車内騒音や航空機騒音による聴覚影響はないが、道路交通騒音による聴覚影響の可能性はあると考えられるとし、多くの住民が七五ホンの騒音に一日六時間以上暴露されていると考えられるので道路交通騒音によるPTSについての疫学的研究が必要である旨を説いているが、この見解に対しては、その筆者自ら実際に七五ホンの騒音に一日六時間以上暴露されている住民は多数いるとはいえない旨の指摘をしている。

(7)ア 「二四時間騒音暴露によるTTS」

右論文は、山本剛夫らが八ないし一二時間でTTSが飽和する旨の仮説に疑問を持ち、低レベルかつ長時間(二四時間)の騒音暴露による聴力損失の程度を調べるため、正常な聴力を持ち、聴力閾値も安定し、かつ聴力測定に習熟した男子学生一〇名を対象に、音圧レベル六五ないし八六デシベルの六段階の広帯域定常騒音にそれぞれ二四時間暴露するなどして、暴露後のTTSを測定し、これを分析して同五五年発表したものである。

右実験結果によれば、①四〇〇〇ヘルツの音についてのTTS(ただし、騒音を暴露せずに二四時間にわたつて閾値の変動を測定した対照実験における閾値移動の各瞬時値との差をもつてTTSとした。)は、暴露開始八時間後までは暴露時間の対数にほぼ比例して増大するが、それ以降は増加速度が低下し、二〇時間以降は明らかな増加は認められず、限界値に達しているものとみなすことができ、②三〇〇〇及び六〇〇〇ヘルツのTTSも四〇〇〇ヘルツの場合とほぼ同様であり、③二〇〇〇ヘルツのTTSは、暴露レベルによる差が明らかではなく、TTSの値も小さく、④八〇〇〇ヘルツの場合は、暴露レベル八〇デシベル以下のものは、暴露開始六時間後までは有意なTTSは発生せず、七、八時間後から急激な増加がみられ、⑤暴露レベル六五デシベルの場合、暴露開始二四時間後の四〇〇〇ヘルツの音についてのTTS2は約四デシベルであり、⑥暴露レベル七〇デシベルではTTS2の増大がみられなかつた。

右実験結果の評価については、次の諸点を指摘することができる。

① 暴露レベル七〇デシベルでTTS2の増大が認められていないことからすれば、同六五デシベルでTTS2の増大が認められたとするのは早計である(量―反応関係の逆転)。

② 右実験における暴露騒音の周波数特性は、低音域より高音域の方が大きいものであるから、これとは逆の周波数特性を有する本件道路騒音については、右実験結果がそのまま妥当するものではない。

③ 一般にTTS2とは、騒音暴露開始前の閾値と暴露終了二分後の閾値との差をいうものとされているが、右実験ではこれとは異なり、対照実験における閾値移動の各瞬時値との差を求めているため、従来の学説と異なる結果が得られた。

イ 「二四時間暴露による一時的閾値移動」

右論文は、山本剛夫らが前記アの実験結果を再度分析して、同五六年発表したものである。

これは、全実験期間を通じての暴露前閾値の平均値と暴露後の閾値の平均値との差をもつてTTS2の値を求めたものであるが、これによれば、前記(ア)とは異なり、①四〇〇〇ヘルツの音についての暴露開始八時間後のTTS2は、暴露レベル七五デシベルの場合でも二、三デシベル程度であり、暴露量七〇及び六五デシベルの場合はこれよりさらに低く、②暴露レベル六五デシベルの場合、暴露開始二四時間後の四〇〇〇ヘルツの音についてのTTS2はほとんど生じなかつた。

ウ 「二四時間白色騒音暴露による聴力の一過性閾値移動」

右論文は、山本剛夫らが前記アの実験結果をさらに分析して、同五八年発表したものである。

これは、六個の暴露前閾値及び対照実験における一六個の閾値移動の各瞬時値の平均値と暴露後の閾値との差をもつてTTS2の値を求めたものであるが、これによれば、①二四時間後のTTS2は、六段階いずれの暴露レベルにおいても、また二〇〇〇、三〇〇〇、四〇〇〇、六〇〇〇、八〇〇〇ヘルツいずれの音についても有意であり、②暴露ルベル七五デシベル以上では、レベルの増加に伴いTTS2も増加を示したが、六五及び七〇デシベルでは、TTS2の値は顕著な差がみられず、③暴露レベル六五及び七〇デシベルの低レベルでも、暴露開始後八時間を超えると二〇〇〇ヘルツを除いてTTS2の平均値が五デシベルに近く、ときに五デシベルを超えることがあつた。

右論文の評価については、前記(ア)について評価②、③と同旨の指摘をすることができる。

(8) 「交通騒音(環状七号線における)の実際のひばくによる生体反応の検討」

右論文は、山村晃太郎らが同五四年東京都の環状七号線沿道の板橋第八小学校(以下「I小」という。)及び世田谷区役所第八出張所(以下「S出」という。)において、自覚的に心身に特別の異常を訴えることの少ない男子大学生六名を対象に実際の道路騒音を暴露して自記オージオメーターにより聴力や心血管系の反応を測定し、これを分析して同五七年発表したものである。

右実験結果によれば、①騒音レベルは、窓を開放した状態では、いずれもL50が七〇ホン前後で、L5とL95の差約二〇デシベル以内、Leqが七〇ホンをやや超え、S出の方が多少高く七二ないし七三ホンであつたが、窓を閉鎖した状態では、L50でI小が五〇ホンを上回り、S出が約五〇ホンとやや低く、②I小では窓を開放した状態で四〇〇〇ヘルツのTTS2が増大傾向を示したが、その回帰は有意ではなく、③S出では窓を開放した状態で同TTS2の増大の回帰が有意であり、④八時間暴露後の同TTS2の平均値は3.6デシベルであり、⑤窓を閉鎖した状態では、I小及びS出ともに同TTS2の増大の回帰は有意ではなかつた。

右実験結果の評価については、次の諸点を指摘することができる。

① 聴力測定を行つた場所について、同論文には「各ばく露現場からやや離れた場所」としか記載されておらず、前記のとおりI小及びS出の騒音レベルが窓を閉鎖した状態でも約五〇ホン以上であつたことからすれば、聴力検査の条件が万全でなかつたともみられる。

② 自記オージオメーターを用いて聴力検査が行われているが、その正しい使用については対象者の習熟を要するため、正確な測定値が得られていない可能性がある。

③ 八時間暴露後のTTS2の平均値は3.6デシベルにすぎず、難聴といえるほどの聴力損失にはあたらず、またS出においてTTS2増大の回帰が有意であつたことから直ちに騒音暴露によるTTSの発生がみられたものと断定するのは早計である。

(9) 「道路交通騒音による聴器障害発生の可能性に関する調査」

右論文は、戸塚元吉が本件訴訟において被告らによる証人申請の後、本件道路騒音によりTTSが生じるか否かを調べるため、被告らの協力を得て、二〇才から二三才の聴器に異常がなく、正常な聴力を有する男子学生七名を対象に、本件道路端で録音した騒音を実験室内で再生して暴露し、TTS2の測定を行い、同五七年これを分析してまとめたものである。

右実験結果によれば、①本件道路騒音としては、同年八月四日午後三時から同月五日午後二時までの間一時間おきに一時間延べ一二時間にわたつて、芦屋市精道町の本件道路端の高さ1.2メートルの位置で録音したものが用いられ、その騒音レベルは一〇分間ごとのL50で64.4ないし74.3ホン、Leqで67.4ないし75.2ホンの範囲内にあり、③実験室内の暗騒音は三〇ホン以下であり、④午前七時から同八時までの騒音(騒音レベルは、一〇分間ごとのL50で72.9ないし73.9ホン、Leqで73.5ないし74.8ホンの範囲内にあつた。)を録音時のレベルで八回繰り返し再生して連続八時間暴露した後のTTS2は、二〇〇〇ヘルツの音について平均0.64デシベル、四〇〇〇ヘルツの音について平均0.85デシベルで、いずれも暴露前と有意差はなく、⑤前記一二時間にわたつて録音された騒音を録音時のレベルに再生して一二時間暴露を行い、一時間経過ごとに測定したTTS2は、二〇〇〇ヘルツの音について平均マイナス0.36ないしプラス0.42デシベル、四〇〇〇ヘルツの音について平均マイナス0.15ないしプラス0.78デシベルで、いずれも暴露前と有意差はなく、⑥右騒音を録音時のレベルより五ホン増加して再生し、一二時間暴露を行い、一時間ごとに測定したTTS2は、二〇〇〇ヘルツの音について平均マイナス0.93ないしプラス0.35デシベル、四〇〇〇ヘルツの音について平均マイナス1.50ないしプラス0.21デシベルで、いずれも暴露前と有意差はなく、⑦右騒音を録音時のレベルより一〇ホン増加して再生し、一二時間暴露を行い、一時間ごとに測定したTTS2は、二〇〇〇ヘルツの音についてマイナス1.00ないし0デシベル、四〇〇〇ヘルツの音についてマイナス0.29ないしプラス1.14デシベルで、いずれも暴露前と有意差はなく、⑧右騒音を録音時のレベルより一五ホン増加して再生し、一二時間暴露を行い、一時間ごとに測定したTTS2は、二〇〇〇ヘルツの音について、暴露開始一〇時間後まではマイナス0.36ないしプラス0.71デシベルで暴露前と有意差はないが、同一一、一二時間後においては0.78、1.14デシベルで、暴露前と五パーセントの危険率をもつて有意差がみられ、四〇〇〇ヘルツの音について、同二時間後を除く同一ないし一二時間後において1.28ないし2.50デシベルで、暴露前と五ないし一パーセントの危険率をもつて有意差がみられた。

(10) 日本産業衛生学会の勧告

同学会は、同五七年聴力保護の立場から、常習的な暴露に対する騒音の許容基準につき、八時間暴露で八五ホン、暴露時間の半減により三ホン増とする旨を勧告した。

右基準は、一日八時間以内の暴露が常習的に一〇年以上続いた場合にも、PTSを、一〇〇〇ヘルツの音につき一〇デシベル以下、二〇〇〇ヘルツの音につき一五デシベル以下、三〇〇〇ヘルツの音につき二〇デシベル以下にとどめることが期待できるものである。

(四) 諸外国における許容値

<証拠>を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) アメリカでは、OSHAが一九七四年(昭和四九年)一日八時間の連続騒音暴露の許容値を九〇ホンとし、暴露時間の半減に対して五ホン引上げる旨の基準を示した。

これは、一九七〇年に施行された労働安全衛生法に基づき、保健教育厚生省の国立労働安全衛生研究所が労働省に対し「職業性騒音暴露」と題する資料を提出したのを受けて、労働省が委員会を設置して騒音の許容基準について諮問し、その答申として得られたものであり、同法によれば、これに対する違反について、使用者が罰則を受けることがある。

なお、右基準の作成は、TTS仮説に基づいたものであり、後記EPAが許容基準を求めるについて用いた三つの職場騒音暴露に関する研究のうち、ロビンソンのもののみを採用し、他は問題があるとして採用していない。

右基準値は、四〇年間にわたつて暴露を受けても、集団の八〇ないし九〇パーセントの者につき会話域の聴力損失を防止することができるものである。

(2) そのほか諸外国における騒音の許容基準(同五六年一月時点)は別紙A④のとおりである。

(五) まとめ

前記第二の一項1(原告らの居宅の構造)、同4(その居宅から本件道路までの距離)、第四の二項2(本件道路端における騒音の実情――L50による一日平均値は七〇ホン前後で、夜間の平均値は六十数ホンである。)及び同4(原告らの居住地内における騒音の実情)の各事実(以下「本件道路騒音の実情」という。)、第五(原告らの被害認識)、第六(検証等の結果)、第七の一項1(アンケート調査)、同二項2(個人暴露量)及び右3(聴覚障害)(一)ないし(四)の各事実に、<証拠>を総合すれば、聴力保護のための騒音レベルの許容基準を設定するについては、その保護の目的とする聴力損失の範囲、その保護の対象とする集団の範囲、許容値に見積る安全幅の範囲などによつて相違があるが、各種機関や研究者などにより、ほぼ七〇ないし九〇ホンのレベルが推奨されているところ、これによれば、本件道路端において長時間かつ長期間にわたつてその騒音暴露を受けた場合、聴力に影響の生じるおそれがあるが、原告らの現実の生活における居住場所やその時間(外出や居宅内での生活時間など)を考慮すると、本件道路騒音によつて聴力に影響が生じたり、難聴になるなどのおそれは極めて低く、その蓋然性はほとんどないことが明らかであり、本件道路騒音と原告らの聴力に関する前記の愁訴との因果関係を認めることはできないものといわざるをえない。

4睡眠妨害

(一) 一般的知見

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) 睡眠の特徴と定義

睡眠は、感覚と反射の閾値の上昇による感覚及び運動性活動の停止によつて特徴づけられる。

しかし、その定義は困難であり、①「健康な成人に広くみられる活動様式である覚醒状態の周期的な一時的停止、または中絶である」、②「脳の機能として起こる有機体の生理的な活動水準低下状態」、③「相対的静止状態あるいは外来刺激に対する反応閾値が非常に上昇した状態で、繰り返しおこり、容易に元の状態に戻りうる状態」など様々である。

(2) 睡眠の程度

睡眠の程度・深度は、脳波、眼球運動及び筋電図の段階的変化により判定することができ、その変化から、覚醒、睡眠第一ないし第四段階及びレム睡眠に分類される。レム睡眠段階では、脳波は睡眠第一段階に類似するが、急速眼球運動の出現と筋電図の消失によつて特徴づけられ、その睡眠の程度は睡眠第二段階以上の深さに当ると考えられる。

(3) 睡眠時間

人間の睡眠時間については、一日約八時間が一般常識であるが、個人差があり、科学的・客観的な基準はない。

昭和四五ないし五五年の日本国民全体の平日の睡眠時間は平均八時間弱であるが、同三五年に比較して同五〇年には就寝時刻及び起床時刻ともに遅くなり、平日における国民の大多数の就寝時刻は午後一一時ないし同一一時三〇分であり、同五五年にもこの傾向は変化がない。

(4) 睡眠妨害

睡眠に対する騒音の影響は、各種の実験により、就眠妨害や覚醒のほか、睡眠深度を浅くし、睡眠中の血液や尿成分を変動させることが知られているが、その影響の意義は十分には解明されていない。

また、少数の者を対象とした実験の結果から、騒音の一般集団の睡眠に及ぼす作用や長期的作用についての結論を導くに当つては注意を要する。

しかしながら、睡眠は体力を回復させる過程であることを考慮すれば、騒音は睡眠のみにとどまらず、広く健康にとつて有害であるといえる。

騒音の影響については、次のことを考慮すべきである。

① 睡眠段階

音刺激に対する覚醒閾値は、睡眠段階によつて異なり、睡眠第一段階が最も小さな音刺激で覚醒し、次いで第二段階及びレム睡眠、第三、第四段階となる。

② 睡眠経過時間

音による覚醒閾値は、睡眠前半よりも後半の方が、同じ睡眠段階でも低い。

③ 個人差

睡眠段階は同じでも、刺激音に対する覚醒閾値には個人差があり、ある人は一五デシベルで覚醒するのに、他の人では一〇〇デシベルでも覚醒しないことがある。

④ 意味のある音

刺激音の大きさが同じであつても、その内容により覚醒するものとしないものがある。

⑤ 年令

老人は、睡眠時には若い人よりも騒音に対して敏感になり、小さな音でも覚醒する。

⑥ 性差

女性の方が男性よりも騒音に対しては敏感である。

睡眠妨害の原因は、外的なものとしては、騒音のほかにも、寝室の温度、湿度、光や気圧、季節などが関係し、内的なものとしては、個人的なストレス、心配事、ある種の暗示、病気などが関係するが、臨床的にみて、不眠を訴える原因としては、ノイローゼ、更年期障害、初老期のうつ状態などの精神的なものが多い。

(二) 各種アンケー卜調査

<証拠>を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) 本件沿道

ア 尼崎連合会調査

右調査は、尼崎市の本件沿道の住民らで組織された四三号線公害対策尼崎連合会が、同四八年同沿道の住民らに対して行つたアンケート調査である。本件国道からの距離が、一〇メートル以内でこれに面する家をA地域、それ以上五〇メートル以内をB地域、それ以上をC地域として、約五〇〇世帯を対象に自記式調査票を配付した。その回収数は、A地域一九三、B地域二二三、C地域二一であつた。

右調査結果によれば、「騒音や振動が気になつて、眠れなくて困つている。」旨の訴え率は、A地域が73.6パーセント、B地域が65.0パーセントであつた。

右調査結果の評価については、前記一1(アンケート調査)に照らし、その調査票の前文の記載、調査主体(四三号線公害対策尼崎連合会)の明記、質問文の記載内容(誘導)などに関して不適切な点のあることを指摘することができる。

なお被告らは、右の調査主体による調査では調査者誤差が避けられない旨を主張するが、調査主体と調査員とが異なる場合には、直ちに誤差が生じるとはいえないものである。

イ 西宮連合会調査

右調査は、西宮市の本件沿道の住民らで組織された四三号線公害対策西宮連合会が、同四八年同沿道の住民らに対して行つたアンケート調査であり、尼崎連合会調査と同内容のものである。約二三〇世帯に調査票を配布し、その回収数は一七二であつた。

右調査結果によれば、「騒音振動で眠れない」旨の訴え率は、A・B両地域合計で63.4パーセントであつた。

ウ 兵庫県四九年調査

右調査結果によれば、「騒音振動で眠れない」旨の訴え率は、本件道路端から一〇〇メートル以内のA地区では34.0パーセント、それより離れたB地区では6.3パーセントであつた。

エ 環境庁五〇年調査

右調査結果によれば、「睡眠が妨害される」旨の訴えと騒音の推定物理量とは、L50が七〇ホン以下の地域では平行する関係がみられたが、七〇ないし八〇ホンの地域では、六五ないし七〇ホンの地域に比較して右の愁訴がかえつて減少していた。

オ 野田調査

右調査結果によれば、「睡眠が妨害される」程度は、本件道路に近いほど高く、これから離れるにつれて徐々に減少する傾向がみられた。

(2) その他の地域

ア 「ある病院の入院患者に対する道路交通騒音の影響について」(嶋田調査)

右論文は、嶋田幸子らが同四二年東京都内の自動車交通量の多い道路に接する病院において、騒音を測定し、あわせて入院患者一三一名に対し調査票を配付して騒音被害の調査(嶋田調査)を行い、これを分析して同年発表したものである。

右調査結果によれば、朝・昼・夕の三回測定した病室内の騒音レベル(L50)は、道路から近い順に四五ないし五〇ホン、五〇ないし五五ホン、五五ないし六〇ホンであり、二四時間の測定では、日中には大差がなく、午後八時から午前六時までの間は道路に近い病棟が遠い病棟より一〇ないし二〇ホン高かつたが、いずれの病棟においてもほとんどの患者が何らかの睡眠妨害を訴えていた。

イ 相沢調査

右調査結果によれば、①睡眠妨害の訴え率と昼間の街頭の騒音レベル(L50)との関係は、五〇ないし五四ホンで40.0パーセント、五五ないし五九ホンで49.0パーセント、六〇ないし六四ホンで58.3パーセントと騒音レベルの上昇とともに高率となり、七五ないし七九ホンでは76.6パーセントに達し、②一般に昼間の騒音レベルが高いほど夜間のレベルも相対的に高く、長崎市内での相関係数は0.718を示し、③深夜の街頭の騒音レベルと右訴え率との関係は、四四ホン以下でほぼ三〇パーセント程度、四五ないし四九ホンで45.0パーセント、五〇ないし五四ホンでは35.6パーセントに減少するが、五五ホン以上で再び増加し、五五ないし六四ホンで四五ないし四九パーセント程度、六五ないし六九ホンで64.5パーセント、七〇ないし七四ホンでは80.0パーセントに達した。

ウ 「中小都市における都市騒音に関する調査研究第一報」(三浦第一調査)

右論文は、三浦創らが同四三、四四年佐賀市内の主要道路沿いの地域で街頭騒音を測定するとともに、各測定地点周辺の約二〇戸を対象に調査票を配付し(回答を得たもの二二一九戸、回収率90.4パーセント)、主として主婦から街頭騒音についての訴えを調査(三浦第一調査)し、これを分析して同四七年発表したものである。

右調査結果によれば、①街頭騒音レベル(L50)と睡眠妨害の訴え率の関係は、昼間(午前八時から午後三時まで)では、五九ホン以下で約四〇パーセント以下であるが、六〇ホンを超えると急増し、七〇ないし七五ホンでは七〇パーセントを上回り、②深夜(午後一一時から午前三時)では、四〇ないし四五ホンで約三五パーセントであるが、このレベル以上で急激に増加し、六五ないし七〇ホンでは八〇パーセントに近づいた。

エ 「深夜都市騒音の睡眠に及ぼす影響(第一ないし第三報)」(吉海調査)

右論文は、吉海公輔らが同四四年長崎市において、無作為抽出法により三五一地点を選定して深夜(午前零時ないし三時)の騒音を測定し、あわせて各地点付近で約一〇戸宛(原則として道路両側五戸宛、合計三四九三戸)の主として主婦を対象に質問紙法によつて都市騒音に対する住民反応の調査(吉海調査)を行い、これを分析して同四五、四六年に発表したものである。

右調査結果によれば、①睡眠妨害の訴え率は全体で31.8パーセントであり、②深夜の騒音レベル(L50)との関係では、四〇ないし四四ホンで約三〇パーセント、四五ないし四九ホンで約三七パーセント、五〇ないし五四ホンで約三三パーセント、五五ないし五九ホンで約四五パーセントと、ほぼ正の相関関係を示し、③住居地域では車線数の多い沿道の住民ほど訴え率が高く、商・準工・工業地域では車線数とかかわりなく訴え率は四〇パーセント以上であつた。また、吉海公輔らは中央値による深夜騒音規制は余り効果的ではなく、L5による規制の必要性を強調している。

オ 「中小都市における都市騒音に関する調査研究第三報」(三浦第三調査)

右論文は、三浦創らが同四五年唐津市内の沿道地域で街頭騒音を測定するとともに、各測定地点周辺の約二〇戸を対象に調査票を配付し、主として主婦から街頭騒音についての訴えを調査(三浦第三調査)し、これを分析して同四八年発表したものである。

右調査結果によれば、①街頭騒音レベル(L50)と睡眠妨害の訴え率の関係は、昼間(午前八時から午後四時まで)では、五五ホン以下で三〇パーセント以下、五五ないし六〇ホンで五〇パーセントを超え、六〇ないし六五ホンで四〇パーセント弱にやや減少し、六五ホンを超えると急増し、七五ないし八〇ホンでは八〇パーセントを超え、②夜間(午後一〇時から午前二時まで)では、五〇ホン以下でも三〇パーセント、五〇ホンを超えると急増した。

カ 新建築家調査

右調査は新建築家集団大阪支部が、同四七年大阪府内の阪神高速道路沿いの住民を対象に留置自記法により行つたものである。一七〇〇票を配付し、有効回収票は一五五九票であつた。

右調査結果によれば、「騒音・振動で眠れない」旨の訴え率を道路からの距離別にみると、二メートル未満で64.0パーセント、二ないし五メートルで68.7パーセント、五ないし一〇メートルで59.2パーセント、一〇ないし二〇メートルで59.4パーセント、二〇ないし三〇メートルで41.1パーセント、三〇ないし五〇メートルで80.1パーセント、五〇ないし一〇〇メートルで38.5パーセント、一〇〇メートル以上で39.4パーセントであり、五〇メートル以内が高率で、特に三〇ないし五〇メートルが極めて高率であつた。

キ 川崎市四九年調査

右調査結果によれば、よく眠れない旨の訴え率は、沿道地区の南平第二団地が38.0パーセント、宮前平グリーンハイツが17.3パーセント、対照地区の高山団地が13.9パーセント、白幡台住宅が9.9パーセントであつた。

ク 東京都五〇年調査

右調査結果によれば、「ねつきが悪い」旨の訴え率は、沿道地区では15.1パーセント、対照地区では4.8パーセント、「夜中によく目がさめる」旨の訴え率は、それぞれ19.1及び9.6パーセントであつたが、「いつも眠い。」旨の訴え率は、逆にそれぞれ5.4及び6.1パーセントであつた。また、「ねつきが悪い」旨の訴え率を道路からの距離別にみると、道路に直面が26.7パーセント、二五メートル以内が16.8パーセント、五〇メートル以内が10.6パーセント、七五メートル以内が11.9パーセント、それ以上が12.0パーセントであり、「夜中によく目がさめる」旨の訴え率は順次、27.8パーセント、23.4パーセント、15.0パーセント、16.1パーセント、12.0パーセントであつた。

ケ 村松調査

右調査結果によれば、睡眠妨害についての訴え率は、道路から五〇メートル未満の地区と一〇〇メートル以上の地区との間で有意差がみられなかつた。

コ 「道路交通騒音に対する住民の意識と生活上の対応について(第二報)」(鈴木調査)

右論文は、鈴木庄亮らが同五二年東京都台東区内の主要な道路の表通り及び裏通りにおける昼夜の騒音レベルを測定し、道路沿いの店舗住宅(特に商業を営むもの)に居住する主婦を対象に、騒音測定地点に近接する一〇軒以上の集合住宅の中から一〇〇〇世帯を無作為に抽出し、自記式調査票を配付して(有効回収率67.9パーセント)騒音等に関する調査(鈴木調査)を行い、これを分析して同五六年発表したものである。

右調査結果によれば、夜間の道路騒音レベル(L50)と睡眠妨害の程度は、52.5ないし57.5デシベルで、「ときどき」あるのが15.8パーセント、「ほとんどなし」が84.2パーセント、57.5ないし62.5デシベルで、「ひんぱん」にあるのが14.1パーセント、「ときどき」あるのが67.2パーセント、「ほとんどなし」が18.7パーセント、62.5ないし67.5デシベルで、全員が妨害を訴え、そのうち「ときどき」あるのが71.1パーセント、67.5ないし72.5デシベルで、同じく全員が妨害を訴え、そのうち「ひんぱん」にあるのが75.6パーセントに達した。

なお、右睡眠妨害の程度を示す「いつも」「ひんぱん」「ときどき」「ほとんどなし」の区別は、回数などにより客観的に定められたものではなく、もつぱら回答者の主観的な判断によるものである。

(三) 各種の実験・勧告等

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) 「騒音の睡眠に及ぼす影響について」

右論文は、大島正光らが二〇ないし三九才の四名の者を対象に、就寝時は午後一一時から午前零時まで、覚醒時は午前六時から同七時四〇分までの間に、日を変えて三〇、四〇、四五、五〇、六〇、七五フォンの音響刺激、三〇秒から五分まで三〇秒刻みの一〇種の間隔をあけて三秒間ずつ繰り返して負荷し、これを感知した被検者から電鍵を握つて応答させ、起床後に睡眠による機能回復程度を測定し、主観的な睡眠障害の程度等を質問し、これを分析して同三〇年ころ発表したものである。

右実験結果によれば、①音響刺激が強いほど入眠が妨げられ、覚醒が促進され、②音響刺激が強いほど、これに対する応答回数が増え、③音響刺激が強いほど、睡眠効果に関するフリッカーバリュー(その値の大きさにより疲労度を示す。)の値が有意に増大し、④入眠を妨害し、覚醒を促進する音響刺激は、四〇ないし四五フォン以上であると考えられた。

右実験結果の評価については、①睡眠妨害になる音響刺激としての四〇ないし四五フォンという数値は、実験室で得られたものであつて、これを直ちに現実の生活に当てはめることは誤りであり、現実の生活では右数値より大きい刺激が睡眠妨害になるものと考えられること、②右論文では、右数値を導き出した根拠が十分に示されていないことを指摘することができる。

(2) 「騒音の睡眠に及ぼす影響についてのポリグラフ的研究」

右論文は、斎藤和雄が正常聴力を有し、重篤疾患の既往症のない一八ないし二五才の健康な男子一〇名を対象に、防音室内で夜間に自然睡眠をとらせ、毎秒一五〇ないし三〇〇サイクルの低周波帯域雑音及び毎秒二四〇〇ないし四〇〇〇サイクルの高周波帯域雑音を、それぞれ一〇秒間四〇、五〇、六〇デシベルの音圧で、五段階の各睡眠深度(安静閉眼覚醒時を零度とし、非常に浅い第Ⅰ度から非常に深い第Ⅴ度まで区分する。)において暴露し、脳波や心電図を観察し、これを分析して同三八年発表したものである。

右実験結果によれば、①睡眠第Ⅰ度では、いずれの周波数及び音圧による暴露でも覚醒に至り、②睡眠第Ⅱ度では、高周波の方が低周波に較べて、また音圧の高いほど覚醒及び浅化の度合が大きく、③睡眠第Ⅲ度においては、第Ⅱ度と同じ傾向を示すが、四〇デシベルの低・高周波、五〇デシベルの低周波の暴露では覚醒までには至らず、④睡眠第Ⅳ度では、いずれの周波数及び音圧による暴露でも睡眠浅化が起こるが、覚醒までには至らず、⑤睡眠第Ⅴ度においては、四〇デシベルの低・高周波の暴露では睡眠浅化も起こらないが、その他は第Ⅳ度と同様であり、斎藤和雄は、夜間騒音の許容値は、低周波帯域雑音では六〇デシベル、高周波帯域雑音では五〇デシベルとするのが望ましい旨を結論づけた。

右実験結果の評価については、レム睡眠についての考慮がされていないことを指摘することができる。

(3) 「騒音の睡眠に及ぼす影響に関する実験的研究」

右論文は、長田泰公らが睡眠時間中継続する現実の騒音の影響を調べるため、一九、二〇才の健康な男子学生五名を対象に、あらかじめ録音した機械工場騒音及び道路交通騒音をそれぞれL50で四〇又は五五ホンで午前零時から同六時までの睡眠中に再生して暴露し、対照としてあらかじめ録音した白色騒音(いずれの周波数でも同量のエネルギーを持つ雑音)四〇ホンで再生して暴露し、又は無音の状態(ただし、二〇ないし二五ホンの暗騒音[背景の騒音]がある。)で睡眠をとらせ、脳波や脈搏数などを測定し、これを分析して同四三年発表したものである。

右実験結果によれば、①被検者のうち、三名は静かな地域に、二名は道路騒音のかなりある地域にそれぞれ居住しているが、全員が毎回よく眠れた旨を述べ、②統計的有意差をもつて騒音の影響がみられたのは、脳波と血中の好酸球数及び好塩基球数とにおいてであり、脈搏数、総白血球数、尿中のウロペプシン量についても騒音の影響により一定の傾向の変化を示したが、有意差はみられず、その他の尿中のホルモン及び精神電流反射には騒音の影響もみられず、③脳波の波形から判定した睡眠深度は、騒音によつて明らかに浅くなり、深度の平均値を計算してみると、無音の状態に較べて四〇ホンでもかなり浅くなり、四〇ホンに較べて五五ホンの方が、また工場騒音に較べて交通騒音の方がそれぞれ影響が大きく、④脈搏数の動揺は、無音の状態と交通騒音四〇ホンでは差がなかつたが、他の騒音では増加し、交通騒音五五ホンで最大であり、⑤好酸球数及び好塩基球数は睡眠によつて増加するものであるが、好酸球数については交通騒音及び工場騒音の四〇ホンによる暴露で増加傾向が抑制され、五五ホンでは逆に減少し、好塩基球数についても右とほぼ同様の傾向を示し、⑥尿中のウロペプシン量は睡眠中に減少するものであるが、五五ホンの騒音暴露ではそれが抑制された。

長田泰公らは、右論文において、右実験結果から、四〇ホンの騒音でも睡眠が妨害されること、四〇ホンよりも五五ホンの方がはるかに影響が大きいこと、血球数でみる限り白色騒音よりも現実の騒音の方が影響の大きいことが分かつたと結論づけ、従来の調査研究の結果を総合すれば、夜間の室内の騒音レベルが四〇ホンを超えることは好ましくなく、窓を開放する機会の多い夏季には戸外のレベルもこれ以下であることが望ましく、また、老人や病人については、より低いレベルが要求される旨を述べている。

右実験結果の評価については、①睡眠深度は、順位尺度であるから、その平均値を求めることは相当でなく、この手法を用いた右実験結果の分析方法には問題があること、②レム睡眠についての検討がされていないこと、③好酸球数及び好塩基球数の減少率の変動から、直ちに睡眠妨害ありという結論が導かれているが、その根拠については何ら述べられていないこと、④検査項目について有意差がみられなかつたものがあるのにこれらについての検討がされていないこと、⑤被検者はすべて主観的には睡眠妨害がなかつたとされているのに、これが評価されていないことを指摘することができる。

(4) 環境基準設定資料

生活環境審議会公害部会騒音環境基準専門委員会は、同四四年当時の知見を集めた騒音環境基準設定資料を作成した。

その中では、大島正光らの実験結果などから得た一五の資料をもとに騒音と睡眠妨害の関係がグラフに表われている。

そしてこれをもとに、同四六年五月二五日の閣議において、騒音レベルが四〇ホンになると、就眠時間の延長、覚醒時間の短縮、脳波や血液所見などからみた睡眠深度への影響などが出現するものと判断され、環境基準としては、屋内で四〇ホン以下を確保すべきものとして、夜間の屋外最高値をB地域で五〇ホン、A地域で四〇ホン、AA地域で三五ホンとする旨定められた。

(5) 「短時間の連続および断続騒音の睡眠に及ぼす影響」

右論文は、長田泰公らが睡眠時間中の連続音と断続音による影響の相違を調べるため、前回の実験(前記(3))とは暴露騒音の条件のみを異にし、睡眠中に三〇分に一回、2.5分間の連続音又は一〇秒間隔で一〇秒間ずつ一五回の断続音を、発振器を用いた音、白色騒音一二五ヘルツ又は三一五〇ヘルツの三分の一帯域騒音の三種で、四〇又は六〇ホンのレベルで組合わせて暴露し、他の条件は前回の実験と同様にして実験を行い、これを分析して同四四年発表したものである。

右実験結果によれば、①脳波の波形から判定した睡眠深度を、その平均値で比較すると、今回の平均深度は、前回における無音状態、白色騒音及び工場騒音よりも浅く、交通騒音に近似し、②覚醒期脳波の出現回数は、今回の方が前回のいずれの場合よりも多く、③脈搏数の動揺は、前回の交通騒音に匹敵し、④好酸球数及び好塩基球数の変化は、前回の交通騒音及び工場騒音の四〇ホンと五〇ホンの中間に当る影響を示し、⑤精神電流反射、総白血球数、尿中ホルモン量については、前回と同様有意差はみられず、⑥今回の騒音の種類の中では、四〇ホンよりも六〇ホンの方が影響が大きく、また、低音よりも高音、さらには白色騒音の方が影響が大きく表われた。

長田泰公らは、右論文において、右実験結果から、三〇分に一回ごと、暴露時間の合計が三〇分にすぎない騒音でも、六時間連続暴露と同程度の睡眠妨害をおこすことから、睡眠には連続した静かさが必要である旨を結論づけ、四〇ホンの騒音でも睡眠妨害になりうる旨の前回の実験による結論を変更する必要は認めない旨を述べている。

今回の実験結果の評価についても、前回の実験結果に対する評価の①ないし④と同旨の指摘をすることができる。

(6) 「列車および航空機騒音の睡眠への影響」

右論文は、長田泰公らが前回の実験(前記(5))で用いた発振器による間欠音を現実の間欠音に置き換えてその影響を調べるため、二〇才代の男子学生六名を対象に(ただし、うち一名は胃腸障害により実験を行わなかつた日がある。)、あらかじめ録音した新幹線列車の鉄橋通過音(持続時間約二〇秒)とジェット機の爆音(持続時間は、ピークレベルからマイナス一〇、二〇、三〇デシベルで各一二、三〇、六〇秒である。)を用いて、それぞれこれを睡眠前半用(最初の一時間は五分に一回、次の一時間は一〇分に一回、最後の一時間は二〇分に一回の割合で、間隔ランダムに音を配列した。)と睡眠後半用(前半用とは音の配列を逆にした。)の各三時間ずつの暴露音を編集し、被検者の耳の位置でのピークレベルが五〇又は六〇ホンになるように再生し、対照として発振器からのピンクノイズ(白色騒音をもとにして、定比周波幅の分析器を通したときの各バンドの出力が一定になるようにした雑音)を四〇ホンで睡眠前半及び後半に各三時間連続して再生し、各状況下で睡眠をとらせて脳波などを測定し、これを分析して同四七年発表したものである。

右実験結果によれば、①睡眠中の脈搏の変動については、騒音の種類やレベルとの間に一定の傾向を見出すことができず、②就寝後一時間までの脳波による平均睡眠深度の比較では、四〇ホンのピンクノイズ、五〇ホンの各騒音、六〇ホンの各騒音の順に浅くなる傾向が表われたが、有意差はみられず、③睡眠段階が十分深くなるまでに要する時間は右の順に有意に延長し、連続的な四〇ホンのピンクノイズに較べ、六〇ホンの各騒音では三、四倍になり、④血液中の総白血球数、好酸球数、好塩基球数の変動には、騒音の種類による差を見出しえず、⑤右の結果を先の実験結果(前記(3)、(5))と比較すると、脳波からみた一晩の平均睡眠深度は、無音状態の場合と有意差があり、他の四〇ないし六〇ホンの騒音暴露の場合と同程度か、より浅く、好酸球数と好塩基球数の変動率は、無音状態及び四〇ホン白色騒音の暴露の場合と有意差があり、長田泰公らは先の実験で得られたものと同程度又はそれ以上の睡眠妨害があつたと結論づけた。

今回の実験結果の評価についても、前記(3)の実験結果に対する評価の①ないし④と同旨の指摘をすることができる。

(7) 「列車騒音の睡眠妨害に関する実験的研究」

右論文は、長田泰公らが騒音レベルと睡眠妨害度の関係を調べるため、健康な男子六名を対象に、前回の実験(前記(6))と同様あらかじめ録音した列車騒音を、午後一一時から午前二時及び同三時から同六時までの間、二〇分間隔で二〇秒間継続し(一晩の暴露時間は合計六分間である。)、一晩ごとにピークレベルを四〇から八〇ホンまで一〇ホンずつ変化させて暴露し、対照として無音の状態(ただし、二〇ホン前後の暗騒音がある。)で睡眠をとらせ、脳波や脈搏数などを測定し、これを分析して同四九年発表したものである。

右実験結果によれば、①覚醒時の記憶に残つた限りで、睡眠中の騒音に気づいた回数は、平均2.7回であつたが、暴露レベルが高いほど多く、七〇及び八〇ホンでは四〇ホンに比較して有意差がみられ、②血中の好酸球数と好塩基球数の増加は四〇ホンの騒音によっても有意に抑制されたが、四〇ないし八〇ホンの間では有意差はみられず、③白血球数は七〇及び八〇ホンで無音状態よりも有意に減少がみられたが、赤血球の変化には騒音の影響がみられず、④脳波については、六〇ホン以上で明確な変化の出現率が増大し、五〇ホン以上で睡眠段階の浅化が検出された。

長田泰公らは、右論文において、右実験結果から、列車騒音が四〇ホンでも睡眠に影響を与え、レベル上昇とともにその影響が強まると結論づけた。

右実験結果の評価についても、前記(3)の実験結果に対する評価の①ないし④と同旨の指摘をすることができる。

なお、「新幹線騒音の睡眠影響に関する実験的研究」は、長田泰公による同旨の論文である。

(8) EPAのインフォメーション

右資料によれば、会話の聞き取り以外の活動(睡眠など)に対する妨害をもたらす騒音レベルを定量化することはできないとして、後記のとおり、会話妨害をもたらす騒音レベルから、屋内でLdn45ホン、屋外でLdn55ホンの値を導き出し、この屋外値は、一般的な住居内では、Ld45ホン、Ln32ホンとなるから、睡眠妨害も避けられるものであるとされている。

(四) まとめ

前記本件道路騒音の実情、第五(原告らの被害認識)、第六(検証の結果等)、第七の一項1(アンケート調査)、同二項4(睡眠妨害)(一)ないし(三)の各事実に、<証拠>を総合すると、睡眠妨害を避けるための騒音レベルの許容基準を設定するについては、各種の研究により、就眠妨害、覚醒、睡眠深度の浅化、睡眠中の生理的変化等が騒音の影響として生じることやその騒音レベルとの関係なども次第に解明されつつあるが、右影響のもつ意義の解明は未だ不十分であることから、睡眠妨害の内容や程度のとらえ方の相違により、許容される騒音レベルにも差異があり、各種機関や研究者などにより、夜間の屋外騒音レベルを、Leq三〇ないし四〇ホン、あるいは低周波六〇デシベル、高周波五〇デシベルなどの値が推奨されているところ、原告らの居宅内の騒音レベルは、最高で(本件道路に接する防音工事施工前の居宅で窓を開放した場合など)六〇ホン台、最低で(本件道路から離れた防音工事施行後の居宅で窓を閉鎖した場合など)約三〇ホン台であるとみられるから、原告らの中にはその睡眠をとる際の条件いかんでは、本件道路騒音によつて、睡眠に対する影響を受ける者のあることが明らかであり、原告らの睡眠妨害に関する前記の愁訴の中には、本件道路騒音との因果関係を認めることができるものもあるというべきである。

5その他の身体的影響

(一) 一般的知見

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) 身体的影響の内容

騒音の身体的影響としては、呼吸促進、脈搏数の増加、血圧の上昇、皮膚血管の収縮、冷汗、唾液や胃液の分泌減少、胃腸運動の抑制、胃潰瘍の発生率及び重症度の増加、瞳孔の拡大、副腎ホルモンの分泌増加、妊娠や出産への影響などが実験的に証明されているが、これらの一連の反応は、内臓の働きを調節する自律神経系が交感神経緊張に傾いた結果であり、騒音のみならず、寒さ、痛み、けが、精神緊張でもみられるものであつて、騒音が精神的心理的ストレスとして働く結果起こる非特異的・間接的な反応であり、ストレス反応である。

したがつて、精神的・心理的影響に関連しない騒音の物理的特性のみによる生理機能への影響を見出すことは極めて困難である。

右反応については、慣れの現象が顕著であるとするのが多数説であるが、反対説もある。

また、騒音の自律神経系に及ぼす影響は比較的小さく、統計的な有意差を生じるほどの変化とはなりえない旨の報告もある。

(2) 身体的影響の仕組

騒音の身体に対する非特異的影響としての自律神経系や内分泌系への作用(ストレス)の仕組については、次の三つが考えられる。すなわち、①聴覚の神経経路が間脳又は脳幹のレベルで自律神経や内分泌系の脊髄神経節に直接結合していることから、これを通して、一定レベル以上の音に対する身体の無条件防衛反応又は驚愕反射として、種々の器官に直接的に影響が及ぶもの、②高位の脳中枢において、聴覚神経によるうるささや煩わしさなどの心理的状態の結果として、間接的に自律神経や内分泌系に及んで行くもの、③聴覚系の高位の中枢が自律神経系と結合をもつているため、音又は騒音によつて暗示されるような音源が聞こえたとき、傷害を受けるであろうという恐れなどの認識が生じ、その結果として聴覚以外の系統の反応が起きるというものである。

(3) 身体的影響と健康への影響

騒音暴露により、呼吸数や脈搏数の変化などの生理的反応(ストレス)が一時的に引き起こされるが、この反応を連続すると、これが固定化し、回復不能な変化や永続的・慢性的な健康への影響を招くとする統一的な見解はない。すなわち、一方では、自律神経によつて媒介される騒音に対する無条件ストレス反応は、人に対して傷害を及ぼす危険性まではなさそうであると考えられているが、他方では、騒音が会話や睡眠を妨害し、これらの聴覚的影響からやかましさや怒りの感情が引き出される結果として、自律神経系の反応を活発化させ、一部の者にとつては生理的にストレスを与える可能性があり、これが反復されると不健康の原因となつたり、不健康を助長するとも考えられている。

右のとおり、騒音暴露は、それのみで、又は他のストレス源と結びついて、一般的ストレスを引き起こすと思われるが、その仕組やストレスを起こす騒音レベル(生理的影響についてはほぼ五〇ホン程度から実験的に証明されている。)や継続時間は十分には解明されていない。この点については、非聴覚疾患が騒音による聴力損失を発生させる騒音レベルよりも低いレベルで生ずることを示す十分に科学的な根拠はない旨の見解や睡眠や会話への妨害を与えないレベルにより、聴覚以外への影響も防止することができる旨の見解がある。

(二) 各種アンケート調査

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) 本件沿道

ア 尼崎連合会調査

右調査結果によれば、「排気ガスや騒音のために、健康をそこなうことがありますか。」という質問について、「耳なりや頭痛がした。」「体力がなくなり、病気にかかりやすくなつた。」「子供がよく鼻血を出す。」旨の回答率は、道路に直面するA地域では、いずれも四〇パーセント台であり、道路からほぼ一〇ないし五〇メートル離れたB地域では、いずれも三〇パーセント台である。

イ 西宮連合会調査

右調査結果によれば、右アの調査と同じ質問について、「耳鳴りや頭痛がした」「体力がなくなり病気がち」の肯定率は、A・B両地域を合わせて三〇パーセント台であり、「子供がよく鼻血を出す」旨の回答率は同じく8.7パーセントであり、いずれも右アの調査結果と比較して低率である。

ウ 兵庫県四九年調査

右調査結果によれば、動悸についての愁訴は道路端から一〇〇メートル以内のA地区に多く、罹病傾向や体調についての愁訴は同地区にわずかに多く、心臓疾患と診断されている者も同地区にやや多いが、血圧の変動には差異がなく、循環器、消化器及び神経系の愁訴については、一〇〇メートル以上離れたB地区との間に一貫した統一的傾向はなかつた。

エ 環境庁五〇年調査

右調査結果によれば、①「胃腸の具合が悪くなる」旨の愁訴率と騒音の推定物理量とは全部の地域で平行する関係がみられ、②「頭が重かつたり、痛かつたりする」旨の愁訴率と騒音の推定物理量とは、L50が七〇ホン以下の地域では平行する関係がみられたが、七〇ないし八〇ホンの地域では、六五ないし七〇ホンの地域に比較して右の愁訴がかえつて減少し、③対象者又はその家族が過去二年間に医師から特定の疾病があるとの診断を受けたことがある旨の回答率を、騒音の推定物理量のカテゴリー別に求め、x2検定により両者の関運を検討したところ、共通に有意であつたものは、「胃炎、腸炎」「低血圧」「神経性下痢症」「偏頭痛」などであり、④騒音の推定物理量が五六ないし六〇ホン及び六六ないし七〇ホンの地域で騒音と「胃炎、腸炎」「胃または十二指腸潰瘍」「低血圧」とに有意の関係がみられたが、六一ないし六五ホンのところでは有意の関係がみられなかつた。

オ 野田調査

右調査結果によれば、①「頭が重かつたり痛かつたりする」旨の質問項目について、「ひんぱんにある」「割合ひんぱんにある」「時々ある」旨の回答率は、道路からの距離区分により線形の傾向がみられ、②調査対象者及び家族の既往症の各疾病ごとの回答数(ただし、無回答者の数を除外した。)につき、道路から五〇メートル以内の地区と対照地区との間でx2検定をしたところ、「胃炎・腸炎」「胃または十二指腸潰よう」「低血圧症」「心臓神経症」「神経性下痢」「偏頭痛」「自律神経失調症」「ノイローゼ」に有意差がみられたが、道路からの距離に対する線形傾向はあまり明確ではなかつた。

右調査結果の評価については、右②につき、無回答率が対照地区につき0.101、本件道路から五〇メートル以内の地区につき0.229であるから、これを除外せずに検定を行えば結果が異なる旨の指摘をすることができる。

(2) その他の地域

ア 相沢調査

右調査結果によれば、昼間の街頭騒音レベル(L50)と身体的影響の愁訴率との関係は、五九ホン以下では3.3パーセント以下であつたが、六〇ないし六四ホンでは5.2パーセント、六五ないし六九ホンでは4.9パーセント、七〇ないし七九ホンでは6.5パーセントであつた。

イ 三浦第一調査

右調査結果によれば、身体情緒への影響についての訴え率は、昼間の屋外騒音レベルが六〇ホン以下では三十数パーセント以下であるが、六五ないし七〇ホンでは五十数パーセントであつた。

ウ 三浦第三調査

右調査結果によれば、身体情緒への影響についての訴え率は、昼間の屋外騒音レベルが五五ホン以下では二十数パーセント以下であるが、五五ないし六〇ホンで四十数パーセントに急増し、六〇ないし六五ホンで三〇パーセント以下に減少するが、それ以上で再び急増し、七〇ないし七五ホンでは六十数パーセントであつた。

エ 新建築家調査

右調査結果によれば、「排気ガスや騒音のために、健康をそこなうことがありますか。」という質問項目に対し、「耳なりや頭痛がした。」旨の愁訴は21.4パーセント、「体力がなくなり、病気にかかりやすくなつた。」旨の愁訴は20.4パーセントであつた。

オ 川崎市四九年調査

右調査結果によれば、「疲れやすい」及び「しばしば頭が重かつたり、痛かつたりする」旨の愁訴は、沿道地区の南平第二団地で78.1パーセント及び66.4パーセント、宮前平グリーンハイツで66.5パーセント及び37.7パーセント、対照地区の高山団地で56.9パーセント及び47.2パーセント、白幡台住宅で40.1パーセント及び31.7パーセントであつた。

また、過去一か月以内に受診した病気のうち、「胃腸病」「高血圧、心臓病」及び「ノイローゼ、不眠症」については、沿道地区の南平第二団地でそれぞれ8.0パーセント、5.1パーセント及び1.5パーセント、宮前平グリーンハイツでそれぞれ6.8パーセント、3.1パーセント及び2.5パーセント、対照地区の高山団地でそれぞれ4.2パーセント、6.9パーセント及び零パーセント、白幡台住宅で4.9パーセント、5.6パーセント及び零パーセントであつた。

カ 東京都五〇年調査

右調査結果によれば、「頭痛がする」旨の愁訴率の道路からの距離別(道路に直面、それ以上二五メートル以内、それ以上五〇メートル以内、それ以上七五メートル以内、それ以上)区分は、それぞれ17.8パーセント、11.4パーセント、16.3パーセント、15.3パーセント、12.0パーセントであり、「頭が重かつたりボンヤリする」旨の愁訴率は同じく、それぞれ18.9パーセント、10.3パーセント、10.0パーセント、11.0パーセント、8.4パーセントであり、いずれも一部を除いてほぼ道路に近いほど高率を示しているものといえるが、「疲れやすい」旨の愁訴率は同じく、12.2パーセント、13.0パーセント、16.3パーセント、13.6パーセント、21.7パーセントであり、一部を除いて道路から遠いほど高率を示し、「鼻血が出やすい」「体がだるい」「胃腸の調子が悪い」「食欲がない」「いつも眠い」などの愁訴率は、道路からの距離にあまり関係がないと思われた。

また沿道地区と対照地区の比較では、「血圧が高い」「血圧が低い」「頭痛がする」については、沿道地区がわずかに高率であるが、大差がなく、「頭が重かつたりボンヤリする」「体がだるい」「胃腸の調子が悪い」「食欲がない」については、対照地区がわずかに高率であり、「疲れやすい」については、沿道地区(15.0パーセント)より対照地区(20.7パーセント)の方が高率であつた。

キ 村松調査

右調査結果によれば、心血管系、消化器系及び疲労についての訴え率は、道路までの距離が五〇メートル未満の地区と一〇〇メートル以上の地区との間で五ないし一パーセントの危険率をもつて有意差がみられた。

(三) 各種の実験

<証拠>によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) 「間欠的騒音に対する生理的反応における性と年令の影響」

右論文は、長田泰公らが二〇才代と四〇才代の男女各五名合計二〇名を対象に、五分に一回の航空機騒音、五分に一回の列車騒音、三分の休止をおいて七分間持続する毎秒一回のパイルハンマー打撃音をピークレベル七〇及び九〇ホンで九〇分間暴露し、対照としてピンクノイズ連続音を五〇及び六〇ホンで暴露し、脈搏数の変化などを測定し、これを分析して同四七年発表したものである。

右実験結果によれば、①脈搏数の変動、指尖光電プレチスモグラムに表われた血管収縮回数、白血球数の増加、好酸球と好塩基球数の減少、尿中のアドレナリン、ノルアドレナリン、ウロペプシンの増加など、騒音による交感神経の緊張と下垂体・副腎系の刺激状態とは、男子よりも女子に、二〇才代よりも四〇才代に強く表われたが、②精神電流反射出現回数のみについては、右とは逆になつた。

(2) 「騒音の低レベル長時間曝露による生理的影響」

右論文は、長田泰公らが一九ないし二四才の健康な男子学生六名を対象に、録音した現実の道路交通騒音を、暗騒音約三五ホンの室内において、L50で四〇、五〇、六〇ホンの低レベルで再生し、片耳に装着したイヤホンを介して二時間又は六時間暴露し、心理テストやフリッカー値などを測定し、これを分析して同四八年発表したものである。

右実験結果によれば、①二時間ごとのフリッカー値(大脳新皮質の興奮水準の指標となる。)は、六時間で徐々に低下する傾向がみられたが、騒音レベルによる差はみられず、二時間のみ暴露の際には二時間目以降にむしろ上昇がみられ、②白血球数は六〇ホンで有意に増加がみられたが、暴露時間による差は検出されず、③好酸球数は六〇ホンの六時間暴露で減少後の回復に有意な遅れがみられ、④尿中の一七―OHCS(副腎皮質ホルモン有効成分コルチンの作用を現わす物質)は、四〇ホンの六時間暴露での増加が最も大きく、六〇ホンの六時間暴露ではかえつて増加が抑制され、⑤尿中ノルアドレナリンも右に似た変化傾向を示したが、⑥心理テストとしての図形数え法の成績、好塩基球数の変動、尿中アドレナリン量には有意な変化がみられなかつた。

長田泰公らは、右の結果から、①血球数への影響の出現閾は五〇ホンと六〇ホンの間にあること、②二時間暴露よりも六時間暴露の影響の方が大きいこと、③副腎皮質は騒音によつて刺激されるが、ある負荷レベルを越えるとかえつて抑制されることを結論づけた。

右実験結果の評価については、①騒音の影響が見出されなかつた検査項目についての検討がなされていないこと、②有意差がみられた検査項目から直ちに健康に対する侵害を認めることはできないことを指摘することができる。

(3) 「交通騒音(還状七号線における)の実際のひばくによる生体反応の検討」

右論文は、前記3(聴覚障害)(三)(7)に掲記のものであるが、その実験結果によれば、①窓を開放した状態(L50で七〇ホン前後)において、I小では六名中二名に収縮期血圧の上昇がみられ、S出では、六名中一名に暴露初期にやや血圧の上昇がみられ、全体としては暴露開始二時間目ころから上下の変動が目立つたが、窓を閉鎖した状態(L50で五〇ホン前後)においては、大きな変動はみられず、②心拍数では、窓の開放時が閉鎖時に比べて多かつた。

(四) まとめ

前記本件道路騒音の実情、第五(原告らの被害認識)、第六(検証の結果等)、第七の一項1(アンケー卜調査)、同二項5(その他の身体的影響)(一)ないし(三)の各事実に、<証拠>を総合すれば、各種の研究により、騒音が様々な生理的影響をもたらすことが知られているものの、その仕組や健康への影響などについては未だ十分に解明されておらず、本件道路騒音と原告らの健康に関する前記の愁訴との因果関係は明らかではないといわざるをえない。

6精神的影響

(一) 一般的知見

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

騒音は、さわがしい、うるさい、気分がいらいらする、不愉快になる、腹が立つなどの情緒的な不快感を与えるものである。

騒音による生理的影響は、そのほとんどが騒音の精神的・情緒的影響の反映であるとも考えられている。

騒音による不快感は、騒音レベルや騒音の高さの上昇により増大し、定常騒音よりも騒音の強さや周波数構成の変動が多いほど増大するほか、個人的な要因、作業との関係、社会的関係などにより複雑に変化する。

住民反応のうち、「高度に不快」を訴える人の割合(Hパーセント)と諸機関へ苦情の申立をする人の割合(Cパーセント)との関係につき、EPAは次の数式を採用している。

しかしながら、気分がいらいらする、怒りつぽく不愉快になつたりする、絶えず倦怠感や疲労感を覚えるなどの不快感は、人間関係のストレス、更年期障害、自律神経失調、肝臓病などによつても起こりうるものである。

(二) 各種アンケート調査

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) 本件沿道

ア 尼崎連合会調査

右調査結果によれば、「いらいらして、家庭内でよくトラブルが起こつたりする。」旨の訴え率は、道路に直面するA地域では35.2パーセント、道路からほぼ一〇ないし五〇メートルのB地域では29.1パーセントであつた。

イ 西宮連合会調査

右調査結果によれば、右アと同旨の訴え率は、A・B両地域を合わせて39.5パーセントであつた。

ウ 兵庫県四九年調査

右調査結果によれば、「いらいらして落ち着かない日が多い」旨の訴え率は、道路端から一〇〇メートル以内のA地区で30.3パーセント、それより離れたB地区で11.3パーセントであつた。

エ 環境庁五〇年調査

右調査結果によれば、騒音がうるさい旨の訴え率は、L50が七〇ホン以下の地域では騒音の推定物理量と平行する関係がみられたが、七〇ないし八〇ホンの地域では、六五ないし七〇ホンの地域に比較して右の愁訴がかえつて減少していた。

オ 野田調査

右調査結果によれば、「気分がいらいらする」旨の質問項目について、「ひんぱんにある」「割合ひんぱんにある」「時々ある」旨の回答率は、道路からの距離区分に応じて線形の傾向がみられた。

(2) その他の地域

ア 嶋田調査

右調査結果によれば、外部からの騒音の影響で「気分がいらいらする」旨の回答率は、室内の騒音レベルが四五ないし五〇ホンの病棟で八パーセント、五〇ないし五五ホン、五五ホンないし六〇ホンの各病棟で一五パーセントであり、「腹がたちやすい」旨の回答率は、四五ないし五〇ホンで三パーセント、五〇ないし五五ホンで七パーセント、五五ないし六〇ホンで八パーセントであり、「不愉快になる」旨の回答率は、四五ないし五〇ホンで五パーセント、五〇ないし五五ホンで二パーセント、五五ないし六〇ホンで二三パーセントであつた。

イ 相沢調査

右調査結果によれば、「腹が立ち易い」旨の訴え率と昼間の街頭の騒音レベル(L50)との間には相関関係がみられ、五四ホン以下では24.9パーセント以下であるが、五五ないし六四ホンで三〇パーセント台、六五ないし七九ホンでは四〇パーセント台であつた。

また、「たえられぬほどさわがしい」「非常にさわがしい」「さわがしい」旨の訴え率についても同様の関係がみられ、四四ホン以下で20.8パーセント、四五ないし五四ホンで三〇パーセント前後、五五ないし五九ホンで45.0パーセント、六〇ないし六四ホンで57.7パーセント、六五ないし六九ホンで69.5パーセント、七〇ないし七九ホンで八〇パーセント前後であつた。

ウ 三浦第一調査

右調査結果によれば、「腹がたちやすい」旨の訴え率は、道路の幅員や地域の別による差は大きくなく、いずれの地域でも約五〇パーセントであつた。

エ 三浦第三調査

右調査結果によれば、「腹がたちやすい」旨の訴え率は、道路の幅員や地域の別による差は大きくなく、いずれの地域でも七〇ないし八〇パーセント台であつた。

オ 新建築家調査

右調査結果によれば、「排気ガスや騒音のために、健康をそこなうことがありますか。」という質問項目に対し、「いらいらして、ノイローゼ気味だ。」との訴え率は全体で38.3パーセントであつた。

カ 川崎市四九年調査

右調査結果によれば、「気持がイライラする」旨の愁訴は、沿道地区の南平第二団地で54.0パーセント、宮前平グリーンハイツで31.5パーセント、対照地区の高山団地で43.1パーセント、白幡台住宅で21.8パーセントであつた。

キ 東京都五〇年調査

右調査結果によれば、「気分がイライラして落ちつかない」旨の愁訴率は、沿道地区で7.1パーセント、対照地区で2.9パーセントであり、沿道地区を距離別にみると、道路に直面する地区が28.9パーセント、道路からそれ以上二五メートル以内の地区が14.7パーセント、それ以上五〇メートル以内の地区が11.9パーセントであり、道路に近いほど高率であつた。

ク 村松調査

右調査結果によれば、イライラや立腹しやすいなどの精神的影響についての訴え率は、道路からの距離が、五〇メートル未満、五〇ないし一〇〇メートル未満、一〇〇メートル以上の各地区の間で有意差はみられない。

(三) まとめ

前記本件道路騒音の実情、第五(原告らの被害認識)、第六(検証の結果等)、第七の一項1(アンケート調査)及び同二項6(精神的影響)(一)、(二)の各事実に、<証拠>を総合すると、騒音に対する不快感・情緒的影響は、個人差や地域的相違があるが、各種の調査によれば、室内の騒音レベルが三五ホンから五〇ホン台で過半数の人々がこれを訴えているものであるから、本件道路騒音によつても右影響が生じることが明らかであり、原告らの精神的影響に関する前記の愁訴の中には、本件道路騒音との因果関係を認めることができるものもあるというべきである。

7会話等の聴取妨害

(一) 一般的知見

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

① 騒音があるとマスキング(遮へい)により音声の聞き取りが困難になる。

騒音下における会話の聞き取りは、声の大きさ、背景騒音レベル及び会話距離の三要因によつてほぼ決定される。

② 音声の聞き取りについては、発生・伝送された音節又はそれを構成している単音、子音、母音の正しく聴取される割合をもつて示される「明瞭度」と発生・伝送された章句又は単語の正しく聴取される場合をもつて示される「了解度」により評価することができるが、同一の騒音下では後者は前者よりも高率を示す。

明瞭度の試験(検査)については、同三二年日本音響学会明瞭度委員会により「明瞭度試験法の規準」が発表され、今日でもこれに準拠して検査を行うのが妥当であるとされている。しかし右「規準」の百音節表を用いての検査は、熟練者を対象としない場合には誤つた正答率の出る危険性があるので、小学生などを対象とする場合には五〇音節表を用いる方が望ましい。

③ 会話妨害レベル(SIL)は、会話の理解を妨げる騒音の影響の大きさを定量的に示すものであり、一般にその妨害音の中心周波数五〇〇ヘルツ、一〇〇〇ヘルツ及び二〇〇〇ヘルツにおける音圧レベルの算術平均値をもつて表わされる。それは、定常騒音に対しての会話妨害度を示す尺度としては、かなりよく実態と対応しているが、変動騒音に対しては、さらに検討の余地がある。

会話妨害レベルについては、一般に1.2メートルの距離で普通の大きさの声による日本語の会話では、会話妨害レベル五六デシベル(騒音レベルで約六三ホン)の騒音により、その明瞭度は約九〇パーセントになり、同じく3.7メートルでは、約五三ホンの騒音により同程度の明瞭度になるとされている。

(二) 各種アンケート調査

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) 本件沿道

ア 尼崎連合会調査

右調査結果によれば、「騒音のために、話し声や電話の声が聞こえにくい。」旨の訴え率は、本件道路に直面するA地域では61.7パーセント、本件道路からほぼ一〇ないし五〇メートル離れたB地域では37.2パーセントであつた。

イ 西宮連合会調査

右調査結果によれば、右アの調査と同旨の訴え率は、A・B両地域を合わせて53.5パーセントであつた。

ウ 兵庫県四九年調査

右調査結果によれば、「話し声・電話が聞こえにくい」旨の訴え率は、道路端から一〇〇メートル以内のA地区では29.3パーセント、それより離れたB地区では2.0パーセントであつた。

エ 環境庁五〇年調査

右調査結果によれば、「電話や会話がじやまされる」「テレビやラジオの音が聞きとりにくい」旨の各訴え率と騒音の推定物理量とは、L50が七〇ホン以下の地域では平行する関係がみられたが、七〇ないし八〇ホンの地域では、六五ないし七〇ホンの地域に比較してかえつて減少していた。

オ 野田調査

右調査結果によれば、「電話や会話がじやまされる」「テレビやラジオが聞きとりにくい」旨の各質問項目について、「ひんぱんにある」「割合ひんぱんにある」「時々ある」旨の回答率は、道路からの距離区分により線形の傾向を示した。

(2) その他の地域

ア 「街頭騒音の学習におよぼす影響」(熊谷調査)

右論文は、熊谷三郎らが同三一年大阪市内の学校において、教室内の騒音レベルの測定、質問紙法による騒音被害意識の調査、クレペリン連続加算試験、聴取明瞭度試験を行い、これを分析して同三二年に発表したものである。

右調査結果によれば、言語聴取に対する障害の訴え率は、教室内の騒音レベルが五五ホン以上になると全回答者の五〇パーセント以上に達する。

イ 嶋田調査

右調査結果によれば、会話について「別に妨げとならない」旨の回答率は、室内騒音レベルが四五ないし五五ホンの病棟では九〇パーセント前後であるが、五五ないし六〇ホンの病棟では三九パーセントであり、右病棟では、「大声で話しても聞こえない」旨の回答率が三パーセント、「普通の声でも聞きとれない」旨の回答率が六パーセント、「小さな声では聞きとれない」旨の回答率が五二パーセントであつた。

ウ 相沢調査

右調査結果によれば、昼間の街頭騒音レベル(L50)と会話につき「大声で話しても聞きとれない」「普通の声では聞きとれないので大声で話す」旨の訴え率との関係は、五九ホン以下では16.5パーセント以下であるが、六〇ないし六四ホンでは26.0パーセント、六五ないし六九ホンでは31.4パーセント、七〇ないし七九ホンでは四六パーセント台であり、ラジオやテレビにつき「非常に音を大きくして聞かなければ聞こえない」「普通よりやや大きい程度でよい」旨の回答率との関係は、四九ホン以下では23.3パーセント以下、五〇ホン台では三〇パーセント台、六〇ホン台では五〇パーセント台、七〇ホン台では七〇パーセント台であつた。

エ 三浦第一調査

右調査結果によれば、会話妨害、テレビ・ラジオの聴取妨害のほか読書・思考への妨害を含む日常生活妨害の訴え率は、昼間の屋外騒音レベルが五五ないし六〇ホンのレベルまでは約二〇パーセントであるが、六〇ホン以上で急増し、六〇ないし六五ホンで三〇パーセントを超え、七〇ないし七五ホンで五十数パーセントであつた。

オ 三浦第三調査

右調査結果によれば、右エの調査と同内容の日常生活妨害の訴え率は、昼間の屋外騒音レベルが五〇ないし五五ホンのレベルまでは約一〇パーセントであるが、五五ないし六〇ホンでは急増して二十数パーセント、六〇ないし六五パーセントではやや減少して約二〇パーセント、それ以上で再び急増して七〇ないし七五ホンでは五〇パーセントを超えた。

カ 新建築家調査

右調査結果によれば、「話し声、電話がきこえにくい」旨の訴え率を道路からの距離別にみると、二メートル未満で27.0パーセント、二ないし二〇メートルで三〇パーセント台、二〇ないし三〇メートルで12.3パーセント、三〇ないし五〇メートルで42.1パーセント、五〇ないし一〇〇メートルで15.4パーセント、一〇〇メートル以上で39.4パーセントであり、その相関関係は明らかではなかつた。

キ 東京都五〇年調査

右調査結果によれば、「電話や人の話し声がききとりにくい」旨の訴え率は、沿道地区が10.1パーセント、対照地区が2.2パーセント、沿道地区のうち、道路に直面する地区が34.4パーセント、それ以上二五メートル以内の地区が13.6パーセント、それ以上の地区が3.6パーセント以下であり、「テレビ、ラジオ、ステレオなどの音が聞こえない」旨の訴え率は、沿道地区が15.6パーセント、対照地区が5.1パーセントであり、沿道地区のうち、道路に直面する地区が44.4パーセント、それ以上二五メートル以内の地区が14.1パーセント、それ以上の地区が12.0パーセント以下であつた。

ク 鈴木調査

右調査結果によれば、会話等の聴取のほか読書・学習を含む日常生活妨害のいずれかが、「いつも」、「ひんぱん」に、「ときどき」ある旨の回答率の合計は、道路騒音レベル(L50)が62.5ホン以下では三〇パーセント程度であるが、それ以上67.5ホン以下では約七〇パーセント、それ以上72.5ホン以下では九〇パーセント弱であつた。

(三) 各種の勧告・実験等

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) 環境基準設定資料

右資料の中では、小林陽太郎らの実験結果やISOの提案など四つの資料をもとに騒音と会話妨害度の関係がグラフに表わされている。

右グラフによれば、騒音レベルが約五五ホンで、聴取明瞭度は七〇パーセント弱、普通会話可能距離は二メートル弱になり、騒音レベルが六〇ホン強で、それぞれ六〇パーセント及び一メートルになることを読み取ることができる。

(2) EPAのインフォメーション

右資料によれば、①音声レベルは、室内では約1.1メートル以上の距離をおくと、壁などによる反射の効果により、部屋中でほぼ一定であるから、屋内で一〇〇パーセントの文章了解度の得られるくつろいだ声による会話をするための最高騒音レベルはLeq四五ホン(屋外騒音レベルはLeq六〇ホン)、同じく普通の声による会話をするための最高騒音レベルはLeq約六五ホン(屋外騒音レベルはLeq約八〇ホン)であり、②屋外の二メートルの距離で九五パーセントの文章了解度の得られる普通の会話をするための最高騒音レベルはLeq六〇ホンであり、③通常の会話には、重複などがあるから、九五パーセントの文章了解度をもつてほぼ十分であるが、④会話伝達を保護するためには、屋内ではLeq四五ホン以下、屋外ではLeq五〇ホン以下を確保するのが適切であるところ、会話の聞き取り以外の有害な影響への安全幅として屋外の最高騒音レベルからさらに五ホン減じ、住宅地域などの屋内騒音値Ldn四五ホン、屋外騒音値Ldn五五ホンを提案した。

(3) 熊谷調査

その聴取明瞭度試験は、七つの小、中及び高等学校の教室(五秒間隔、五分間測定の平均値による騒音レベル四五ないし六〇ホン)で百音節表を用いて行われたが、その結果によれば、五五ホン以上の教室においては、特に後方の席で明瞭度が相当低下することが予想された。

(4) 兵庫県四九年調査

右調査において、道路端から一〇〇メートル以内のA地区とそれより離れたB地区で、その地区を代表すると考えられる場所(屋外又は窓を開放した室内)で聴取能力の測定が行われたが、数字聴取能力については、六〇ホンの音声では芦屋、西宮、尼崎の全市で、七〇及び八〇ホンの音声では西宮市で、いずれも一パーセントの危険率をもつて有意差がみられ、五〇音聴取能力については、六〇及び七〇ホンの音声では全市で、八〇ホンの音声では芦屋市で、いずれも同危険率をもつて有意差がみられた。

右測定場所については、暗騒音として本件道路騒音以外に小学生や幼児の声などの影響がみられたものもあつた。

同調査では、右測定結果から「騒音地域の屋外又は窓を開放した室内では七〇デシベル以上の強さがなければ聴取は不可能である」「騒音地区住民は、会話に相当な不自由を感じていると想像される。」旨まとめているが、この点に関しては、明瞭度試験の結果のみから直ちに会話妨害の発生及びこれが発生する騒音レベルを結論づけることはできない旨の指摘をすることができる。

(四) まとめ

前記本件道路騒音の実情、第五(原告らの被害認識)、第六(検証の結果等)、第七の一項1(アンケート調査)及び同二項7(会話等の聴取妨害)(一)ないし(三)の各事実に、<証拠>を総合すると、騒音の会話やテレビ・ラジオ等の音声などの聴取に対する影響は、室内ではその騒音レベルが四〇ホン以下ではほとんど無視することができるが、これを超えると徐々に影響が増大し、五〇ないし六〇ホン台で支障が生じるものであり、原告らの中にはその時間帯や居宅の条件いかんでは、本件道路騒音によつて、会話等の聴取に支障を生じる者があることが明らかであり、原告らの会話等の聴取妨害に関する前記の愁訴の中には、本件道路騒音との因果関係を認めることができるものもあるというべきである。

8思考等の妨害

(一) 一般的知見

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) 人間が精神的・肉体的作業を行う上で騒音が及ぼす影響について多数の実験的検討が進められているが、その多くは実験室において条件を固定して行われたものであり、実際の生活環境の作業条件の下で実証的に進められたものは少ない。

また作業内容には、高度な精神活動から単純な繰り返しの軽作業に至るまで多様化がみられ、作業を行う個人の能力や騒音に対する反応の仕方にも大差があることなどから、現段階では、作業能率など作業に関する評価尺度について、数量化して表現することは困難とされている。

(2) これまでの実験結果から、一般的にほぼ次のことがいえる。

① 間欠騒音や衝撃騒音は、定常騒音に比べて妨害が大きい。

② 無意味定常騒音は、音圧レベル九〇デシベルを超えない限り、作業能率には大した影響を及ぼさない。

③ 低周波の騒音により二〇〇〇ヘルツを超える高周波をもつ騒音の方が、作業能率に影響を及ぼす。

④ 騒音は、全体の作業量よりも、作業の正確さの方に多く影響を及ぼす。

⑤ 情報の収集や判断などを含む作業は、事前に手順の分かつている作業に比べ、騒音の影響を受けやすい。

しかしながら、作業能率に対する騒音の影響については、物理的にせよ心理的にせよ、明らかな因果関係を持つ数量的変量がまだ抽出されていない。

(二) 各種アンケート調査等

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) 本件沿道

ア 尼崎連合会調査

右調査結果によれば、「考えごとや、仕事、勉強ができない。」旨の訴え率は、道路に直面するA地域では43.5パーセント、道路からほぼ一〇ないし五〇メートル離れたB地域では30.9パーセントであつた。

イ 西宮連合会調査

右調査結果によれば、右アの調査と同旨の訴え率は、A・B両地域を合わせて35.5パーセントであつた。

ウ 兵庫県四九年調査

右調査結果によれば、「考え事、仕事、勉強ができない」旨の訴え率は、道路端から一〇〇メートル以内のA地区では19.3パーセント、それより離れたB地区では2.0パーセントであつた。

エ 環境庁五〇年調査

右調査結果によれば、「考えごとや読書がじやまされる」旨の訴え率と騒音の推定物理量とは、L50が七〇ホン以下の地域では平行する関係がみられたが、七〇ないし八〇ホンの地域では、六五ないし七〇ホンの地域に比較してかえつて減少していた。

オ 野田調査

右調査結果によれば、「考えごとや読書がじやまされる」旨の質問項目について、「ひんぱんにある」「割合ひんぱんにある」「時々ある」旨の回答率は、道路からの距離区分により線形の傾向を示した。

(2) その他の地域

ア 「京都市内小、中学校教室の騒音調査ならびに教室内騒音の許容値について」

右論文は、佐々木武史が同二八、二九年京都市内の小、中学校で、教室内の騒音レベルを測定し、学習の妨害や情緒影響などのアンケート調査を行い、これを分析して同三〇年発表したものである。

右論文では、授業時の教室内騒音の平均レベルが五五ホンを超えると、迷惑度が顕著に上がるとし、授業時の教室内騒音の許容値を平均五五ホンとする旨結論づけている。

イ 熊谷調査

右調査結果によれば、①意思及び情緒に対する障害として、騒音により先生の話を落着いて聞けないことがある旨の訴え率は、教室内の騒音レベルが五五ホン未満では五〇パーセント弱、五五ホン以上では69.3パーセント、騒音により、試験問題や作文を考えるのがいやになることがある旨の訴え率は、五五ホン未満では四〇パーセント前後、五五ホン以上では56.3パーセントであり、②精神作業に対する障害として、騒音により算数の計算を間違えることがある旨の訴え率は、五五ホン未満では二〇パーセント強、五五ホン以上では三〇パーセント強であつた。

また、そのクレペリン連続加算試験の結果によれば、騒音レベル四五ないし六〇ホンの各教室において、作業量、誤謬率、休憩効果率のいずれについても有意差はみられなかつた。

ウ 相沢調査

右調査結果によれば、読書・思考妨害(「非常にじやまになる」「かなりじやまになる」の合計)の訴え率と昼間の街頭の騒音レベル(L50)との関係は、五四ホン以下で一〇パーセント台、五五ないし五九ホンで25.9パーセント、七〇ないし七四ホンで57.9パーセントであつた。

エ 三浦第一調査

右調査結果による読書・思考のほか会話等の聴取を含む日常生活妨害のいずれかについての訴え率は、前記7(会話等の聴取妨害)(二)(2)エのとおりである。

オ 三浦第三調査

右調査結果による読書・思考のほか会話等の聴取を含む日常生活妨害のいずれかについての訴え率は、前記7(二)(2)オのとおりである。

カ 新建築家調査

右調査結果によれば、「考えごと、仕事、勉強ができない」旨の訴え率を道路からの距離別にみると、一〇メートル未満で三〇パーセント前後、一〇メートル以上三〇メートル未満で二五パーセント前後、三〇メートル以上五〇メートル未満で35.5パーセント、五〇メートル以上一〇〇メートル未満で18.2パーセント、一〇〇メートル以上で24.2パーセントであり、その相関関係は明確ではなかつた。

キ 村松調査

右調査結果によれば、思考判断が妨げられる旨の訴え率は、道路から五〇メートル未満の地区と一〇〇メートル以上の地区との間で一パーセントの危険率をもつて有意差がみられた。

ク 鈴木調査

右調査結果による読書・学習のほか会話等の聴取を含む日常生活妨害のいずれかについての訴え率は、前記7(会話等の聴取妨害)(二)2クのとおりである。

ケ 「鉄軌道騒音慢性暴露が児童の思考活動に及ぼす影響について」

右論文は、横尾能範らが鉄軌道騒音慢性暴露の影響を調査するため、神戸市内の鉄軌道沿いにある小学校と鉄軌道騒音とは無関係な小学校とにおいて、録音した電車の通過音を再生暴露して精神作業(発問に対する回答)との関係を調査し、これを分析して同五六年二月発表したものである。

右実験結果によれば、①慢性騒音暴露校では、いずれも教室中央の測定レベルで、発問より五ホン低い騒音によつて、作業量の減少がみられたが、対照校では、発問より五ホン高い騒音によつて、初めて作業量の減少がみられ、②課題そのものは完全に聞き取れるように発問した直後の思考中に騒音を負荷した成績では、慢性暴露校児童のみに、八〇ホン負荷において作業量の減少がみられた。

横尾能範らは、右の結果から、鉄軌道沿いに立地する学校の児童が被る騒音の影響として、授業音声がマスキングされる以外に、聞き慣れた騒音によつて、かえつて精神作業の円滑な遂行が阻害される精神活動上の習慣が形成される場合のあること、すなわち、慣れて騒音が気にならなくなる反面で、無意識のうちに集中力、意欲等が失なわれるもののある可能性を提起した旨結論づけた。

(三) まとめ

前記本件道路騒音の実情、第五(原告らの被害認識)、第六(検証の結果等)、第七の一項1(アンケート調査)及び同二項8(思考等の妨害)(一)、(二)の各事実に、<証拠>を総合すれば、各種の調査によつて、騒音レベルが五〇ホン台で作業能率の低下を訴える者が増大する傾向がみられるが、それは心理的なものにとどまるものとみられ、現実に影響を受ける騒音レベルは九〇ホン程度であることが明らかであるから、原告らの前記精神的影響に関する愁訴とは別個の思考等の妨害に関する前記の愁訴と本件道路騒音との因果関係を認めることはできない。

三振動と原告らの愁訴

1振動の人間に対する影響(一般的知見)

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(一) 研究の歴史

振動についての物理的研究の歴史は古いが、その人体に及ぼす影響についての研究は、同五〇年以降になつて集約化、体系化がされ始めたにすぎない。

(二) 道路振動の特性

道路振動などの振動公害は、地面や床面を通じて身体へ伝達される全身振動であり、身体の特定の部位に伝達される局所振動とは異なる。

一般に公害として取上げられる低レベルの振動の人体への影響は、いずれも非特異的なものであり、共振による内臓の損傷などの特異的反応は起こりえない。

また、振動によつて心理的・生理的影響が生じるものであるが、道路振動は一般に右影響が生じるとされる限界値よりもかなり低い。

(三) 心理的影響

全身振動による心理的影響は、周波数、振動の強さ、振動の方向、暴露時間によつて異なる。人間の振動感知の限界(閾値)は、多くの研究者によつて測定されているところでは、五五ないし六〇デシベル程度である。また、不快を感じるのは約九〇ないし九五デシベル、耐久限界は約一二三デシベルである。地震の場合の軽震は、ほぼ六五ないし七五デシベルであり、多数の人に感じる程度のもので、戸、障子がわずかに動くのが分かるくらいの地震をいい、弱震は、ほぼ七五ないし八五デシベルであり、家屋が揺れ、戸、障子がガタガタと鳴動し、電灯などがかなり揺れ、器内の水面の動くのが分かる程度の地震をいうものとされている。

(四) 生理的影響

全身振動による生理的影響は、循環器系、呼吸器系、代謝、消化器系、神経系、感覚器系、血液系など広い範囲にわたつて観察されているが、そのほとんどは実験的に得られた急性の影響であり、長期にわたる慢性の影響については十分に解明されていない。

振動公害については、その振動レベルなどからみても、著しい生理的影響はないものと考えられる。環境庁が同四七年に行つた調査によれば、心理的影響が主であり、振動公害による生理的影響はないと考えてよいものとされ、また中央公害対策審議会の振動専門委員会の報告によれば、人体に有意な生理的影響を認めることができるのは、九〇デシベル程度であるとされている。なお、同委員会では、調査の結果から、家屋の平均的な振動増幅量を五デシベルとしており、一般的にも木造家屋で五、六デシベルとされている。

山崎和秀らは、鍛造機運転中の地盤における垂直振動をテープレコーダーに収録し、これを被検者の睡眠中三〇分ごとに三〇秒間、種々の振動レベルで負荷して脳波を測定した。実験装置から発する騒音は、眠つている被検者の頭部付近で五一、五二ホンであり、加振時にも変化はなかつた。その結果、①睡眠深度一の浅い眠りの場合には、寝具上の振動レベルが六〇デシベルでは影響はないが、六五デシベルでは過半数の場合に覚せいし、六九、七四、七九デシベルではすべての場合に覚せいし、②深度二の中等度の眠りの場合には、六〇デシベルでは影響はないが、六五デシベルではやや覚せいし、六九デシベル以上ではレベルの増大に伴つて覚せいの率が高くなり、七九デシベルではすべての場合に覚せいし、③深度三の熟睡の場合には、六九デシベル以下では覚せいせず、七四、七九デシベルでわずかに覚せいし、④レム睡眠の場合には、六五デシベル以下では覚せいせず、六九デシベルでわずかに覚せいし、⑤睡眠に対して全く影響のみられない振動レベルは寝具上で六〇デシベル、睡眠に対する許容レベルは六五デシベルであると考えられた。

また、右山崎らは水平振動についても同様の実験を行い、垂直振動と比較すると、同じ振動レベルでは、水平振動の方が睡眠妨害度が大きいという結果を得た。

(五) 日常生活への影響

振動公害に暴露される地域の住民反応調査においては、「注意の集中ができない」「いらいらする」などの情緒不安定に基づく訴えや、「頭が重い」「疲れ易い」「眠れない」などの身体的訴え、「仕事の能率が悪くなる」「作業のミスが多くなる」などの作業能率に関する訴えや、「建付が悪くなつた」「戸や障子がガタガタする」「壁、タイルなどのひび割れ」などの物的被害の訴えが主要なものであり、道路振動公害では、睡眠妨害の訴えが最も多く、次いで精神的障害、家屋の損傷の順になる。

騒音との関係については、「気分がいらいらする」旨の訴えの九五パーセント信頼上下限界では、振動単独暴露で42.7ないし51.3デシベル、騒音との同時暴露では56.1ないし59.9デシベルであり、振動単独の方が低いレベルで反応を生じることが明らかにされているが、「睡眠が邪魔される」「戸や障子ががたがた鳴つてうるさい」「考えごとや読書、勉強の邪魔になる」旨の訴えでは有意差はみられていない。

環境庁が同四八年度から同四九年度にかけて行つた、工場、道路、新幹線鉄道の各振動を対象とする住民の面接調査によれば、①工場については、五五デシベル以上で「振動を感じる」旨の訴えと振動量との間に有意の関係がみられ、七〇デシベル以上で「物が揺れて気になる」旨の訴えが生じ、振動では騒音に比して住民の判断の精度が低く、③三つの騒音については、振動レベルが約五デシベル増加すると、「振動をよく感じる」旨の訴え率が一〇パーセント増加するという共通の傾向がみられ、③振動感覚の「やや感じる」「よく感じる」旨の訴え率と振動レベル値との関係は、三つの振動の間で必ずしも一致しないものの有意差はなく、④道路振動では、「やや感じる」旨の訴え率が五〇デシベルで五〇パーセント、「よく感じる」旨の訴え率が、六二デシベルで三〇パーセント、六九デシベルで五〇パーセントであつた。

(六) 作業能率への影響

視覚作業は、振動の強さと周波数の影響を受け、振動の強さの増加は視覚機能を低下させ、2.5ヘルツ以下という極めて低い周波数の振動では視標と目の相対運動による網膜上の像のぼけが生じ、視認力が低下する。

暗算作業のような知的作業の場合には、計算速度が遅延するとか、振動と騒音の同時暴露によつて正答率が低下することなども観察されている。

しかし、振動公害による作業能率の低下については十分に解明されておらず、一般的には重大な妨害は起こらないと考えられ、極めて知的な作業や注意の集中を要する作業には影響が生じる事例もみられている。

(七) 公害としての振動の評価

振動に対する住民の苦情は、振動の物理量に対応する形で表われるものではなく、発生源から生じる振動の物理的特性、発生源から人体までの伝搬経路の構造上の特性、振動暴露を受ける人間個体の特性、人間の生活環境に関する特性についての種々の要因が関与するものである。

振動規制法においては、種々の知見のほか、家屋構造による振動の増幅度、物的被害、住民の苦情などが総合され、昼間には健康障害はもとより、日常生活にも支障を与えないこと、夜間には睡眠妨害などの影響を生じないことを基本的な考え方として、地域性と時間帯を加味して基準値が設定されたが、建物内居住者の姿勢や水平振動については考慮されていないことや、建物の振動増幅を五デシベルとしていることの妥当性など、今後検討すべき問題点もある。

2振動の家屋に対する影響

<証拠>を総合すれば、木造やレンガ造りの家屋の一部に小被害(漆食壁の小ひび割れやわずかな壁の脱落)が生じる可能性があるのは八五デシベル以上、鉄筋コンクリート造りの家屋に小被害が生じるのは九一デシベル以上であるとされていることが認められ、この認定に反する証拠はない。

3各種アンケート調査

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(一) 本件沿道

(1) 尼崎連合会調査

右調査結果によれば、家屋被害についての本件道路に直面するA地域と本件道路からほぼ一〇ないし五〇メートル離れたB地域との比較では、「家や窓ガラスが揺れる」「瓦がずれて、雨もりがする」「壁、ブロック、タイルなどにヒビが入つた」「窓や扉などが閉まりにくくなつた」「家が全体に傾いたり、ガタついたりしてきた」旨の訴え率は、A地域では42.0ないし81.3パーセント、B地域では36.8ないし73.1パーセント、「別になし」との回答率は、A地域では6.7パーセント、B地域では9.4パーセントであり、A地域における訴え率が若干高かつたが、「根太がゆるんだ」旨の訴え率は、A地域では20.2パーセント、B地域では22.4パーセントであつた。

(2) 西宮連合会調査

右調査結果によれば、右(1)と同旨の訴え率は、A・B両地域合計で20.3ないし91.9パーセントであつた。

(3) 兵庫県四九年調査

右調査結果によれば、「屋内では自動車の振動をどのように感じますか」との質問項目についての回答内容を本件道路端から一〇〇メートル以内のA地区とそれより離れたB地区とで比較すると、「よく感じる」旨の訴え率は、A地区では39.7パーセント、B地区では13.3パーセント、「非常に強く感じる」旨の訴え率は、A地区では17.3パーセント、B地区では1.7パーセント、「あまり感じない」旨の回答率は、A地区では36.3パーセント、B地区では85.0パーセントであつた。

また、睡眠妨害については、前記第七の二項4(二)(1)ウのとおりであつた。

さらに、家屋被害についての訴え率を比較すると、「家・窓ガラスが揺れる」旨の訴え率は、A地区では64.0パーセント、B地区では21.0パーセント、「瓦がずれ雨もりがする」「壁・ブロック・タイルにひびが入る」「窓が閉まりにくい」「根太がゆるんだ」「柱が傾いた」「家が全体にガタついた」旨の訴え率は、A地区では16.7ないし34.3パーセント、B地区では2.0ないし9.0パーセント、「別になし」との回答率は、A地区では19.3パーセント、B地区では45.3パーセントであり、A地区における訴え率が極めて高かつた。

(4) 環境庁五〇年調査

右調査結果によれば、自動車の振動に対する迷惑感と騒音の推定物理量とは必ずしも平行する関係はみられなかつた。

(5) 野田調査

右調査結果によれば、振動に対する迷惑感は、本件道路端に近い場所ほど大きかつた。また、「戸、障子がゆれる、ガタガタいう」「家がゆれる」旨の訴え、「壁にヒビが入つた」「防音工事を行つた」「道路に面した部屋を使わない」等の訴えは、本件道路に近いほど高率であつた。

(二) その他の地域

(1) 新建築家調査

右調査結果によれば、「家や窓ガラスがゆれる」「壁、ブロック、タイルにヒビ」「窓、扉が閉まりにくい」「根太がゆるんだ」「柱が傾いた」「全体にガタついてきた」旨の訴え率は、いずれも道路端から五〇メートルの地域内において、ほぼその距離区分に応じて減少傾向を示したが、「瓦がずれて雨もりがする」旨の訴え率は、道路端から二メートル未満、二ないし五メートル、五ないし一〇メートル、一〇ないし二〇メートル、二〇ないし三〇メートルの距離区分において、いずれも三〇パーセント前後で横ばいの状況を示した。

(2) 東京都五〇年調査

右調査結果によれば、「自宅で振動に悩まされることがある」旨の訴え率は、沿道地区では37.6パーセント、対照地区では14.6パーセントであり、沿道地区を道路からの距離別にみると、道路に直面する場所では61.1パーセント、それ以上で道路から二五メートル以内の場所では49.5パーセント、二五ないし五〇メートルの場所では30.7パーセント、五〇ないし七五メートルの場所では20.4パーセント、七五メートル以上の場所では24.1パーセントであり、住宅の条件別にみると、住宅構造では木造が、居住階数では一階が、建築年数では古い方が、訴え率が高かつた。また、振動を特に感じる時間帯は深夜と早朝に多かつた。

具体的な被害として、「戸や障子がガタガタする」旨の訴え率は、沿道地区では21.9パーセント、対照地区では6.7パーセント、「家が歪む、壁にヒビが入る」旨の訴え率は、それぞれ10.9パーセント及び2.9パーセント、「コップの水、茶がこぼれる」旨の訴え率は、それぞれ0.2パーセント及び〇パーセントであつた。

4まとめ

前記第二の一項1(原告らの居宅の構造)、同4(原告らの居宅から本件道路までの距離)、第四の三項(振動)、第五(原告らの被害認識)、第六(検証の結果等)、第七の一項1(アンケート調査)、同三項1(振動の人間に対する影響)、同2(振動の家屋に対する影響)及び同3(各種アンケート調査)の各事実に<証拠>を総合すれば、本件道路振動は、場所によつては不快感、迷惑感などの心理的影響を及ぼすことがあり、さらに一部の地点では睡眠への影響が生じる場合もないとはいえないものであるが、他方、場所によつては本件道路端であつてもこれらの影響が生じるレベルには達しないものであることが明らかであるから、原告らの道路振動に関する前記の愁訴の中には、本件道路振動との因果関係を認めることができる被害といえるものもあるが、これらの被害は原告らに共通のものということはできず、その他の生理的影響が生じるほどのものではなく、家屋への被害については、本件道路振動との因果関係を認めるに足りる証拠はない。

四排ガス(特に窒素酸化物)と原告らの愁訴

1  窒素酸化物の有害性

(一) 一般的知見

<証拠>を総合すると、請求原因五項2の(一)(1)、(2)(二酸化窒素の直接の有害性、光化学スモッグの原因)、同(二)(2)(二酸化窒素の人体への影響)の各事実が認められ、これに反する証拠はない。

また、<証拠>を総合すれば、一酸化窒素の影響に関する研究は、二酸化窒素に比較して乏しいものの、その暴露により、動物について、残肺気量の増加や肺気腫様の変化がみられ、ヒトについて、動脈血酸素分圧の低下や気道抵抗の増大などがみられる旨の知見が得られ、その呼吸器への影響は二酸化窒素に比べて少ないものと考えられている。

(二) 二酸化窒素の暴露実験

(1) 動物について

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

ア 各種の実験結果

(ア) 肺機能に対する影響

a ラットに2.9ppmの濃度で一週間に五日間の割合で九か月間暴露したところ、肺の弾性及び容積の減少がみられた。

b ラットに2.0ppmの濃度で一日中二年間暴露したところ、気道抵抗及び肺の弾性に変化はみられなかつた。

c サルに1.0ppmの濃度で一日中四九三日間暴露したところ、一回換気量、分時換気量及び呼吸数に変化はみられなかつた。

d イヌに0.64ppmの濃度で一日に一六時間の割合で暴露を続けたところ、三六か月で肺拡散機能の低下、六一か月で肺拡散機能及び呼気ピーク流量の低下がみられた。

e イヌに0.5ないし1.0ppmの濃度で一日に一六時間の割合で一八か月間暴露したところ、肺拡散機能、弾性及び気道抵抗に変化はみられなかつた。

(イ) 呼吸器における病理組織学的影響

二酸化窒素の影響は、呼吸器以外の臓器には認められず、その標的臓器は呼吸器であることが明らかにされている。

各種の実験動物に共通して認められる主要な変化は、後記のとおり、線毛の欠落、粘膜の変性と剥離、分泌亢進、細気管支及び肺胞上皮細胞の増生、肺胞壁の浮腫状化、肺胞腔の拡張と肺気腫様変化などであり、これらの変化によつて末梢気道に閉塞性呼吸器障害をおこすと考えられているが、右の諸変化と疾病との関係についての意義はまだ必ずしも明らかではない。

右の変化は、0.3ないし0.5ppm以上で認められているが、それより低濃度ではさらに追認を要する。

細気管支上皮細胞及び肺胞Ⅱ型上皮細胞の増性はともに早い時期に始まるが、暴露中に沈静化の経過をたどり、腫瘍化したという知見はみられていない。

変異原性については、2.0ppm以上でネズミチフス菌テストでは陽性、培養細胞では陰性であり、催奇形性については、ラットに1.3ppmの濃度で一日に一二時間の割合で三か月間暴露した場合の新生仔には奇形はみられていない。

発がん性については、これまでのマウス、ラット、サル、イヌによる低濃度、長期暴露実験では発がんをみたという例はなく、他の発がん因子との複合作用については未解明である。8ないし12.0ppmの濃度で一週間に五日間の割合で五〇週間の暴露により発肺がん剤の作用が抑制されたという報告例や三、四―ベンツピレンの投与と25.0ppmの濃度で一日に七時間の割合で六七二日間の暴露によりラットの気管支粘膜化生上皮の悪性化がみられたという報告例があるが、さらに低濃度での実験が必要である。また、吸入した窒素酸化物によつて発がん物質として知られているニトロサミン類の生成が生体内においておこりうるという報告例がある。さらに、二酸化窒素によつて大気中の多環芳香族炭化水素がニトロ化されて発生するニトロアレンは変異原性が強く、投与実験により発がん性を有する物質であることが確認されているが、吸入実験による報告例はない。

二酸化窒素の長期暴露による呼吸器の形態学的変化の実験例は次のとおりである。

a ラットに2.0ppmの濃度で四三日間暴露したところ、線毛消失、細気管支上皮の肥大と増殖がみられた。

b サルに2.0ppmの濃度で一四か月間暴露したところ、細気管支上皮肥大がみられた。

c ラットに2.0ppmの濃度で二年間(ないし生涯)暴露したところ、線毛消失を含む上皮変化及び基底膜肥厚がみられた。

d マウスに1.0ないし1.5ppmの濃度で一か月間暴露したところ、線毛消失、細気管支粘膜剥離と上皮細胞増生、肺胞腔拡張がみられた。

e ラットに1.28ppmの濃度で三五日間暴露したところ、肺胞壁肥厚、間質の浮腫性拡大がみられた。

f モルモットに1.1ppmの濃度で一日に八時間の割合で一八〇日間暴露したところ、肺気腫病変がみられた。

g ラットに0.8ppmの濃度で三三か月間(生涯)暴露したところ、線毛消失、細気管支上皮肥大、肺胞壁膠原線維、基底膜肥厚がみられた。

h マウスに0.7ないし0.8ppmの濃度で一か月間暴露したところ、線毛消失、細気管支粘膜剥離、分泌亢進、肺胞腔拡張がみられた。

i マウスに0.55ないし1.6ppmの濃度で五週間暴露したところ、気管支上皮の線毛短縮癒着、分泌亢進がみられた。

j マウスに0.5ないし0.8ppmの濃度で三〇日間暴露したところ、細気管支上皮増生、肺胞上皮浮腫状化がみられた。

k マウスに0.5ppmの濃度で一日に六時間、一八時間及び二四時間の割合で三ないし一二か月間暴露したところ、細気管支炎、上皮剥離、肺胞腔拡張がみられた。

l ラットに0.32ppmの濃度で三か月間暴露したところ、カタル性気管支炎、気管支周囲炎、軽度の肺硬化症がみられた。

m ウサギに0.25ppmの濃度で一日に四時間、一週間に五日間の割合で二四ないし三六日間暴露したところ、肺膠原線維の変性がみられた。

n ラットに0.12ppmの濃度で三五日間暴露したところ、肺胞壁厚の局所的異常値の出現がみられたが、統計的有意差はなかつた。

o ラットに0.04ppmの濃度で九ないし二七か月間暴露すると、通常の観察方法の範囲では全実験期間を通じて病変がみられないが、形態計測指標値の中は時間の経過とともに上昇を続ける指標があり、陰性とはいい切れない。4.0ppm及び0.4ppm暴露の結果も総合すれば、低濃度連続暴露による形態学的病変は、濃度水準と暴露期間に並行し、明らかな量・影響関係が存在することを示している。そして病変の一部たとえば肺胞上皮には連続暴露下での修復像がみられるが、大部分の病変は常にゆつくりと進行しており、低濃度領域における影響の存在を示唆している。

もつとも、0.4ppm以下の低濃度で二七か月暴露後の動物に見出される変化が、単に暴露期間の長期化によるものか、動物の加齢による反応性の上昇と関連して出現したものかは明らかではない。

p ラットに0.5ppm、0.4ppm、0.2ppmの各濃度で暴露すると、気道の肥満細胞が濃度に応じて急速に数を増し、0.5ppmと0.4ppmでは約三〇分後から増加し、六、七日後にも持続していたが、0.2ppmでは三時間後から増加し、七日後には正常の数となつた。また、0.5ppmと0.4ppmでは肥満細胞数の増加と同時に細胞の組織化学的、電顕的形態を変え、ヒスタミンの放出が示唆される所見が得られた。0.2ppmでも同様の細胞の変化がみられるが、軽度であつた。

q ラットに0.08ppmの濃度で三か月間、0.05ppmの濃度で九〇日間、それぞれ暴露したが、いずれも形態学的異常はなかつた。

(ウ) 生化学的影響

マウスに0.5ないし0.8ppmの濃度で三〇日間暴露すると、肺の還元型グルタチオン(GSH)が酸化され、一旦は減少するが、その後生体の代償反応によつて回復し、暴露前より高いレベルに維持される。しかしながら、さらに投与を続け六か月に達すると代償能力は破綻をきたしてGSHは再び低下し、体重の減少がみられる。

ラットに2.9ppmの濃度で九か月間暴露すると、肺脂質は過酸化され、肺の弾性を維持する役割を担つている肺表面活性物質の全リン脂質中の飽和脂肪酸の割合の減少がみられ、モルモットに0.5ppmの濃度で一二二日間暴露すると肺リン脂質組成の変化がみられ、ウサギに1.0ppmの濃度で一ないし二週間暴露すると肺レシチン生合成の低下がみられる。これらの変化は、いずれも肺の弾性の低下をきたし、肺機能障害の原因になるものと考えられる。

ラットに4.0ppm、0.4ppm、0.04ppmの各濃度で九ないし二七か月間暴露したところ、呼気中のエタン測定による脂質過酸化は、九か月及び一八か月暴露の場合、各濃度の暴露群で対照群に比べて有意な増加を示し、かつその増加は暴露濃度に依存していた。二七か月暴露では、4.0ppm群に低下がみられ、肺障害の質的変化を示唆した。呼気中ペンタンは、一八か月暴露の0.4ppmと0.04ppmでの増加以外にはほとんど変化がみられず、TBA法による肺の脂質過酸化は、九か月暴露では4.0ppm群のみが、一八か月暴露では4.0ppmと0.4ppm群が、いずれも有意な増加を示し、その変化はエタン測定による脂質過酸化と類似の傾向を示した。肺の抗酸化防御機構は、4.0ppm九か月暴露でわずかながら有意な変化がみられたが、他では対照群との間に変化はなく、過酸化物代謝機能は、4.0ppmと0.4ppmの一八か月暴露で低下がみられた。もつとも、0.04ppmのような極めて低濃度の暴露によつて検出された変化が健康影響の点でいかなる意味を持つかは明らかではない。

(エ) 全身的影響

血液性状については、ウサギに1.3ないし3.0ppmの濃度で一日に二時間の割合で一五週間暴露し、ラットに0.3ppmの濃度で三か月間暴露したところ、赤血球数の減少ないしはその傾向がみられたが、0.05ppm九〇日暴露では変化はみられなかつた。サルに1.0ppmの濃度で四九三日間暴露したが、各種の血液検査指標に変化はみられていない。白血球数では、サル及びラットに2.0ppmの濃度で四か月間暴露したところ、淋巴球に対する好中球の比が大となつた。高濃度暴露により、白血球数、血清ビリルビン及びメトヘモグロビンが増加するが、低濃度(0.8ppm、五日、マウス)ではメトヘモグロビンの増加はみられない。一酸化窒素ヘモグロビンは、マウスへの高濃度(12.8ppm、一時間)暴露により生成がみられるが、低濃度では検出しがたい。血液生化学的には、モルモットに0.36ppm一週間暴露で赤血球二、三―ジホスホグリセリン酸の増加がみられる。

免疫能については、マウスに0.5ppm(毎日一時間2.0ppmを含む。)の濃度で三か月暴露すると、血清中和抗体の産生能などの低下がみられ、モルモットに1.0ppm六か月暴露すると、各免疫グロブリン分画の減少がみられる。サルに1.0ppmの濃度で四九三日間暴露したところ、インフルエンザウイルス接種により血清中和抗体価が対照群より上昇したことから、二酸化窒素暴露によつてインフルエンザウイルスが肺内に定着、増殖しやすい状態が生じたと考えられる。モルモットに5.0ppmの濃度で五ないし一五時間暴露したところ、異種蛋白によるアレルギー感作が短時間で促進される。

マウスやラットの成長及び体重には低濃度での影響はみられていない。ラットに1.3ppmの濃度で一日あたり一二時間三か月間暴露したところ、一腹あたりの生仔数や体重は対照群より有意に小さかつたが、数日後には対照群と同等になつた。

感覚器の被刺激性について、ラットに0.3ppmの濃度で三か月間暴露したところ、光、音刺激に対する条件反射の潜伏期が変化したが、0.08ppmでは変化がみられなかつた。

(オ) 感染に対する抵抗性への影響

マウス、ハムスター、サルへの暴露により、肺炎などの細菌やインフルエンザなどのウイルスの吸入感染に対する生体の抵抗性が低下し、濃度と感染死亡の増大との間に量・効果の関係が成立する。影響濃度は動物種によつて異なり、マウスでは0.5ppm、サルでは5.0ppmの長期暴露で影響がみられる。

形態学的観察では、マウスに0.5ないし1.0ppmの濃度で一か月暴露したところ、インフルエンザウイルスの吸入感染による急性肺炎像は非暴露マウスに比べて高度で、終末気管支上皮細胞の腺腫様増殖を示すものが多くみられ、サルに2.0ppmの濃度で暴露した場合にも同様のことがみられ、これらは二酸化窒素とウイルス感染の複合作用を示唆するものとして注目される。

(カ) 複合汚染による影響

ラットに各単独では影響のみられない0.05ppmの二酸化窒素と0.06ppmの二酸化硫黄を混合して暴露すると、病理組織的変化などについて相加的作用がみられ、また1.5ないし5.0ppmの二酸化窒素と0.05ないし0.5ppmのオゾンの混合暴露は、細菌感染に対する抵抗性低下に対し、一回暴露では相加的に、繰り返し暴露では相乗的に作用することが示唆されている。

マウスに二酸化窒素と高濃度の一酸化炭素を混合して暴露すると、一酸化炭素ヘモグロビンが一酸化炭素の単独暴露時に比べて増加したが、低濃度での共存下(一酸化炭素五〇ppm、二酸化窒素0.5ないし0.8ppm)では増加はみられなかつた。

サルに1.0ないし3.0ppmの二酸化窒素の一四か月暴露でみられた終末気管支の上皮細胞層の肥厚は、塩化ナトリウムエアロゾルの共存によつて増強することはなかつた。

イ 動物野外暴露実験

中嶋泰知らは、マウスを用いて外気を暴露し、病理組織学的、血液学的、生化学的検査を行つた。

暴露方法は、外気をそのまま供給するチェンバー(外気群)及び粒子フィルターにより除塵した空気を供給するチェンバー(除塵群)をいずれも自動車通過の多い街路に面する地点に設置し、粒子フィルター及び活性炭フィルターの両者で浄化した空気を供給するチェンバー(対照群)を室内に置いた。各チェンバーの温度制御は、対照群のみ空調システムにより摂氏二四度に保たれたが、他は温風、冷風器によつたため、温湿度が天候、季節、昼夜の別によりある程度変動した。

各チェンバーでは、それぞれ一二〇匹のマウスが同五二年五月から同五四年五月まで飼育された。

その結果は次のとおりである。

① 屋外における二酸化窒素濃度は、同五三年一月から同五四年五月までの間、月平均値0.037ないし0.081ppmで、その平均値は約0.06ppmであつた。

② 体重は、全経過を通じて対照群が低位であつたが、各臓器重量の体重比は、群間に一貫した差はなかつた。

③ 血液学的検査では、統計的有意差はないが、屋外群で生存期間に比例してやや低位となる傾向がみられた。

④ 生化学的検査では、一定方向の明らかな変化を認めたものはなかつた。

⑤ 病理組織学的所見では、屋外群に共通して鼻粘膜のゴブレット様細胞の増加、気管腺の増加、末梢気管支上皮の増生、肺胞壁の肥厚、肺腺腫の悪性化傾向がみられ、外気群のみに肺における黒色粉じん貪食遊走細胞の出現、黒色粉じんの組織内沈着、異物巨細胞の出現、少数例の肉芽腫の発生がみられた。

⑥ 各群間の生存率には最終的な差はなく、死因についても、各群とも胸腺リンパ腫が最も多く、次いで腎硬化症で、その率にも差はみられない。

右の実験結果の評価については、次のとおり指摘することができる。

① 排ガスの影響を調べるためには、屋外群と対照群との飼育環境を、排ガス以外の条件については同一にすべきところ、本件の対照群は、温湿度の調整や騒音、振動等の条件も異なり、その飼育環境の選定は適切とはいえない。

② 右実験においては、いわゆる盲実験の方法が採られていないため、資料の検査などにおいて恣意的な解釈が入りこむ余地がないとはいえない。

ウ まとめ

右に列挙した例のほか各種の動物実験により、0.12ないし0.5ppm以上の濃度では、ラットやサルなどの特定の動物に対し何らかの影響の現われることがかなり広く確認されているが、さらに低濃度では、0.04ppmで形態計測指標値や脂質過酸化に変化のみられた例があるものの、その健康影響との関連は未解明であるほか、0.05ppmで二酸化硫黄との相加的作用のみられた例がある程度であり、今後の研究が期待されるところである。

(2) 人体について

<証拠>を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

ア 各種の実験結果

(ア) 健康者一六人に1.0ないし7.5ppmの濃度で二時間暴露したところ、2.5ppm以上で気道抵抗の増加がみられたが、量―反応関係は得られなかつた。暴露後のアセチルコリンの吸入による気道過敏性の有意な亢進は、7.5ppm二時間及び5.0ppm一四時間の各暴露でみられたが、2.5及び5.0ppmの各二時間暴露ではみられなかつた。

(イ) 慢性気管支炎患者八八人に0.5ないし5.0ppmの濃度で一五分間暴露し、又は三〇回吸入させたところ、4.0ppm以上で動脈血酸素分圧が減少し、1.6ppm以上で気道抵抗の増加がみられた。

(ウ) 健康者五人に間欠的運動をさせながら0.5又は1.0ppmの濃度で三ないし四時間暴露したところ、グループとしてみると自覚症状や肺機能に変化はなかつたが、一人のみダイナミック・コンプライアンス(肺の伸びやすさを表わす指標)に変化がみられた。

(エ) 健康男子一五人に0.6ppmの濃度で二時間暴露したが、肺機能に変化はなかつた。

(オ) 健康男子五人に0.5ppmの濃度で単独又は塩化ナトリウム四ミリグラム毎立方メートルと混合して、五分間運動、五分間休ませ、合計三〇分間暴露したが、経口的吸入で気道コンダクタンスやフロー・ボリュームパターンから得られる各種指標に変化はなかつた。

(カ) ぜん息患者二〇人に0.1ppmの濃度で一時間暴露したところ、一三人に気管支収縮剤(カルバコール)による気道狭窄効果の増強がみられた。

しかしながら、この成績の持つ意義については論議があり、さらに追試で確認を要するとされている。

(キ) 健康者四人に二酸化窒素0.3ppmとオゾン0.5ppmを混合して四時間暴露した場合と、さらに一酸化炭素三〇ppmを加えて同様に暴露した場合では、後者の場合のみに残気量、一酸化炭素拡散能、呼吸抵抗の変化がみられる。

また、二酸化窒素0.3ppmとオゾン0.25ppmを混合して過去にアレルギーなどに関連した呼吸器症状の既往のある者などを含む六人に二時間暴露した場合と、さらに一酸化炭素三〇ppmを加えて同様に暴露した場合では、前者の場合のみに努力性肺活量、一秒量、一酸化炭素拡散能に変化がみられた。

(ク) 健康者に二酸化窒素0.05ppm、オゾン0.025ppm、二酸化硫黄0.1ppmの混合ガスを二時間暴露したところ、気道抵抗や動脈血酸素分圧に変化はみられなかつたが、気管支収縮剤に対する呼吸気道の反応の増強がみられた。

(ケ) 健康者に3.0ppmの濃度で五分間暴露した場合の気道抵抗の増加は、塩化ナトリウムエアロゾルの混合によつてさらに増強がみられる。

(コ) 二酸化窒素(ヒトの暗順応への影響濃度は0.07ppm、臭覚閾値は0.12ppmである。)と二酸化硫黄は、暗順応及び臭覚等の感覚器に対して相加的に作用する。

イ まとめ

人体に対する実験は、その性質上短時間のものに限られるが、右に列挙した例のほか各種の志願者に対する実験により、健康者では、1.0ppm以上の二酸化窒素単独暴露、又は二酸化窒素0.3ppmとオゾン0.25ppmの混合暴露で肺機能に変化が現われるほか、二酸化窒素0.05ppm、オゾン0.025ppm、二酸化硫黄0.1ppmの混合暴露で気管支収縮剤に対する呼吸気道の反応の増強がみられ、気管支ぜん息患者では、0.1ppmの二酸化窒素単独暴露で気管支収縮剤に対する呼吸気道の反応の増強がみられる。

しかしながら、右にみられる気管支収縮剤に対する反応は、極めて低濃度の二酸化窒素が人体に測定可能な反応を及ぼしうるものであることを示してはいるが、ぜん息患者についても気管支収縮剤の投与によつてぜん息発作やぜん鳴そのものが生じた旨の報告例はなく、右の反応の評価についてはさらに研究が必要であり、これを直ちに健康への悪影響としてとらえることはできない。

(三) 疫学調査等

(1) 本件沿道以外

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

ア 環境庁六都市調査

(ア) その内容

厚生省(後に環境庁が引継ぐ。)は、同三九年から学童又は成人を対象に環境汚染の人体影響調査を経年的に実施しているが、同四五ないし四九年度に全国三府県の六地区(市原、佐倉、東大阪、富田林、福岡、大牟田)において、硫黄酸化物等による大気汚染と健康影響の調査(第三次調査)を行い、同五二年一月環境庁がその結果を「複合大気汚染健康影響調査」と題して公表した。

六地区のうち、大牟田地区のみは13.7平方キロメートルであつたが、他の五地区はいずれも約五平方キロメートル以内の範囲であつた。そして、千葉県の市原地区は、新しい臨海工業地域から一、二キロメートル内陸寄りの農村住宅地域で工業化の影響を強く受けており、佐倉地区は、明らかな汚染源の存在しない古い住宅地域に属する。大阪府の東大阪地区は、大阪市に隣接した小工場が点在する住宅密集地域で、富田林地区は、交通量も少ない山間部の農村地域である南河内郡太子町に属する。福岡県の大牟田地区は、ばい煙が古くからある工業地域に隣接した住宅地域で、福岡地区は福岡市の中心部から離れて大きな汚染源のない住宅地域に属する。

健康影響の観察をした人口集団は、各地区に三年以上居住し、比較的地域定着性が高いと考えられる三〇才以上の家庭婦人及び六〇才以上の男子が選ばれた。女子の対象者は、各地区において、三〇才代、四〇才代、五〇才代、六〇才以上の各年代群につきそれぞれ約一〇〇名、一地区合計四〇〇名の者ができるだけ統計学的に偏りのない方法を用いて選ばれたが、その抽出率は各地区及び各年代ごとに相違があつた。調査対象者は、原則として五年間固定されたが、死亡や転出のため六地区で五年間に合計二〇名が補充された。したがつて、この調査は、五年間にわたる同一集団の前向き調査を意図したものであるが、正確な意味では各年度ごとの断面調査の五年間調査である。なお、調査を受けた者の抽出された者に対する割合は、68.4ないし89.9パーセントであり、五年平均で78.6パーセントであつた。

環境調査は、大気汚染及び気象に関して行われた。大気汚染は、硫黄酸化物、窒素酸化物、一酸化炭素、浮遊粒子状物質及び降下ばいじんについて測定された。その測定は、原則として対象地区内で常時行われ、それが不可能な場合は、対象地区から五キロメートル以内の測定局において行われた。各汚染物質の濃度(同四五ないし四九年度平均値)は、二酸化窒素が0.013ppmないし0.043ppm、二酸化硫黄が0.012ないし0.033ppm、浮遊粒子状物質が一〇九ないし四一五マイクログラム毎立方メートルであつた。

健康調査は、面接質問調査、呼吸機能検査、喀痰検査、胸部レントゲン検査、一般的臨床検査及び尿検査であつた。面接質問調査は、BMRCによる質問票(一九六六年版)の日本語訳を利用し、管轄保健所の保健婦により、対象者を保健所に集めて行われ、その際、保健所の医師及び検査技師により呼吸機能検査、胸部レントゲン検査及び一般臨床検査が行われた。

(イ) 「大気汚染と家庭婦人の呼吸器症状及び呼吸機能との関係について」

右論文は、鈴木武夫らが右調査結果のうち家庭婦人に関するものを分析し、同五三年に発表したものであり、その要旨は次のとおりである。

① 大気汚染と呼吸機能検査との間には明らかな関連性は認められなかつた。これは、呼吸機能の変化が認められるのは呼吸器疾患が相当進展してからのことであるため、右調査のように一般の人口集団を調査対象として選んだ場合には予想されたことであつた。

呼吸機能の低下と喫煙習慣及び加齢との関係は明らかに認められた。

② 呼吸器症状としては、「せき」「たん」及び「持続性せき・たん」の有症率が調べられ、その有症率は地区によつて異なり、0.9ないし6.0パーセントの間であつた。

「持続性せき・たん」の有症率は経年的に低下の傾向がみられた。その理由としては、大気汚染の変化のほか、調査の繰り返しによる効果等が考えられる。

③ 「たん」及び「持続性せき・たん」の有症率は六〇才以上で高かつたが、他の年代では加齢の影響は明らかにみられなかつた。「せき」の症状は、年令との間に一定の関係は認められなかつた。

④ 「せき」「たん」及び「持続性せき・たん」の有症率と喫煙習慣との間には明らかに関係がみられ、喫煙習慣のある者の有症率は、ない者の有症率より明らかに高かつた。

⑤ 「持続性せき・たん」の有症率と大気汚染との間の単相関係数について、同四五年度と同四九年度を比較すると、二酸化硫黄、硫黄酸化物、一酸化炭素、浮遊粒子状物質については同四五年度が、一酸化窒素、二酸化窒素、窒素酸化物については同四九年度が大きく、大気汚染の指標が、調査期間内に硫黄酸化物、浮遊粒子状物質から窒素酸化物へと変貌していることが、人口集団への影響との関係からも見られると解釈された。

⑥ 「持続性せき・たん」の有症率と大気汚染との関係の有無につき、x2検定を各年度について行つたところ、同四七ないし四九年度の面接調査でその有症率と窒素酸化物との間に統計学的有意差がみられた。もつとも、この有症率は窒素酸化物のみによつて説明されるものではなく、他の汚染物質の存在下における大気汚染の指標としての窒素酸化物との関係で説明されるものである。

⑦ 測定資料の十分得られた範囲では、二酸化窒素、二酸化硫黄及び浮遊粒子状物質の年間平均濃度がそれぞれ約0.02ppm、0.03ppm及び150マイクログラム毎立方メートル以下であれば、「持続性せき、たん」の有症率は二パーセント以下であり、右濃度を超えると四ないし六パーセントであつた。

⑧ 一酸化窒素と「持続性せき・たん」の有症率の関係を光化学オキシダントで説明することはできなかつた。

⑨ 右調査については、環境測定の欠測や面接調査、呼吸機能検査に参加しなかつた者の理由が地区によつて明らかにされていないなど、今後の疫学調査において留意すべき点が認められた。

(ウ) 「有害大気汚染物の指針値を求めて」

右文章は、前田和甫がアメリカで行われた疫学調査(CHESS)に対する批判をとりまとめて、同五六年五、六月に発表したものである。

同人は、その中で環境庁六都市調査についても触れ、①調査対象者につき、年令や喫煙以外の対処すべき要因がほとんど考慮されていないこと、②汚染測定値につき、地域によつて測定の継続時間が大幅に異なるのに、そのまま平均値をとり、これをもつてそれぞれの地域の年平均値としていること、③測定局を囲む地域の大きさが地域によつて随分異なるところがあり、地域によつては移動測定車による月一回の測定結果であり、測定結果の内容は大変多様性に富むにもかかわらず、これらをひつくるめて六都市平均値を算出していること、④影響項目について、持続性せき・たん症候群の有症率の六都市平均値を求めて、大気汚染の平均値との関係を論じている点が強引であることなどを問題点として指摘した。

イ 千葉県五市調査

(ア) その内容

千葉県においては、千葉市煤煙等影響調査会等により、同四五年から千葉市など五市で大気汚染の人体影響調査としてBMRC方式により学童や成人の呼吸器症状有症率調査が行われ、その結果が公表されている。

各汚染物質の濃度(同四六ないし四九年における平均値)は、二酸化窒素が0.013ないし0.041ppm、二酸化硫黄が0.009ないし0.042ppm、一酸化窒素が0.005ないし0.043ppmであつた。

(イ)「千葉県における慢性気管支炎症状の疫学的研究」

右論文は、吉田亮らが右調査結果のうち四〇ないし五九才の成人に関するものを分析し、同五一年七月発表したものであり、その要旨は次のとおりである。

① 二酸化硫黄及び窒素酸化物の年平均値は、それぞれ単独で呼吸器症状指標と正の相関を示したが、重回帰分析(複数の汚染物質と健康影響の関連を検討すること)を行つた結果、相関はさらに強まつた。

② 「持続性せき・たん症候群」の有症率が、自然有症率とされている三パーセント以下に維持されるためには、二酸化硫黄及び二酸化窒素が相加的に作用しているという考えを前提にすれば、両者の環境基準がともに達成されることが必要であり、これを年平均値としてみると、たとえば二酸化硫黄0.018ppm以下、二酸化窒素0.009ppm以下という組合せが考えられる。

(ウ) その問題点

荘司栄徳は、同五四年一月及び八月、右論文や疫学調査自体に対し、問題点として、①面接調査の方法に欠陥があること、②有意性検定において、大気汚染濃度と有症率との関連を生じさせ、あるいは高める方向の誤りが多く存在すること、③重回帰分析の基礎とされた硫黄酸化物、窒素酸化物の濃度の資料に誤りや疑問があることなどを指摘し、これらを訂正すれば、大気汚染と有症率に相関はみられない旨の論文を発表した。

吉田亮は、同年六月右論文に対する反論を発表し、その結論を変更する必要はないとした。

ウ 大阪府・兵庫県調査

(ア) その内容

大阪府及び兵庫県では、同四六年度以前から慢性気管支炎に関する疫学調査が行われており、その結果が公表されている。

その調査は、対象地区の四〇才以上の全住民を対象に呼吸器に関するアンケート調査を実施し、その調査票に咳・痰の症状の記載のあるものを対象として、さらにBMRCの標準質問票を用いた面接調査及び呼吸機能検査を実施したものである。

(イ) 「大気汚染の慢性気管支炎有症率におよぼす影響」

右論文は、常俊義三らが右調査結果のうち、窒素酸化物に関する十分な測定資料の得られた同四七年度以降同四九年度までで、かつ各種大気汚染物質の測定が行われている大気汚染常時観測局周辺の七地区二万五五二六名の調査資料を用いて、慢性気管支炎及びその他の呼吸器症状の有症率と大気汚染の関係につき分析を加え、同五二年四月発表したものであり、その要旨は次のとおりである。

① 調査票の回収率は、82.8ないし97.1パーセントであり、地区間には有意差がみられなかつた。

② 対象地区の大気汚染の推移(年度平均値)は、二酸化硫黄につき、同四七年度が0.024ないし0.037ppm、同四九年度が0.018ないし0.029ppm、二酸化窒素につき、同四七年度が0.016ないし0.09ppm、同四九年度が0.019ないし0.057ppm、浮遊粉じんにつき、同四七年度が二四ないし一六〇マイクログラム毎立方メートル、同四九年度が四一ないし一〇九マイクログラム毎立方メートルであり、地区によつて汚染の程度や汚染物質の傾向が異なる。

③ 対象地区の有症率は、慢性気管支炎につき3.3ないし6.0パーセント(年令・喫煙の影響を除外した値)、持続性咳・痰につき4.1ないし7.7パーセントである。

④ 一般的に、硫黄酸化物は上部気道に、窒素酸化物は下部気道に影響を与えるとされているが、そうであるなら、線毛上皮や粘液腺の存在しない下部気道(特にサイレントゾーン)が窒素酸化物の影響を受けたとしても、線毛の退縮や粘液腺の分泌過剰という慢性気管支炎の病像はみられないことになる。

重回帰分析結果によれば、慢性気管支炎有症率に及ぼす窒素酸化物の影響は、硫黄酸化物や浮遊粉じんに比べて少なく、慢性気管支炎有症率と大気汚染指標との関係については、単独汚染指標よりも複合汚染指標の方がその有症率との間に高い相関があり、とりわけ二酸化硫黄と浮遊粉じんの相加的な汚染指標が、その有症率によく対応することが明らかであるが、これは、窒素酸化物の生体影響の部位から説明ができる。

したがつて、窒素酸化物の人体影響を慢性気管支炎の有症率によつて判断すると、これを過小評価することになる。すなわち、慢性気管支炎の調査結果から、窒素酸化物の影響は評価できない。その影響を明らかにするためには、末梢気道の変化を把握できるような疫学調査手法やフローボリューム等の機能検査方法の開発・活用が必要であると考えられる。

また、窒素酸化物の生体影響の部位や病理的生理的変化の解明及び最も適切な影響の指標は何かを明らかにすることが必要であるが、これらは今後の重要な課題である。

⑤ 持続性痰の有症率は、他の呼吸器症状に関する有症率よりも各種大気汚染指標との間に相関関係が強く、大気汚染に最も鋭敏に対応することが明らかにされた。

⑥ 解析結果については、その資料がわずか七地区から得られたものであること及び一時的な高濃度汚染の影響については検討されていないことを考慮して評価する必要がある。

エ 岡山県調査

(ア) その内容

岡山県は、同四六年度から硫黄酸化物を主たる指標として大気汚染と健康影響の調査を行い、その結果を公表している。

同四九年度以降の調査対象者は、当該地区に三年以上居住している四〇才以上六〇才未満の男女であり、五〇分の一以上の抽出率で無作為抽出された者である。回答率は平均で92.3パーセント、最低で75.0パーセントであつた。

健康調査は、同県がBMRC質問票に基づいて作成した質問票を用いて行われ、保健婦により個別面接方式で実施された。保健婦は調査実施前に質問方法を統一するための講習を受け、面接結果は医師による再面接でチェックを受けた。

各汚染物質の濃度(一ないし三年平均値)は、二酸化窒素が0.006ppmないし0.030ppm、二酸化硫黄が0.015ないし0.032ppm、浮遊粒子状物質が四〇ないし六〇マイクログラム毎立方メートルであつた。

(イ) 「岡山県における呼吸器症状に関する疫学的研究(とくに持続性せき・たん有症率を中心として)」

右論文は、坪田信孝らが右調査結果(同四九、五〇年度分)に基づき、大気汚染と呼吸器症状とに関係があるか否かを明確にすることを目的として分析を行い、同五四年七月発表したものであり、その要旨は次のとおりである。

① 単回帰分析(複数の汚染物質のうちの一つと健康影響の関連を検討すること)により、窒素酸化物及び硫黄酸化物を指標とした大気汚染と、持続性咳・痰訂正有症率及び平均呼吸器症状点数を指標とした呼吸器症状との間における解析結果において、両者間に関係がないとはいえない成績が得られた。

② 重回帰分析の変数選択法により、第一位には、一八例中一六例で窒素酸化物に関する指標が、二例で硫黄酸化物に関する指標が選択された。

③ 呼吸器症状に与える大気汚染の影響は、統計学的見地からは否定できないものであると考えられ、岡山県における汚染物質ごとの寄与の程度は、窒素酸化物、硫黄酸化物の順であると考えられた。

④ 右分析結果の評価については、次の問題点などに留意すべきである。

第一に、調査地区の面積が一定でなく、地区内に存在する測定局の数も異なること、二酸化硫黄以外の大気汚染物質に関する測定が不十分なこと、大気汚染以外の社会的因子(家庭内汚染、職業歴、既往歴など)に関する調査が不十分なことなどの制約条件がある。

第二に、重回帰分析については、調査地区数が少ないという欠点を有し、この手法の応用と解釈には種々の問題点が残される。

(ウ) 「大気汚染と持続性せき・たん有症率の関係(無作為抽出によつて有症率を訂正しx2による回帰分析を応用した成績について)」

右論文は、坪田信孝が右調査結果(同四九、五〇年度分)に基づき、無作為再抽出によつて訂正因子を訂正して、調査対象者数に考慮を加え、大気汚染と持続性咳・痰の有症率との関係を分析し、同五四年九月発表したものであり、その要旨は次のとおりである。

① 岡山県南部地域の地区ごとの有症率には有意差が認められ、これを説明する因子として、窒素酸化物、硫黄酸化物を指標とした大気汚染が考えられた。また、これらの指標で表わされる大気汚染の増加に伴つて有症率が増加するという傾向は有意であり、かつ直線的なものとみなすことができた。

② 右分析結果の評価についての問題点は、右(イ)④の第一点と同旨である。

(エ) 「大気汚染と持続性せき・たん有症率の関係(とくに低濃度汚染地区を含むデータによる用量・反応関係について)」

右論文は、坪田信孝が右調査結果(同四九、五〇、五二年度分)に基づき、大気汚染と持続性咳・痰の有症率との関係についてプロビットモデルを仮定した解析を行い、同五五年三月発表したものであり、その要旨は次のとおりである。

① x2検定をした結果、地区ごとの有症率には有意差がみられ、窒素酸化物を指標とする大気汚染の増加に伴つて有症率が高くなる傾向は有意であり、したがつて窒素酸化物と有症率との間には、量―反応関係があると考えられた。このときの二酸化窒素濃度は0.006ないし0.030ppm(ザルツマン係数0.72による一ないし三か年の平均値)であつた。

② 硫黄酸化物と有症率の関係は有意であつたが、硫黄酸化物によつて、現状の各地区間の有症率の差を説明することは困難であると考えられ、有症率の地区差を説明する指標としては、硫黄酸化物より窒素酸化物の方がより適切な指標であると考えられた。

(オ) 「大気汚染物の『用量―反応関係』」

右論文は、前田和甫が右(イ)ないし(エ)の論文に対する意見をまとめ、同五五年八月発表したものであり、その要旨は次のとおりである。

① (イ)の論文については、「用量」データの取扱い手法が恣意的である。

② (ウ)の論文については、原データから無作為再抽出によつて訂正有症率を求めるという方法は無意味であり、取扱う標本数を減少させ、その結果、有症率推定の誤差を広げる無益な方法である。

③ (エ)の論文については、第一に、同五二年度に実施された調査の資料が追加されているが、その中には有症率が倍増している地区が一つ含まれること、同四九年度からみると三年間の時間幅が存在することからして、追加された資料を一括して解析の対象とするのは妥当ではない。

第二に、プロビット法による解析が行われている点につき、この手法は、単一な作用因子により、特異な効果を期待する例では適用が可能であるが、集団現象である大気汚染の健康影響として、特に非特異的な症状を反応として集めた資料の解析において、厳密な条件設定下においてのみ成り立つ方法を適用することは容認しがたい。

第三に、二酸化窒素の長期の平均値が0.006ないし0.030ppmの範囲で、二酸化窒素と咳・痰の有症率との間に用量・反応関係が認められたというのは、従来の知見に照らして、理解できない。

なお、(オ)の論文に対し、坪田信孝は同五五年九月発表した論文において反論し、さらに前田和甫は同五五年一〇月再反論の意見を発表した。

そのほか、(オ)の論文に対しては、柳本武美や塚谷恒雄からも反論が加えられ、坪田信孝の解析方法を支持する旨の意見が発表されている。

オ 「国道二〇号線沿い住民健康調査」

塩尻市は、同四八年当初から国道二〇号と同一五三号の分岐点付近の住民から排ガスによる健康被害の訴えが相次ぐなどしたため、同年度にその健康状態を把握し、公害問題に対する住民意識の高揚を図ることを目的として、環境、意識及び健康調査を行い、同四九年一二月その結果を公表した。

大気汚染測定車による環境調査によれば、各汚染物質の状況(一時間値の平均値)は、硫黄酸化物が0.018ないし0.028ppm、炭化水素が1.54ないし1.59ppm、一酸化炭素が4.4ないし5.5ppm、一酸化窒素が0.090ないし0.406ppm、二酸化窒素が0.029ないし0.058ppmであり、長野県内では高い濃度にあつた。

健康診断の結果(希望者一六三名)によれば、八四名に何らかの異常がみられ、高血圧、結膜炎、神経痛、咽頭炎などが高率であつた。肩こり、頭痛、眼のかすみ、咽頭痛、頭重、咳、痰などの症状を訴える者が三分の一以上あつた。

呼気中と血中の一酸化炭素濃度は、いずれも高く、暖房器具の影響のほか、間接的にせよ排ガスの影響もあると考えて差支えないものと理解された。

貧血、高血圧、咳・痰、肺機能などの検査においても、排ガスの間接的影響を否定できなかつた。

血中一酸化炭素ヘモグロビンの値は、非喫煙者についても相当高かつたが、喫煙者との比較では呼気中一酸化炭素濃度とともに有意差がみられた。一酸化炭素ヘモグロビンの値が高いほど諸症状の増加がみられ、この地域では、その値が住民の健康の指標として役立つものと理解された。

通勤者と非通勤者との比較では、後者に呼吸器系、循環器系、神経系の疾病が多く、血中一酸化炭素も高濃度であつたが、高令者が多く、前者には若年者が多いため、一概に排ガスの暴露時間の差異の結果との断定はできない。

カ 「大阪府下における大気汚染に係る影響調査報告」

右論文は、近畿地方大気汚染調査連絡会が、排ガスを含む自動車道沿道地区の複合的な大気汚染が人の健康に対していかなる影響を与えているかを把握するため、大阪府が同四五ないし五〇年度に豊中、吹田、守口、高石、東大阪、泉大津地域において大気汚染による健康影響調査として実施している慢性気管支炎有症率調査のアンケート調査成績を資料として、主要自動車道沿道地区の慢性気管支炎有症率を算出し、検討を加え、同五二年一二月に発表したものである。

その検討により、次の結果が得られた。

① 同四六年度の自動車通行量が一二時間当り一万五〇〇〇台以上の自動車道から一〇〇メートル以内の沿道地区の女性の慢性気管支炎訂正有症率について、豊中市南部地域を除く、守口市、高石市、吹田市南部、泉大津市、東大阪市東部地域は、自動車道沿道地区の有症率が、市域の有症率に比して高率であつた。

② 市域の有症率に対する沿道地区の有症率の比率を指数として、この指数の自動車通行台数に対する回帰性を検討した結果、有意な直線性が認められた。

③ 高架道路と平坦道路沿道地区の有症率を検討した結果、高架道路である守口市の阪神高速道路については、道路からの距離が一〇一ないし二〇〇メートルの地区の有症率が最も高く、次いで〇ないし一〇〇メートルの地区が高く、二〇一メートル以遠の地区では、市域の有症率と同程度であつた。また平坦道路である守口市の国道一号については、〇ないし一〇〇メートルの地区が最も高く、一〇一メートル以遠の地区では、市域の有症率と同程度であつた。

④ 以上の結果は、排ガスによる大気汚染が、自動車道沿道地区の慢性気管支炎有症率を増加させる可能性を示唆するものであつた。

キ 大阪府医師会による調査

(ア) その内容

大阪府医師会は、同四六年以来、隔年に府下全域の全公立小学校児童の自覚症状調査を行い、その結果を「大阪府児童の大気汚染に関する自覚症状調査成績」として公表している。

調査対象者数は、同四六年度が六〇万九一九〇名、同四八年度が六六万二七七四名、同五〇年度が七二万九〇四八名であり、調査票回収率は、各年度とも九三パーセント以上であつた。

調査方法は、全児童にアンケート調査票を配付し、その保護者に児童の自覚症状の記入を求めた。

(イ) 「大阪における学童の自覚症状と大気汚染」

右論文は、横田文吉らが右調査結果のうち同四六ないし五〇年度に関するものを分析し、同五二年発表したものであり、その要旨は次のとおりである。

① 大阪府の右期間の大気汚染は、全国的な傾向と同様に硫黄酸化物及び降下ばいじんが減少し、浮遊粉じんが減少又は横ばい、窒素酸化物が同四八年まで横ばい又は増加し、同四九年にやや減少の傾向がみられた。

各調査校区の大気汚染値については、測定網が校区単位でその実測値を示すにはほど遠い状況のため、同四五年度の府下三八か所の測定局の実測値をもとに、調査校区の汚染度を大まかに推定した。代表的な地区の推定値は、二酸化硫黄が0.037ないし0.059ppm、窒素酸化物が0.051ないし0.110ppmである。

② 大気汚染の著しい地域ほど訴症率が高く、地域差に関して各症状固有のパターンを示した。

③ 年次的には、一般に同四八年度の訴症率が最も高かつた。

④ 大阪市内の各校の訴症率は、二酸化硫黄推定値よりも固定発生源による窒素酸化物推定値との相関が強くみられた。

⑤ 移動発生源による窒素酸化物推定値と訴症率との相関が、特に同五〇年に目立つてきた。

⑥ 偏相関係数でみると、移動発生源による窒素酸化物推定値は、硫黄酸化物の場合と異なり、「くしやみがでやすい」「目が痛い」「ぜいぜいいう」の訴えと関連していた。

⑦ 南部の七九校について、推定汚染値と訴症率との回帰式を求めたところ、窒素酸化物年平均値0.015ppm前後の地域から大気汚染度との関連が表われる結果が得られた。

⑧ 右分析結果の評価については、次の問題点などに留意すべきである。

第一に、自覚症状の調査は、ややもすれば主観的要素が入るきらいがあり、右調査においても、回答の精度につき一応の吟味がされてはいるが、なお客観性は不十分である。もつとも、公害の心理的影響も重視すべきであるから、自覚症状調査に心理的影響が入ることは、かえつて単なる他覚的検査にない重要な情報を含んでいることを意味する。

第二に、汚染値としては、主として同四五年当時の推定値が用いられ、時間的なずれと推定方法の厳密さに欠ける点を否定できない。

第三に、年次的傾向で訴症率と汚染値との相関は、同四六年、同四八年よりも同五〇年に著明にみられるが、汚染値は同四五年の推定値であるから、同五〇年には、ずれが生じているはずであるにもかかわらず、相関がより明瞭にみられた点は矛盾する。

第四に、右⑦に示した窒素酸化物の年平均値を算出するのに用いた手法は、統計学的に厳密なものではなく問題がある。そして、その値が0.015ppm未満に相当する地域といえば、大阪府ではほとんど農山村地域を意味し、それ以上の濃度の地域では次第に都市化の要素が加わつてくる。したがつて、訴症率に地域差が生じる要因としては、大気汚染のみならず、生活の背景の違いをあわせて考慮しなければならず、この点をいかに解析するかが今後の課題である。

ク 中央高速道路における調査

東京都杉並区教育委員会は、同五一年五月に開通した中央高速道路に近接する富士見ケ丘小学校の学童の健康を継続調査することとし、これを東海大学医学部公衆衛生教室に委託した。

同教室は、同年度から右の委託に基づき、同小学校を研究校とし、対照校として桃井第五小学校を選定し、アンケート調査、面接調査、家庭環境調査、各種精密検査を行い、その結果を公表している。

同五三年度までの右調査結果によれば、特に中央高速道路が学校に大きな影響を及ぼしているとは考えられなかつた。また、環状八号線や甲州街道など一日の交通量が四万ないし六万台の主要幹線の沿道で、道路から住居までの距離により地区を分けて分析すると、一〇〇メートル以内の地区では、受け身の喫煙が有訴率、有病率を増大させる重大な引き金としての意義をもつが、一〇〇メートル以上の地区では、その影響は有訴率、有病率に反映されないことが明らかになつた。しかし、地域の大気汚染の基本値が二酸化窒素の年平均値で0.05ppmを超え、かつ一日の交通量が一〇万台を超える幹線道路に面しているような地区では、右の両者のみの相加で受け身の喫煙がなくとも、閾値を超えることがありうるものと考えられる。

ケ 尼崎市五三年調査

尼崎市は、同五三年同市内の自動車交通量の多い主要幹線道路を対象として、その沿道に居住する住民の健康の実態を把握することを目的として右調査を行つた。

右調査では、排ガスの影響が主体とされ、環境庁企画調整局公害保健課が同四八年「大気汚染と健康影響についての疫学調査方法」として公表している中の受診率調査(国民健康保険の診療報酬請求明細書〔以下「レセプト」という。〕を基礎資料として、排ガスに関連するとされている呼吸器疾患の受診率を算出し、この受診率の動向を観察して健康への影響を判断する方式)が選ばれた。

右調査は、国民健康保険レセプトの保存年限である過去五年間のうち、同四九、五一及び五三年度の各五月を対象月とし、肺気腫、慢性気管支炎、気管支ぜん息、ぜん息性気管支炎のほか、かぜ症候群、気管支炎、肺炎の急性呼吸器系疾患を対象疾病とし、同市内で自動車交通量の多い幹線道路であつてしかも公害健康被害補償法による第一種地域に含まれることのない道路であるとの条件を設定し、本件国道や国道二号を除いた四道路について、各沿道両側一〇〇メートル以内の地域を調査対象地区とした。

調査対象地域内の全人口に対する国民健康保険加入者の割合は、同五三年度において、県道尼崎宝塚線沿道で約34.1パーセント、市道山手幹線と名神高速道路沿道で約33.8パーセント、県道米谷昆陽尼崎線沿道で約29.4パーセントであつて、全市域での割合32.2パーセントに対し著しい格差はみられず、特異な条件にあるとは判断されなかつた。

右調査の結果、保険加入者数は年度を経るに従い増加したが、各沿道の受診率はいずれも逓減傾向を示し、これを疾病別、年令階層別に検討しても、顕著に受診率の増加したものはみられなかつた。二酸化窒素の生体に対する作用としての感染性微生物への抵抗力の減弱、肺機能障害等を考慮して調査された急性呼吸器系疾患については、かぜ症候群では乳幼児期に受診率の増加がみられたが、他の年令階層では一貫した受診率の増加は認められず、気管支炎では、受診率が増加を示す兆候はほとんどなく、肺炎では、いずれの地域でもその症例はごく少数で、二酸化窒素が肺炎菌に対する抵抗を減弱させるという文献的事実を裏づける根拠は確認することができなかつた。

我が国における近年の呼吸器系疾患の罹患傾向については、厚生省が毎年全国的規模で実施している「国民健康調査」による有病率と「患者調査」による受療率で推察することが可能であるが、これらの有病率、受療率の同四九年前後から同五一年にかけての推移をみると、概況としては増加ないし横ばい傾向であり、これは気管支ぜん息についてもほぼ同様であるといえる。ところで、右調査の作業仮説である「もし自動車沿道の排出ガスによる大気の汚染が住民の健康に悪影響を与えるなら年々受診率は高くなる」ことを満足するためには、全国的なすう勢を超えて受診率は高くなつていなければならないと考えられるが、各沿道での受診率はむしろ逓減しており、これを疾病別、年令階層別に検討しても、顕著にその受診率が増加したものは認められず、したがつて、排ガスが呼吸器系疾患の直接の発症原因となり、あるいは、その誘発、重篤化に影響するものと断定できる根拠となる受診率の年次的伸びは存在していない旨一応結論づけられた。

右調査結果の評価については、次のとおり指摘することができる。

① 受診率調査には、その欠点として、診断名の確認ができにくいこと、給付率の改正等の社会的な要因によつて受診率に変化が起こりうること、現在住んでいるというだけで居住期間が不明であること、医者にかかつた人しか対象にならないこと等が挙げられ、その調査結果の評価に当つて、右の欠点に伴う限界を考慮する必要がある。

② 右の各幹線道路において、交通量が大きく変化したという事実は明白ではないので、一概に受診率が年々高くなるという仮説を設定するのは妥当ではない。

コ 北畠正義らによる調査

(ア) その内容

同人らは、四日市北部の固定発生源による汚染が比較的少なく、かつ交通量の多い主要幹線道路が横切る地区を選び、国民健康保険加入者を対象に、同四八年三月から同五〇年一一月までの期間について、道路から住居までの距離別に呼吸器系疾患有症率(受診率)を求め、排ガスの呼吸器系疾患への影響を調査した。

主要幹線道路は、国道一号及び名四国道であり、その一日の交通量は、それぞれ二万六四九一台及び四万八三三三台である。

(イ) 「自動車排気ガスの人体に及ぼす影響について」

右論文は、同人らが右調査結果を分析して同五二年に発表したものであり、その要旨は次のとおりである。

① ぜん息型(気管支ぜん息、ぜん息性気管支炎)、上気道型(咽頭炎、喉頭炎、扁桃腺炎、アンギーナ、鼻炎)及び閉塞型(気管支ぜん息、ぜん息性気管支炎、慢性気管支炎、肺気腫)の各呼吸器疾患群は、道路から〇ないし三〇メートルの地区で受診率が高かつたが、急性型(感冒、急性気管支炎、肺炎、流行性感冒)の疾患群は、道路からの距離とはほとんど関係なく受診しており、慢性型(慢性気管支炎、肺気腫、気管支拡張症)の疾患群は、名四国道では道路から三〇メートル以内の地区で顕著に高率であつたものの、国道一号では道路からの距離による差はみられなかつた。

(ウ) 右調査に対する評価

右調査については、受診率調査一般に対する評価として、右ケの尼崎市五三年調査に対する評価として指摘した①と同旨の指摘をすることができる。

サ 東京都による調査

(ア) その内容

東京都は、同五三年度から窒素酸化物を中心とする複合大気汚染の健康影響を解明するための疫学調査を始めた。

症状調査は同五四年一〇月に行われたが、その対象地域には、環状七号線及び国道二〇号の各周辺の二つの地域が選ばれ、幹線自動車道路端から二〇メートル以内の地区を沿道とし、それに続く一五〇メートル以内の地区を後背地と分類した。

調査対象者には、対象地域の沿道については、三年以上居住する四〇才以上六〇才未満の女性全員が選ばれ、後背地については、沿道の対象者数に一致するよう無作為に抽出された。

調査は、ATS―DLD質問票に準拠した自記式質問紙法により行われた。その回収率は75.7及び84.0パーセントであつた。

症状調査において質問票が回収された者の中から、無作為に二割の者が選ばれ、フィルターバッジにより二酸化窒素の個人暴露量の測定が行われた。その結果、一つの地域では沿道の方が後背地よりも濃度が高かつたが、他の地域では両者に差はなかつた。

(イ) 「複合大気汚染に係る健康影響調査症状調査中間結果報告書」

右報告書は、東京都衛生局が右調査のうち同五五年度までに行つた調査結果を中間報告としてとりまとめ、同五七年七月公表したものであり、その要旨は次のとおりである。

① 沿道と後背地との間に対象者の居住年数、職業、家屋構造に差がみられること及び回収率がやや低いことによる制限がある点を留保すれば、持続性咳・痰、慢性的なぜん鳴、軽度の息切れの有症率に差がみられ、二酸化窒素の影響を疑わせる。

② 自覚症状調査においては、対象者の意識や関心度等の相違により回答に誤差が生じる疑問があるが、この点は右調査では不明である。

シ 「名古屋市における園児・児童・生徒の大気汚染による健康被害意識調査」

名古屋市医師会は、同四六年以降名古屋市内において、健康影響を受けやすい小・中学校の児童・生徒、幼稚園・保育園の園児を対象として、健康被害意識調査を行つてその実態を究明し、その推移を観察しながら大気汚染、特に自動車公害の影響を追求してきた。

同五七年度調査は、児童・生徒については、全市の市立小・中学校の小学三年生及び六年生の全員六万六八五三人、中学三年生の全員二万九一〇七人を対象とし、アンケート方式で児童・生徒に記入させる方法をとり、園児については、全市の公私立保育園・幼稚園の四才児及び五才児の全員四万九八〇八人の園児を対象とし、アンケート方式でその保護者に記入させる方法で行われた。その調査票の回収率は、児童・生徒につき98.10パーセント、園児につき88.46パーセントであつた。

右調査結果は、次のとおりであつた。

① 全対象者の呼吸器疾病の訴症率は、園児では、ぜん息性気管支炎が11.6パーセント、ぜん息が6.5パーセントであり、児童・生徒では、ぜん息性気管支炎が5.4パーセント、ぜん息が3.4パーセント、慢性気管支炎が0.24パーセントであつた。

② 大気汚染の現況と訴症率との関係については、園児では、硫黄酸化物及び窒素酸化物とは全く有意の相関はみられず、児童・生徒では、硫黄酸化物と持続性咳、窒素酸化物と慢性気管支炎との間に有意の相関がみられるが、他の症状との間には有意の相関はみられない。また全調査項目の総合評点と大気汚染の濃度との関係を、園児・児童・生徒を合わせた全対象としてみると、硫黄酸化物、窒素酸化物及びこれらの複合汚染はいずれも有意の相関を示さず、大気汚染の影響が園児・児童・生徒に及んでいることは明らかではなかつた。

③ 訴症率と幹線道路(交通の頻繁な片側二車線以上の道路)から住居までの距離との関係については、園児では、ぜん息性気管支炎及びぜん息のほか全症状の訴症率並びに症状多発者の割合が、児童・生徒では、ぜん息性気管支炎及びぜん息のほかぜん鳴を除く全症状並びに症状多発者の割合が、いずれも道路に近づくにつれて有意に増加し、交通公害の影響を受けていることが明らかであつた。

④ 名古屋市都市高速二号線の一部開通に伴う影響につき、前年度の成績との比較でみると、症状により増減を示すが、有意差を示すものはほとんどなく、健康状態の悪化は明らかではなかつた。

(2) 本件沿道を含むもの

<証拠>を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

ア 「道路沿いの学校における児童の健康状態」

藤田睦は、同四七年から本件沿道の芦屋市立精道小学校において、児童の健康の実態調査を行つたが、その結果は次のとおりである。

① 同年一〇、一一月に同校内で頭痛、腹痛、はき気、気分の悪化、鼻血、のど痛、眼痛及びけがを訴えた児童数の全児童数に対する割合は、同市立山手小学校における割合に比して高率であつた。

② 空調設備の設置された校舎では、その設置後に訴症率が減少した。

③ 窒素酸化物濃度とのど痛、頭痛、鼻血及びけがなどとは密接な関係がみられた。

④ 同五一年五月、全校生徒を対象にしてその保護者による記入を求めたアンケート調査では、本件道路の南側一〇〇メートル以内に居住する児童は、北側一〇〇メートル以内に居住する児童に比して、はき気及び気分の悪化の訴症率が約二倍で、眼痛及び鼻血の訴症率が約三〇パーセント多いが、一〇〇メートル以遠では南北で大差がなく、過去三年以内に耳鼻咽喉科の医師にかかつたことのある児童の率は、南側一〇〇メートル以内で50.8パーセント、その他の地区で29.0ないし39.5パーセントであつた。

イ 尼崎連合会調査

右調査結果によれば「目や鼻、のどなどが痛くなつた」旨の訴え率は、A地域が68.9パーセント、B地域が53.8パーセント、「気管支炎やゼンソクにかかつている。(もしくはかかつたことがある)」旨の訴え率は、A地域が45.1パーセント、B地域が41.7パーセント、「子供がよく鼻血を出す」旨の訴え率は、A地域が40.3パーセント、B地域が34.3パーセントであつた。

ウ 西宮連合会調査

右調査結果によれば、右アと同旨の訴え率は、A・B両地域合計で、それぞれ42.4パーセント、23.3パーセント、8.7パーセントであつた。

エ 兵庫県四九年調査

その面接調査は、CMI方式に準じた調査票をもつて行われたが、対象として選定された尼崎、西宮、芦屋の三地区が、それぞれに都市としての性格及び居住者の生活条件に差異があるため、抽出された対象者の年令の分布、男女の構成比に偏りが生じざるをえない結果となつたこと、健康問題に先立つて行つた日常生活に関する質問の回答によれば、西宮と芦屋の両市と尼崎市とにはずれがあり、このような日常生活の具体的な被害意識の上に健康上の愁訴が積み重ねられているとみられることから、三市の調査地区を並列に比較検討し、解釈を試みることはできず、また、単純に調査対象地域居住者と対照して選んだ地域の居住者とを比較するにも困難な条件を含んでいることになり、その結果について両地区間を比較して統計的な検討を加えることができないとし、単純な現象上の問題として次の諸点を述べるにとどまつた。

まず、眼に関する異常の訴えは尼崎及び西宮の地区においてはA地区が明らかにB地区を上回つているが、芦屋地区においては明確な差異はなく、むしろB地区の訴えがまさつている矛盾ともいうべき結果になつた。

耳鼻咽喉系統についての訴え並びに咳及び痰の訴えは、三市のいずれの地区でもA地区が比較的高い訴え率を示したため、仮説的に生体の右部分には若干の自動車の排ガス等の影響が実在するもののように推察された。

そして、自動車公害の実在を仮定した場合、生体にはストレスとしてその影響が現われると考えられるところ、循環器系障害の顕在化については右影響を肯定する事実はなかつたが、これに関連する愁訴についてはA地区において高率であつた。消化器系及び神経系に関する愁訴においては統一的傾向を得ることはできなかつた。愁訴として主にとらえた心身の状況は全体的にみて多少の矛盾点を内蔵することは否定できないが、A地区にその頻度の高いことが認められた。しかし、健康上の影響の実在を確認するためには、先に述べた年令因子を統計的に補正した上での判断が必要であり、三市の都市条件の相違からして並列的比較は避けるべきである。

耳鼻咽喉科検診の結果は、副鼻腔炎、上咽頭の炎症、咽頭側索の慢性炎症につき、A地区がB地区に比較して多い傾向が認められ、副鼻腔炎の成因は未解明であるが、右のその他の所見は排ガスの影響を否定できない。

最大努力性呼出による換気機能検査、フローボリューム検査及び胸部レントゲン検査の所見は、AB両地区で有意差がみられなかつた。

オ 神戸市調査

神戸市は、生活環境研究会に委託し、同四九年一〇、一一月、環境庁が同四八年八月に示した指示に従つて硫黄酸化物による大気汚染に着目して右調査を行つた。

対象として、同市灘区の本件国道から南北約四〇〇メートル以内の西郷地区と東灘区の本件国道から南北約一〇〇メートルの魚崎地区に三年以上居住する四〇才以上六〇才未満の女性から三分の一が抽出されたが、魚崎地区では抽出者が一七四名と少なくなる制約を免れなかつた。

また受診率は、西郷地区では96.9パーセントと環境庁の示す条件を満足したが、魚崎地区では90.1パーセントとわずかながら右条件を満足するに至らず、その調査結果の解釈は制約を受けることとなつた。

右調査結果によれば、持続性咳・痰の有症率は、西郷地区5.6パーセント、魚崎地区9.1パーセント、慢性気管支炎有症率は、それぞれ1.9パーセント、1.3パーセントであつた。

カ 環境庁五〇年調査

右調査では、本件道路の南側五〇メートル以内の地域をA地区、同一五〇メートル以上の地域がB地区とされたが、これは兵庫県四九年調査の結果によれば一酸化窒素、二酸化窒素、一酸化炭素等の濃度が道路端から一五〇メートルを越すとさほど減衰が見られなくなること、本件沿道においては風向きが一年を通じて主に北ないし東北の方向であることを考慮して設定された。

環境大気調査は、芦屋市若宮町と浜町断面で、道路端から南(風下側)二五〇メートル、五〇メートル及び道路端並びに北(風上側)道路端から五〇メートルの四か所において一か月間濃度測定が行われた。各測定点における平均濃度は、二酸化窒素が0.028、0.041、0.049及び0.028ppm、窒素酸化物が0.062、0.115、0.182及び0.057ppm、一酸化炭素が1.6、2.6、2.7及び1.5ppmであり、いずれもA地区の濃度が明らかに高く、また、南側二五〇メートル地点の濃度は、風上側の道路端から五〇メートル北側地点の濃度とほぼ同じ値であつた。

健康状態に関する面接質問調査は、BMRCの質問票等を参考にして作成された質問票を用いて、訓練を受けた保健婦により実施された。

その結果、呼吸器症状有症率は、「持続性のせきとたん」がA地区で3.2パーセント(年令、喫煙の補正をした有症率3.2パーセント)、B地区で2.2パーセント(同2.3パーセント)、「持続性のせき」がA地区で7.7パーセント(同7.2パーセント)、B地区で5.1パーセント(同5.4パーセント)、「持続性のたん」がA地区で8.9パーセント(同8.6パーセント)、B地区で6.3パーセント(同6.4パーセント)であり、いずれもA地区において高い傾向が認められたが、両地区間において統計学的な有意差はなく、また、各年令階層ごとの同様の比較検討においても、いずれも有意差はなかつた。

喫煙習慣別による呼吸器症状有症率は、両地区の全年令の喫煙者が「持続性のせきとたん」八パーセント、「持続性のせき」12.5パーセント、「持続性のたん」14.8パーセントであつたのに対し、非喫煙者が2.1パーセント、5.6パーセント、6パーセントであり、いずれも喫煙者の有症率が有意差をもつて高かつた。

家庭において使用するストーブの排気方式の別による呼吸器症状有症率は、両地区を合わせた非排気型ストーブを使用している者が「持続性のせきとたん」2.8パーセント、「持続性のせき」6.8パーセント、「持続性のたん」8.2パーセント、排気型ストーブを使用している者が「持続性のせきとたん」1.9パーセント、「持続性のせき」3.8パーセント、「持続性のたん」3.8パーセントであり、いずれも非排気型ストーブを使用している者の有症率が高い傾向を示したが有意差はなかつた。

循環器・呼吸器疾患の既往では、過去二年間に右疾患について医師から診断や治療を受けた者の数は、慢性気管支炎につきA地区が1.5パーセント、B地区が2.4パーセント、気管支ぜん息につきA地区が1.0パーセント、B地区が1.5パーセント、ぜん息性気管支炎につきA地区が1.5パーセント、B地区が1.7パーセントといずれもB地区が高い傾向を示したが有意差はなく、その他狭心症、心筋梗塞、急性気管支炎、肺炎を含むいずれの疾患においても全年令、各年令階層ごとにみて、両地区の間に統計的有意差はなかつた。なお肺気腫については両地区とも〇パーセントであつた。

調査対象者に一二歳以下の子供がいた場合(A地区三一九名、B地区三二八名)、過去二年間に特定の呼吸器疾患について医師から診断や治療を受けた者の数を両地区で比較すると、クループ(喉頭ジフテリアなどの場合に発せられるしわがれ声)につきA地区が7.5パーセント、B地区が11.3パーセント、気管支炎につきA地区が12.5パーセント、B地区が15.2パーセントといずれもB地区が高い傾向を示し、ぜん息性気管支炎につきA地区が3.8パーセント、B地区が2.7パーセント、蓄膿症につきA地区が3.8パーセントB地区が2.7パーセントといずれもA地区が高い傾向を示したが、その他肺炎、気管支ぜん息を含むいずれの疾患においても、全年令、各年令階層ごとにみて、両地区の間に統計的有意差はなかつた。

呼吸器機能検査としては、面接質問調査の対象者のうちA地区一九〇名、B地区一八九名につき、スパイログラム及びフローボリューム曲線の検査が実施され、A地区一五八名、B地区一五九名について、クロージングボリュームの検査が実施された。

右検査の結果、努力性肺活量の平均値及びこれに身長、年令、男女の補正を施した努力性肺活量比の平均値において、いずれもB地区がA地区より全年令で大きく、有意差があつた。しかし、閉塞性障害の有無を見る一秒率(正常値は七〇パーセント以上)においてはA地区が85.7パーセント、B地区が84.4パーセントとA地区の方が上回り、一秒量、一秒率において両地区の間では統計的な有意差はなかつた。その他、換気機能分類による比較、フローボリューム曲線、クロージングボリュームの検査において、両地区の間には統計的な有意差はなかつた。

胸部レントゲン検査は、A地区二〇四名、B地区二〇一名について行われたが、肺結核や肺気腫の有所見者はなく、心肥大、炎症の有所見者数については両地区の間に統計的な有意差はなかつた。

耳鼻咽喉科検診は、A地区二〇四名、B地区二〇一名について行われた。これによる有所見率の比較では、粘液性鼻汁は、全年令でA地区が3.9パーセント、B地区が0.5パーセント咽頭後壁リンパ瀘胞発赤腫脹は、三〇才代でA地区が6.2パーセント、B地区が22.4パーセント、全年令でA地区が10.3パーセント、B地区が19.4パーセント、鼻前庭痂皮は、五〇才代でA地区が2.9パーセント、B地区が16.4パーセント、上咽頭分泌物は、五〇才代でA地区が23.0パーセント、B地区が4.8パーセントであり、いずれも有意差が認められたが、その他の有所見率では有意差は認められず、全症状を通じた有所見率において、両地区に一貫性のある差は現われていない。

大気汚染により咽頭の一般細菌叢がどのように変化するかを調べる目的で、主として四〇才代後半の年令層を対象としてA地区四〇名、B地区四二名について検査が行われたが、両地区の間で、好気性細菌、連鎖球菌、ブドウ球菌、グラム陰性杆菌、嫌気性細菌及び真菌類それぞれの菌量について一定の傾向は認められず、検出率については差がなかつた。

貧血、肝機能及び排ガス中の鉛の影響をみるため、統計学的に任意抽出したA地区一〇〇名、B地区八五名を対象とし、血液検査についてはA地区八三名、B地区七七名、尿検査についてはA地区八四名、B地区七四名に対し検査が行われたが、鉛の影響をみるコプロポルフィリン比重補正値について全年令でB地区が有意に高かつたほかは、血液及び尿検査のいずれにおいても、両地区の間に統計的な有意差はなく、また一貫性のある傾向もなかつた。

右調査結果の評価については、次の点を指摘することができる。

① 対照地区をB地区よりもさらに低汚染の地域にとれば、有症率に有意差が表われる可能性がある。しかし他方では、B地区の汚染状況は、右の環境大気調査でみる限り、本件沿道のバックグラウンドであるともとらえることができる。

② 家庭で使用するストーブの排気方式別調査で有症率に有意差がみられなかつたのは、調査が行われた同五〇年には排気型ストーブが未だ十分に普及していなかつたことにも一因があるものとみることができる。

③ 努力性肺活量比は、八〇パーセント以上であれば正常といえるものであるところ、A地区においても平均一〇一パーセントという値を示しており、B地区の平均一〇六パーセントとの間に有意差があつたことが直ちに問題とはならない。

キ 兵庫県医師会調査

同県は、同五二年同医師会に委託して、同県を瀬戸内海臨海地域(本件各市、加古川市及び姫路市)、内陸部(朝来郡)、日本海側(美方郡)に分けて、学童のぜん息(その疑いを含む。)の有症率、欠席日数、鼻血に関する右調査を行つた。

右調査は、第三学年在籍児童全員(男子六九六六名、女子六七一五名)を対象とし、まずその保護者に対するアンケート方式により行われ(調査票回収率97.8パーセント)、次に医師による問診が行われた。

ぜん息の診断は、その発作時以外には極めて困難であるため、ぜん息の疑いのある者を含めて資料が集積された結果、各校同一歩調の資料の集積が困難であつた。そして、真のぜん息は、集積された結果よりはるかに低値を示すものと考えられた。

ぜん息の有症率は、尼崎市、芦屋市、神戸市、西宮市、姫路市、美方郡、加古川市、朝来郡の順に高率で、それぞれ16.8、15.5、14.4、13.7、10.4、8.9、8.1、7.0パーセントであり、全体の平均値は13.8パーセントであつた。大気汚染レベルの地域的差異からみて、大気汚染とぜん息の相関関係が推測された。

鼻出血の有訴率については、一ないし四回のものはほとんど地域差が認められないが、五回以上のものは瀬戸内海臨海地域がわずかに高率であつた。この地域別差異は大気汚染によるとは即断しがたい。

欠席率は本件各市内でわずかに高いが、大気汚染の欠席率への影響はほとんどないものと考えられた。しかし、ぜん息による欠席率については、瀬戸内海地域が他の地域に比して高く、大気汚染の影響がある程度推測された。

本件国道との関連については、その沿道にある小学校(一二校)のうち、八校のぜん息有症率はそれぞれの市内平均値よりも高かつたが、統計的にみて相関関係を結論づけるには至らなかつた。また鼻出血有訴率及び欠席率についても相関関係はみられなかつた。

右調査においては、調査方法などにもかなりの制約があり、医学的にも未解明の分野が多く、十分な疫学的検討を加えるには至つていない旨が付記されている。

なお、右調査結果のうち、ぜん息の有症率は、千葉市の小学校において同四七年に調査された有症率(男子平均2.5パーセント、女子平均1.53パーセント)に比して、全体に著しく高率であるが、右の各調査ではぜん息の診断基準や調査対象児童の学年に相違がある点に留意すべきである。

ク 柳楽調査

(ア) その内容

柳楽翼らは、同五四年排ガス汚染と学童集団の上・下気道、粘膜系症状等との関連性を、疫学的手法を用いて明らかにすることを目的として、本件沿道の二小学校及びその他の地域の一小学校において、学童を対象に自記式質問票による調査を行つた。

調査対象校として、芦屋市の精進小学校(同年七月現在の学童数一五六二名)及び尼崎市の西小学校(同一一一五名)、対象校として芦屋市の山手小学校(同八三四名)がそれぞれ選ばれた。

対象校は、いずれも本件国道の北に隣接し、本件国道によつてその校区が南北に二分されている。精道小学校は、ぜん息有症率が本件各市の本件沿道に存在する一二の小学校の中で二番目に高く、その東方約一キロメートルにある打出排ガス測定局の二酸化窒素の同五一ないし五三年度平均値0.043ppmは、兵庫県内の四つの本件国道測定局の中で最高値を示し、その校区の大部分は第二種住居専用地域となつている。西小学校は、本件県道大阪線が当時未開通のため、本件道路の交通量が他地区より少なく、同校に隣接する武庫川測定局の同平均値0.032ppmは、右四つの測定局中で最低値を示し、本件国道の隣接校としては比較的汚染が低い。

対照校は、本件国道の北方約1.8キロメートルに位置し、その校区は精道小学校区の北に隣接する。同校では二酸化硫黄の測定のみが行われ、その同五一ないし五三年度平均値は本件各市内の一般測定局二〇地点の中で低い方から三番目であり、芦屋市役所測定局及び尼崎西測定局の値より明らかに低い。同校区の南側は国道二号に接するが、他には幹線道路や特記すべき固定発生源がないことから、対象校に比較して低汚染校であるということができ、本件国道の排ガスの直接的影響はほとんど受けていないこと、同校区の大部分が第一種住居専用地域に属することから、特に精道小学校に対しては、適切な対照校ということができる。

質問票は、学校を通じて全学童に配付され、父母による記入を求めた。質問項目は、上・下気道症状及び眼粘膜症状等のほか、居住歴、家族歴、本件国道及び一般自動車道路との位置関係、家族の喫煙状況、暖房方法、住居の構造・種別に関する事項である。

自覚症状有訴率と学童の住居から本件国道までの距離との関係の有無を数量的に把握するため、現住居に三年以上居住する者のみを対象として、右距離別に、対象校については、本件国道に面するもの、一〇〇メートル以内、一〇〇ないし三〇〇メートル以内、三〇〇メートル以遠に分類し、対照校については、全校区が五〇〇メートル以遠になるのでこれをまとめて分類し、スコア法による有訴率の線型傾向の検定が行われた。

(イ) 「大気汚染地域における小児の健康障害に関する研究(第二編)」

右論文は、柳楽翼らが右調査結果を分析して同五六年八月発表したものであり、その要旨は次のとおりである。

① 対象者の諸属性については、精道、山手両小学校は、住環境及び社会経済的条件に関してほとんど同様の状態におかれているが、西小学校は他の二校に比して社会経済的条件及び地域環境が異なつている。

② 有訴率の比較では、大気汚染状況の差に対応して、精道、西、山手各小学校の順に高率であつた。

③ 対象校においては、学童の住居から本件国道までの距離が遠くなるに従つて有訴率が低下する傾向を示し、スコア法を用いた検定によつて、多くの項目について有意の線型傾向が認められた。

④ 有訴率の距離減衰傾向と排ガス汚染の距離減衰の間にはパターンの相似が認められ、かつ、対象校の沿道では、二酸化窒素濃度がその長期指針値を超え、また短期指針値と同レベルにあつた。長期指針値が影響濃度とされている点、他の汚染物質との共存効果及び学童が感受性の比較的高い集団である点を考慮すると、近傍での自覚症状の高率発生とその距離減衰が、排ガス汚染に起因することを否定しえない。

⑤ 学年別比較の結果、対照校では、高学年における有訴率の低下傾向が顕著であり、学童に一般にみられる自然寛解の経過に一致するのに対し、精道小学校では、その低下傾向が弱く、さらに五、六年生に至つてアレルギー性症状、反復性気道感染罹患(易感冒)の増加傾向が認められた。西小学校全校舎と精道小学校南校舎には、空気清浄機が設置されているが、同北校舎には未設置である。したがつて同校の五、六年生は、三か月ないし二年三か月前まで南校舎で清浄機の除じん効果の下にいたのが、北校舎への移転によつて、自覚症状の寛解の遅延、再発、新規発生の増加などの影響を現わしたものと考えられた。

⑥ 精道小学校区では、本件国道の南北別に比較した結果、アレルギー性症状、易感冒などが南側一〇〇ないし三〇〇メートルにおいて相対的に高率を示し、夜間に卓越する北方向の風による南側での高濃度暴露との関連が推察された。

⑦ 自覚症状多発と排ガス汚染との関係について、病因論的考察を行つたところ、二酸化窒素暴露による経気道感染への感受性の亢進、急性呼吸器疾患罹患率の増加、アレルギー的感作の促進、気管支ぜん息患者における気道狭窄効果の増強などの作用に関する知見及び二酸化窒素と粒子状物質、二酸化窒素、オゾン等との共存効果に関する知見からみて、ぜん鳴・ぜんそく症状、アレルギー性症状及び易感冒が、排ガス汚染との間に強い関連性を有する点は、矛盾なく理解され、またこの結果は、道路沿線における既存の健康調査結果の多くの知見とも符合している。

(ウ) 右調査と論文に対する評価

その評価については、次の点を指摘することができる。

a 調査の背景・目的について

(a) 調査者誤差

柳楽翼は、同五三年ころ「国道四三号線道路公害住民総合調査団」及び「精道小学校PTA公害対策委員会」の依頼を受けて右調査を行つたものであるが、同人は、これに先立つて本件沿道の住民の公害に関する学習会で右調査について説明を行い、同五五年四月には被告公団が住民に対して開催した阪神高速道路大阪西宮線環境影響予測説明会に環境影響予測報告書を批判する内容の文書を提出し、さらに同年六月には本件沿道の公害問題に関するシンポジウムに参加しており、同人が右調査につき、沿道住民からみて客観性を有する純然たる第三者の立場にあるというには疑問を払拭しえない。

(b) 被調査者誤差

本件沿道では、同五四年当時すでに本訴が提起され、道路公害に対する住民の関心が高かつたものであるから、その調査についてはこれを原因とする被調査者誤差の発生を防止するような配慮が必要であるが、その質問票の冒頭には、「この調査は、お子様のからだの具合と大気の汚れの関係についてしらべて、気管支ぜんそくの診断と公害防止を行うための資料に用い」る旨記載するなど、大気汚染に対する認識の相違に基づき、右誤差の発生を助長しかねない内容の記載がみられる。

b 対照集団の選定と暴露量の把握について

(a) 対照集団の選定

要因対照研究の対照群の選び方においては、仮設要因以外の条件で疾病の発生に関係する要因につき、同一条件の地域を選ぶことが望ましく、小児の気管支ぜん息にはその世帯の社会経済的条件が影響を及ぼしていることが明らかであるから、右調査においても、右条件の検討が必要である。

ところが右調査では、三年以上居住者率、住居が一般自動車通行道路に面している率、家族の喫煙状況、非排気型ストーブの使用率、家屋構造、アレルギー疾患家族歴において有意差がなかつたこと及び都市計画法上の地域指定の同一性(住居専用地域)から、直ちに精道、山手両小学校の学童が、住環境さらには社会経済的条件に関してほとんど同様の状態におかれているものと判断したが、右判断をするには、これらの事実のみの比較では十分とはいえない。

(b) 暴露量の把握

山手小学校区においては、二酸化窒素濃度の測定値が存在せず、二酸化硫黄濃度からその汚染の程度を推定しているが、この方法では、調査当時の同校区の二酸化窒素濃度が低く、対照校として適切であると断定することはできない。

また、各校区の広がりを考慮すれば、各校区における各測定局の測定値をもつて、その校区全体を代表する値として取扱うことは正確性に欠ける。

c 質問票について

右調査の質問票については、これを用いた学童の気管支ぜん息患児の把握方法につき、すでに検討が行われ、その結果特異度の比較的高い患児摘出項目は、「最近二年間に起坐呼吸があつた」と「過去にぜん息の診断を受けたことがある」の両項目の組合せ及び前者の単独項目であることが確認されているが、その他の項目についての信頼性は確認されていない。

d 自記式調査について

前記の調査は、質問の趣旨が一義的ではなく、回答者の解釈の余地を残す項目が含まれていること、質問票の各校区の回収率が71.1ないし86.9パーセントであり、十分なものとはいえないこと、その回収率を高めて調査の信頼性を向上させる方策がみられないこと、呼吸機能検査や個人暴露濃度調査が実施されていないことなどの点において万全のものとはいいがたい。

e 統計処理方法について

前記の調査においては、呼吸器症状に対するかく乱要因(アレルギー疾患家族歴や家族の喫煙状況など)について調査が行われているにもかかわらず、統計的解析を行う前にこれらの要因についての標準化の作業が行われていないこと、各学童の居宅から本件道路までの距離につき、回答と実測では差が認められているのに、これを訂正しないまま解析が行われたことなどの点でその解析結果の信頼性には疑問が留保される。

f 調査結果の解釈について

① 前記調査においては、気管支ぜん息患児の摘出に特異性の高い質問項目であることが検証されている「最近二年間に起坐呼吸があり、過去にぜん息の診断を受けたことがある」旨の質問については、精道、山手両小学校で有意差がみられておらず、また気管支ぜん息患児に発生している率が高いことが検証されている反復性気道感染についても右両小学校で有意差がみられていないので、前記(イ)②のように断定することは正確ではない。

② 有訴率の距離別検定については、回答による距離が必ずしも正確ではないのに、これを修正していないなどの点で信頼性が減殺される。

③ 前記調査結果によれば、精道小学校についても、五、六年生の有訴率が増加傾向を示さない症状もみられ、大気汚染によつて自覚症状の寛解の遅延、再発、新規発生の増加が生じているものと結論づけることは早計である。

④ 前記調査結果によれば、精道小学校区の本件道路の北側一〇〇ないし三〇〇メートルの地区において、南側の同距離の地区に比較して、有訴率が高い症状もみられるので、夜間に卓越する北方向の風による高濃度暴露との関連が推察されたというのは早計である。

ケ 尼崎市五五年調査

同市は、同五五年同市全域を対象として、市民の大気汚染による健康影響の実態を把握することを目的に右調査を行つた。同市五三年調査が排ガスの影響に焦点を絞り本件道路を除く主要幹線道路の沿道地区の住民を対象としたのに対し、同市五五年調査は、対象地域を本件沿道を含む全市域に拡大した。

右調査では、その方法(受診率調査。ただし、国民健康保険の加入者及びその家族を対象者とし、同五一、五三、五五年の各五月を対象月とする。)及び対象疾病につき同市五三年調査と同様であるが、対象地域としては、全市域を一キロメートル四方に分割したうえ、既存の大気汚染観測資料との照合などの関係から、八か所の地区(国民健康保険加入者の抽出の便宜のため若干の凹凸がある。)が有為抽出された。本件道路との関係では、第三地区の北側寄りを本件道路が貫通し、第五地区の南側に沿つて本件道路が通じている。

同市五五年調査では、国民健康保険加入者とその家族という特殊人口を対象としているため、いわゆる世帯調査による健康調査に比べ、対象集団の性格は類似性があるものと判断された。しかし、各地区の国民健康保険の加入者の比率は、同五五年度の概算による実績でみると、26.1ないし55.6パーセントと格差があつた。なお全市域での加入率は32.7パーセントであつた。

調査対象年度の対象地区における国民健康保険加入者数は、第五地区でわずかな減少傾向がみられるが、他の地区ではほぼ横ばいで増減なしの状態であつた。受診率の推移は、第二地区のみが年度とともに逓減しているが、他の地区では同五三年度に一旦減じた後、同五五年度には再び増大し、第五地区を含む五つの地区では同五一年度の受診率レベルを上回つた。

調査対象全疾病の受診率を五歳きざみの年令階層別にみると、いずれの地区、いずれの年度でも全般的に乳幼児期の受診率が高く、青壮年期で低くなり、ほぼ五〇歳代中期以降で加齢とともにゆるやかに高くなる。各地区間の乳幼児期の受診率の格差は、年度とともに高い水準に収れんして行く傾向がみられる。老令期では本件沿道の地域を含む第三及び第五地区並びに第八地区の受診率が比較的高く、特に第五及び第八地区の増加が目立つた。

調査対象とした疾病別の受診率の年令階層別年度推移をみると、ぜん息性気管支炎は、〇ないし四才階層について、第一及び第三地区で増加しているのに対し、南部の第五及び第八地区で減少し、気管支ぜん息は、〇ないし四才階層で減少傾向を示すが、それ以降の年令階層では、地区間の格差変動を強めながら増加し、慢性気管支炎は、第八地区で五五才以上の階層についての規則的ともいえる率の増加が注目されたが、その他の地区では、七〇才以上で増加しているほか、年令階層によつて率の増減は区々であり、風邪症候群、気管支炎及び肺炎による受診率には着目すべき現象はみられなかつた。

その調査報告書では、考察として、①「調査の対象とした全呼吸器疾患での受診率はどの年度も北部の第一地区が最も低率であり、南部の第三、第五及び第八の三つの地区が高い率であることは、汚染の曝露量と人体の反応(疾患発症頻度)の関係の成立であるとも認められ、現存する大気汚染の実態が市民に健康被害を与えているものと解釈されるが、果してそうであるのか慎重な検討が必要とされるところである。」②「特に調査の対象となつている疾患は、特異的病因論(一原因一疾患の関係)にあるものではなく、多原因一疾患、場合によつては一原因多疾患の関係も考えてみる必要があるので、もしかすると過去において激しかつた大気汚染の影響の残映にすぎないかも知れないのである。」③「このことは疾患別、年齢階層別に受診率の推移を検討してみると、第一にぜん息性気管支炎の受診率は、市域の南部地域では第三地区のみが上昇しているのに対して第五と第八地区は減少傾向にあり、むしろ北部地域の第一地区の上昇が顕著で、この疾病に関しては乳幼児期に量―反応の関係は成立していない。」④「老令者の疾患である慢性気管支炎の受診率は、五五歳階層以後で特に第八地区の上昇が注目されるが、この現象は、慢性気管支炎の誘発要因更には増悪要因として、多くの成書には加齢に密接な関係ありとする指摘があり、大気汚染と結びつけることは、かえって大気汚染の現状からすれば、量―反応の関係に逆行するものとなつてしまい、前記した影響の残映が加齢によつて誘発、増悪しているとの判断が無理のないものと思われる。」⑤「大気汚染が原因因子として作用するとしても、純粋に医学の論理に照合してみた場合、その作用機序が生物学に整合性あるものとして説明し難いのではないかとの指摘に対して、充分に反論するに足る事実は、本調査から掌握することは出来ていない。」⑥「以上の様に調査の結果を概観すると、その結果に現われた現象を総括的にとらえて判断するのか、又は部分部分の限られた範囲の変動に焦点を当てるのかによつて、導かれる結論が相違するのに気がつく。尼崎市の大気の汚染の水準が、若干の濃度差を示しつつ全市域を覆うものとして、それが呼吸器系疾患の発症原因であり、更には誘発、重篤化の原因であるとするには、地区別に、そして年齢階層別に一貫性のある疫学的因果律推理の根拠を明確に示すとは認め難いと結論づけられる。」旨が記載され、さらに「まとめ」として当初は、⑦「本調査の成績から判断されることは、第一に現在の尼崎に認められる大気汚染が、直接市民の健康に影響を与えている根拠は、疫学の立場で行われる因果律推理の上から、調査の全体像として矛盾なく立証できないこと、第二に部分的にみられる受診率増加の事実は、過去の被害の残映が加齢とともに増悪させていると考えられること(工場地帯からの過去の高濃度の二酸化硫黄による被害の残映であるということ)、第三に気管支ぜん息のごとく全国的視野で考えなければならぬものがあり、また現時点では資料不足であり、もつと多面的に調査研究がなされないと判断が困難な現象が部分的に散在することである。」旨の記載がされていた。

しかし、右⑦の記載部分については、尼崎公害患者の会から企業側に立つたまとめ方である旨の抗議が出され、同市はこれをいれて右部分を削除する旨の訂正文を作成した。

右調査結果の評価については、同市五三年調査に対する評価として指摘した①と同旨の指摘をすることができる。

コ 尼崎市五七年調査

同市は、同五七年一〇月窒素酸化物等の大気汚染物質濃度と市内の三小学校の全児童の健康との関係を把握することを目的として、右調査を実施した。

調査対象校としては、国道二号の北側約一キロメートル以内を校区とする杭瀬小学校、本件国道の南北約一キロメートル以内を校区とする城内小学校、本件国道の二〇〇ないし三〇〇メートル北側から国道二号の南側沿道までを校区とする大庄小学校が選ばれ、対象者はその全学童である。

調査方法は、ATS―DLDの日本版を若干修正した自記式の質問票が配布され、その保護者の記入を求めてこれが回収された。そして、居住歴三年以上の者について呼吸器疾患の有症率が分析された。

質問票の各校の回収率は、98.6ないし99.9パーセントであつた。

右調査結果によれば、既往歴では、アレルギー症が杭瀬、城内、大庄各小学校の順に高率であるが、二才までの呼吸器の病気及びぜん息は城内、杭瀬、大庄各小学校の順に高率であつた。

また、持続性咳、持続性ゼロゼロと痰、ぜん息様症状、ぜん鳴症状の各有症率は、城内、杭瀬、大庄各小学校の順に高率であつた。

サ 車谷調査

車谷典男らは、同五八年一〇月尼崎市内の四つの小学校の学童を対象に呼吸器症状に関するアンケート調査を行い、その分析結果を同五九年一一月に発表した。

対象校としては、大庄、金楽寺、城内、西の各小学校が選ばれたが、調査結果の分析においては、大庄小学校では児童の多くが本件国道及び国道二号のいずれからも一〇〇メートル以遠に居住しているのでこれを一括し、西小学校では本件国道の道路端から一〇〇、二〇〇、三〇〇、四五〇メートル以内及びそれ以遠の五地区に分類し、城内小学校では西小学校と同様に分類するほか、さらに本件国道から四五〇メートル以遠の地区を国道二号から一〇〇メートル以内とそれ以遠とに分け、計六地区に分類し、国道二号の北部に校区がある金楽寺小学校では、同国道から一〇〇、二〇〇、四〇〇、五〇〇、六〇〇、七〇〇メートル以内及びそれ以遠の七地区に分類している。

調査時点における各校の在籍児童数は、大庄一二四九名、金楽寺九〇九名、城内九二六名、西八八五名であつたが、調査表の回収人数はそれぞれ一一七〇名、八七四名、九〇〇名、七九八名であり、回収率はいずれも九〇パーセントを超えており、これらから咳・痰・ぜん鳴・ぜん息などに関する質問項目及び住所に無回答であつた者(二ないし三パーセント)を除外し、残つた者のうち居住歴三年以上の者が分析対象者とされたが、その数はそれぞれ九五五名、七二二名、七四一名、六六五名であつた。

調査票は、柳楽調査で使用されたものと同じである。

右調査結果によれば、呼吸器症状、眼・鼻・のどの粘膜刺激症状の愁訴率は、各症状により若干の相違はあるが、おおむね城内、金楽寺、西、大庄各小学校の順に大きく、その差異は、アレルギー性素因や住居構造などの各児童固有の状況の差によるものではなく、固定発生源による大気汚染の差を反映しているものと判断された。

「三週間続くせきとたん、三年間」「ぜん鳴、最近二年間に三回以上」「呼吸困難、ぜん鳴二回以上」「起座呼吸、ぜん鳴一回以上」「起座呼吸、医者のぜん息診断」「目がいたむ」「のどが痛む」「くしやみの発作あり」などの主要症状の標準化愁訴率比及び愁訴率をみると、城内小学校では、本件国道から三〇〇メートル以内の三地区の標準化愁訴比はほぼ同じで、対照校の山手小学校(芦屋市)に比べ統計学的に有意に高かつたのに対し、それ以遠の地区の標準化愁訴比は山手小学校と一旦同程度になるが、国道二号から一〇〇メートル以内になると、とりわけ呼吸器症状愁訴率が再び高くなることが観察され、これらの呼吸器症状が道路からの距離と密接に関連していることを意味するものとして注目された。

この城内小学校の校区と国道二号を挟んで北側に隣接する金楽寺小学校では、同国道から一〇〇メートル以内の愁訴率は城内小学校の結果とおおむね同様で、山手小学校に比べて高く、それより以遠では一旦低くなるが、二〇〇ないし五〇〇メートル及び七〇〇メートル以遠で再び有意に高い。七〇〇メートル以遠では同地域内に固定発生源があり、これと関連している可能性が示唆されるものの、窒素酸化物の排出量は多くはない。

西小学校でも城内小学校と同様に、本件国道から遠ざかるにつれて愁訴率が減少する傾向をみせるが、二〇〇メートルを越えた地域では、「目がいたむ」を除き、大庄小学校とほぼ類似の値を示し、城内小学校に比して低く、これは地域全体の大気汚染状況の差異に起因するものと推測された。

城内、西、金楽寺各小学校の結果は、いずれも同一の傾向を示しており、とりわけ呼吸器症状の愁訴率が住居と道路間の距離と強い関連性を有していることを支持するものである。

一方、アレルギー性素因についてみると、各距離による地区ごとの「父母のアレルギー歴」の割合に大差はなく、同居家族の非喫煙者の割合等の家庭内環境でも著明な差は認められなかつた。

以上のことから、この調査で観察された道路沿いの愁訴率の増大は移動発生源による汚染に起因しているものと判断される。

(3) まとめ

右に列挙した例のほか我が国やアメリカの各種の疫学調査等によれば、児童については、年平均値0.06ないし0.08ppm以上の二酸化窒素と他の汚染物質の共存下で学童の急性呼吸器疾患罹患率が増大し、工場周辺の二酸化窒素汚染地域(年平均値0.01ないし0.04ppm)でその成長の遅延や血液性状の変化がみられ、成人については、二酸化窒素を含む大気汚染の程度と慢性呼吸器症状(持続性咳・痰)などの有症率に正の相関が見出され、本件道路などの交通量の多い幹線道路から住居までの距離と持続性咳・痰などの有症率との間に関連性のみられた例もあることが明らかであるが、これら各種の調査結果を総合して二酸化窒素の人の健康に影響がみられない濃度を示すについては、いずれの調査にも未だその手法や解析等に難点が伴い、調査結果に対する評価が定まらないため、持続性咳・痰を例にとつてその自然有症率に影響を与えない二酸化窒素濃度の年平均下限値を導き出すについても見解が分かれ、中央公害対策審議会専門委員会が同五三年三月に示した0.02ないし0.03ppmという値についても評価が定まつていないのが現状である。

2窒素酸化物の健康影響濃度についての各種の見解

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(一) WHO窒素酸化物に関する環境保健クライテリア

右クライテリア専門家会議は、同四七年決定的な疫学データがない状態で一定の大気の質についての指針を設定するには、科学的情報が不足しているとして、二酸化窒素ガイドラインの提案を保留した。

同専門家会議は、同五一年それまでに報告されていた疫学的研究の結果それ自体では二酸化窒素の暴露についての健康影響を評価するための定量的な基礎資料を示しえないが、その研究結果は、肺への影響が二酸化窒素暴露に関連しているという実験的知見と矛盾はしていないものと評価し、人の健康保護がはかられる暴露限界の指針値を勧告する上で、主に動物実験及び人の志願者に対する研究からの資料に頼らざるをえないが、決定的な疫学的知見を待つよりも利用可能な右の実験室的研究資料を用いてこれを提案するのが適当であり、賢明であると考えた。

そして同専門家会議は、0.5ppm以上の二酸化窒素の短期暴露により長期暴露と同様に実験動物の呼吸器系に好ましくない影響が生じ、同程度の濃度(0.7ppm以上)の短時間吸入でヒトに対しても好ましくない影響が生じるものと評価し、0.1ppmの濃度でぜん息患者にみられる影響についてはさらに追試が必要であり、高い感受性を有するヒトに対する下限濃度は不確定であることに加え、二酸化窒素の高い生物学的活性に注目して安全係数を見入むこととし、あらゆる利用可能な資科を考慮して、恣意的ではあるが二酸化窒素の短期暴露についてのそれを三ないし五と定め、公衆の健康保護がはかられる暴露限界は最大一時間暴露として0.10ないし0.17ppm(一月に一回を超えて出現してはならない。)と決定した。

なお右の指針値は健康者に対する二酸化窒素単独暴露の場合についてのものであり、生物学的に活性のある他の大気汚染物質が共存する場合及びより高い感受性を有する人々の健康を守るためにはより大きな安全係数が必要とされている。

また、同専門家会議は、二酸化窒素のヒトへの長期間暴露による生物医学的影響は、公衆の健康の保護という観点から、勧告するに足りるほどには確認されていないので、長時間平均値に関する暴露限界は提案しないこととし、さらに一酸化窒素については、環境大気中で一般的に見出される濃度で注目すべき生物学的影響をどの程度有しているのか未解明であるとして、その暴露限界についての検討を行わなかつた。

(二) 二酸化窒素に係る判定条件等についての専門委員会報告

環境庁長官は、同五二年三月二八日中央公害対策審議会に対し、環境基準に係る公害対策基本法九条三項の規定の趣旨にのつとり、右判定条件等について、同法二七条二項二号の規定に基づき諮問した。

これを受けた同審議会は、同審議会大気部会に二酸化窒素に係る判定条件等専門委員会を設置し、次のとおり検討をした。

同委員会は、検討の対象を環境大気の二酸化窒素による汚染と地域の人口集団における人の健康影響に関することに限定し、二酸化窒素の室内汚染や個人の全暴露量に関しては、いまだ研究が行われていなかつたため除外した。

同委員会の各種の研究に対する評価は次のとおりである。

① 動物に対する実験的研究については、目的に応じた暴露条件の設定ができるので、二酸化窒素の各種の影響の機構を明示する知見が得られるが、反面、動物種による差の問題、研究に利用しうる動物のサンプル数の問題などが伴う。

人の志願者における研究については、直接的に人口集団への影響を示唆し、説明する結果が得られる。

しかし、現実の暴露の場合には、一般的に他の汚染物が混合し、かつ各種の生活条件による影響もあるので、実験的研究では、それらの影響についての全体像を知ることはできない。

② 疫学的研究については、二酸化窒素以外の大気汚染物質の共存下における調査であること、大気汚染以外の因子の影響(喫煙、暖房による影響や職業的因子など)を無視できないこと、環境測定値の代表性及び指標化などに問題が残されていることなどから、その研究結果によつて二酸化窒素との直接的な関連を正確に定量化することは現状では困難な側面を有しており、二酸化窒素の主要侵襲部位であると考えられている末梢気道領域における変化を、現在用いられている健康事象のみをもつて判断することの困難性につき、今後の検討が必要である。

同委員会は、安全率についても検討をしたが、利用可能な人に関するデータを重視し、これに考察を加えることによつて総合的に判断したため、安全率を利用しなかつた。

同委員会は、それまでに得られた二酸化窒素の人の健康影響に関する判定条件に関する内外の知見を検討し、特に注目した報告として次のとおり集約した。

① 人の感覚器の反応は、二酸化窒素単独暴露の場合、臭いについて0.12ppmが閾値であり、暗順応の変化が0.074ppm五分間暴露で起きる。

② 人の志願者に対する実験で、慢性気管支炎患者の気道抵抗の増加が1.6ないし2.0ppm二酸化窒素三〇回吸入で観察された。健康人では、1.0ppmを間欠的運動を行いながら三ないし四時間吸入しても、一部の者を除いて、一般に自覚症状や鋭敏な肺機能検査での影響がみられないが、2.5ppm以上では二時間暴露で気道抵抗の増加が観察された。同様に健康人の場合間欠的運動下で0.5ppm、二酸化窒素三〇分経口吸入では変化がみられない。

③ 気道の過敏性の変化をみるための検討が気管支ぜん息患者について行われている。この結果、二酸化窒素単独の0.1ppm又は0.2ppm一時間暴露後に、気管支収縮剤であるカルバコールの吸入に対する反応が増強されるが、この反応は可逆的である。

④ 種々の動物を用いた長期暴露の実験によつて種々の形態学的、生理学的及び生化学的変化が観察される二酸化窒素の濃度は0.3ないし0.5ppmである。

⑤ 肺胞壁の電子顕微鏡学的形態計測における異常値が、ラットに対する二酸化窒素の単独0.12ppm三五日暴露で観察されている。この場合、同時に血中グルタチオン量の減少などの生化学的変化も観察されている。

⑥ ラットを用いた短期暴露の実験から0.5ppm四時間の暴露で肺の肥胖細胞に形態学的変化が見られている。この変化は暴露中止後二四ないし二七時間後には観察されなかつた。

⑦ 動物実験で二酸化窒素の暴露による呼吸器の感染抵抗性の減弱をみている。マウスを用いた二酸化窒素の単独暴露の実験で2.3ppm一七時間又は3.5ppm二時間の短期暴露で感染抵抗性の減弱が認められている。同様にマウスについての0.5ppm又はそれ以上の濃度に三か月連続又は六か月以上間欠的に暴露することによつて、呼吸器感染に対する抵抗性の減弱が認められている。さらに、サルを用いた実験では、二酸化窒素五ppm五か月又は一ppmの四九三日暴露で血清中和抗体値に影響が見出されている。

⑧ アメリカのTNT製造工場が存在する地域において行われた疫学研究によれば、環境大気中二酸化窒素濃度の年平均値0.06ないし0.08ppm以上の地域においては、年平均0.03ppmの地域に比べ学童の急性呼吸器疾患の罹患率が高いことが観察された。この場合、二酸化硫黄の濃度は年平均値0.01ppm以下、浮遊粉じん濃度は年平均値六三ないし九六マイクログラム毎立方メートルであつた。なお、この調査で観察された影響は、調査地域の一時間値の年間九〇パーセント値である0.15ppm以上のピーク濃度の二ないし三時間の繰返し暴露による可能性もあると研究者自身によつて指摘されている。しかし、アメリカにおける調査で環境大気中の二酸化窒素の年平均値がおおむね0.05ppmを超える地域とそれ以下の地域で呼吸器症状の変化は見出されなかつたとする報告もされている。

⑨ 四疫学調査の結果から環境大気中二酸化窒素濃度の年平均値0.02ないし0.03ppm以上の地域において二酸化窒素濃度と持続性咳・痰の有症率との関係が見出された。この場合、各地域の二酸化硫黄の濃度は、年平均値0.009ないし0.042ppmであり、浮遊粒子状物質は年平均値四〇ないし四一五マイクログラム毎立方メートル程度であつた。

⑩ 我が国の小学生を対象とし、末梢気道の肺機能の変化に着目した疫学研究によれば、二酸化窒素の年平均値0.04ppm程度の都市において各調査日の特定の時間帯の二酸化窒素濃度(0.02ないし0.29ppm)と一部の感受性の高いと思われる者の肺機能に個人正常調節機能範囲で相関が見出される。この場合のオキシダント濃度の年平均値は0.017ppmであつた。

⑪ 二酸化窒素を長期間暴露した場合の影響の変化の過程を示唆するいくつかの動物実験がある。マウスを用いた感染抵抗性の減弱は、暴露期間の経過とともに漸増する。ラットの肺の二酸化窒素の傷害の修復反応の開始は加齢と共に遅れることが観察されている。また、二酸化窒素の影響に対する生体の代償性反応は一時的であつて、暴露期間の経過とともに、代償能力が低下する時期に至ることがマウス肺の還元型グルタチオンの消長について観察された。

⑫ 二酸化窒素と他の汚染物質との共存効果については、いくつかの動物実験の知見から、二酸化硫黄とは相加的な作用を有することが知られている。また、オゾンとは感染抵抗性の知見から、短期暴露については相加的に、繰返し暴露では相乗的に働くことが示唆されている。

⑬ 二酸化窒素と他の汚染物質の混合物について、健康人の気管支収縮剤に対する反応についての研究によれば、二酸化窒素0.05ppm、オゾン0.025ppm、二酸化硫黄0.1ppmの混合ガスに、二時間暴露後にアセチルコリンの吸入に対する反応が増強された。

⑭ 動物に対する長期暴露に関するこれまでの実験では、腫瘍がんの発生は認められていない。

そして同委員会は、右の知見を前提にして、長期指針につき次のとおり判断した。

① 動物実験の知見から肺の形態学生理学、生化学的変化が観察される濃度は、0.3ないし0.5ppmであり、指針はこれ以下の濃度に求められる。

② アメリカ(チャタヌガ)の疫学調査から、おおむね年平均値0.06ないし0.08ppmを超える地域では、それ以下の地域に比べ急性呼吸器疾患の罹患率の増加が観察される。

③ アメリカには、BMRCに準拠した疫学調査で、年平均値0.05ppmを超える地域とそれ以下の地域の二地区間の比較で、有症率に差が見出されないとの結果がある。しかし、アメリカのBMRC方式の疫学調査は、我が国のBMRC方式の疫学調査に比べてより症状の重いものをとらえていること及びその他の環境条件にも差があることを考えると、年平均値0.05ppmで全く影響がないとまでいい切ることはできない。

④ 我が国の末梢気道に着目した学童に対する疫学調査からは年平均値0.04ppm程度で、一部の感受性の高い者の肺機能の変化が認められるが、これは、正常調節の範囲内の変化であつて、健康からの偏りが見出されない濃度を考察する重要な手掛りである。

⑤ 四疫学調査によれば、年平均値0.02ないし0.03ppm以上の地域では持続性咳・痰の有症率との関連が認められている。これらの調査結果は、人口集団の内に観察される非特異症状を、二酸化窒素を大気汚染の指標として着目した場合の解析結果であり、少なくともこれ以下の濃度では、二酸化窒素濃度と有症率との関連は観察されないと解することができる。

以上の知見を総合的に考えると、健康からの偏りが見出されない濃度に対応する指針は、ネガティブな知見が存在する年平均値0.05ppm以下、他の汚染物質との共存下で、これ以下では二酸化窒素濃度と持続性咳・痰の有症率の関連が観察されないと推定される濃度である年平均値0.02ないし0.03ppm以上に求められるべきであるところ、正常調節の範囲内ではあるが、年平均値0.04ppmで肺機能変化が認められたという結果も考慮し、安全を見込んで長期暴露に関する指針を年平均値0.02ないし0.03ppmとした。

また同委員会は、短期指針につき次のとおり判断した。

① 明確な影響が認められるのは、動物実験の知見から0.5ppmであり、指針はこのレベル以下にもとめられるであろう。

② 人の志願者における研究から肺機能の変化は、過敏者では1.6ないし2.0ppmで認められ、健康人では2.5ppmで観察されるが、0.5ppmで変化が認められない。したがつて、肺機能の影響の起こる濃度は、動物実験の知見と考え合わせるとき、直接的には指針の濃度レベルを指示していない。

③ ぜん息患者の気管支収縮剤に対する反応の増加が0.1ないし0.2ppmで認められているが、この変化は発作を引き起こすような悪影響とは考えられず、また可逆的である。したがつて、この知見は、過敏者に対する可逆的な変化をとらえている点で、短期指針の考察に当たつて重要な知見である。

しかしながら、以上の知見のみでは、短期指針を求めるには不十分であると考え、WHOの指針(0.1ないし0.17ppm)、チャタヌガ研究における短期ピーク暴露の寄与に関する考察(0.15ppm以上のピーク濃度の二ないし三時間の繰返しが急性呼吸器疾患の発生に寄与している可能性もあるのではないかとする指摘)等の参考となる資料を総合考慮し、短期指針を0.1ないし0.2ppmとした。

なお同委員会は、同五三年三月二〇日同審議会大気部会において右指針値につき報告をしたが、その際付言として、提案された指針の意義については、その濃度レベル以下では、高い確率で人の健康への好ましくない影響を避けることができると判断されるものであり、指針の提案については、大気汚染の健康への影響の程度を①現在の医学・生物学的方法では全く影響が観察されない段階、②医学・生物学的な影響は観察されるが、それは可逆的であつて、生体の恒常性の範囲内になる段階、③観察された影響の可逆性が明らかでないか、あるいは生体の恒常性の保持の破綻、疾病への発展について明らかでない段階、④観察された影響が疾病との関連で解釈される段階、⑤疾病と診断される段階、⑥死の六段階に分類したうえ、病気又は死を影響の判断基準としては採用せず、人の機能の恒常性の維持機構が負担なく機能をしている状態で判断すべきものとし、このような状態からの偏り、すなわち右③の段階が見出されない状態を保障すべきであり、大気汚染が原因で病人の症状の悪化があつてはならない旨の考えを明らかにした。

もつとも、右の付言のうち指針の意義については、当初「提案された値は影響が出現する可能性を示す最低の濃度レベルであると判断される。」という表現であつたが、同部会長と同委員長により修正されたものである。

右報告を受けた同審議会は、同月二二日環境庁長官に対し、右の指針を答申し、環境庁は同五三年七月一一日二酸化窒素に係る環境基準を改定した。

その後右の報告や新環境基準に対しては、日本弁護士連合会、東京都窒素酸化物検討委員会及び大阪府二酸化窒素の環境基準に係る専門家会議、京都市公害防止計画研究会二酸化窒素に係る環境基準検討委員会などから、右専門委員会が安全係数を採用していないのは不当であること、0.03ppmという値は疫学調査の解析結果からは導き出せず、不適当であることなどを理由に国民の健康が十分に保護されないとする見解が示されたが、他方においては、長期暴露に関する指針値は現段階では科学的に明示しえず、今後の研究によるべきであること、アメリカや西ドイツなどにおける基準値に比して低濃度であることなどを理由に厳しすぎるとする見解も示された。

なお同委員会は、右指針値の提案とあわせて、その当時の我が国で使用されていた二酸化窒素の自動計測器の精度についての実験結果に基づき、ザルツマン係数を従前の0.72より二割程度高い値に変更する必要を提案し、これに基づいて同審議会からその旨の答申を受けた環境庁は、同五三年八月一日これを0.84と変更する旨の通達をした。しかしながら、同委員会の提案の根拠の一つとなつた四疫学調査においては、いずれも従前の同係数0.72による測定結果が用いられているところ、同委員会は、従前の資料を同係数0.84によつて換算することの要否などの検討や解説をしていないため、従前の資料を用いて提案された指針値は、この点において説得力が減殺されるものと評価される。

(三) 二酸化窒素に関する諸外国の環境基準

二酸化窒素に関する環境上の基準については、国によつて、法律上の性格や行政運用の仕方、保護しようとする健康の水準などに相違があり、一概に比較しえないものであるが、その内容は別紙A⑤のとおりである。

イギリスは、大気汚染物質に関する環境上の基準を設定していない。

アメリカでは、クリーン・エア・アクトにより、環境基準は公衆の健康を十分に保護するために行政の判断で適切な安全の余地を含んだものであるとされており、それは疾病が起こる暴露量に対して少なくとも二以上の安全係数をかけて導き出されたものである。ところがEPAは、同五七年それまでの学術文献調査を行つた限りでは、長期低濃度暴露による呼吸器傷害を裏づける研究はなく、二酸化窒素による慢性的呼吸障害影響を支持する科学的根拠は非常に薄いとの理由により、短期高濃度汚染に関する研究から一時間値を0.5ppm以下又は0.15ないし0.30ppmの範囲間とし、右短期高濃度汚染を防ぐためには年平均値を0.05ないし0.08ppmにすべきものと提案している。

3排ガス以外の窒素酸化物

<証拠>を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(一) 窒素酸化物の発生源

窒素酸化物は次の原因で発生するが、生成された一酸化窒素は空気中で酸化して二酸化窒素になる。

(1) バクテリアによる生成

土壌中にあるアンモニアを酸化するバクテリアのため亜硝酸が生じ、その分解によつて一酸化窒素が発生する。これによつて発生する窒素酸化物は年間五億トンにのぼり、人工的に発生する量の約一〇倍に相当するが、バクテリアによつて発生する窒素酸化物が健康上問題とならないのは、その発生源の分布が地球上広大であり、自然大気中の濃度(バックグラウンド)が極めて低いからである。

(2) 硝酸、硝酸塩、ニトロ化合物等の分解による生成

硝酸等の分析によつて濃厚な一酸化窒素及び二酸化窒素が発生する。これは硝酸による金属処理、爆薬の製造、硝酸の合成などを行う工場施設からの発生が問題となる。

(3) 空気の高温加熱による生成

空気中での燃焼や放電による高温度のため、空気中の窒素と酸素が結合して一酸化窒素が発生する。加熱温度が高いほどその発生量が多くなる。

紙巻タバコの煙の中には、二酸化窒素が約五ないし一〇ppm、一酸化窒素が約一〇〇ないし二〇〇ppm含まれている。

(4) 燃料中の窒素酸化物による生成

石油中に含まれる窒素化合物が燃焼することにより酸化されて一酸化窒素が発生する。

(二) 「住居内の空気汚染に関する研究」

右論文は、長谷川利雄らが、日常生活の大部分を家庭で過ごしている主婦の健康を守るため、住居内における汚染の実体を把握することは重要な意義があると考え、同五一年西宮市内の静かな住宅地域にある鉄筋四階建の一般住宅を調査対象として、暖房器具の使用等による窒素酸化物の濃度等の測定をザルツマン法による自動連続測定器を用いて行い、これを分析して発表したものであり、その内容は次のとおりである。

① 各器具の汚染物質の発生状態を調べるため、約1.2立法メートルのステンレス製チェンバー内で燃焼テストを試み、瞬間値の測定が可能な化学発光法を用いて窒素酸化物濃度の測定を一〇〇分間にわたつて行つた結果、二酸化窒素については、対流型石油ストーブが1.92ないし2.10ppm、反射型石油ストーブが0.52ないし0.63ppm、ガスストーブが0.14ないし0.17ppm、ガスこんろが2.18ないし2.24ppm、一酸化窒素については、それぞれ1.10ないし3.06ppm、0.16ないし0.52ppm、0.1ないし0.2ppm、3.50ないし4.10ppmであつた。

右チェンバーテストの結果から、各種器具の一時間当りの二酸化窒素の発生量を算出すると、対流型石油ストーブが六四ミリリットル、反射型石油ストーブが一六ミリリットル、ガスストーブが4.2ミリリットル、ガスこんろが六八ミリリットルであつた。

② 北向き和室六畳の間において、対流型石油ストーブを燃焼させ、室内が快適条件(気温二〇ないし二五度、湿度四〇ないし六〇パーセント)になるようにストーブの調整を行うとともに、空気の入れ換えもたびたび行つて二酸化窒素濃度を測定した。第一日目(午前七時から同一〇時まで、同一一時から午後一時まで、同二時から同四時まで、同五時から同八時までストーブを使用した。)は、日平均値が0.463ppm、暖房中の平均値が0.719ppm、最高値が1.155ppmであり、第二日目(午前七時から同一〇時まで、同一一時から午後一時まで、同二時から同五時までストーブを使用した。)は、日平均値が0.442ppm、暖房中の平均値が0.664ppm、最高値が1.120ppmであつた。

屋外測定点における二酸化窒素濃度は、第一日目が日平均値0.060ppm、最大値0.096ppm(一時間値)、第二日目が日平均値0.052ppm、最大値0.078ppm(一時間値)であつた。

③ 右同室において、強制換気を行わないので各種ストーブを連続燃焼させたときの平衡後(九〇ないし一二〇分後)の二酸化窒素平均濃度は、対流型石油ストーブが1.31ppm、反射型石油ストーブが0.26ppm、ガスストーブが0.15ppmであつた。

④ ストーブの消火後二時間以内に、窒素酸化物濃度は急激に低下し、二酸化窒素については約三時間で屋外の濃度に等しくなる。

⑤ 北西隅の台所において、その廊下側の扉が開放され通気性がよい状態にし、ガスこんろを朝昼夕各一時間ずつ使用して二酸化窒素濃度を測定したところ、0.258ないし0.360ppmの値を示した。

⑥ 右和室において、暖房の入らない状件下で煙草(セブンスター)を一時間に一四本吸つた場合汚染濃度は、二酸化窒素が0.05ppm、一酸化窒素が0.22ppm、粉じんが一〇ミリグラム毎立方メートルを超えて測定不能であつた。その窒素酸化物濃度は、ストーブの使用時に比してかなり低いが、一酸化窒素の占める割合が81.5パーセントと高率であつた。

(三) 「空気汚染による人体の窒素酸化物暴露量に関する研究報告書」

右報告書は、環境庁の委託により、伊藤道生らが、大気汚染疫学調査の結果を評価する場合、家庭内の空気汚染の状況及びその影響度を無視して論じるのは極めて非科学的であるとの認識に立ち、一日の大多数の時間を家庭内で過ごす主婦の日常生活を念頭において、窒素酸化物暴露量を濃度的、時間的及び量的に可能な限り把握し、大気汚染レベルとの比較並びに大気汚染への影響への寄与程度等を考察することを目的とし、同五二年一二月から同五三年三月にかけて、東京、千葉、川崎、大阪の住居構造の異なる家屋各二戸(合計八戸)を対象として、台所(厨房)及びそれに隣接する居間において各種燃焼器具を使用した際の窒素酸化物濃度等を測定するとともに、多摩ニュータウン貝取団地の住居を使用したモデル実験により室内の窒素酸化物濃度等の調査を行い、同月その結果を分析して発表したものである。

なお、窒素酸化物の室内濃度の測定については化学発光法により、環境大気中の濃度の測定はザルツマン法によつた。

その内容は、次のとおりである。

① 対象家屋(八戸)の構造については、三戸が木造、一戸が木造プレハブ、三戸が鉄筋、一戸が鉄骨である。その立地状況、間取り、使用する厨房器具や暖房器具の種類及び数、その使用時間、換気の方法は、いずれも異なり、その居住者(家族数三ないし五名)に日常の生活をさせて汚染濃度が測定された。

② その非暖房期における二酸化窒素濃度(日平均値)は、台所では7.6ないし45.7ppbの範囲内で平均27.2ppb(0.0272ppm)であり、居間では3.0ないし22.5ppbの範囲内で平均13.5ppb(0.0135ppm)であり、右各平均値はいずれも環境濃度より低い値を示した。

しかし、暖房期においては、台所では20.3ないし150.0ppbの範囲内で平均72.6ppb(0.0726ppm)であり、居間では21.0ないし190.0ppbの範囲内で平均72.6ppb(0.0726ppm)であり、右各平均値はいずれも環境濃度よりかなり高い値を示した。

③ 専業主婦が一日のうち台所に居る時間は、非暖房期で15.1ないし23.9パーセント、平均21.5パーセント、暖房期で11.5ないし26パーセント、平均19.9パーセントであり、居間にいる時間数は、非暖房期で23.8ないし64.4パーセント、平均37.4パーセント、暖房期で18.6ないし51パーセント、平均32.3パーセントであつた。

④ 各主婦が台所及び居間に在室している時間帯の二酸化窒素の平均濃度(一時間値)は、非暖房期の台所では14.0ないし86.8ppb、居間では2.7ないし21.2ppb、暖房期の台所では36.9ないし211.5ppb、居間では22.5ないし238.9ppbであつた。

⑤ 主婦の室内における二酸化窒素暴露量(一日平均値)を推計すると、家屋の構造や生活様式によつて大きく異なるが、暖房期には非暖房期の約二倍ないし十数倍の暴露を受けていることが明らかになつた。

⑥ モデル実験では、台所及びこれに隣接する居間等の空気を環境大気で置換した後、次のとおりの条件を設定して、瞬間湯沸器を約三〇分間使用したときの窒素酸化物の上昇濃度(一時間値)が測定された。

台所を閉め切つた状態(ただし、廊下側の引戸と壁との間に二センチメートルの間隙がある。)で換気扇を使用しなかつたときは、一酸化窒素が二六六〇ppb、二酸化窒素が三〇〇ppbであつた。

右と同様の状態にして換気扇を使用し、湯沸器を二八分間、あわせてガスこんろを二六分間使用した後、居間との境のふすまを開放したときは、それぞれ五六ppbと四七ppbであつた。

右と同様の状態にして、湯沸器使用開始と同時に換気扇を弱にして使用を始め、一〇分後に引戸の間隙に目張りをし、さらに一〇分後に換気扇を強にし、実験開始後三〇分でこれらの使用を中止したときは、それぞれ二九四ppbと一四一ppbであつた。

目張りをした状態で、換気扇を使用せず、湯沸器を三〇分間使用し、七分後に再点火して五分間使用したときは、それぞれ四一〇〇ppbと九〇〇ppbであつた。

右のとおり、台所の気密度及び換気扇の使用状況により湯沸器を使用したときの窒素酸化物濃度にかなりの差が生じた。

⑦ 十分環境大気で置換した後の室内(居間、寝室、台所)で各種暖房器具(石油又はガスの反射型又は対流型ストーブ)を種々の条件で使用したときの室内の二酸化窒素濃度は、反射型ガスストーブでは八八ppbであるが、他はいずれも一〇〇ppb(一時間ないし八〇分値)以上の値を示し、反射型石油ストーブを居間と寝室で使用した場合、気積が二分の一の寝室では二酸化窒素濃度は2.4倍になり、反射型ガスストーブは対流式ガスストーブと同一発熱量であるにもかかわらず、二酸化窒素の上昇濃度は対流型ガスストーブの約二分の一にすぎなかつた。

⑧ 家族構成人員四名、来客二名を想定して、居間でガスこんろを使用するおでん料理又はすき焼料理若しくは台所で比較的手軽に行うてんぷら料理をしたときの台所及び居間における二酸化窒素の平均濃度は、一一四ないし五〇〇ppbを示し、換気扇の使用の有無によつて暴露量が大きく変動した。

換気扇を使用せずに台所でガスオーブンを三六分使用したときの台所における二酸化窒素の平均濃度は二四二ppbであつた。

⑨ 居間を閉め切つた状態にして、四名の者が各自約一時間に四本の煙草を喫つた場合の一酸化窒素の上昇濃度は二六〇ppb、二酸化窒素の上昇濃度は二七ppbであつた。

(四) 「室内空気汚染に関する研究」

右論文は、松村年郎らが、一般の住居内のガスや灯油などを用いる炊事・暖房器具の燃焼器具から発生する窒素酸化物によつて室内は相当程度汚染され、この中で常時生活している乳幼児、老人、主婦などは常に高濃度の窒素酸化物に暴露されている可能性があり、一般住居内の窒素酸化物による健康影響は無視できないとの認識に立ち、東京及び川崎の住居を対象にしてザルツマン法を使用して冬期暖房使用時の室内における窒素酸化物の濃度、主婦の暴露量などの調査を行い、同五七年六月その結果を分析して発表したものであり、その内容は次のとおりである。

① 東京都内の主要幹線道路沿いにある鉄筋コンクリート造り、地上五階建の集合住宅の五階部分(居室二一平方メートル、気積五〇立方メートル)に居住する五人家族(喫煙者なし)の家庭では、同五三年一二月一九日から同五四年一月二五日までの間、ガスこんろ、瞬間湯沸器、反射型石油ストーブの燃焼器具を午前七時から同九時、正午から午後一時、同六時から同九時まで自然換気で使用するという状況であり、室内の二酸化窒素濃度は、期間平均値が0.052ppm、一時間値の最高が0.3ppm、日平均値の最高が0.08ppmを示し、WHOの短期暴露の指針値である一時間値0.1ppmを超える割合は全測定時間(六四八時間)の約一七パーセント、0.17ppmを超える割合は四パーセント、環境基準の日平均値0.06ppmを超える割合は、全測定日数(二七日)の約三〇パーセントであり、この間の室内外の濃度比は1.21の割合で室内が高かつた。二酸化窒素濃度の日変化については、睡眠時間帯である午前零時から同七時ころにかけて外気濃度以下まで低下し、これは二酸化窒素が室内の壁、敷物などに吸着したためであると考えられたが、一日を通しての室内外の二酸化窒素濃度には相関関係は見られず、室内の濃度は燃焼器具の使用状況に対応したパターンを示した。

浮遊粒子状物質は、室内において二酸化窒素濃度との相関がみられ、燃焼によつて発生することが示された。

一酸化窒素濃度の日変化は、室内外で強い相関を示し、浮遊粒子状物質とも相関を示した。

② 川崎市多摩区の閑静な住宅地にある木造二階建の五DKの建物(居室一五平方メートル、気積四五立方メートル)に居住する四人家族(喫煙者一名)の家庭では、同五四年一月二七日から同年二月二一日までの間、反射型石油ストーブを午前七時から同九時、正午から午後一時、同三時から同一一時までの間使用し、ガスこんろ及び瞬間湯沸器を朝昼夕の調理時に使用するという状況であり、室内の二酸化窒素濃度は、期間平均値が0.069ppm、一時間値の最高が0.5ppm以上で、大気汚染防止法に基づく繁急時の措置の要請基準である一時間値0.5ppmを超えているのは全測定時間(五四八時間)のうち三時間あり、日平均値の最高が0.101ppmで環境基準を大幅に超えていた。WHOの短期暴露の指針値の0.1ppm及び0.17ppmを超える割合は全測定時間の二六パーセント及び八パーセントであり、環境基準の日平均値0.06ppmを超える割合は全測定日数(二三日)の七〇パーセントであり、この間の室内外の濃度比は2.23の割合で室内が高かつた。二酸化窒素濃度の日変化については、朝、昼、夜と生活状況に対応して濃度が高く、特に夜の一家団らんのときが顕著に高かつた。室内外の二酸化窒素濃度の相関はあまり高くなかつた。

一酸化窒素濃度の室内外比は4.44で室内値が大幅に高かつた。

③ 家庭の主婦の平均的生活時間はNHK放送世論調査所の行つた日本人の生活時間の実態調査結果によれば、睡眠時間七時間三五分、家事八時間九分、テレビの視聴四時間五八分で、在室時間は二〇時間四二分、外出時間は三時間一八分であり、これにより家庭の主婦の一日における二酸化窒素の暴露量を算出すると、東京都内居住の主婦については、室内で0.99ミリグラム、室外で0.13ミリグラム、川崎市内居住の主婦については、室内で1.31ミリグラム、室外で0.09ミリグラムであり、室内での暴露量は室外での八ないし一五倍ほどであつた。

また、一酸化窒素の暴露量は、室内で1.38ないし1.90ミリグラム、室外で0.05ないし0.22ミリグラムであり、室内では室外の九ないし二八倍であつた。

(五) 「二酸化窒素の個人暴露濃度に関する研究」

右論文は、前田和甫らが、従来の疫学の分野における低濃度大気汚染の慢性健康影響に関する研究では、地域内に存在する環境大気測定局の汚染物質濃度をその地域住民の汚染物質への暴露量の代表値とみなし、一方で住民の呼吸器に対する影響を自覚症状や肺機能検査などにより把握し、これによつて大気汚染物質に関する量―反応関係を論じるという方法が多く採用されてきたことについて、測定局の汚染物質濃度を住民の暴露量の代表値とみなすことに対し強い批判がなされているとの認識に立ち、固定測定局の汚染物質濃度の暴露代表値としての特性が特に不明な点の多い二酸化窒素について、その個人暴露濃度を規定する要因を整理し、大気汚染の健康影響に関する疫学研究、特に二酸化窒素を主眼においた疫学研究をどのように展開していくべきかを検討することを目的として、実験室内におけるモデル実験、東京都内在住者及び都内勤務者を対象として複数の個人暴露濃度調査と関連する生活行動時間調査、さらに室内・室外関連性モデルや生活行動時間に基づく個人暴露濃度モデルによる理論的検討などの分析を行い、同五六年一二月これを発表したものであり、その内容は次のとおりである。

① 鉄筋七階建の二階にある実験室(床面積二四平方メートル、気積八四立方メートル)において、暖房への切換え時期にあたる同五三年一一月二六日から同年一二月二〇日までのうち二〇日間、被験者に通常の生活をさせ、化学発光法窒素酸化物自動測定器を使用して、ガスこんろ及び開放型ガスストーブを使用し、喫煙を一切しなかつたときの二酸化窒素の個人暴露濃度の測定を行つた。その測定は室内では測定器のサンプリング口に取付けられたチューブの先端を被験者のえり元に止めて直接採取する方法により行われたが、睡眠時には呼吸面に近い位置から採取され、外出時には実験室外の外気から採取された。ガスこんろ(主として一日三回調理時に使用した。)の使用時間は一日平均約五〇分、窓の開放(適宜に行つた。)時間は同約四四分、在室時間は同約二三時間二〇分、ガスストーブ(室温の上限を三〇度として使用した。)を使用した時間はこれを使用した一三日間の平均が約九五分間であつた。

右二〇日間の平均は45.6ppb、開放型ガスストーブを使用した一三日間の平均は50.9ppb、使用しなかつた七日間の平均は35.9ppbであつた。

室内の二酸化窒素濃度の平均は、ガスこんろ使用時が一三二ppb、ガスストーブ使用時が一九〇ppbであり、個人暴露濃度とガスこんろの使用時間との相関はほとんどなく、個人暴露濃度に対して相関が高いのはガスストーブの使用時間であつた。

右室内を閉め切つた状態にして三名の者が二〇分間に連続して一〇本の煙草を喫うと、一酸化窒素濃度は急激に上昇したが、二酸化窒素濃度はほとんど上昇しなかつた。

② 東京都板橋区、練馬区、中野区の環状七号線沿道と八王子の国道一六号及び二〇号沿道に住む四〇才から六〇才までの女性を対象として、同五四年一一月二七日午後九時から同月二八日午後九時まで二酸化窒素用フィルターバッジ(東洋濾紙製)を使用して二酸化窒素の個人暴露濃度を測定し、正確に測定値を算出できた一九三例の集計を行つた。

開放型ストーブを使用していた世帯は一〇三世帯で全体の約半数を占め、その使用時間は平均約七時間であり、開放型ストーブの中では石油ストーブが最も多かつた。

開放型ストーブ使用の有無別に個人暴露濃度を比較すると、使用群と非使用群の平均値の差は一一ppbであり、統計的に有意差がみられた。

開放型ストーブ使用の有無、居住地域、道路端から居宅までの距離、家屋構造の四要因の個人暴露濃度への影響は、開放型ストーブの使用の有無と居住地域により差が大きかつた。

個人暴露濃度、自宅在室時間、炊事時間、開放型ストーブ使用時間の四変数相互の相関係数の中では、個人暴露濃度と開放型ストーブ使用時間との相関関係が統計的に有意であつた。

③ 東京市板橋区及び大田区在住の主婦二〇名を対象に、冬期(同年一二月一〇日と同月一三日のそれぞれ午後九時から二四時間)において右フィルターバッジを使用して二酸化窒素の個人暴露濃度調査を行い、大田区在住の主婦一八名を対象に、夏期(同五五年七月一七日の午後九時から二四時間)において同様の個人暴露濃度調査を行つた。いずれにおいても同時に対象者の自宅室内と室外の二酸化窒素濃度の測定並びに右測定中の各種厨房器具及び換気扇の使用時間等の生活行動時間調査などを行つた。

冬期調査の結果、個人暴露濃度は、平均が34.9ppb、最低が一五ppb、最高が八三ppbであり、自宅室内濃度は、平均が34.8ppb、最低が一二ppb、最高が八八ppbであつたのに対し、室外濃度は、平均が19.3ppb、最低が一二ppb、最高が二七ppbであり、個人暴露濃度と自宅室内濃度に比べて平均値が低く、レンジも狭くなつていた。

また、開放型ストーブを使用していた一〇世帯では、非使用世帯に比べて、個人暴露濃度と自宅室内濃度はいずれも約二倍高くなつており、統計的に有意差がみられたが、自宅室外濃度については両群でほとんど差はみられなかつた。

さらに、個人暴露濃度、自宅室内濃度、自宅室外濃度、自宅在室時間、厨房燃焼器具使用時間、換気扇使用時間、窓の開放時間及び開放型ストーブ使用時間の八変数相互の相関係数の中では、個人暴露濃度と自宅室内濃度の相関係数は0.889と大きく、統計的に有意であつた。開放型ストーブ使用時間と自宅室内濃度の相関係数は0.596であつたが、統計的に有意ではなく、個人暴露濃度と厨房燃焼器具使用時間との相関はほとんどなかつた。

夏期調査の結果、個人暴露濃度は、平均が21.2ppb、最低が一五ppb、最高が三三ppb、自宅室内濃度は、平均が17.8ppb、最低が一一ppb、最高が二九ppb、自宅室外濃度は、平均が29.6ppb、最低が二四ppb、最高が三八ppbであつた。

個人暴露濃度、自宅室内濃度、自宅室外濃度、自宅在室時間、厨房燃焼器具使用時間、換気扇使用時間及び窓の開放時間の七変数相互の相関係数の中では、個人暴露濃度と自宅室内濃度の相関係数が0.568、自宅室内濃度と自宅室外濃度の相関係数が0.661と大きく、統計的に有意であつた。自宅室内濃度と窓の開放時間の相関係数も0.512と大きかつたが、個人暴露濃度と厨房燃焼器具使用時間の相関係数は小さかつた。

④ 東京都港区虎の門所在の事務所に勤務する男女五九名(職業上特に二酸化窒素に暴露する可能性のある者はいない。)を対象に、秋期(同五五年九月二四日又は同月二五日のそれぞれ早朝から二四時間)において右フィルターバッジを使用して二酸化窒素の個人暴露濃度調査を行い、右事務所に勤務する男女五五名を対象に、冬期(同五六年一月一三日又は同月一四日のそれぞれ早朝から二四時間)において同様の個人暴露濃度調査を行つた。いずれにおいても同時に対象者の自宅の室内濃度と室外濃度、事務所の室内濃度と室外濃度の測定及び測定中の自宅在室時間、オフィス在室時間、外出時間、自宅での暖房器具の使用時間等生活行動時間の調査などを行つた。

秋期調査の結果、自宅在室時間は平均約一一時間五〇分で一日の約半分を占め、事務所在室時間は平均約七時間四〇分、移動時間は平均約二時間四〇分であり、個人暴露濃度の平均は20.8ppb、自宅室内濃度の平均は15.5ppb、自宅室外濃度の平均は25.8ppb、事務所室内濃度の平均は15.6ppb、事務所室外濃度の平均は37.9ppbであり、個人暴露濃度、自宅室内濃度、自宅室外濃度、自宅在室時間、事務所在室時間及び移動時間の六変数相互の相関係数の中では、個人暴露濃度と自宅室外濃度、個人暴露濃度と移動時間、自宅室内濃度と自宅室外濃度はいずれも正の相関を示し、統計的に有意であり、個人暴露濃度と自宅在室時間は負の相関を示し、統計的に有意であつた。

冬期調査の結果、自宅在室時間は平均約一二時間で一日の半分を占め、事務所在室時間は平均約七時間五〇分、移動時間は平均約二時間一〇分であり、個人暴露濃度は、平均が35.4ppb、最高が一八七ppb、自宅室内濃度は、平均が42.5ppb、最高が一七四ppbであり、いずれも最高値が極めて高く、自宅室外濃度は、平均が27.0ppb、最高が五三ppbであり、個人暴露濃度及び自宅室内濃度に比べて低く、事務所の室内及び室外濃度の平均はそれぞれ16.4ppb及び34.7ppbであつた。

対象者世帯の開放型ストーブ使用の有無別の個人暴露濃度、自宅室内濃度及び自宅室外濃度の平均値を比較すると、個人暴露濃度では使用群が45.3ppbと非使用群の約二倍高く、自宅室内濃度では使用群が63.9ppbと非使用群の約三倍高く、いずれも統計的に有意差がみられた。自宅室外濃度についても使用群の方が高かつたが、その差は約四ppbであつた。

開放型ストーブ使用の有無及び家屋構造別の個人暴露濃度、自宅室内濃度及び自宅室外濃度を比較すると、開放型ストーブ使用群では、個人暴露濃度及び自宅室内濃度がいずれも鉄筋・鉄骨の家屋構造の世帯で高い傾向にあり、自宅室内濃度に統計的有意差がみられたが、非使用群では、個人暴露濃度、自宅室内外濃度のいずれも木造モルタルの世帯でやや低い傾向にあつたが、顕著な差はなかつた。

個人暴露濃度、自宅室内濃度、自宅室外濃度、自宅在室時間、事務所在室時間、移動時間及び開放型ストーブ使用時間の七変数相互の相関係数の中では、個人暴露濃度と自宅室内濃度の相関係数は0.806とかなり大きく、統計的に有意であつたが、開放型ストーブ使用時間と個人暴露濃度及び自宅室内濃度には有意な相関はみられなかつた。

開放型ストーブ使用の有無及び本人の喫煙状況別の個人暴露濃度は、使用群及び非使用群とも非喫煙者の方が高く、使用群では統計的な有意差がみられた。

⑤ 東京都杉並区の木造モルタル二階建アパートの二階に居住する主婦一名を対象にして、同五五年六月から同五六年八月まで六日ごとに右フィルターバッジを使用して個人暴露濃度の測定を実施し、同時に自宅室内濃度(居間)と自宅室外濃度の測定も行つた。冬期には開放型対流式石油ストーブと電気こたつを併用し、家族は対象者を含めて二名であり、喫煙者はいなかつた。

その結果、ストーブが使用されていた測定日は計一二日あり、その使用時間は一日平均一三八分、最高三九八分であつたが、暖房期においては個人暴露濃度と自宅室内濃度が上昇し、非暖房期においては、自宅室外濃度が個人暴露濃度及び自宅室内濃度に比べてほとんどの場合高くなつていた。一日平均の個人暴露濃度は27.2ppb、自宅室内濃度は19.7ppb、自宅室外濃度は32.8ppbであつた。

ストーブ使用の有無別の個人暴露濃度、自宅室内濃度及び自宅室外濃度を比較すると、個人暴露濃度と自宅室内濃度は使用期の方が非使用期より約二倍高くなつており、統計的に有意差がみられた。

個人暴露濃度、自宅室内濃度、自宅室外濃度、平均気温、相対湿度、平均風速及びストーブ使用時間の七変数相互の相関係数の中では、個人暴露濃度と自宅室内濃度の相関係数は0.814、個人暴露濃度とストーブ使用時間の相関係数は0.857といずれも大きく、統計的に有意であつた。

また、三度にわたり台所のガスこんろの真上で二酸化窒素濃度を測定した結果によると、居間の濃度より三、四倍高い値を示した。

⑥ 調査及び統計的解析の結果として、次の結論を得た。

二酸化窒素の個人暴露濃度を規定する要因としては、二酸化窒素の室内濃度の影響が大きく、自宅室内と事務所室内を合わせると、室内での暴露は七割から八割以上と推定され、この割合は対象者の室内外の生活行動時間によつて変化する。

対象者世帯の室内濃度と室外濃度の関連性は季節によつて変化し、非暖房期には両者に相関関係がみられ、一般には室内濃度が室外濃度より低かつたが、暖房期には室内濃度と室外濃度の関連性が小さく、開放型ストーブを使用している場合には、室内濃度は大部分ストーブの使用状況により規定される。

室内における二酸化窒素の重要な発生源とみられていた厨房の燃焼器具の使用時間と主婦の個人暴露濃度との間に関連性はみられなかつた。

家屋構造に関しては、鉄筋や鉄骨の家屋で特に開放型ストーブを使用している場合に、木造モルタルの家屋より室内濃度が高い傾向がみられたが、家屋の広さ、密閉度及び壁、床の材質の相違による減衰率の差など、家屋構造に関する要因はかなり複雑である。

喫煙に関しては、明確な結論を得なかつたが、これによる二酸化窒素の室内濃度の上昇は大きくないと考えられた。

二酸化窒素の健康影響に主眼をおいた疫学研究によつて、その量―反応関係を検討する場合には、暴露量は個人モニターを用いた直接測定によつて評価すべきである。

なお、右論文に対する原告らの批判については、次のとおり評価することができる。

① 右フィルターバッジは、柳沢幸雄らによつて開発され、トリエタノールアミンを含浸させた瀘紙により、二酸化窒素を捕集して測定期間内の平均濃度を算出するものである。従前佐藤静雄らにより、トリエタノールアミン瀘紙などを用いる簡易測定法では、測定値が風速などによつて大きく影響を受け、不正確である旨指摘されていたが、右フィルターバッジには改善が加えられ、生活環境中でプラス・マイナス二〇パーセントの誤差で測定することが可能になり、右の研究においてもこの精度が十分に保たれていたものとみられている。したがつて、これに反する原告らの主張は採用することができない。

もつとも、右フィルターバッジによつて測定される濃度はバッジ周辺の微小な環境の濃度であり、個人暴露濃度は直接肺に吸入された量を示しているわけではなく、喫煙による暴露量を評価するような場合には注意が必要である。

② 右論文の結論において、疫学的研究によつて量―反応関係を明らかにするには、個人モニターを用いて暴露量を直接測定すべきものであるとした点については、その実施に現実的困難を伴うものの、正当なものであると評価することができ、これに反する原告らの主張も採用することができない。

(六) 「冬期における児童と家庭婦人のNO2個人暴露濃度について」

山口泰正らは、同五六、五七年の冬期、大阪府及び兵庫県下の大気汚染濃度の異なる地区において、バッジ型二酸化窒素簡易測定器を用いて個人暴露量を測定し、環境大気、家庭内環境と個人暴露量との関連について調査し、その結果を同五七年の大気汚染学会において右の標題で発表した。

右調査結果によれば、①大気汚染観測局(二五局)の吸引口付近に設置した測定器の二酸化窒素の値と観測局の日平均値との間には、良好な直線関係がみられ、②児童及び家庭婦人の個人暴露量は、非排気型暖房群が排気型暖房群に比して高値を示したが、住宅構造の相違や家族の喫煙の有無による影響はみられず、③個人暴露量は、最寄の観測局の濃度と正の相関がみられた。

4まとめ

前記第二の一項1(原告らの居宅の構造)、同4(その居宅から本件道路までの距離)、第四の四項(排ガス)、第五(原告らの被害認識)、第六(検証の結果等)、第七の一項(証拠の評価について)及び右四項(排ガスと原告らの愁訴)1ないし3の各事実に、<証拠>を総合すれば、本件道路上で発生する排ガスと原告らの愁訴との因果関係につき、次のとおり判断するのが相当である。

なお、いわゆる公害による健康被害を理由とする損害賠償請求事件における両者の因果関係の存否の判断については、その他の事件における場合と同様に、両者の事実上の因果関係を是認しうる高度の蓋然性が証明されることが必要であり、これが判断の前提となるものである。したがつて、特定の公害によつてある健康被害の発生する可能性が否定できないという程度の証明については、これをもつて予防医学的、行政的、立法的に因果関係を肯定する措置を講じることは格別、現行法上は訴訟における因果関係を認めるには不十分な証明であるものといわざるをえず、特に非特異的疾患については、現時点における疫学調査の結果のみをもつて、直ちに大気汚染と個々の健康被害との因果関係を証明することはできないものというべきである。

①  本件沿道における大気汚染物質の中では、二酸化窒素が他の地域と比較してほぼ同等又は高濃度であり、最も問題とされるべきものであるところ、その大気汚染のような低濃度レベルにおける健康影響濃度については、二酸化窒素単独又は他の物質との複合いずれの場合も、現在のところこれを明確に示すに十分な科学的知見は得られておらず、公衆への健康影響を未然に防止するという観点に立つて、その時点までに得られた資料を最大限に活用したうえ、適当な安全幅を見込むなどして健康影響濃度を推定してその値が勧告されているのが現状であり、本件沿道における濃度レベルをもつて直ちに原告らが主張する慢性気管支炎や気管支ぜん息などの疾病の原因となりうるものであることを訴訟上認めるに足りる証拠はなく、まして原告らのうちに発病したこれらの疾病と本件沿道における大気汚染との間に訴訟上の因果関係を認めるに足りる証拠はないものといわざるをえない。

また、本件沿道における濃度レベルは、持続性咳・痰の症状が発生する可能性を否定できないものであるから、原告ら主張の咳・痰の症状に関する前記の愁訴の中には、本件道路上で発生する排ガスとの因果関係を否定できないものも含まれているものというべきであるが、本件沿道の環境大気中の二酸化窒素は本件道路の排ガスが大きな部分を占めている反面、室内において暖房器具の使用によつて発生する二酸化窒素の量も軽視できず、その影響も否定できないものであるうえ、他の発症要因も否定しえないものであるから、結局本件沿道の濃度レベルと右の症状との間に訴訟上の因果関係を認めるに足りる証拠はないものといわざるをえない。

さらに、原告ら主張のその他の症状と本件沿道の大気汚染との因果関係を認めるに足りる証拠はない。

②  二酸化窒素以外の汚染物質については、本件沿道の濃度レベルと原告ら主張の健康影響との訴訟上の因果関係を認めるに足りる証拠はないが、粉じんによつて洗濯物などが汚れ、これによつて不快感が生じることは明らかである。

第八  差止請求について

一本件差止請求の適法性

本件差止請求は、要するに本件道路を走行する自動車から発生する騒音及び二酸化窒素が一定の基準値を超えて原告らの居住敷地内に侵入しないよう、被告らに対し適当な措置を行うことを求めるというものである。それは、形式的には騒音及び二酸化窒素の侵入禁止という一見単純な不作為を求めるかのようであるが、現実には被告らにおいて後記のとおり様々な措置のいずれかを行つた結果としてもたらされる不侵入という事実状態を求めるものであり、実質的には被告らに対し作為としての右の措置を行うことを求めるものにほかならず、結局その内容は、考えられる限りのあらゆる作為を並列的、選択的に求めているものと解さざるをえない。

ところで、一般に原告に対し請求の趣旨の特定を要求する理由は、それが裁判所において既判力の客観的範囲、二重起訴、当事者適格の有無の判断を行うために不可欠であるほか、審理の対象、範囲を明確にして、適切、迅速な訴訟指揮を行うためにも必要不可欠なものであり、また、被告において十分に防御権を行使するためにも重要なものだからである。

したがつて、請求の趣旨の特定に関し、仮にこれに対応する判決主文が言渡されても、それは間接強制の方法で強制執行ができるから、その特定に欠けることはない旨の原告らの主張は、その特定が要求される右の理由に照して採用の限りでない。

そこで、訴訟の終結に至るも、なお請求の趣旨が特定されていないときは、裁判所はこれを不適法な訴として判決をもつて却下すべきものであり、一定の事実状態を求める訴についても、その状態を作出しうる作為又は不作為が、一義的で解釈の余地がなく、特定のものに限定され、したがつて事実状態を特定することがその作為又は不作為の内容を特定するのと同視しうる場合以外は、やはり却下を免れないものというべきである。

本件差止請求は、複数の措置(作為)についての請求を包含し、その作為の内容が特定されているとは到底いえないものであるから、その訴は不適法というほかなく、これを却下するのが相当である。

二仮定的判断

しかしながら、本訴においては本件差止請求に関し、被告らの行いうる措置につき一応の審理を経由したものであるから、以下においては、その訴の適否についての問題を捨象して、実体的判断を加えることとする。

1根拠となる権利

(一) 環境権

原告らは、いわゆる環境権は、個々の住民が地域的な生活環境を破壊する行為に対し、訴訟においてその差止を求めることができる権利である旨を主張する。それは、物権など個々の権利を有する者に限つて従来認められていた妨害予防及び妨害排除請求権の行使を、これら個々の権利を有しない者にも広く権利として行使することを承認し、訴訟における当事者適格や訴の利益に関する審査を経ることなく、すべて訴訟を通じて環境の保全を図ることを目的とするものと目される。

しかしながら、現行法上環境の保全については、国民や住民の多数決原理による民主的な選択に基づく立法及びこれを前提とする行政の諸制度を通じ、総合的な視点に立つて実現すべきことが期待されているところであり、訴訟という限られた場において、また限定された対立当事者間において、これを実現すべきものとはされていないものというべきである。

いわゆる環境権には、全く実定法上の根拠がないのみならず、その成立要件、内容、法律効果等も極めて不明確であり、これを私法上の権利として承認することは法的安定性を害し、到底許されるものではない。

(二) 人格権

原告らは、いわゆる人格権は、個人の生命、身体、精神及び生活に関する利益の総体であり、その侵害行為に対し、訴訟において差止を求めることができる権利である旨を主張する。

右の諸利益のうち、少なくとも身体(その極限が生命であり、一部分が健康である。)は、物よりも重大な価値を有することはいうまでもなく、その侵害については、土地や家屋の所有権などの物的な支配権を有しない者においても、その個々人の権利として直接にその排除を求める必要のある場合が存することは疑いがなく、これについては明文の規定がないものの、物上請求権に準じて妨害予防及び妨害排除請求権を認めるのが相当である。

しかしながら、騒音や排ガスによる侵害行為については、その程度いかんによつて、身体に対する暴行、傷害に匹敵すると評価しうるものから、単なるうるささや迷惑感の域を出ないものまでが広く包含されるものであり、後者の程度のものについては、その侵害行為はすべて当然に違法というべきものではなく、受忍限度の判断を経由することが必要である。

なお、本件差止請求は原告らの居住敷地に対する侵害行為の差止を求めるものであり、個々の身体に対するその差止を求めるものではないから、土地や家屋の所有権や賃借権などの支配権を根拠としても十分に対処することができるものといえる。

2受忍限度

(一) その内容

差止請求における受忍限度は、当事者双方のあらゆる事情を総合考慮して導き出すべきものであり、具体的には、①侵害行為の態様と侵害の程度、②被侵害利益の性質と内容、③侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか、④侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、⑤その間にとられた被害の防止措置の有無及び内容、効果等の諸事情を総合的に考察することが必要である。

なお、右の被害防止措置の判断においては、その前提として、被害発生の危険を回避する可能性について、技術的・物理的な面からの考察のほか、財政的・経済的な面及び法律的な面からの考察が必要である。

(二) 本件についての判断

そこで右(一)の判断基準に従つて検討を進めるが、本件の場合損害賠償請求についても後記のとおり受忍限度の判断が必要であり、その前提となる事情はほぼ共通であるため、以下においては騒音や二酸化窒素以外の本件差止請求の対象とされていないものによる侵害状況についても必要な範囲で言及する。

(1) 侵害行為の態様と侵害の程度

ア 侵害行為の態様

本件において騒音や排ガスの原因となる直接の侵害行為と目すべきものは、不特定多数の国民の様々な目的による自動車の走行という極めて日常的・一般的な行為であり、本件道路の供用行為は、その結果として本件道路を国民の自由使用の状態に置くものにすぎず、侵害行為としては間接的なものというべきであるが、個々の自動車の走行のみをとらえると侵害行為に該当するとは到底いえないものを、本件道路の供用によつて集合・結集させることにより直接的な侵害行為が生じるに至るものである点を無視することはできず、これを考慮すれば、本件道路の供用行為は、右の直接的侵害行為に対しその前提又は基礎を提供するものであり、見逃すことができない重大な意味を有するものである。

イ 侵害の程度

まず、本件道路端における騒音の程度は、前記第四の二項2(二)(騒音の実情のまとめ)及び同3(他の道路端における騒音との比較)のとおりであり、振動の程度は第四の三項2(振動の実情)のとおりであり、排ガスの程度は同四項2(二)(排ガスの実情のまとめ)のとおりであり、特に騒音については、ほとんど全部の測定点及び時間帯において環境基準を上回り、これより高い要請限度を上回ることさえあり、本件各市内では最高レベルにあるが、全国的にみれば必ずしも最上位にあるとはいえないこと、排ガスのうち二酸化窒素については、他の沿道地域と比較して、ほぼ同等又は高濃度で最も問題であるが、他の一酸化炭素などについては比較的問題が少ないこと、振動については、場所によつて大差があり、一つの地点における測定値を除いていずれも要請限度を上回ることはないが、本件各市内においては全体として高いレベルにあることが明らかである。

なお、騒音及び大気汚染物質についての各環境基準は、公害の防止に関する施策の基本となる事項を定めた公害対策基本法九条一項に基づき、人の健康を保護し、生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準として定められたものであり、それは公害防止行政を総合的かつ計画的に推進して行く上での政策上の達成目標ないしは指針としての性格を有するものであるから、その基準値がそのまま差止や損害賠償請求訴訟における受忍限度としての意味を有するものではない。また、騒音及び振動についての各要請限度は、騒音規制法一七条一項及び振動規制法一六条一項に基づいて定められたものであり、その限度値を超えていることにより道路周辺の生活環境が著しくそこなわれていると認められるときに、都道府県知事が都道府県公安委員会や道路管理者に対し相当な措置をとるべきことの要請を行うべき基準値としての意味を有するものであつて、行政上の措置を行うべき基準を定めたものであるから、これらもそのまま差止や損害賠償請求訴訟における受忍限度としての意味を有するものではない。もつとも、右の環境基準や要請限度が定められるに至つた経過やその根拠となつた資料は、右受忍限度の判断において十分斟酌すべきものであることはいうまでもない。

次に、原告らの各居住地内における騒音の程度は、前記第四の二項4のとおりであり、振動の程度は、同三項2のとおりであり、排ガスの程度は、同四項2(一)(1)エ(ア)及び同(5)並びに同3のとおりであつて、理論的にはいずれも道路端から遠ざかるに従つて減衰するとされているものであるところ、騒音については、本件道路端から二〇メートル離れた地点で四ないし九ホン低下し、二五メートル離れた地点では最大一〇ホンの低下がみられ、感覚量にして半減するほか、さらに窓を閉鎖した室内では大きく低下するが、排ガスについては、場所的要因の影響が大きいほか、汚染物質によつても異なり、距離減衰の傾向は騒音の場合に比して一様ではなく、振動については、さらに場所的要因の影響が大きく、距離減衰の一般的傾向を認めることはできないことが明らかである。

(2) 被侵害利益の性質と内容

本件における被侵害利益の性質及び内容は、前記第五(原告らの被害認識)、第七の二項3(五)、4(四)、5(四)、6(三)、7(四)及び8(四)(本件道路騒音の影響についての各まとめ)、同三項4(本件道路振動の影響についてのまとめ)、同四項4(本件道路からの排ガスの影響についてのまとめ)のとおり、騒音、振動、排ガスによる不快感、迷惑感などの情緒的影響が中心となるものであり、これが本件沿道に広くみられるほか、睡眠妨害や会話等の聴取妨害、日照及び電波受信妨害、浸水、落下物及び夜間照明による被害も一部においてはみられるものであるが、身体や健康に対する影響又はその影響が生じる可能性ないしは危険性を認めることはできず、また、原告らが主張する家族団らん等や親類等との交流、営業、室内の換気に対する支障、洗濯物の汚れなどによる財産上の被害については、右の情緒的影響等に当然に伴うものとして認めることができるものの、これらの影響の中に含めて評価することが相当であり、さらに、原告らが主張する地域環境の破壊については、原告らはその保護を求める法律上の利益を有しないものというべきである。

(3) 侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度

ア 道路の一般的公共性

<証拠>を総合すれば、道路の有する一般的な公共性として、被告らの主張二項4(三)(1)(道路の公共性)の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

イ 本件道路の重要性

<証拠>を総合すれば、被告らの主張二項4(三)(2)(本件道路の重要性・公共性)の事実が認められ(ただし、同(2)イ(イ)の本件道路の建設経緯は当事者間に争いがない。)、この認定に反する証拠はなく、その交通量の変化等は前記第四の一項のとおりである。

なお原告らは、本件道路が一般の国民に共同利用されるものではなく、一部の事業体や個人に占有されるものである旨を主張するが、右の事実からみて必ずしもそのように断定することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

ウ まとめ

右ア及びイの事実によれば、本件道路は、その沿道の住民や企業の自動車交通の手段として極めて重大な役割を有するのみならず、大阪や神戸を含むその周辺地域の交通や産業経済活動に対しても、現時点ではその内容及び量において直ちに代替することが不可能又は極めて困難で、かけがえのないほど多大な便益を提供しているものであり、その便益は、国民の日常生活の維持存続に不可欠な役務の提供のように絶対的ともいうべき優先順位を主張しえないまでも、何ら代替措置のないままその通行に支障が生じた場合、産業経済活動ひいては国民の日常生活に及ぼす影響の重大性は計り知れないものであることが明らかであり、これに反する原告らの主張は理由がない。

しかしながら、本件沿道の住民についてみれば、右の一般的な利益のほかには、前記のアクセス機能及び防災空間としての機能から生じる利益を沿道住民として特別に享受しうるものであるということができるが、その他の機能から生じる利益は、沿道に居住することによつて必然的に増大するという性質のものではなく、沿道住民が本件道路の存在によつて受ける利益とこれによつて被る被害との間には、後者の増大に必然的に前者の増大が伴うという彼此相補の関係が成り立つものではないことが明らかである。

なお、原告らは公共性に関連して、本件道路の設置、管理については、住民参加により住民の意思が反映される民主的手続が保障されるべき旨を主張するが、その具体的な内容及び法律上の根拠は必ずしも明らかではなく、それが法律に定める手続のみでは住民の意思が十分に反映されえないという趣旨であれば、それは立法政策の問題であつて、その主張はそれ自体失当というほかなく、また法律に定められた手続が履践されていないという趣旨であれば、これを認めるに足りる証拠はない。

(4) 侵害行為の開始とその後の経過

ア 本件道路の建設経緯や侵害状況等

本件道路の建設の経緯等並びにその交通量、騒音、振動及び排ガスの変化の状況は、前記第三及び第四のとおりであり、本件国道の本件沿道部分は同三八年に一部六車線のまま供用開始され、同四三年に全部が一〇車線となり(ただし、後記のとおり同五〇年度以降順次八車線に削減された。)、本件県道神戸線の本件沿道部分は同四五年に供用開始され、同大阪線の本件沿道部分は同五六年に供用開始されたこと、その交通量は、本件国道については、同四〇年代前半に増大し、その後現在まで大きな変化はなく、本件県道神戸線及び同大阪線の各開通により、その部分の本件道路の合計交通量が飛躍的に増大したこと、本件道路端の騒音レベルについては、測定の開始された同四七年ころから現在まで大きな変化はないこと、振動については、測定場所によつて大きく異なり、交通量との相関は低いこと、排ガスのうち問題となる二酸化窒素については、測定の開始された同四八年ころ以降大きな変化はないことが明らかである。

イ 事前の調査

<証拠>を総合すれば、本件道路の建設に当つては、法律上環境影響予測を行うことが義務づけられておらず、着工前にその調査が行われたことはなく、本件県道大阪線の建設に当つてのみ、地元の尼崎市長、西宮市長及び兵庫県知事の要望などもあつて、その調査が実施され、騒音、振動、排ガスについて、その供用開始後も従前とほとんど変化がない旨の予測が得られていることが認められ、これに反する証拠はない。

ウ 住民運動等

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(ア) 本件沿道では、本件県道神戸線が供用開始された後から、本件道路の騒音や排ガスなどの公害に対する沿道住民の苦情が高まり、同四五年九月には沿道住民によつて芦屋市二国公害対策協議会が結成されたのを初め、同四六年一二月に四三号線公害対策尼崎連合会、同四七年一月に同西宮連合会、同四九年六月に神戸四三号線道路公害住民連合会などの住民団体が結成された。

(イ) 右の住民団体は、それぞれ関係の市や機関に対し各種の陳情をするなどの行動をひんぱんに行い、これを継続してきた。特に右尼崎連合会は、同四七年八月から本件県道大阪線の建設に反対して工事現場に座り込みを始め、同年九月神戸地方裁判所尼崎支部に対し本件県道大阪線の建設工事の禁止を求める仮処分を申請したが、同四八年五月工事禁止の申請については却下する旨の決定がされた。同四九年右の住民団体は本件訴を提起する旨を決定し、同五一年八月三〇日原告らによつて本訴が提起されるに至つた。

(ウ) 本件各市や兵庫県は、右の陳情などを受け、被告らほか関係機関に対し、右の公害を軽減する対策を要求してきた。

(エ) 本件沿道では、右の要求を受けた被告らなどにより、後記(5)で認定するとおり、同四七年度から遮音壁の設置、同四八年度から植樹帯の設置及び本件国道における速度規制の強化がそれぞれ開始され、その後も種々の対策が講じられるに至つた。

(オ) 右の各事実のほか、騒音や排ガスについての法規制強化の経緯は、その都度主要日刊新聞紙上で報道されていたが、特に同四八年五月の神戸地方裁判所尼崎支部の仮処分決定は大きく扱われた。

エ まとめ

以上の事実を総合すれば、本件道路の建設に当つては、これを通行する自動車によつて発生する騒音や排ガスが周辺住民に及ぼすべき影響について事前の慎重な調査や予測が行われたものとはいいがたく、また、本件沿道の騒音や排ガスは、その影響を防止、軽減すべき対策があらかじめ講じられないまま、同四〇年代前半にはすでに現在の状況にまで増大し、そのころからこれが公害として本件各市や住民団体などによつて問題視され、新聞などでもひんぱんに報道されるに及び、その後ようやく本件沿道における後記の被害防止の措置や対策が種々実施されるに至つたものの、なお満足すべき十分な効果をあげえず、本件沿道における騒音や排ガスの状況は、現在まで大きく改善されたとはいいがたいものであることが明らかである。

(5) 被害防止措置

ア その現状

(ア) 発生源対策

a 法規制の体系

(a) 自動車騒音

自動車騒音については、騒音規制法一六条で、環境庁長官は自動車騒音の大きさの許容限度を定めなければならないとされ、運輸大臣は道路運送車両法に基づく命令でこの許容限度が確保されるよう考慮しなければならないとされている。また、騒音規制法二一条の二で、都道府県知事は指定地域について騒音の大きさを測定するものとされ、同法一七条で、都道府県知事は騒音測定の結果指定地域内における自動車騒音が総理府令で定める限度を超えていることにより道路周辺の生活環境が著しくそこなわれると認められる場合には、都道府県公安委員会に対し道路交通法の規定による交通規制の措置を要請するものとされ、また必要があると認めるときは、道路構造の改善その他自動車騒音の大きさの減少に資する事項に関し、道路管理者又は関係行政機関の長に意見を述べることができるものとされている。

(b) 排ガス

排ガスについては、大気汚染防止法一九条で、環境庁長官は排ガスの量の許容限度を定めなければならないとされ、運輸大臣は道路運送車両法に基づく命令でこの許容限度が確保されるように考慮しなければならないとされている。また、大気汚染防止法二〇条で、都道府県知事は排ガスによる大気の著しい汚染が生じ又は生じるおそれがある道路の部分及びその周辺の区域について排ガスの濃度の測定を行うものとされ、同法二一条で、都道府県知事は測定の結果大気汚染が総理府令で定める限度を超えていると認められるときには都道府県公安委員会に対し交通規制の措置を要請するものとされ、また特に必要があると認めるときに道路構造の改善その他排ガスの濃度の減少に資する事項に関し道路管理者又は関係行政機関の長に意見を述べることができることとされ、さらに、同法二三条で、都道府県知事は緊急時の措置として自動車の運行の自主的制限を求め、あるいは都道府県公安委員会に対し交通規制措置を要請するなどとされている。

b 法規制強化の経緯

(a) 自動車騒音

自動車騒音については、まず、同二六年七月二八日運輸省令六七号(道路運送車両の保安基準)で、一定の方法で測定した定常走行騒音及び排気騒音の大きさがいずれも八五ホンを超えない構造でなければならないとされた。

その後、同三四年九月一五日同省令四二号で、右の測定方法が改正され、同四五年一二月四日同省令九一号で、前記の騒音値が新車について車種により五ないし一五ホン低減され、同時に加速時の騒音防止を図るため、加速走行騒音の規制が追加された。

さらに、新車の加速走行騒音につき、同五〇年九月一日同省令三四号で、大型自動車及び二輪自動車等については同五一年一月一日から、小型バス、トラック及び乗用車については同五二年一月一日から、それぞれ規制が強化され、同五三年二月四日同省令五号で、乗用車、ガソリントラック・バスについては同五四年一月一日から、同五三年二月八日同省令七号で、ディーゼルトラック・バス、二輪車については同五四年四月一日からそれぞれ規制が強化され、その後も乗用車について同五七年一〇月から、中型車について同五八年一〇月から、第一種原動機付自転車について同五九年四月から、大型バス、小型車(全輪駆動車を除く。)について同年一〇月から、それぞれ規制が強化されている。

(b) 排ガス

排ガスについての規制は、同四一年九月ガソリン車からの一酸化炭素に対し、四モード濃度規制が実施されたことに始まり、同四四年九月一酸化炭素につき規制が強化された。

その後、同四三年大気汚染防止法の制定により、環境庁長官が排ガスの許容限度量を定め、運輸大臣がこれを確保するよう省令をもつて規制を行うこととなつた。

そして、ガソリン又はLPGを燃料とする普通自動車、小型自動車(二輪自動車を除く。)及び軽自動車について、排気管以外から排出される炭化水素対策として、同四五年七月二三日同省令六三号でブローバイ・ガス還元装置の備付け、同四七年三月三一日同省令九号で燃料蒸発ガス排出抑止装置の備付け(ガソリンを燃料とする自動車についてのみ)がいずれも義務化された。さらに、ガソリン又はLPGを燃料とするものにつき、同四七年一二月一二日同省令六二号で、軽量車については一〇モード重量規制により、重量車については六モード濃度規制により、それぞれ一酸化炭素、炭化水素及び窒素酸化物について同四八年四月から規制が行われ、同四九年一月二五日同省令二号で、乗用車につき同五〇年四月から従前の一〇モード重量規制が強化されるとともに、コールドスタート時の排ガスの実態を評価する一一モードによる規制が追加され、同五〇年二月二六日同省令四号及び同五一年一二月二二日同省令四七号で、同五一年四月及び同五三年四月から窒素酸化物の規制強化が行われた。

ガソリン又はLPGを燃料とする自動車のうち、軽量のバス、トラックについては、同四八年までは乗用車と同様の規制が行われてきたが、同五〇年二月二六日同省令四号で、同五一年四月から一〇モード及び一一モードによる規制強化が行われ、重量のバス、トラックについては、同四七年まで乗用車と同様の規制が行われてきたが、同四七年一二月一二日同省令六二号で、同四八年四月から六モード濃度規制が行われ、その後、同五一年一二月二二日同省令四七号で、同五二年八月から窒素酸化物の規制強化が行われた。

軽油を燃料とするディーゼル自動車の排ガス規制(新車)については、同四七年に三モードによる黒煙規制が行われ、同四九年五月二四日同省令一八号で、ディーゼル六モードによる一酸化炭素、炭化水素及び窒素酸化物の濃度規制が行われ、同五一年一二月二二日同省令四七号で、窒素酸化物の規制が強化された。

c 規制の効果等

<証拠>を総合すれば、右排ガス規制により、窒素酸化物は未規制時に比較して、ガソリン又はLPG車では約七〇ないし九〇パーセントに、ディーゼル車では約五〇パーセントに削減され、今後も最も基本的な対策であるが、現時点での効果は、規制に基づく対策車の普及及び老朽車の代替に数年間を要することから、同六〇年代の半ばころに表われるものと見込まれること、右の騒音や排ガスに関する規制を担保するため、自動車に対する新規検査及び継続検査等のほか、街頭における整備不良車両等に対する検査等が実施されていることが認められ、この認定に反する証拠はない。

(イ) 交通管理面の対策

<証拠>を総合すれば、被告らの主張二項4(五)(2)(交通管理面の対策)の事実が認められ、これに反する証拠はない。

(ウ) 道路構造面の対策

<証拠>を総合すると、被告らの主張二項4(五)(3)(道路構造面の対策)の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(エ) 沿道における環境保全対策

a 住宅防音工事及び移転の助成

<証拠>を総合すれば、被告らの主張二項4(五)(4)ア(ただし、原告(19)山田あや子及び同(21)三村泰三についての防音工事完了年月日を除く。また、同(イ)b防音工事の効果については、すでに認定したところである。)の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

右原告両名に関する防音工事完了日については、ZI第一九号証及び同第二一号証の各一により、その完了予定日である同五四年三月三一日をもつて右各工事が完了したものと推認するのが相当であり、この認定の妨げとなる証拠はない。

なお、防音工事によつて居室内で振動を大きく感じるようになつた旨の原告らの主張に関しては、振動の増大を認めるに足りる証拠はない。

b 日陰及び電波障害対策並びにその他の諸施策

<証拠>を総合すると、被告らの主張二項4(五)(4)イ(防音工事助成等以外の諸対策)の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

c 大阪湾岸道路の建設及び沿道整備計画の推進

<証拠>を総合すると、被告らの主張二項4(五)(4)ウ(長期的な対策)の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(オ) まとめ

右のとおり種々の対策が講じられているが、前記第四(侵害状況等)によれば、その効果は交通量の増加によつて減殺され、本件沿道全体としては顕著な効果の表われていないことが明らかである。

イ 被害防止の可能性(回避可能性)

(ア) 本件道路の設置・管理者の行いうる措置について

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

a 本件道路の設置・管理者の権限内で行いうる措置として考えられるものは、被告らの主張二項3(二)(1)ないし(6)記載の対策である。

b 右のうち、同(4)及び(5)(道路の供用廃止及び幅員の削減)については、同記載の交通麻痺や交通渋滞などの悪影響のほか、これによつて引き起こされる道路輸送に依存した物流の障害の国民生活への影響等を考慮すれば、社会的には非現実的なものである。

c 同(6)(道路の地下化又はシェルター化)については、同記載の工事に伴う通行制限等による交通麻痺や沿道の土地利用等との調整などの社会的制約及び実効性を考慮すれば、現在の時点においては、非現実的なものである。もつとも、本件道路を設置する時点において、すでに今日の交通量がおおむね予想されていたものであるから、当初から右の工法を採用しておれば、右の社会的制約を受けずに、その騒音や排ガスの影響の及ぶ範囲を少なくすることが可能であつたものというべきである。

d 同(2)(道路構造面の対策)については、前記ア(被害防止措置の現状)のとおりすでに可能な範囲のほぼ全域にわたつて実施され、前記第四の二項4(三)(遮音壁等の効果)及び同三項2(二)(遮音築堤等の効果)のとおり騒音や振動についてある程度の効果を上げているが、抜本的な対策とはなりえておらず、今後の措置としては大きな期待を持てない。

e 被告らの主張二項3(二)(3)(沿道住宅の防音構造化、緩衝建物の建設)のうち、住宅の防音工事助成については、前記ア(被害防止措置の現状)のとおりすでに広く実施され、前記第四の二項4(四)(2)(防音工事)のとおり騒音についてかなりの効果を上げているが、沿道住民宅の屋外における生活や排ガスの影響を考慮すれば十分な対策とはいえず、緩衝建物の建設については、沿道住民の意思に係るという社会的制約から、早急には効果的対策となりうるものではない。

f しかしながら、被告らの主張二項3(二)(1)(道路の新設、改築)については、用地の確保や財政面での困難を伴うものの、前記(1)(被害防止措置の現状)のとおりすでに大阪湾岸道路の建設が計画され、その一部が完成しているところであり、財政的制約を除外すれば、早期実現も不可能ではない。

(イ) その他の措置について

<証拠>を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

a 現行法上本件道路の設置・管理者以外の者が有する権限に基づく措置としてまず考えられるものは、被告らの主張二項3(一)記載①ないし③の対策である。

b 右のうち、発生源対策については、前記ア(被害防止措置の現状)のとおり順次規制の強化が行われてきたものであり、今後も有力な対策の一つであるが、まだ十分な効果が表われるには至つていない。また技術開発を伴うことが不可欠であり、その実現には時間を要する。

c 交通管理面の対策も前記(1)のとおり順次行われ、前記第四の二項6(交通規制による変化)及び同三項2(三)(制限速度の変更による効果)のとおり、騒音や振動については、すでにある程度の効果が表われた場所もある。そのほか大型車の通行区分規制や信号機の調整などの方法が考えられるが、大きな効果は期待できず、今後の有力な対策とはいえない。また、大型車の全面的な通行禁止や、原告らが主張する特に公益上の必要性が高いと認められる自動車(消防車や救急車など)以外の通行を規制するという方法は、本件道路の現在の交通量等を考えると非現実的なものといわざるをえない。

d 沿道整備計画による対策は、道路交通騒音そのものの低減を図るものではなく、その現状を前提として、これにふさわしい街並みを形成して行くことを目的としたものであり、原告らが本件沿道に居住することとは相反する観点を含む対策であり、差止や損害賠償における違法性の検討においては異質のものであるのみならず、その実現は住民の意思に係るため、今後長期間を要するものである。

e そのほか、より抜本的・根本的には、物資の流通体系や交通体系そのものの見直しを図つて新たに総合的な方策を樹立し、その上でこれと併行して右に検討した個々の対策を講じていくことが最も重要かつ有効というべきであるが、右方策の樹立は国の政治的責務に属する事項である。

(ウ) まとめ

右(ア)及び(イ)によれば、本件沿道の騒音や排ガス等の影響を低減するために今後行いうる措置としては、大阪湾岸道路の建設が、困難を伴うものの最も大きくかつ具体的な効果を期待しうる当面の対策であることが明らかであり(ただし、それとあわせて本件道路における大型車の通行規制等の交通管理面の対策なども不可欠であり、また、大阪湾岸道路の沿道の環境への配慮を怠つてはならないことはいうまでもない。)、また道路構造面の対策、住宅防音工事の助成等の対策、交通管理面の対策などすでに実施ずみのものについても、より早期に行うことにより被害の軽減化を図ることが可能であつたものであり、これらについては財政面の支障を除けば、早期実施が不可能であつたというほどの合理的な理由は見当らず、被告らにおいて被害の発生を回避する可能性が全くなかつたとはいえないものである。

(6) 総合判断

以上(1)ないし(5)の次第で、本件道路の建設は事前に環境影響予測が行われることなく計画され、その供用開始後これを利用する自動車の増加に伴つて周辺住民への影響が生じ、これが増大するに至つたが、地元の市や住民から苦情が申立てられるまで、その影響を防止、軽減すべき相当の対策は講じられていなかつたこと、侵害の程度は、全国的にみて最高レベルには達していないものの、本件各市内では最高レベルにあること、しかしながら、騒音や排ガスの程度は距離を隔てることなどにより減衰すること、被侵害利益の内容は、精神的苦痛ないし生活妨害のごときものであり、生命身体への直接の影響は認められないこと、被害防止措置については、本件沿道におけるもののみをみても同五〇年前後から実施され、同沿道全体のほか原告ら個人に対しても、すでに巨額の費用を投じてかなり積極的な対策がとられてきたとはいえ、いずれも後手に回り、防音工事の行われた居室内の騒音レベルの減少を除いては、未だ完全な効果を発揮するには至つていないものと評価せざるをえないこと、また排ガスに対しては、発生源対策以外には特にみるべき措置が講じられていないこと、本件道路の公共性は極めて高度なものであることが認められるが、絶対的なものとまではいうことができず、その沿道に居住することによつて特別に受ける便益は、被害の程度に比してさほど大きいものでもないから、その公共性は沿道住民という一部少数者の特別の犠牲の上でのみ実現されているものであり、そこには看過することのできない不公平の存在を否定できないことが明らかである。

そこで右の事情を総合考察するに、差止請求については、その被侵害利益の内容は精神的苦痛ないし生活妨害のごときものであるのに対し、本件道路の有する公共性は極めて高度なものであることを重視すべきであるから、本件道路の供用行為は、いまだこれを差止めるべき程度の侵害行為であるとは到底いえないものであるが、損害賠償請求については、その公共性が一部少数者についての不公平の存在の上に成り立つている点を無視しうるものではないから、原告らの中には、右供用行為により、その受忍を強いられるべきいわれのない侵害を被つている一部少数者に該当する者が存在するものというべきである。

3結論

よつて原告らの本件差止請求は、被告らに対し、右2(5)イ(被害防止の可能性)で検討したいかなる措置を求めるものであるにせよ、理由がないからこれを棄却すべきものであるが、そのうち、本件道路の供用廃止、自動車の騒音や排ガスの規制強化、交通規制のいずれかの措置を求める趣旨であるとすれば、それはいずれも行政行為を求める結果となり、それぞれの権限を有する行政庁を相手方とする行政訴訟を提起すべきものであるから、被告らに対する通常の民事訴訟をもつてする本件訴は、被告適格を有しない者に対する不適法な訴として却下を免れないものというべきである。

第九  損害賠償請求について

一違法性と瑕疵

1その内容

(一)  国家賠償法一条一項

右条項は、公務員の故意又は過失による違法な公権力の公使によつて生じた損害に対する救済を定めた規定であり、これに基づく損害賠償請求においては、当該公務員の公権力の行使内容を一定の限度で特定し、具体的にいかなる権限の行使又は不行使が違法であるかを主張することが必要であり、裁判所はこれに沿つて審理し、判断を行うべきものである。したがつて、その権限が当該公務員のものではなく、法律上他の公務員のものとして規定されている場合には、その権限を有する公務員の公権力の行使の違法としてとらえ、これを主張すべきものである。

(二)  同法二条一項

右条項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠如していることをいい、通常有すべき安全性とは、営造物が、その設置目的との関係において、通常予測し、かつ回避可能な、他人に危害を及ぼす危険性を有していない状態をいう。

右にいう他人に危害を及ぼす危険性のある状態とは、当該営造物に物理的・外形的欠陥が存する場合のみならず、それが供用目的に沿つて利用されることとの関連において危害を生じさせる危険性のある場合をも含み、また、その危害は、営造物の利用者のみならず利用者以外の第三者に対するそれをも含むものである。

右の供用目的に沿つて利用されることとの関連における危険性とは、当該営造物の利用の態様及び程度が一定限度内にある限りにおいてはこれに危険性がなくても、右限度を超える利用によつては危害発生の危険性が生じる場合をいい、そのような利用に供される限りにおいて右営造物の設置、管理には瑕疵があるということができる。

したがつて、右営造物の設置・管理者において、右のような危険性があるにもかかわらず、これについて特段の措置や適切な制限を加えないままこれを違法に利用に供し、他人に現実の危害を発生させたときは、右設置・管理者においてそれが予測不可能な事由によるものでないことを主張、立証しない限り、同条項による損害賠償責任を免れないものである。

右の供用の違法性は、当該供用によつて被るとされる被害が社会生活を営む上において受忍すべきものと考えられる程度(受忍限度)を超えるか否かによつて決せられるべきものであり、その具体的な判断は、差止請求における前記第八の二項2(受忍限度)に準じて行うのが相当である。

もつとも、道路など当初から通常予想される危害に対応する安全性を備えたものとして設置されるべき営造物の管理についての損害賠償請求の場合には、財政的・経済的な制約の存することは、損害賠償責任を免れる理由とはなりえないものである。また、法律的な面からの考察においては、法律によつて当該営造物の直接の管理者とされている者(本件国道では建設大臣)の権限のみに限らず、他の行政庁の権限に属する事項であつても、当該営造物の運営に実質的に関連する事項についても検討を加えることが必要であり、場合によつては法律上の規定を欠く事項についても考慮の対象となりうるものと解するのが相当である。けだし、事実上は適切な被害防止措置が存在する場合に、それが法律上は当該営造物の直接の管理者の権限に属していないとか、法律に規定がないとの一事をもつて、国又は公共団体が損害賠償責任を免れるべきものではないからである。

したがつて、同法二条一項に基づく営造物の供用目的に沿つて利用されることとの関連における危険性の存在を理由とする損害賠償請求では、原告において、当該営造物の管理者などの公務員の具体的な公権力の行使を特定して主張する必要がない点において、前記(一)における同法一条一項に基づく請求とは異なるものである。

2本件についての判断

(一)  瑕疵の存否

まず、同法二条一項の瑕疵につき検討する。

原告らが主張する本件道路の瑕疵は、その供用によつてこれを通行するぼう大な量の自動車から著しい騒音・振動・排ガスが発生することに基づくものであり、その物的施設自体に存する物理的・外形的な欠陥ないし不備に基づくものではないから、右1(二)の判断基準に従つて本件道路の供用の違法性すなわち受忍限度の検討を行い、その設置・管理の瑕疵の存否を判断すべきものであるが、その内容は、すでに本件差止請求に関する前記第八の二項2(二)(本件についての受忍限度の判断)においてあわせて説示したところである。

したがつて、原告らの中には受忍限度を超える侵害にさらされている者も存在するものであるが、その判断については、本来各原告ごとにその被つた侵害の程度などの個々の事情を検討すべきものであるところ、本件においては、いわゆる一律請求の方法がとられているため、後記のとおり、客観的・合理的な基準を設定し、その基準の枠内において共通する最低限度の侵害の程度につき受忍限度の判断を行うことも許され、またその際考慮すべき原告らの被害の内容については、本件道路の供用行為との間に因果関係が認められ、かつ原告らに共通すると認められるものに限定すべきものというべきである。

本件においては、原告ら主張の被害のうち、本件県道の高架構造物による日照及び電波受信の障害は、原告らに共通のものではなく、その一部に関するものであつてすでにその補償も行われ、浸水や落下物による被害は原告らの一部に関するものであり、振動は測定地点によつて大きく異なり、これによる被害(心理的影響)も原告らに共通のものとはいえないものであるから、これらはいずれも一律請求に基づく後記の制約により、受忍限度の判断及び損害額の算定に当つては考慮しないこととする。

さらに、原告ら主張の家族の団らん等や親類等との交流に対する支障、営業妨害、換気妨害、洗濯物の汚れなどによる財産上の被害については、いずれも騒音・排ガスによる精神的被害ないしは騒音による会話の聴取等や睡眠への影響の中に含めて考慮するのが相当であるが、原告らは、そのいわゆる地域環境についてはその保護を求める法律上の利益を有するものではないから、その破壊による慰謝料請求の主張は理由がない。

そこで本件では、騒音による睡眠、会話、精神に対する影響並びに排ガスによる精神に対する影響に限定して受忍限度を判断するのが相当であるが、本件に表われた一切の事情を総合考慮すれば、少なくとも本件道路(現在の車道端)からの距離が二〇メートル以内の範囲内では一律に受忍の限度を超える違法な侵害状態が存在し、本件道路の供用行為は、原告らのうち、その居住地の全部又は一部が右の範囲内にある者との関係においては、違法なものであり、本件道路の設置管理には瑕疵があるものというべきである。

(二) 公権力行使の違法性

原告らは、国家賠償法二条一項に基づく請求のほか同法一条一項に基づく請求についても主張する。その具体的な内容は必ずしも明確ではなく、前記1(一)の説示に照らして失当のそしりを免れないが、本件においては、右(2)(一)(瑕疵の存否)において検討したところが右の主張についてもあてはまるものであり、右各主張によりその責任の範囲や慰謝料の額等に差異が生じるものではないから、これにつき改めて判断を示さない。

二責任の態様

前記第二(当事者)の二項(被告ら)によれば、被告国は本件国道につき、被告公団は本件県道につき、その設置又は管理の瑕疵による損害賠償の責任を負うべきものである。

そしてその責任は、本件県道が設置されるまでは被告国の単独責任であるが、その設置後においては、本件国道及び本件県道の各供用行為が関連、共同し、これらが一体となつて沿道住民に被害を与えていることを考慮すれば、民法七一九条の共同不法行為による連帯責任であるというべきである。

三被告らの主張等について

1一部請求

原告らは、本件道路の供用によつて各自が受ける非財産的利益の侵害に対する慰謝料額は、本訴提起前の分としては少なくとも二〇〇万円、本訴提起の後、本件口頭弁論終結を経て将来にわたる分としては少なくとも一か月三万円が相当であるとして、これをいわゆる一部請求である旨主張する。

しかしながら、原告らはその慰謝料の全額については何ら明らかにしないものであるから、その主張は判決の上限を画するものにすぎず、本件における審判の対象は、右の主張にかかわらず右期間中の慰謝料請求権全部の存否であり、この判決の既判力は、右請求権の全体に及ぶ(ただし、将来請求については後記のとおりである。)ものと解するのが相当である。したがつて、原告らの右請求は、被告らに対し何ら不利益を与えるものではなく、これに反する被告らの主張は採用しない。

2一律請求

原告らは、右のとおり慰謝料として、それぞれ一律に二〇〇万円及び月額三万円の支払を請求するものである。

不法行為による慰謝料の額は、各被害者の個別・具体的な事情に応じて異なるものであり、原告としてはこれらをすべて主張・立証することが必要であり、これはいわゆる集団訴訟においても何ら別異に解すべきものではない。

しかしながら、原因や事実関係を共通とする不法行為による慰謝料請求などの場合においては、その原因に対して客観的に一定の関係に立つものと認められる被害者の間では、少なくとも一定の限度で共通して受けている被害(最低限度の被害)の存在を観念しうるものであることも疑いがなく、その限度では、一部の被害者についてのみ具体的な立証を行つたり、同一の事実関係のもとにおかれている集団についての調査結果(アンケート調査)などによる概括的な立証を行うことも合理性を有するものとして許され、また、原告らがこのような請求の方法を選択してこれを前提とする立証を行つた場合には、仮に一部の原告が個別に他の原告に比較して被害の程度が著しいという特別の事情の存在を主張、立証しても、裁判所は慰謝料額の算定にあたつてこれを考慮すべきものではなく、その限度で個々の原告が不利益を負担する結果となる制約が存在するのはやむをえないものというべきである。

したがつて、本件における原告らのいわゆる一律請求も、右の最低限度に一律に定額化した請求という意味において正当なものであり、これに反する被告らの主張は採用しない。

3慰謝料請求権の発生と消滅時効

(一) 前記第八の二項2(二)(4)(侵害行為の開始とその後の経過)に照らせば、本件沿道においては、同四〇年代の中頃から受忍限度を超える侵害に暴露される地域が生じるに至つたことが明らかであり、その地域内に居住する原告らについては、慰謝料請求権が発生していたものというべきである。

(二)  本件慰謝料請求は、本件道路の供用という継続的行為によつてもたらされる非財産的被害についてのものであり、それは日々発生するものであるから、本訴が提起された同五一年八月三〇日から三年の期間を遡る同四八年八月二九日以前に生じた損害については、すでに消滅時効が完成しているものというべく、右時効を援用する旨の被告らの主張は理由がある。

(三) 原告らは、右時効の援用は権利の濫用である旨を主張するが、独自の見解であつて、採用することができない。

4後住原告

(一) 前記第八の二項2(二)(4)ウ(住民運動等)及び同(五)(被害防止措置)の事実によれば、同四五年前後から騒音や排ガスに対する規制が順次強化され、これが新聞紙上に報道されて国民一般のいわゆる道路公害に対する認識が高まり、本件沿道でも同四五年九月から住民運動が活発化し、同四七、四八年から具体的な対策が講じられるようになつたものの、同四七年九月には本件県道大阪線の建設工事の禁止を求める仮処分申請がされ、これら一連の事実についても、逐一報道され、さらに同四八年五月の右仮処分申請に対する決定が大きく報じられたことが明らかであるから、右仮処分決定がされた翌月である同年六月以降に本件沿道に居住を開始するに至つた者は、いずれも特段の事情が認められない限り、本件道路の騒音や排ガスが問題とされている事情ないしはその存在を十分知らずに入居したものということはできない。

そして本件における被害の内容が、前記第八の二項1(二)のとおり騒音や排ガスによる精神的苦痛ないし生活妨害のごときもので、直接的には生命や身体にかかわるものでないことを考慮すれば、入居者の入居後に受けた被害の程度が、入居に際して一般に行うべき程度の事前の調査によつて知りうる騒音や排ガスの程度から推測される被害の程度をはるかに超えるものであつたとか、入居後に騒音や排ガスの程度が格段に増大したとか、被害を容認しないまま入居せざるをえない合理的な理由があるとかいうような特段の事情が認められない限り、その被害は入居者において受忍すべきものというべく、右被害を理由として慰謝料の請求をすることは許されない。

(二) そこで同四八年六月を基準として、それ以降に本件沿道に居住を開始した左記二名の原告らにつき、いわゆる後住性を検討する。

① 原告(38)真殿キクエ

同原告は、前記第二の一項1(三)(3)の事情のとおり、同二一年から本件国道沿いに居住し、同四八年一二月その西方約一〇〇メートルの現住居に転居したにすぎず、本件沿道外から新たに本件沿道における被害を容認して転入して来たものではないことが明らかであるから、そもそも右にいう後住者に該当しないものというべきである。

② 原告(71)嶋昭代について

同原告は、前記第二の一項1(三)(3)の事情のとおり、同二六年から本件沿道に居住し、同四七年から一時他所の借家に転出したが、家主から明渡要求を受け、やむなく夫の所有する本件沿道の元の家屋に戻つたものであることが明らかであり、右の転居について本件被害を容認したものとはいえない合理的な理由があるから、右特段の事情が認められるものというべきである。

5損益相殺

別紙G⑤のとおり、原告らのうちに公害健康被害補償法所定の指定疾病の認定を受けた者が含まれていることは、当事者間に争いがない。

同法は、事業活動その他の人の活動に伴つて生じる相当範囲にわたる著しい大気の汚染又は水質の汚濁の影響による健康被害に係る損害を填補するための補償を行うこと等により、健康被害に係る被害者の迅速かつ公正な保護を図ることを目的としており(同法一条)、同法一九条一項によれば、都道府県知事は、その認定にかかる被認定者の指定疾病について、療養の給付を行うものとされ、同法二五条一項によれば、都道府県知事は、被認定者の障害が政令で定める程度に該当するときは、その者の請求により、障害補償費を支給するものとされている。

したがつて、右の原告らは、療養の給付についてはこれを受けているものと推認することができるが、障害補償費については、被認定者の指定疾病による障害の程度が一定の障害の程度に該当する場合に、被認定者の請求によつて支給されるものであり、その支給を受けていることを認めるに足りる証拠はない。

よつて、被告らの損益相殺の抗弁は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

6将来請求

本件における侵害行為が将来にわたつても現在のままの状態で継続するか否か並びにこれによつて原告らの受けるべき損害の有無及び程度は、本件沿道やその他において、今後被告らやその他の者によつて実施される諸方策の内容及び実施状況、原告らの個々に生ずべき種々の生活状況の変動等の様々な要因によつて左右されるべき性質のものであり、しかもその侵害行為については、前記のような極めて多岐にわたる検討を経由して、原告らにおいて受忍限度を超える侵害を受けているものと判断される場合にのみ損害賠償責任が生じるのであるから、現時点でこれらを明確かつ具体的に把握することは到底不可能であるというほかない。

したがつて、本件損害賠償請求のうち、本件口頭弁論終結後に生ずべき損害(その請求に関する弁護士費用を含む。)の賠償を求める訴は、権利保護の要件を欠く不適法なものというべきであつて、これを却下すべきである。

7その他

(一) 加害行為からの受益

原告らが本件道路を通行する利益を享受しうるものであることはいうまでもないが、それは一般の国民として有する利益であり、本件沿道に居住することによる特別な利益ではないものというべきである。したがつて右の事情は、後記慰謝料額の判断において、道路の有する公共性として評価し、これを斟酌すべきものではあるが、さらに進んで慰謝料を減額すべき事由となる原告らの個別の利益として考慮することは相当でない。

(二) 他の原因との競合

本件においては、前記一項2(一)のとおり、騒音と排ガスによる精神的被害及び睡眠妨害を原告らの被害として認めるものであるから、被告らが主張する疾病の他原因(喫煙歴や加齢等)については考慮を要しない。

(三) 環境施設帯の設置に伴う転出

被告らは、別紙G④記載の原告らはいずれも同五二年三月一九日に移転補償契約を締結することにより、その後の被害を回避することができたものである旨を主張するが、右契約に応じるか否かは原告らの任意であり、これに応じないことをもつて非難されるいわれはないものであるから、右の主張は理由がない。

四損害賠償額

1慰謝料

本件損害賠償請求は、いわゆる一律請求であり、このような請求は、前記三項2の限度で許され、その損害額は最低限度の被害に見合うものに一律化されるものであるが、かかる請求においても、裁判所は、原告らの中から受忍限度を超える侵害状況の下におかれている原告らを選別し、さらにこれを客観的・合理的な基準により、その被害の程度に応じていくつかの集団に分類し、その集団ごとに共通する最低限度の被害を認定することが許されるものと解するのが相当である。

そこで本件において、右の基準を検討する。

まず、原告ら各自の居宅における騒音の程度については、前記第四の二項4のとおり、本件道路上の遮音壁等の存否及びその構造、本件道路と各居宅との間の他の家屋の存否及びその構造、本件道路からの距離などその居宅周辺の状況のほか、その居宅の内外及びその構造などによつて様々に減衰するが、その減衰量は種々の条件によつて異なり、各居宅につき一律ではない。

次に、原告ら各自の居宅における排ガスの程度については、前記第四の四項2のとおり、本件道路からの距離によつて原則的には減衰するが、その減衰量は居宅周辺の状況によつて異なり、各原告につき一律ではなく、他には大きな減衰の要因は存在しない。

したがつて、原告らの各居宅における騒音及び排ガスによる被害の程度は、本件道路からその居宅敷地までの距離及び防音工事施行の前後を基準として、これにより原告らの被害の程度を分類し、その中の最低限度の被害に対応する慰謝料として一律化することが公平かつ相当というべきである。

そしてその慰謝料額は、居住期間に対応させるのが相当であるから、一日あたりの金額をもつて定めるべく、本件に表われた諸般の事情を総合考慮し、右距離が一〇メートル以内の原告らについては、防音工事完了前が四〇〇円、同完了後が二四〇円、右距離が一〇メートルを超え二〇メートル以内の原告らについては、同完了前が二〇〇円、同完了後が一二〇円をもつて相当と認める。したがつて、該当の各原告についての認容額は別紙目録(一二)及び(一三)のとおりとなる(一か月のうち、慰謝料額の変動事由が生じた日を確定しえないものについては、いずれもこれを一五日とした。)。

なお、本件慰謝料については、日々弁済期が到来するものであるが、原告らはその一部である本件訴状送達の日である同五一年九月一三日までの分についてのみ一括してその翌日から民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めているので、同五一年九月一三日までの認容額に対し、同月一四日から支払ずみまで同割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容することとする。

2弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告らはその訴訟代理人弁護士に依頼して本訴を提起し、これを追行してきたことが明らかであるが、その費用は、本件における諸般の事情を考慮すれば、各原告の認容額の一割五分程度をもつて相当と認めることができ、各原告についての認容額は別紙目録(一二)及び(一三)のとおりである。

なお、右弁護士費用に関する損害賠償債務は不法行為の時に発生し、かつ、遅滞におちいるものと解すべきであるから、本判決言渡の翌日である同六一年七月一八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める請求ももとより理由がある。

第一〇  結語

以上の次第で、原告らの本訴請求のうち、

一目録(五)及び(九)記載の原告らの本件差止請求にかかる訴並びに同六〇年五月二四日以降の損害賠償請求(将来の慰謝料請求)にかかる訴は、いずれも不適法であるからこれを却下し、

二目録(一二)記載の原告らの被告ら各自に対する過去の慰謝料請求は、

1同目録記載①欄の各期間につき一日あたり同②欄の各金員(同③欄の各金員の合計額)及び同④欄の各金員(以上合計同⑤欄)

2右1のうち、同五一年九月一三日までの各金員(同③欄)に対する同月一四日から、同④欄の各金員に対する同六一年七月一八日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による割合による遅延損害金

の各支払を求める限度で正当としてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却し、

三目録(一三)記載の原告らの

1被告国に対する過去の損害賠償請求は、

(一) 同録目記載①欄の各期間につき一日あたり同②欄の各金員(同③欄の各金員の合計額)及び同④欄の各金員(以上合計同⑤欄)

(二) 右(一)のうち、同五一年九月一三日までの各金員(同③欄の各金員)に対する同月一四日から、同④欄の各金員に対する同六一年七月一八日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

の各支払を求める限度で正当としてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却し、

2被告公団に対する過去の慰謝料請求は、同①欄の各期間のうち、同五六年六月二七日以降の期間につき一日あたり同②欄の各金員(同③欄の各金員)の支払を求める限度で正当としてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却し、

四目録(一四)記載の原告らの過去の損害賠償請求及び目録(一五)記載の原告らの請求はいずれも失当として棄却し、

訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用し、仮執行免脱の宣言は相当でないのでこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官中川敏男 裁判官石井教文 裁判官上原健嗣は転任のため署名押印することができない。裁判長裁判官中川敏男)

別紙A①

騒音にかかる環境基準

環境基準は、地域の類型および時間の区分ごとに次表の基準値の欄に掲げるとおりとする。

地域の

類型

時間の区分

該当地域

昼間

朝・夕

夜間

AA

四五以下

四〇以下

三五以下

環境基準に係る水域及び地域の指定権限の委任に関する政令

(昭和四六年政令第一五九号)二項の規定に基づき

都道府県知事が地域の区分ごとに指定する地域

A

五〇以下

四五以下

四〇以下

B

六〇以下

五五以下

五〇以下

(単位・ホン(A))

(注)

1 AAをあてはめる地域は療養施設が集合して設置される地域などとくに静穏を要する地域と

すること。

2 Aをあてはめる地域は主として住居の用に供される地域とすること。

3 Bをあてはめる地域は相当数の住居と併せて商業、工業等の用に供される地域とすること。

ただし、次表に掲げる地域に該当する地域(以下「道路に面する地域」という。)については

その環境基準は前表によらず次表の基準の欄に掲げるとおりとする。

地域の区分

時間の区分

昼間

朝・夕

夜間

A地域のうち二車線を有する道路に面する地域

五五以下

五〇以下

四五以下

A地域のうち二車線を越える車線を有する道路に面する地域

六〇以下

五五以下

五〇以下

B地域のうち二車線以下の車線を有する道路に面する地域

六五以下

六〇以下

五五以下

B地域のうち二車線を越える車線を有する道路に面する地域

六五以下

六五以下

六〇以下

(単位・ホン(A))

備考 車線とは一縦列の自動車が安全かつ円滑に走行するために必要な一定の幅員を有する帯状の車道部分をいう。

別紙A②<備考>

1 第一種区域、第二種区域、第三種区域及び第四種区域とは、それぞれ次の各号に掲げる区域として都道府県知事が定めた区域をいう。

一 第一種区域 良好な住居の環境を保全するため、特に静穏の保持を必要とする区域

二 第二種区域 住居の用に供されているため、静穏の保持を必要とする区域

三 第三種区域 住居の用にあわせて商業、工業等の用に供されている区域であつて、その区域内の住民の生活環境を保全するため、騒音の発生を防止する必要がある区域

四 第四種区域 主として工業等の用に供されている区域であつて、その区域内の住民の生活環境を悪化させないため、著しい騒音の発生を防止する必要がある区域

2 車線とは、一縦列の自動車(二輪のものを除く。)が安全かつ円滑に走行するために必要な幅員を有する帯状の車道の部分をいう。

3 昼間、朝、夕及び夜間とは、それぞれ次の各号に掲げる時間の範囲内において都道府県知事が定めた時間をいう。

一 昼間 午前七時又は八時から午後六時、七時又は八時まで

二 朝  午前五時又は六時から午前七時又は八時まで

三 夕  午後六時、七時又は八時から午後九時、一〇時又は一一時まで

四 夜間 午後九時、一〇時又は一一時から翌日の午前五時又は六時まで

4 ホンとは、計量法(昭和二六年法律第二〇七号)第五条第四四号に定める騒音の大きさの計量単位をいう。

5 騒音の測定器は、日本工業規格c一五〇二に定める指示騒音計、国際電気標準会議pub一七九に定める精密騒音計又はこれらと同程度以上の性能を有する測定器とする。

6 騒音の測定場所は、原則として、道路(交差点を除く。)に面し、住居、病院、学校等の用に供される建築物から道路に向かつて一メートルの地点(当該地点が車道内にあることとなる場合にあつては、車道と車道以外の部分が接している地点)とする。

7 騒音の測定は、当該道路に係る自動車騒音を対象とし、連続する七日間のうち当該自動車騒音の状況を代表すると認められる五日間について、昼間、朝、夕及び夜間の区分ごとに一時間当たり一回以上の測定を四時間以上(当該区分の時間が四時間に満たない場合は、当該区分の全時間)行なうものとする。

8 騒音の測定方法は、日本工業規格z八七三一に定める騒音レベル測定方法によるものとし、測定値は、中央値とする。

9 騒音の大きさは、昼間、朝、夕及び夜間の区分ごとのすべての測定値の平均値とする。

別紙A③<備考>

1 第一種区域及び第二種区域とは、それぞれ次の各号に掲げる区域として都道府県知事が定めた区域をいう。

一 第一種区域 良好な住居の環境を保全するため、特に静穏の保持を必要とする区域及び住居の用に供されているため、静穏の保持を必要とする区域

二 第二種区域 住居の用に併せて商業、工業等の用に供されている区域であつて、その区域内の住民の生活環境を保全するため、振動の発生を防止する必要がある区域及び主として工業等の用に供されている区域であつて、その区域内の住民の生活環境を悪化させないため、著しい振動の発生を防止する必要がある区域

2 昼間及び夜間とは、それぞれ次の各号に掲げる時間の範囲内において都道府県知事が定めた時間をいう。

一 昼間 午前五時、六時、七時又は八時から午後七時、八時、九時又は一〇時まで

二 夜間 午後七時、八時、九時又は一〇時から翌日の午前五時、六時、七時又は八時まで

3 デシベルとは、計量単位規則第四条第一項第一六号に定める振動レベルの計量単位とする。

4 振動の測定は、日本工業規格c一五一〇に定める振動レベル計又はこれと同程度以上の性能を有する測定器を用いて行うものとする。この場合において、振動感覚補正回路は鉛直振動特性を、動特性は日本工業規格c一五一〇に定めるものを用いることとする。

5 振動の測定場所は、道路の敷地の境界線とする。

6 振動の測定は、当該道路に係る道路交通振動を対象とし、当該道路交通振動の状況を代表すると認められる一日について、昼間及び夜間の区分ごとに一時間当たり一回以上の測定を四時間以上行うものとする。

7 振動の測定方法は、次のとおりとする。

一 振動ピックアップの設置場所は、次のとおりとする。

イ 緩衝物がなく、かつ、十分踏み固め等の行われている堅い場所

ロ 傾斜及び、おうとつがない水平面を確保できる場所

ハ 温度、電気、磁気等の外囲条件の影響を受けない場所

二 暗振動の影響の補正は、次のとおりとする。

測定の対象とする振動に係る指示値と暗振動(当該測定場所において発生する振動で、当該測定の対象とする振動以外のものをいう。)の指示値の差が一〇デシベル未満の場合は、測定の対象とする振動に係る指示値から次の表の上欄に掲げる指示値の差ごとに、同表の下欄に掲げる補正値を減ずるものとする。

指示値の差

補正値

三デシベル

三デシベル

四デシベル

二デシベル

五デシベル

六デシベル

一デシベル

七デシベル

八デシベル

九デシベル

8 振動レベルは、五秒間隔、一〇〇個又はこれに準ずる間隔、個数の測定値の八〇パーセントレンジの上端の数値を、昼間及び夜間の区分ごとにすべてについて平均した数値とする。

目録(一二)

(転居や死亡等の事由は、訴訟承継の行われたものについては、承継前原告に関するものである。)

原告

番号

氏名

本件沿道に

居住を開始

した時期

(昭和年月日)

本件沿道内で

転居等により

本件道路まで

の距離が変化

した日(同左)

本件沿道外へ

転出した日

(同左)

防音工事

完了日

(同左)

死亡日

(同左)

①慰謝料算定

期間及び日数

(同左)

②慰謝

料日額

(円)

③期間内

慰謝料額

(円)

④弁護士

費用

(円)

⑤認容額

(円)

1

浜村直太郎

37.12.

56.12.8

52.12.20

48.8.30~51.9.13

51.9.14~52.12.20

1,111

463

200

222,200

92,600

50,000

364,800

2

福本マサ子

46.3.

57.3.7

56.12.7

58.6.

54.1.12

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.1.12

54.1.13~56.12.7

57.3.7~58.6.15

1,111

851

1,060

466

400

240

444,400

340,400

254,400

111,840

180,000

1,331,040

3

真木美佐子

21.

54.1.12

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.1.12

54.1.13~60.5.23

1,111

851

2,323

400

240

444,400

340,400

557,520

210,000

1,552,320

4

佐々木元次

28.6.

55.3.31

48.8.30~51.9.13

51.9.14~55.3.31

55.4.1~60.5.23

1,111

1,295

1,879

400

240

444,400

518,000

450,960

220,000

1,633,360

5

尾ノ道秋子

23.

53.3.30

48.8.30~51.9.13

51.9.14~53.3.30

53.3.31~60.5.23

1,111

563

2,611

400

240

444,400

225,200

626,640

200,000

1,496,240

6

村上美信

28.8.

54.1.12

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.1.12

54.1.13~60.5.23

1,111

851

2,323

400

240

444,400

340,400

557,520

210,000

1,552,320

7

山中勇

33.10.

53.2.21

48.8.30~51.9.13

51.9.14~53.2.21

53.2.22~60.5.23

1,111

526

2,648

400

240

444,400

210,400

635,520

200,000

1,490,320

8

藤原聖士

35.

54.1.12

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.1.12

54.1.13~60.5.23

1,111

851

2,323

400

240

444,400

340,400

557,520

210,000

1,552,320

11

水戸辰己

34.4.

53.11.19

48.8.30~51.9.13

51.9.14~53.11.19

53.11.20~60.5.23

1,111

797

2,377

400

240

444,400

318,800

570,480

210,000

1,543,680

12

浜田綾子

23.

53.8.15

48.8.30~51.9.13

51.9.14~53.8.15

53.8.16~60.5.23

1,111

701

2,473

400

240

444,400

280,400

593,520

200,000

1,518,320

14の1

浜田長次

34.

54.11.30

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.11.30

1,111

1,173

400

444,400

469,200

140,000

1,053,600

15

大塚ひさえ

31.

53.11.19

48.8.30~51.9.13

51.9.14~53.11.19

53.11.20~60.5.23

1,111

797

2,377

400

240

444,400

318,800

570,480

210,000

1,543,680

17の1

湯浅芳子

31.

53.2.14

55.11.20

48.8.30~51.9.13

51.9.14~53.2.14

53.2.15~55.11.20

1,111

519

1,010

400

240

444,400

207,600

242,400

140,000

1,034,400

18

井上綾子

25.

54.3.8

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.3.8

54.3.9~60.5.23

1,111

906

2,268

400

240

444,400

362,400

544,320

210,000

1,561,120

19

山田あや子

35.

57.6.26

57.2.

54.3.31

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.3.31

54.4.1~57.2.15

57.6.26~60.5.23

1,111

929

1,052

1,063

400

240

444,400

371,600

252,480

255,120

200,000

1,523,600

20

桜間正夫

5.

54.2.21

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.2.21

54.2.22~60.5.23

1,111

891

2,283

200

120

222,200

178,200

273,960

110,000

784,360

21の1

三村千代子

39.

54.3.31

57.4.29

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.3.31

54.4.1~57.4.29

1,111

929

1,125

400

240

444,400

371,600

270,000

170,000

1,256,000

22

渕辺一雄

大正8.

48.8.30~51.9.13

51.9.14~60.5.23

1,111

3,174

400

444,400

1,269,600

250,000

1,964,000

23

広岡久子

35.

54.3.31

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.3.31

54.4.1~60.5.23

1,111

929

2,245

400

240

444,400

371,600

538,800

210,000

1,564,800

24

本田早苗

43.12.

53.6.25

48.8.30~51.9.13

51.9.14~53.6.25

1,111

650

400

444,400

260,000

110,000

814,400

25の1

阪本慶一

14.

54.11.29

59.6.15

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.11.29

54.11.30~59.6.15

1,111

1,172

1,660

400

240

444,400

468,800

398,400

200,000

1,511,600

26

英賀正也

34.

54.3.13

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.3.13

54.3.14~60.5.23

1,111

911

2,263

400

240

444,400

364,400

543,120

210,000

1,561,920

27

鍬形みね子

24.12.

54.3.13

56.10.27

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.3.13

54.3.14~56.10.27

1,111

911

958

400

240

444,400

364,400

229,920

160,000

1,198,720

28の1

松本哲次

23.

53.8.18

59.1.17

56.6.20

48.8.30~51.9.13

51.9.14~53.8.18

1,111

704

200

222,200

140,800

60,000

423,000

29

中村松子

21.

56.9.1

48.8.30~51.9.13

51.9.14~56.9.1

1,111

1,814

200

222,200

362,800

90,000

675,000

原告

番号

氏名

本件沿道に

居住を開始

した時期

(昭和年月日)

本件沿道内で

転居等により

本件道路まで

の距離が変化

した日(同左)

本件沿道外へ

転出した日

(同左)

防音工事

完了日

(同左)

死亡日

(同左)

①慰謝料算定

期間及び日数

(同左)

②慰謝

料日額

(円)

③期間内

慰謝料額

(円)

④弁護士

費用

(円)

⑤認容額

(円)

30

絹脇房子

33.

54.3.31

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.3.31

54.4.1~60.5.23

1,111

929

2,245

400

240

444,400

371,600

538,800

210,000

1,564,800

31の1

佐々木八重

25.9.

50.7.

54.10.4

52.2.25

48.8.30~50.7.15

685

400

274,000

50,000

324,000

32

瓦庄市

34.

54.9.25

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.9.25

54.9.26~60.5.23

1,111

1,107

2,067

400

240

444,400

442,800

496,080

210,000

1,593,280

33

杉浦昭弘

20.

53.8.20

54.8.28

48.8.30~51.9.13

51.9.14~53.8.20

1,111

706

400

444,400

282,400

110,000

836,800

34の1

岡本やえ

大正6.

54.8.2

59.4.4

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.8.2

54.8.3~59.4.4

1,111

1,053

1,707

400

240

444,400

421,200

409,680

200,000

1,475,280

36

習田建二

31.2.

52.6.15

54.11.13

48.8.30~51.9.13

51.9.14~52.6.15

1,111

275

400

444,400

110,000

90,000

644,400

37

住吉隆

戦前

54.12.4

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.12.4

54.12.5~60.5.23

1,111

1,177

1,997

400

240

444,400

470,800

479,280

210,000

1,604,480

38

真殿キクエ

21.

54.8.7

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.8.7

54.8.8~60.5.23

1,111

1,058

2,116

400

240

444,400

423,200

507,840

210,000

1,585,440

39

竹田谷真一

昭和初期

56.12.17

48.8.30~51.9.13

51.9.14~56.12.17

56.12.18~60.5.23

1,111

1,921

1,253

400

240

444,400

768,400

300,720

230,000

1,743,520

40

薩谷泰資

11.

48.8.30~51.9.13

51.9.14~60.5.23

1,111

3,174

400

444,400

1,269,600

250,000

1,964,000

41

魚谷耕二

12.

54.3.30

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.3.30

54.3.31~60.5.23

1,111

928

2,246

400

240

444,400

371,200

539,040

210,000

1,564,640

43

時岡三郎

41.8.

55.1.30

48.8.30~51.9.13

51.9.14~55.1.30

55.1.31~60.5.23

1,111

1,234

1,940

200

120

222,200

246,800

232,800

110,000

811,800

44

宇都洋

38.10.

54.8.27

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.8.27

54.8.28~60.5.23

1,111

1,078

2,096

400

240

444,400

431,200

503,040

210,000

1,588,640

45

森政雄

25.

55.3.27

48.8.30~51.9.13

51.9.14~55.3.27

55.3.28~60.5.23

1,111

1,291

1,883

400

240

444,400

516,400

451,920

220,000

1,632,720

46の1

加尻芳

37.5.

54.9.25

57.11.21

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.9.25

54.9.26~57.11.21

1,111

1,107

1,153

400

240

444,400

442,800

276,720

180,000

1,343,920

47

加尻厳

37.5.

54.12.15

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.12.15

54.12.16~60.5.23

1,111

1,188

1,986

400

240

444,400

475,200

476,640

210,000

1,606,240

48

八木周三

21.

54.7.31

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.7.31

54.8.1~60.5.23

1,111

1,051

2,123

400

240

444,400

420,400

509,520

210,000

1,584,320

49

田中フミエ

11.

54.12.4

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.12.4

54.12.5~60.5.23

1,111

1,177

1,997

400

240

444,400

470,800

479,280

210,000

1,604,480

51

三上玲子

38.4.

52.7.31

48.8.30~51.9.13

51.9.14~52.7.31

1,111

321

400

444,400

128,400

90,000

662,800

52の1

樋口賀子

14.9.

53.12.8

57.3.29

48.8.30~51.9.13

51.9.14~53.12.8

53.12.9~57.3.29

1,111

816

1,207

200

120

222,200

163,200

144,840

80,000

610,240

52の2

樋口雅一

14.9.

53.12.8

57.3.29

48.8.30~51.9.13

51.9.14~53.12.8

53.12.9~57.3.29

1,111

816

1,207

100

60

111,100

81,600

72,420

40,000

305,120

52の3

樋口昭子

14.9.

53.12.8

57.3.29

48.8.30~51.9.13

51.9.14~53.12.8

53.12.9~57.3.29

1,111

816

1,207

100

60

111,100

81,600

72,420

40,000

305,120

53

宮川淑子

26.11.

52.11.1

48.8.30~51.9.13

51.9.14~52.11.1

52.11.2~60.5.23

1,111

414

2,760

400

240

444,400

165,600

662,400

200,000

1,472,400

54

麻生健治

38.8.

54.1.22

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.1.22

54.1.23~60.5.23

1,111

861

2,313

400

240

444,400

344,400

555,120

210,000

1,553,920

55

建井一子

7.11.

56.8.18

48.8.30~51.9.13

51.9.14~56.8.18

56.8.19~60.5.23

1,111

1,800

1,374

200

120

222,200

360,000

164,880

120,000

867,080

原告

番号

氏名

本件沿道に

居住を開始

した時期

(昭和年月日)

本件沿道内で

転居等により

本件道路まで

の距離が変化

した日(同左)

本件沿道外へ

転出した日

(同左)

防音工事

完了日

(同左)

死亡日

(同左)

①慰謝料算定

期間及び日数

(同左)

②慰謝

料日額

(円)

③期間内

慰謝料額

(円)

④弁護士

費用

(円)

⑤認容額

(円)

57

永田健

31.5.

55.11.20

48.8.30~51.9.13

51.9.14~55.11.20

55.11.21~60.5.23

1,111

1,529

1,645

200

120

222,200

305,800

197,400

110,000

835,400

58

天野格

23.

57.7.

55.6.9

57.7.15~60.5.23

1,044

240

250,560

40,000

290,560

59

多田寛治

32.3.

57.2.10

59.1.1

48.8.30~51.9.13

51.9.14~57.2.10

1,111

1,976

400

444,400

790,400

190,000

1,424,800

60

横道利市

28.

59.3.29

48.8.30~51.9.13

51.9.14~59.3.29

59.3.30~60.5.23

1,111

2,754

420

400

240

444,400

1,101,600

100,800

250,000

1,896,800

61

遠山重雄

35.4.

54.3.31

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.3.31

54.4.1~60.5.23

1,111

929

2,245

400

240

444,400

371,600

538,800

210,000

1,564,800

62

井上宗弘

6.

54.3.31

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.3.31

54.4.1~60.5.23

1,111

929

2,245

200

120

222,200

185,800

269,400

110,000

787,400

63

松田正人

38.

54.3.31

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.3.31

54.4.1~60.5.23

1,111

929

2,245

400

240

444,400

371,600

538,800

210,000

1,564,800

64

清水勝己

38.12.

52.8.23

48.8.30~51.9.13

51.9.14~52.8.23

52.8.24~60.5.23

1,111

344

2,830

400

240

444,400

137,600

679,200

190,000

1,451,200

65

雑古ノブ

24.12.

52.5.31

48.8.30~51.9.13

51.9.14~52.5.31

52.6.1~60.5.23

1,111

260

2,914

400

240

444,400

104,000

699,360

190,000

1,437,760

66

福嶋愛子

32.

48.8.30~51.9.13

51.9.14~60.5.23

1,111

3,174

400

444,400

1,269,600

250,000

1,964,000

67

宮本貞子

31.10

48.8.30~51.9.13

51.9.14~60.5.23

1,111

3,174

400

444,400

1,269,600

250,000

1,964,000

68

滝上六義

22.3.

60.3.5

48.8.30~51.9.13

51.9.14~60.3.5

60.3.6~60.5.23

1,111

3,095

79

400

240

444,400

1,238,000

18,960

250,000

1,951,360

69

松浦進

44.

48.8.30~51.9.13

51.9.14~60.5.23

1,111

3,174

400

444,400

1,269,600

250,000

1,964,000

70

坂本友次郎

45.2.

59.9.12

48.8.30~51.9.13

51.9.14~59.9.12

59.9.13~60.5.23

1,111

2,921

253

400

240

444,400

1,168,400

60,720

250,000

1,923,520

71

嶋昭代

26.

50.7.25

47.4.26

54.3.31

50.7.25~51.9.13

51.9.14~54.3.31

54.4.1~60.5.23

417

929

2,245

400

240

166,800

371,600

538,800

170,000

1,247,200

73

吉田重雄

45.3.

54.3.26

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.3.26

54.3.27~60.5.23

1,111

924

2,250

400

240

444,400

369,600

540,000

210,000

1,564,000

74

森本千代

25.

54.10.19

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.10.19

54.10.20~60.5.23

1,111

1,131

2,043

400

240

444,400

452,400

490,320

210,000

1,597,120

76

佐野寿重

21.

54.1.11

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.1.11

54.1.12~60.5.23

1,111

850

2,324

200

120

222,200

170,000

278,880

110,000

781,080

77

森エイ

27.

58.12.26

48.8.30~51.9.13

51.9.14~58.12.26

58.12.27~60.5.23

1,111

2,660

514

200

120

222,200

532,000

61,680

130,000

945,880

78

関川せきの

27.

53.8.1

48.8.30~51.9.13

51.9.14~53.8.1

53.8.2~60.5.23

1,111

687

2,487

200

120

222,200

137,400

298,440

100,000

758,040

81

古川駿雄

37.

53.11.6

48.8.30~51.9.13

51.9.14~53.11.6

53.11.7~60.5.23

1,111

784

2,390

400

240

444,400

313,600

573,600

200,000

1,531,600

82の1

大久保節子

39.

53.12.

54.1.11

54.3.13

48.8.30~51.9.13

51.9.14~53.12.15

1,111

823

400

444,400

329,200

120,000

893,600

83

加藤寿子

27.3.

55.1.30

54.1.11

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.1.11

54.1.12~55.1.30

1,111

850

384

400

240

444,400

340,000

92,160

140,000

1,016,560

84

滝口とへ

27.

54.1.19

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.1.19

54.1.20~60.5.23

1,111

858

2,316

400

240

444,400

343,200

555,840

210,000

1,553,440

85

滝口勇

38.5.

54.1.19

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.1.19

54.1.20~60.5.23

1,111

858

2,316

400

240

444,400

343,200

555,840

210,000

1,553,440

目録(一三)

(転居や死亡等の事由は、訴訟承継の行われたものについては、承継前原告に関するものである。)

原告

番号

氏名

本件沿道に

居住を開始

した時期

(昭和年月日)

本件沿道内で

転居等により

本件道路まで

の距離が変化

した日(同左)

本件沿道外

へ転出した日

(同左)

防音工事

完了日

(同左)

死亡日

(同左)

①慰謝料算定

期間及び日数

(同左)

②慰謝

料日額

(円)

③期間内

慰謝料額

④弁護士

費用

⑤認容額

86

安尾新三

19.

55.5.26

48.8.30~51.9.13

51.9.14~55.5.26

55.5.27~56.6.26

56.6.27~60.5.23

1,111

1,351

396

1,427

400

240

444,400

540,400

95,040

342,480

220,000

1,642,320

87

阿部照子

23.

55.3.18

48.8.30~51.9.13

51.9.14~55.3.18

55.3.19~56.6.26

56.6.27~60.5.23

1,111

1,282

465

1,427

400

240

444,400

512,800

111,600

342,480

220,000

1,631,280

88

西嶋一男

39.7.

55.2.19

48.8.30~51.9.13

51.9.14~55.2.19

55.2.20~56.6.26

56.6.27~60.5.23

1,111

1,254

493

1,427

400

240

444,400

501,600

118,320

342,480

220,000

1,626,800

89の1

柳谷昌宏

31.

55.7.10

52.2.8

48.8.30~51.9.13

51.9.14~52.2.8

1,111

148

400

444,400

59,200

80,000

583,600

90

堀恭二

44.5.

48.8.30~51.9.13

51.9.14~56.6.26

56.6.27~60.5.23

1,111

1,747

1,427

400

444,400

698,800

570,800

250,000

1,964,000

91

平井清

29.

48.8.30~51.9.13

51.9.14~56.6.26

56.6.27~60.5.23

1,111

1,747

1,427

200

222,200

349,400

285,400

130,000

987,000

92

古田義一

33.

54.12.10

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.12.10

54.12.11~56.6.26

56.6.27~60.5.23

1,111

1,183

564

1,427

400

240

444,400

473,200

135,360

342,480

210,000

1,605,440

93

中田正雄

30.

55.8.26

48.8.30~51.9.13

51.9.14~55.8.26

55.8.27~56.6.26

56.6.27~60.5.23

1,111

1,443

304

1,427

400

240

444,400

577,200

72,960

342,480

220,000

1,657,040

94

大田久子

31.

48.8.30~51.9.13

51.9.14~56.6.26

56.6.27~60.5.23

1,111

1,747

1,427

400

444,400

698,800

570,800

250,000

1,964,000

95

永吉笑子

34.

54.12.10

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.12.10

54.12.11~56.6.26

56.6.27~60.5.23

1,111

1,183

564

1,427

400

240

444,400

473,200

135,360

342,480

210,000

1,605,440

96

前山美代子

22.9.

56.6.27

48.8.30~51.9.13

51.9.14~56.6.26

56.6.27~60.5.23

1,111

1,747

1,427

200

400

222,200

349,400

570,800

180,000

1,322,400

97

南条みちえ

22.

55.4.19

48.8.30~51.9.13

51.9.14~55.4.19

1,111

1,314

400

444,400

525,600

150,000

1,120,000

98

片山きぬえ

36.

56.6.27

56.12.21

56.6.27~56.12.21

178

400

71,200

20,000

91,200

101

山本もりえ

12.

56.6.27

58.12.17

56.6.27~58.12.17

904

400

361,600

60,000

421,600

102の1

青木ナツ

21.

58.7.12

59.1.28

48.8.30~51.9.13

51.9.14~56.6.26

56.6.27~58.7.12

58.7.13~59.1.28

1,111

1,747

746

200

400

240

444,400

698,800

298,400

48,000

230,000

1,719,600

104

土畑藤夫

21.2.

48.8.30~51.9.13

51.9.14~56.6.26

56.6.27~60.5.23

1,111

1,747

1,427

400

444,400

698,800

570,800

250,000

1,964,000

106

佐藤秀夫

29.

59.7.24

48.8.30~51.9.13

51.9.14~56.6.26

56.6.27~59.7.24

59.7.25~60.5.23

1,111

1,747

1,124

303

200

120

222,200

349,400

}261,160

130,000

962,760

108

竹田義夫

31.

59.7.24

48.8.30~51.9.13

51.9.14~56.6.26

56.6.27~59.7.24

59.7.25~60.5.23

1,111

1,747

1,124

303

400

240

444,444

698,800

}522,320

250,000

1,915,520

109

後藤欣康

41.

56.6.27

60.4.30

48.8.30~51.9.13

51.9.14~56.6.26

56.6.27~60.4.30

1,111

1,747

1,404

200

400

222,200

349,400

561,600

170,000

1,303,200

110

東吉博

32.

56.6.27

59.9.23

48.8.30~51.9.13

51.9.14~56.6.26

56.6.27~59.9.23

1,111

1,747

1,185

200

400

222,200

349,400

474,000

160,000

1,205,600

111

桜井豊

8.

56.6.27

59.3.13

56.6.27~59.3.13

59.3.14~60.5.23

991

436

240

}501,040

80,000

581,040

113の1

天野芳江

16.11.

59.6.15

55.5.13

48.8.30~51.9.13

51.9.14~55.5.13

1,111

1,338

200

222,200

267,600

80,000

569,800

114

畠山久次郎

31.11.

56.6.27

58.11.15

56.6.27~58.11.15

58.11.16~60.5.23

872

555

200

120

}241,000

40,000

281,000

原告番号

氏名

本件沿道に

居住を開始

した時期

(昭和年月日)

本件沿道内で

転居等により

本件道路まで

の距離が変化

した日(同左)

本件沿道外

へ転出した

日(同左)

防音工事

完了日

(同左)

死亡日

(同左)

①慰謝料算定

期間及び日数

(同左)

②慰謝

料日額

(円)

③期間内

慰謝料額

(円)

④弁護士

費用

(円)

⑤認容額

(円)

120

松永葉子

4.

48.8.30~51.9.13

51.9.14~56.6.26

56.6.27~60.5.23

1,111

1,747

1,427

400

444,400

698,800

570,800

250,000

1,964,000

121

堅田秀弘

31.

58.7.14

48.8.30~51.9.13

51.9.14~56.6.26

56.6.27~58.7.14

58.7.15~60.5.23

1,111

1,747

748

679

200

120

222,200

349,400

}231,080

130,000

932,680

123

八木勇高

33.

54.7.29

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.7.29

54.7.30~56.6.26

56.6.27~60.5.23

1,111

1,049

698

1,427

400

240

444,400

419,600

167,520

342,480

210,000

1,584,000

124

小野春樹

27.

54.6.19

53.4.29

48.8.30~51.9.13

51.9.14~53.4.29

1,111

593

400

444,400

237,200

110,000

791,600

126

西尾アヤコ

20.

54.11.8

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.11.8

54.11.9~56.6.26

56.6.27~60.5.23

1,111

1,151

596

1,427

200

120

222,200

230,200

71,520

171,240

110,000

805,160

128

田中孝三

37.

54.11.8

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.11.8

54.11.9~56.6.26

56.6.27~60.5.23

1,111

1,151

596

1,427

400

240

444,400

460,400

143,040

342,480

210,000

600,320

129

季南述

44.12.

54.10.12

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.10.12

54.10.13~56.6.26

56.6.27~60.5.23

1,111

1,124

623

1,427

200

120

222,200

224,800

74,760

171,240

110,000

803,000

130

岡本とよ

21.

57.7.

58.3.31

48.8.30~51.9.13

51.9.14~56.6.26

56.6.27~57.7.15

1,111

1,747

384

200

222,200

349,400

76,800

100,000

748,400

131

岡本とし子

30.

52.9.30

48.8.30~51.9.13

51.9.14~52.9.30

1,111

382

200

222,200

76,400

50,000

348,600

132

佐伯美津子

21.

54.9.20

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.9.20

54.9.21~56.6.26

56.6.27~60.5.23

1,111

1,102

645

1,427

200

120

222,200

220,400

77,400

171,240

110,000

801,240

134

松村暢子

43.

54.9.20

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.9.20

54.9.21~56.6.26

56.6.27~60.5.23

1,111

1,102

645

1,427

200

120

222,200

220,400

77,400

171,240

110,000

801,240

135

高好智王

37.

56.12.31

48.8.30~51.9.13

51.9.14~56.6.26

56.6.27~56.12.31

1,111

1,474

188

200

222,200

349,400

37,600

100,000

709,200

136

岩本幸子

17.

58.3

48.8.30~51.9.13

51.9.14~56.6.26

56.6.27~58.3.15

58.3.16~60.5.23

1,111

1,747

627

800

400

200

444,400

698,800

}410,800

240,000

1,794,000

137

森嶋千代子

戦後すぐ

55.9.4

48.8.30~51.9.13

51.9.14~55.9.4

1,111

1,452

400

444,400

580,800

160,000

1,185,200

138

榎俊子

45.8.

54.4.1

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.4.1

1,111

930

400

444,400

372,000

130,000

946,400

139

森嶋邦子

37.

58.3

48.8.30~51.9.13

51.9.14~56.6.26

56.6.27~58.3.15

58.3.16~60.5.23

1,111

1,747

627

800

400

200

444,400

698,800

}410,800

240,000

1,794,000

140

桜井嘉子

戦後すぐ

58.3.

48.8.30~51.9.13

51.9.14~56.6.26

56.6.27~58.3.15

58.3.16~60.5.23

1,111

1,747

627

800

400

200

444,400

698,800

}410,800

240,000

1,794,000

141

有田ミサカ

32.

58.3.

48.8.30~51.9.13

51.9.14~56.6.26

56.6.27~58.3.15

58.3.16~60.5.23

1,111

1,747

627

800

400

200

444,400

698,800

}410,800

240,000

1,794,000

142

山本音八

37.

58.2.10

48.8.30~51.9.13

51.9.14~56.6.26

56.6.27~58.2.10

1,111

1,747

594

200

222,200

349,400

118,800

110,000

800,400

149

原田久代

37.4.

55.8.10

48.8.30~51.9.13

51.9.14~55.8.10

1,111

1,427

400

444,400

570,800

160,000

1,175,200

150

桂郁子

32.4.

54.3.31

48.8.30~51.9.13

51.9.14~54.3.31

1,111

929

200

222,200

185,800

70,000

478,000

151

西村房子

21.

56.6.27

55.12.9

56.6.27~60.5.23

1,427

120

171,240

30,000

201,240

152

坂本照子

20.

56.6.27

58.5.22

56.6.27~58.5.22

695

200

139,000

30,000

169,000

別紙A③

振動規制法一六条による要請限度

時間の区分

昼間

夜間

区域の区分

第一種区分

六五デシベル

六〇デシベル

第二種区分

七〇デシベル

六五デシベル

別紙A④

諸外国の騒音許容基準

国名

八時間暴露に

対する騒音レベル

(単位の記載がないものはホン)

備考

オーストラリア

九〇

現存する工場

同右五年以内

}Leq(8)

八五

同右五年以内

ブラジル

八五デシベルB

閉空間

九〇デシベルC

閉空間

カナダ

八五~九〇

州によつて異なるが、九〇ホンで倍時間三ホン増になりつつある。

デンマーク

九〇

一九七八年まで

}Leq(40)

八五

一九八四年まで

八〇

一九八五年から

フィンランド

八五

インド

九〇

アイルランド

九〇

イタリア

九〇

旧施設

八五

新施設

オランダ

九〇

一六~一八歳の若年労働者にのみ適用

ノルウェー

八五

Leq(8)

南アフリカ

八五

スウェーデン

八五

Leq(8)

スイス

八七.五~九二.五

トルコ

八五

イギリス

九〇

Leq(8)

アメリカ

九〇

倍時間五ホン増

別紙A②

騒音規制法一七条による要請限度

区域の区分

時間の区分

昼間

朝・夕

夜間

第一種区域のうち一車線を有する道路に面する区域

五五

五〇

四五

第二種区域のうち一車線を有する道路に面する区域

六〇

五五

五〇

第一種区域及び第二種区域のうち二車線を有する道路に面する区域

七〇

六五

五五

第一種区域及び第二種区域のうち二車線をこえる車線を有する道路に

面する区域

七五

七〇

六〇

第三種区域及び第四種区域のうち一車線を有する道路に面する区域

七〇

六五

六〇

第三種区域及び第四種区域のうち二車線を有する道路に面する区域

七五

七〇

六五

第三種区域及び第四種区域のうち二車線をこえる車線を有する道路に

面する区域

八〇

七五

六五

(単位・ホン)

別紙A⑤

諸外国の二酸化窒素の許容基準

国名

基準値(ppm)

備考

アメリカ

0.05

年平均値

西ドイツ

0.043

三〇分値

フランス

0.106

二四時間平均値

カナダ

望ましい水準

(健全な環境の質を維持し改善するための望ましいレベル)

0.03

年平均値

受容水準

(適切な健康の保護を図るレベル)

0.05

年平均値

0.11

二四時間平均値

0.21

一時間値

許容水準

(健康保護のため緊急対策をとるべきレベル)

0.16

二四時間平均値

0.53

一時間値

イタリア

0.32

三〇分

0.106

二四時間

フィンランド

0.266

一時間値

0.106

二四時間平均値

ノルウェー

0.213

一時間値

0.106

二四時間平均値

0.053

六か月平均値

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例